ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

登録日:2024/02/16 Fri 19:16:22
更新日:2025/04/24 Thu 00:24:22
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ラスト13分。タランティーノがハリウッドのに奇跡を起こす。

概要


『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(原題:Once Upon a Time in... Hollywood)は、2019年7月26日にアメリカ・イギリスで公開されたハリウッド内幕映画。
日本では2019年8月30日に公開。
監督はクエンティン・タランティーノ
タイトルは、セルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のオマージュ。
日本では主に『ワンハリ』の略称が有名。
また、本作は「昔々…(Once Upon a Time)」で始まる、ある種のおとぎ話でもある。

イングロリアス・バスターズ』では、20世紀の世界史で最大の闇ナチス。
ジャンゴ 繋がれざる者』でアメリカ最大の闇である奴隷制に復讐したタランティーノ。
今回のターゲットは、ラブ&ピースなヒッピー文化を終わらせた、ハリウッド史の闇である「シャロン・テート事件」。
世界史で習うため多くの人が知っているナチスや奴隷制と違い、今回の「シャロン・テート事件」は初耳の方も多いだろう。
よって、最低限この事件に関しての予習が必須となってくる
公開当時はそれを知らずにディカプリオ&ブラピの二大スター目当てで観に行ったり、ネタバレを恐れて前情報を一切仕入れずに観に行ったりして痛い目に遭った人もいるかもしれない。
もっとも、かなり凄惨な事件なので、人によっては心の準備をした方がいいかもしれないが……

しかし物語の構成は、キャリアが伸び悩む俳優と相棒のスタントマンの日常を軸に、わが世の春を謳歌するシャロンの日常が重なるというもの。
言い換えれば、現実と虚構の交錯である。
また、当時を再現したリアルな町並みや空気感で、人によっては「オープンワールドゲームみたい」という意見も。
それだけに、スパーン映画牧場のシーンや、運命の日のカウントダウンが始まる終盤は、事件を知っていたら否が応でも緊張感が高まることになる。
そして、タランティーノらしいやり方で運命を変えるラストは腹筋崩壊ものであると同時に、深い深い映画愛が感じられるはず。

第92回アカデミー賞ではタランティーノ監督作品としては最多の作品賞を含む10部門にノミネート。
この内助演男優賞と美術賞を受賞。

2023年5月26日には、タランティーノ自身が執筆した小説版『その昔、ハリウッドで』が発売されている。
主役二人はもちろん、周りのキャラクターの設定が深く掘り下げられており、「映画オタクなクリフ」や「良きライバル関係になるリックとトルーディ」などは必見。
そして当時の映画やテレビ番組、関係者の情報量は圧倒的であり、タランティーノも意外な形で登場する。

あらすじ


1969年2月8日、ハリウッド。
かつて西部劇ドラマで人気を博した俳優リック・ダルトンは、カウンターカルチャー華やかなる時代の流れに取り残され、落ち目になりつつあった。
相棒のスタントマンのクリフ・ブースもまた仕事がなくなっており、リックの世話係を務める毎日を送っていた。
身の振り方に悩むリックと、飄々と生きるクリフ。
そんな中、シエロ・ドライブにあるリック邸の隣に、売れっ子監督ロマン・ポランスキーと売り出し中の女優シャロン・テートの夫婦が越して来る。
ドラマ撮影、イタリア映画進出、スパーン映画牧場にたむろする謎のヒッピー集団……
そして1969年8月9日、映画の世界に生きる者たちに大きな事件が起きようとしていた。

登場人物


  • リック・ダルトン
演:レオナルド・ディカプリオ
吹替:加瀬康之

西部劇や戦争アクションドラマで人気を博した俳優。誕生日は1933年4月22日。
モデルはバート・レイノルズ。
代表作は『賞金稼ぎの掟』や『タナー』、『マクラスキー14の拳』。
しかし、『大脱走』の主演のスティーヴ・マックイーンに主役を降りる騒ぎがあった際、3人のジョージ*1と共に代役候補になったもののチャンスをつかめず、映画俳優への転身に失敗。*2
以降はそのことがトラウマとなり、悪役や単発作品へのゲスト出演に甘んじていた。
そのため、シュワーズからあと2年もすれば主役のイメージは無くなると言われているが、スターだっただけにプライドは高く、

  • マカロニ・ウエスタン出演(=都落ち)を打診され、クリフに泣きつく
  • トルーディに読んでいる本を聞かれて、作中の主人公の境遇があまりに自分と重なりすぎていて泣き出す
  • 『対決ランサー牧場』の撮影中、アル中のためにセリフが覚えられず、罪悪感のあまりに泣きながら荒れまくる

という具合に、人間的な弱さが目立つ人物である。これを大スターのディカプリオが演じているのがなおさら皮肉と言える。
小説版では双極性障害であることが明かされ、教養の無さが強調されたり、頭が悪くて同じ話ばかりするとまで言われる。
他にも、映画とはハリウッド産のものを指し、他国の映画産業はイギリス以外見下している節がある。
しかしタランティーノ曰く、

リックにとって最大の敵は自分自身なんだ。
そのことが理解できれば、彼はもっと楽になれるはず。
実のところ俳優としてのキャリアも順調で、思っているほど下り坂でもないしね。
リックのようなやり方で成功したいと思う人だって大勢いるはずだ。
レオは、余計な心配で苦悩する不条理さを誇張し、哀愁さえ感じるほど、可笑しく演じてくれた。
リックのもつ自虐的な面をうまく表現してくれたと思う。
とても満足しているよ。

引用元:キネマ旬報2019年9月上旬号 P11

実際立ち直った後は監督やトルーディから絶賛されるほどの熱演を見せ、その後イタリア映画への出演を決断。
半年の滞在期間に出演した4本はいずれもヒット。ついでに体重は7キロ増加した
が、アパート代の支払のためにギャラをほぼ使い果たし、結婚したこともあってクリフを雇い続けられなくなってしまう。
そして別れが迫る1969年8月9日の深夜、近所にやって来たヒッピーたちの車のエンジン音に苛立ち怒鳴り込むが……

  • クリフ・ブース
演:ブラッド・ピット
吹替:堀内賢雄

リック専属のスタントマン兼世話係で、第二次世界大戦の英雄*3。誕生日は1922年10月29日。
モデルはバート・レイノルズの専属スタントマン、ハル・ニーダム*4
ハリウッド郊外・ヴァンナイズのトレーラーハウスで愛犬の雌のピットブル・ブランディ*5と一緒に暮らしている。
飄々とした自由人で肝が据わっており、何かと繊細なリックのよき理解者。
しかし、リックの仕事が減ったことで必然的に彼の仕事も減っている。
おまけにすぐ手が出るタイプで、以前に他の出演者と暴力沙汰を起こしたり、妻殺しの噂*6があったりと何かときな臭い背景を持つ。
一方、“リンガー”(無責任な監督や俳優に制裁する役目の臨時のスタントマン)としては非常に優秀。
映画に対する見方は柔軟で、リックのマカロニ・ウエスタンへのオファーについても肯定的。
さらに小説版では、戦場を経験しただけにハリウッド映画の未熟さに気づいていたが、同時に「いかにハリウッド映画を非現実的なものと見ているかの証でしかない」とも断じられている。
リックが『対決ランサー牧場』の撮影に行っている間、ヒッピー娘のプッシーキャットを「スパーン映画牧場」に送り届けるが、そこできな臭いものを感じ取るのだった……

  • シャロン・テート
演:マーゴット・ロビー
吹替:種市桃子

リックの邸宅の隣に越してきた、売り出し中の若手女優。
代表作は『哀愁の花びら』や『サイレンサー/破壊部隊』など。
そして史実の事件の犠牲者の一人
天真爛漫な性格で、キュートで小柄で才能豊かな12歳児のような男がタイプらしい。
映画館で自身の出演した『サイレンサー/破壊部隊』を嬉しそうに観るシーンは、実際の事件を知っていたら胸を締めつけられるはず。
また、ブルース・リーからアクション指導を受けていた史実も描かれている。
映画館に行く前に本屋で夫へのプレゼント用に注文した『ダーバヴィル家のテス』の初版本を受け取るくだりは、事件後にポランスキーが映画化したことへの目くばせ。
それから半年後の1969年8月8日。
妊娠8ヶ月を迎えていた彼女は、元婚約者のジェイ、ポランスキーの旧友ヴォイテク・フラコウスキー、その恋人でコーヒー財閥の跡取り娘アビゲイル・フォルジャーと一緒に過ごしていた。
そして8月9日の深夜、事件は起きた……

  • ロマン・ポランスキー
演:ラファル・ザビエルチャ
吹替:森宮隆

シャロンの夫。
ポーランド人の売れっ子映画監督で、後の巨匠。
代表作は『反撥』や『吸血鬼』*7、『ローズマリーの赤ちゃん』など。
リックは隣に引っ越してきたのを見て、パーティーで仲良くなれば彼の映画に出られるかもと立ち直っていた。
撮影のために家を空けていることが多く、実際の事件でも難を逃れている。
なお、マックイーンからいずれシャロンとの関係が壊れることを予想されたり、
ラストでジェイがリックに「シャロンに言ってたんだ。隣に賞金稼ぎが住んでいるから、旦那が“指名手配”されたら隣に頼めってね」と語っていたりと、不吉なものを匂わせている。
……実際にポランスキーは、1977年に当時13歳の子役モデルへの淫行容疑で逮捕・有罪判決となり保釈期間中に海外逃亡
以降、アメリカに戻れば捕まる身の上となっている。

  • マーヴィン・シュワーズ
演:アル・パチーノ
吹替:山路和弘

映画プロデューサー。
妻と上映会を開くほどの西部劇やリックのファン。
また、イタリアやドイツ、日本やフィリピンの映画界にも伝手を持っている。
リックのキャリアの行く末を案じ、マカロニ・ウエスタンの仕事を打診するが、当のリックはキャリアの終わりだとショックを受けていた。

  • サム・ワナメイカー
演:ニコラス・ハモンド
吹替:佐々木睦

ドラマ『対決ランサー牧場』の監督。シェイクスピアが好き。ちなみに実在の人物。
新しい西部劇を作りたいと考えており、リックの役をヒッピー風の悪役にしようとしていた。

  • ランディ・ミラー
演:カート・ラッセル
吹替:安原義人

スタントマンのコーディネーター。
黒い噂のあるクリフを嫌っていたが、リックが何とか説得し起用にこぎつける。
しかしクリフはブルース・リーとの間にトラブルを起こした挙句妻ジャネットの車を壊したため、あっさりクビにされたのだった。
演じたカート・ラッセルは、本作のナレーションも担当している。

演:マイク・モー
吹替:森宮隆

ご存じ伝説のアクションスターにして、ハリウッドで東洋人の地位を上げた偉人。
1969年当時の彼はドラマ『グリーン・ホーネット』のカトー役でブレイクしており、番組終了後は武術指導をしていた。
戦いについて「自分の力を全て解き放ち、容赦なく相手を打ち負かす」持論を語っていた所、クリフに挑発され、三本勝負を挑む。
1勝1敗になった所、ランディの妻が割って入るが、彼女の車は無残な姿になっていた……
本作の小物然とした描かれ方は最も批判されやすいポイントとなっており、小説版ではさらにボロクソに書かれている
タランティーノ自身は「ブルースとドラキュラ、どっちが勝つかって聞いてるようなもんだよ」などと反論しているが、当然、彼の娘シャノンから抗議されている。
さらに元の案ではクリフとの戦闘シーンはもっと長く、噛ませ犬的な描かれ方にされていたため、クリフ役のブラピも猛反対していたという……
とはいえ、独特のもったいぶった喋り方や動きの完コピっぷりは一見の価値あり。

  • トルーディ・フレイザー
演:ジュリア・バターズ
吹替:佐藤美由希

『対決ランサー牧場』の撮影の休憩中、リックが出会った8歳の子役。
愛読書はウォルト・ディズニーの伝記。
大人顔負けのプロ意識の持ち主で常に100%の結果を出せるよう努力すべきだと自負しており、相手に役名で呼ばせている。

  • ジェームズ・ステイシー
演:ティモシー・オリファント
吹替 : 長谷川敦央
『対決ランサー牧場』で共演した俳優。モデルは同名の俳優。
リックとの会話中、うっかり傷を抉るような質問をしてしまう。

  • ウェイン・モウンダー
演:ルーク・ペリー
吹替:長谷川敦央
『対決ランサー牧場』で共演した俳優。こちらもモデルは同名の俳優。
モウンダーを演じたペリーは公開前の2019年3月に逝去したため、これが遺作となった。

  • ジェイ・シブリング
演:エミール・ハーシュ
吹替:角田雄二郎

シャロンの元婚約者で友人のヘアスタイリスト。
別れた後でも家を空けがちなポランスキーの代わりにシャロンの世話をしているが、まだ彼女に未練があるらしい。

  • フランチェスカ・カプッチ
演:ロレンツァ・イッツォ
吹替:下田屋有依

『ダイノマイト作戦』でリックと共演し、妻となったイタリアの新人女優。
彼女の前に共演者の女優が気に入ったと言われていたが、すぐ別れた模様
ヒッピー集団に襲われながらも反撃に出る肝っ玉の持ち主。

  • プッシーキャット
演:マーガレット・クアリー
吹替:おまたかな

シュワーズとの会合を終え、リックを家に送り届けていたクリフが交差点で出会ったヒッピー娘。
その後リック邸のアンテナを直しに戻ったクリフにヒッチハイクのアプローチをかけていた。
彼がアンテナ修理を終えた後も交差点におり、三度目の正直でリックにヒッチハイクしてもらう。
行き先は……ヒッピーたちの巣窟となったスパーン映画牧場だった。

  • スクィーキー
演:ダコタ・ファニング
吹替:藤田曜子

ヒッピー集団の女幹部で、ジョージの世話係。
彼に挨拶に来たクリフを追い返そうとするが、説得され面会を認める。
小説版では、ジョージのことを深く愛していたことが明かされる。

  • ジョージ・スパーン
演:ブルース・ダーン
吹替:佐々木睦

スパーン映画牧場の主。
体が弱って目も見えなくなっており、業界や家族からも忘れられていた所を、大所帯化したヒッピーたちに利用されて住み着かれた。
スクィーキーは彼の生活の面倒を見る一方で“ご奉仕”していた。
以前牧場で仕事したことのあるクリフはヒッピーたちに見張られながら挨拶に行くのだが、彼はすでにクリフのことも覚えていなかった……
当初この役は、リックのモデルとなったバート・レイノルズが演じる予定だったが、レイノルズは撮影開始前の2018年9月6日に死去。
長年の友人だったブルース・ダーンが代役を務めている。

  • テックス・ワトソン
演:オースティン・バトラー
吹替:金城大和

スパーン映画牧場で乗馬体験ツアーを提供していた男で、ヒッピーたちのリーダー格。
その正体は、チャールズ・マンソンの右腕
1969年8月9日の深夜、クリフがブランディと散歩に行っている間に、彼率いるヒッピーの一団はシャロン邸を襲撃しようとしていた。
しかしリックに怒鳴り込まれ、『賞金稼ぎの掟』の主演だったことを知る仲間の一人が「テレビで人を殺す場面を見て育ったのだから、人殺しを教えた連中を殺そう」と無茶苦茶なことを提案。
こうしてターゲットはシャロン邸からリック邸に変更され、怖気づいて逃げ出した一人*8を除いた三人が襲撃に入るのだが……
クリフが帰宅してきたのが運の尽きだった。


  • チャールズ・マンソン
演:デイモン・ヘリマン
吹替:ボルケーノ太田

クリフがリック邸のアンテナを修理している時に、シャロン邸に現れた謎の男。
“テリー”という男に用があるとのことだったが、その“テリー”はすでに引っ越したとジェイに言われ去って行った。
その正体はカルト化したヒッピー集団「マンソン・ファミリー」のボス
娼婦の母の元に生まれ、親の愛を知らずに育ったマンソンは自動的にワル化。何度もブタ箱行きになっていた所、時代はフラワー・ムーブメントを迎えていた。
生まれつきのアウトローだったことに加え、髭と髪を伸ばしたマンソンはまさに、時代が望んだヒッピー像そのままだったのだ。
時代の流れに乗ったマンソンはそのカリスマ性を持って、次々と信者を増やしていった。
また、マンソンはレコード・プロデューサーのテリー・メルチャーとシンガー・ソングライターとしてデビューする約束を取り付けていたが、その約束を反故にされた。*9
史実ではその時使用人にぞんざいに扱われ、誰が住んでいるのか知らないままだった。
こうして金持ちたちへの逆恨みという身勝手極まりない理由から、哀れシャロンたちは惨劇の犠牲者となってしまったのである……

余談


〇物語の舞台である1969年、アメリカ映画界はスタジオ・システムの崩壊やテレビの普及、赤狩りの影響で低迷していた。
リックが得意とする西部劇もアメリカでは斜陽を迎え、代わりに若い監督による反体制的かつ悲劇的な結末のアメリカン・ニューシネマが台頭。
そこで西部劇の俳優やスタッフの受け皿になったのが、低予算のマカロニ・ウエスタン。
今でこそセルジオ・レオーネ監督作など名作も多いイメージだが、当初はB級パチモン映画というポジションだった。
それを踏まえると、リックが拒絶反応を示していたのにも納得がいくだろう。

〇『サイレンサー/破壊部隊』を観に来たシャロンが座席に足を上げて観ている場面があるが、足がかなり汚れている。
実際のシャロンも裸足派で、絶対に必要な状況でない限り、なるべく公共の場では靴を履かないようにしていた。

〇本作でも言及されているシャロン出演の『哀愁の花びら』だが、実は色々と曰く付きの作品であったりする。
原作は、当時の発行部数を塗り替えるほどの大ベストセラーを記録した『人形の谷間』*10
ショービズ界の裏側の、昼ドラみたいなドロドロを描いた作品だが、原作の20年間という時間の流れを映画用に無理やり圧縮した上、撮影中はトラブル続き。
シャロンの演技は超がつくレベルの大根で、劇中「私は才能がないからカラダで売るよりしょうがないの」というセリフがあるのだが、そのまんま当てはまっているので笑えないものがある。
結果、出来栄えは最悪としか言えないものに仕上がり、話題性のおかげでヒットこそしたものの観客や評論家の評判も散々なものに。
しかし『哀愁の花びら』は現在、大真面目に作って盛大に滑った作風なのが受けて、ゲイコミュニティを中心にカルト作品となっている。

〇リックが出演したイタリア映画のタイトルは架空のものだが、監督は全員実在の人物である。
『ネブラスカ・ジム』のセルジオ・コルブッチはマカロニ・ウエスタンの巨匠の一人。
『ダイノマイト作戦』のアントニオ・マルゲリーティは『イングロリアス・バスターズ』にも名前が登場している。

〇タランティーノ作品でおなじみのタバコ「レッド・アップル」は、本作のエンドロールにてついにCMが登場。
これのCM監督をタランティーノが演じている。
出演しているリックが自分の等身大パネルを見て二重アゴであることにキレるシーンがあるが、
これは映画が公開される一年ほど前に発表されたディカプリオとブラピが並んで立つ本作の宣伝用のポスターにおいて、
ふとした切っ掛けからディカプリオの二重アゴとブラピの首のシワの修正が発覚したことにちなむ自虐ネタ。
ちなみにアメリカにおいてタバコのCMは、1971年1月2日午前0時をもって全面禁止になっている。
本作の年代を考えると、このCMもまた時代の終わりを表しているのである。

〇本作の3年後に公開されたポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『リコリス・ピザ』の舞台は70年代前半のロサンゼルスで、本作と殆ど時代が変わらない。
まるで70年代に撮られたようなルックのこだわりの逸品だが、この当時に撮影現場で使われていたカーボンアーク灯が見つからないことが大きな悩みだった。
そもそも現在もちゃんと機能するものが存在するか怪しいレベルの代物だったが、この『ワンハリ』も同じ問題を抱えていた。
しかし今でも使えるカーボンアーク灯を所有する人物が見つかったことで、『リコリス・ピザ』も同じルートで無事確保できたのだった。

〇ヒッピー襲撃事件後のリックだが、小説版ではその大立ち回りで再び脚光を浴びたことが明らかになっている。
『マクラスキー14の拳』が再放送されたことでテレビの分野で活躍し、大作ではないもののスタジオ映画にも出演するようになったという。
そして2023年、タランティーノのポッドキャスト『The Video Archives Podcast』は、ハワイの自宅で妻に看取られながら亡くなったことを発表。追悼特集が組まれた。
享年90歳。

〇監督の次回作であり最後の監督作は『The Movie Critic(仮題)』。
この作品は70年代近くのハリウッドを舞台に、低俗ポルノ雑誌で映画評論を寄稿していた孤独な批評家を描くとされている。
ブラピがクリフ役で復帰する予定だったが、2024年、この企画は“気が変わった”ため取り下げられたことが報じられた。

◯2025年に本作の続編がNetflixで制作されることが発表。監督は新たにデヴィッド・フィンチャーが就任。脚本はタランティーノが担当しピットが引き続きクリフ役を演じる模様。

追記・修正は、60年代末のハリウッドを懐かしみながらお願いします。

参考文献
キネマ旬報2019年9月上旬号(キネマ旬報社)
クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男(フィルムアート社)
その昔、ハリウッドで(文藝春秋)
ハリウッド映画の終焉(集英社新書)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』徹底予習 ─ シャロン・テート殺人事件とチャールズ・マンソンとは
Quentin Tarantino Reveals What Happened To OUATIH's Rick Dalton After That Flamethrower Scene
Quentin Tarantino Drops ‘The Movie Critic’ As His Final Film

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最終更新:2025年04月24日 00:24

*1 ジョージ・チャキリス、ジョージ・ペパード、ジョージ・マハリス

*2 小説版では映画への転身を焦るあまり、周りに不遜な態度を取ってプロデューサーたちから恨みを買っていた模様

*3 小説版によると、「確認されているだけでも日本兵を一番多く殺したアメリカ軍人」

*4 朝鮮戦争には空挺歩兵として出兵し、その後はスタントマンの道に進んでいる

*5 小説版ではクリフへの借金を返せなくなった同業者クーリーが闘犬用に入手した犬だったことが明かされている。連戦連勝するほど強い犬だったが、大怪我を負っても治りきらないうちに出場させようとするクーリーにクリフは激怒して殺害している

*6 小説版ではそれが事実だったことが判明している

*7 この映画で共演したシャロンと知り合ったのが縁で結婚した

*8 モデルとなったリンダ・カサビアンは見張りとして外に残ったが、彼女はその晩の大量殺戮に心を痛め、後に検察側の証人に寝返った

*9 実際テリーはマンソンの音楽の才能を「そんなに大したものじゃない」と評していたという

*10 “人形”とは麻薬を意味するスラングで、タイトルは芸能界でいいように踊らされ操られるタレントたちを表している