登録日:2024/04/04 Tue 00:14:14
更新日:2024/06/24 Mon 23:02:34
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『
キングコング』の生みの親であるウィリス・オブライエンとメリアン・C・クーパーが企画した特撮映画。
ストーリーはターザンの作者として知られるE・R・バロウズの『ペルシダー・シリーズ』に近く、なろう系の要素が入った戦争プロパガンダ映画になる予定であった。
【概要】
1938年の初頭、二年間にわたって映画界から遠ざかっていたオブライエンは、再びメリアン・C・クーパーのもとでストップモーション作品を手がけることとなった。
作品はクーパーのオリジナルストーリーで、5年前に作られた『
キングコング』以上の大作になると考えられていた。オブライエンは特撮のアイデアを入念に検討し、300にも渡るラフスケッチを執筆。それを元にクーパーはシリル・ヒュームとともに撮影台本を手掛ける事になった。
【あらすじ】
古代バイキングの専門家である歴史学者ハイラム・C・コップは、バイキングたちは現代人が未だ訪れたことのない北方の未確認地帯に移住したに違いないと研究で確信する。
しかし、仮説証明のための資金援助を科学団体から引き出すことに彼は失敗し、自腹を切って中古の複葉機の購入と旅回りのスタントパイロットであるジミー・マシューズを雇い入れる事となる。
出発後、彼らの機体は北極圏上空で巨大な白い塊と衝突し地図に載っていない場所に墜落するが、周辺の気候が温暖なことを知って驚愕することとなる。そしてそこにはコップの仮説通り、体高4メートル以上もある有史以前の大鷲スノー・イーグルを馬のように乗りこなすバイキングたちの子孫が生活を営む集落があったのであった。
二人はバイキングたちから「外界人」と呼ばれ、族長であるアトックと友人関係となる。その後ジミーはアトックの娘ナルと結ばれ、バイキングたちの脅威となっていたアロサウルスを仲間たちと討伐したりしながらスノー・イーグル乗りとしても一人前になっていく。
その後、修理した飛行機から入った無線ですべての電気を無力化する新兵器を開発したドイツ軍がアメリカ本土を飛行船で攻撃しようとしているのを知った二人はバイキングと協力しスノー・イーグルに乗って自国へと帰還。ニューヨーク市上空での空中戦でドイツ軍を撃滅するのであった。
その後いくつかの変更もあったらしく、このような脚本も書かれたらしい。ハリーハウゼンによれば3パターンあったとのこと。
若いパイロットのスリムは大西洋上を飛行中、濃い霧の中に突っ込み、活火山に囲まれた温暖な谷に墜落する。
彼は原住民の少女ナルに発見され、「アーン」と呼ばれる巨大なワシに乗って空を飛ぶ戦士の一族に迎えられる。
一族は「エイナー」と呼ばれるバイキングの子孫で、数千年前から谷に住み着いていた。巨大な白ワシを捕らえて手なずけたスリムは、一族に迎え入れられ、何世紀にもわたって一族を脅かしていたアロサウルスの群れを退治する。
その後、墜落の時に故障した
ラジオを数ヶ月かけて修理した彼は、
世界征服を企む悪の国家がニューヨークを攻撃していることを通信で知る。
敵の電流を遮断する光線のせいで新兵器によってアメリカ軍が行動不能になったというのだ。
スリムはワシに乗った戦士とともにアメリカに帰国。光線砲を積んだ巨大な飛行船を空中戦の末打ち破り、大破させるのであった。
【製作状況】
前述したように相当な大作になることが当時から予想されていたため、大量の製作準備が本作には割かれることになった。監督はアーネスト・シュードザックに決定。『
ロスト・ワールド』や『
キングコング』でストップモーション用の人形を手掛けたマーセル・デルガドが今回も招集され、何体もスノー・イーグルや恐竜のモデルが作成された。本作に登場予定だった恐竜は前述したアロサウルス以外ではブロントサウルスと
トリケラトプスである。オブライエンは吊演とストップモーションアニメの併用に苦戦したものの、なんとかこなしていった。
そして1939年初頭、アロサウルスとスノー・イーグルが闘う中盤の見せ場を描いた4分27秒の
テストフィルムが完成することとなる。こちらはスチール写真が現存しており、現在我々も見ることができるが、特撮ファンであれば間違いなくわくわくするだろう
ロマンに満ちあふれた画となっている。
…ここまでは一見順調そうに見えた撮影。しかし時代の不運が忍び寄っていた。
【戦争の前に夢壊れる】
1939年、ヒトラーはポーランドにドイツ軍を侵攻させ、第二次世界大戦の幕が切って落とされた。クーパーは陸軍航空隊に志願し、映画の製作どころではなくなってしまった。
また、クーパーは親中派でもあった事もあり、頓挫した映画の製作資金を日中戦争で日本軍に苦戦を強いられていた国民党に寄付。結果、1940年3月、完全に企画は潰えることになってしまったのだった。また
戦後にオブライエンが企画したこの映画も日本絡みで没になったことから考えるに、オブライエンはこの頃から日本と因縁があった気がしないでもない。
もし本作が完成していたら、今では『ハワイ・マレー沖海戦』や『加藤隼戦闘隊』のように特撮プロパガンダ作品として一定以上の評価を得ていただろう。
【余談】
戦後、オブライエンの弟子のレイ・ハリーハウゼンはいくつかアレンジを加えれば素晴らしい冒険
ファンタジー映画になると考えており、本作の映像化を企画していたが、残念なことに実現に至ることはなかった。
ハリーハウゼンによると、一度目は『恐竜グワンジ』の製作前で、二度目は『タイタンの戦い』の上映後だったらしい。二度目の時にはかなり真剣に検討が行われたが、脚本を読んだ映画会社側が古くさいと判断し、企画は流れてしまったとのこと。
またスノー・イーグルの金属製骨格は現存しており、現在は『
ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを手掛けたキングコングファンのピーター・ジャクソン監督が所有している。
本作を見てみたかった人は加筆・修正をお願いいたします。
- オビーのセンスはレイが自著で絶賛する様に先進的でロマンがあるけど、ひたすら予算も時間も掛かるのが…本当に時代に恵まれなかった天才だよこの人は -- 名無しさん (2024-04-05 22:52:00)
最終更新:2024年06月24日 23:02