Boojumverse(クトゥルフ神話)

登録日:2024/07/10 Wed 03:32:09
更新日:2024/08/31 Sat 05:59:45
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ただし心せねばならぬ

もしそのスナークがブージャムだったなら

お前の姿はたちどころに消え去り二度と戻ることはないだろう

ルイス・キャロル『スナーク狩り』より引用



概要

Boojumverseは米国の作家エリザベス・ベア(Elizabeth Bear)とサラ・モネット(Sarah Monette)が共同執筆した、クトゥルフ神話とスペースオペラを融合させた世界観の小説シリーズ。
現時点で3作存在しているが、日本語訳されているのはシリーズ第1作目の「ブージャム」のみ。

シリーズ名にもあるブージャム(Boojum)とは、作品内で宇宙船として利用されている超巨大宇宙生物の名称。
この他、本世界観独自の生き物や一部の神話生物の名はルイス・キャロルの小説が元となっている。



主な登場生物・種族

  • ブージャム(Boojum)
宇宙空間を遊泳して生きる地球のミノカサゴに似た姿の超巨大生物海王星など巨大ガス惑星の大気中で生まれ育ち、成長段階に合わせて深宇宙へと生活の場を移して行く。
口から摂取したものや体内空間から直接吸収したものを消化、濾過後、再生成して生きている。体表には共生関係にある藻が繁殖しており、それが酸素と水を生み出す。
地球の猿程度の知能を持つと考えられており人間に友好的。体表や体内空間の発光でコミュニケーションを取る。
出入り用のハッチの設置や樹脂による一部空間の固定など加工された上で生きた宇宙船として利用されている。
〈マリー・キュリー号〉と呼ばれた船が乗員を吸収したという伝説が伝わっている他、一部の船は船長判断で規律を乱した船員を生きたまま餌にしていることが匂わされている。
〈チャールズ・デクスター・ウォード〉の事例まで人間の観測範囲内で死亡が確認されたことはなく、人の手で殺すには跡形もなくバラバラに解体するか強力な電気刺激で心臓と全身のシナプスを同時に破壊するかの2通りしかないと推測される。

この世界の宇宙船はブージャム船と鋼鉄船の2系統存在するが、ブージャム船の方が高性能。

  • チェシャー(Cheshire)
まるで透明になり消えるかのように異なる位相に溶け込む能力を持つ生き物。全身に4つの複眼と12の単眼を持つ。頭の形状は楔形で首は伸び縮みする。
人懐っこく猫のような性格をしており体色を様々に変色させ意思疎通を図り、懐いた相手には触手を巻き付けて甘える。
主にアーカマーが繁殖させていることから出自には謎が多く、バンダースナッチのネオテニーではないかとの説があるが真偽は不明。

  • トーヴ(Toves)
約1メートルほどの大きさの外骨格を持つ蛞蝓のような異次元の“害虫”。天井に張り付き、0.5メートルほどの舌をルアーのように使い獲物を捕らえる。
これ自体は人間にとってはそれ程脅威ではないが、繁殖し数を増やすに伴い次元の壁が壊れ更なる脅威を呼び込む原因となる。

  • ラース(Rath)
トーヴによって次元の壁の破壊が進むと現れる異次元の“害虫”。トーヴを餌としているが子供や衰弱した人間、ギリーをも襲う。
成長段階によって姿を変え、幼体は小さく飛び回り別位相に潜り姿を透明にする。この時点では脅威度は低いが、人間に纏わり付き低体温症に陥らせる。非繁殖期の成体は壁のシミのような姿をしている。
繁殖期の成体(もしくは繁殖用の特殊個体)は体長2メートル弱の、口以外判別不能な醜いアルマジロのような外見。全身チタンのように強固な装甲に覆われ、人類の武器では核兵器でも無ければ倒すことは不可能。出産部のみ装甲がなく弱点となっているが、立ち上がり攻撃体勢を取る時以外は露出しない。

  • バンダースナッチ(Bandersnatch)
クトゥルフ神話では一般的にティンダロスの猟犬と呼ばれている生物。
トーヴとラースにより次元の壁が破壊されると現れる異次元最強の脅威。全体像は不明だが、手足は角張った蟷螂の鎌のような形をしている。
執念深く獲物の臭いを覚えれば仕留めるまで追跡し、密室にも部屋の角から侵入する映像記録が遺されている。
遭遇する前に逃げる以外の対処法は存在せず、過去の出現事例では、遭遇した人間は一人残らず殺害されている。出現した場合、バンダースナッチがトーヴやラース、人間などを殺し尽くし餓死することで事態は収束する。

  • ドッペルキンダー(Doppelkinder)
目の錯覚を利用して狩りをすると語られる生き物。詳細は不明だが鏡が割れると出現することがあるらしい。
ブージャムやチェシャーなど、平面的な視覚を持たない生き物は影響を受けない。

生身で宇宙空間を泳ぎオールトの雲方面から太陽系に訪れる、希少鉱石と人間の脳を収集している種族。
金持ちと噂があり、脳を扱う闇市場が開かれている。
ミ=ゴというのは他種族からの蔑称で、この世界観では菌類生物(Fungus)が正式な名のようだ。

  • アーカマー(Arkhamer)
知的探求心の強い人種。彼らのみのコミュニティを形成して生きる傾向にあり、他の人間からは禁忌の知識に精通していると噂され偏見の目で見られている。

  • ギリー(Gilly、Gillies)
人間と共に働く種族。



Boojumverseの作品一覧

・『ブージャム』“Boojum”

シリーズ第一作。2008年にアンソロジー“Fast Ships, Black Sails”で公開された。
日本では安原和見が翻訳したものがダークファンタジー小説誌『ナイトランド』のVol.5に掲載されている。

ブラック・アリス・ブラッドリー(Black Alice Bradley)は、海賊船ブージャム〈ラヴィニア・ウェイトリー〉で新入り技術者として働き、ラヴィニアに愛着を抱いていた。
海賊団が輸送船を襲った際にミ=ゴの円筒缶が発見され、船長の判断でミ=ゴ相手に取引が行われることになるが…。


・『マングース』“Mongoose”

第二作。2009年に“Lovecraft Unbound”で公開された。

害虫駆除業者のイズラエル・イライザリー(Izrael Irizarry)とチェシャー〈マングース〉のカダス宇宙ステーションでの仕事が描かれる。


・『難破船チャールズ・デクスター・ウォード』“The Wreck of the Charles Dexter Ward”

第三作。2012年にポッドキャストで朗読劇として公開された後、“The Year's Best Science Fiction: Thirtieth Annual Collection”に掲載される。

4部構成。医師のシンシア・ファイアウェイカー(Cynthia Feuerwerker)が、難破船=死亡したブージャム〈チャールズ・デクスター・ウォード〉のサルベージを計画するアーカマー達に雇われ、辿り着くまでの彼らとの交流と〈チャールズ・デクスター・ウォード〉内で遭遇した禁忌の実験の産物が描かれる。


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最終更新:2024年08月31日 05:59