登録日:2025/01/01 Tue 10:39:20
更新日:2025/04/25 Fri 18:20:24NEW!
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『野獣死すべし』は、1980年10月4日に公開された、日本のクライムアクション・サスペンス映画。
主演は
松田優作。
監督は村川透、脚本は丸山昇一が手掛けている。
公開時は『ニッポン警視庁の恥といわれた二人 刑事珍道中』と同時上映だった。
【概要】
大藪春彦による同名小説の3度目の映像化作品であり、その後の映像化作品を含めても最も有名なタイトル。
松田優作の主演映画としては前年に公開された「蘇える金狼」と並ぶ知名度を誇る。
1978年から角川・東映の共同製作で展開されていた、松田優作の『遊戯』シリーズの流れを汲む作品として製作された。日本テレビで放映されていた『
探偵物語』とメインスタッフが共通しており、松田(や演者達)は現場でリアルタイムで脚本を変更するなど、思うがままに当初の予定を超えて撮影を続けていったとのこと。
松田に至っては、余りの入れ込みようから撮影直前に一時的に音信不通→帰ってきた時には頬をこけさせる為に奥歯4本を抜く処置を秘密裏に受けており関係者を驚かせた。
そのため、原作は純粋なハードボイルドと呼べる作風なのに対して、本作(映画)は主人公の壊れた内面に注目したサイコスリラーとしての側面が強い。
物語も、頭脳も肉体にも恵まれていた健全なエリートであった筈の主人公が悪夢のような戦場での経験からPTSDを発症した末に見るようになってしまった虚々実々の世界を無理矢理に垣間見せられているようなものとなっており、
中盤までは普通にクライムアクションとして理路整然とした犯罪計画と遂行が描かれているのに、終盤からは何処までが現実だったのか解らなくなるような抽象的、且つ超展開が連続して行き、見ている側の認識までもが揺さぶられるような体験を味わわされる。
特に、終盤に突入する頃の、執拗に自分を追い詰めてきた刑事(室田日出男)を反対に追い詰めておいてから唐突に繰り広げられる「リップヴァンウィンクルの話」は、本作を象徴する名(迷)場面として有名で、余りにも狂気的な松田の演技は数十年を経ても伝説として語り草となっている。
そういう意味では、松田自身が好む見る人を選ぶような“難しい作品”であり、「(原作を考慮しない)独自の作品と見なすべき」との意見も大きい。
とはいえ、その凄まじいまでのインパクトから現在までに『野獣死すべし』と言えば、原作を含めても本映画を指すと認識されている程に知名度が高く、邦画バイオレンス作品の中でも時代を越えて別格的な人気を誇るタイトルの一つである。
銃を構えた主人公(松田)が、赤いドレス姿のヒロイン(小林麻美)を掻き抱くメインビジュアルも印象的で、後に多くのオマージュを生んだ。
【物語】
リップ・ヴァン・ウィンクルの話って知ってます?
いい名前でしょ?
リップ・ヴァン・ウィンクル
彼がね、
山へ狩りに行ったんですよ、
山へ狩りに…
そこでね、
小人に会ったんです
なんて言う名前の小人だったかは、
忘れましたけどね
ずいぶん、昔の話だから
とにかく、その小人に会ってウィンクルはお酒をご馳走になったんですよ。
そのお酒があまりにも美味しくて、どんどん酔ってしまったんです。
そして、夢を見たんです。
眠りに落ちて、夢を見たんです。
寒いですか?寒いでしょ?
その夢はね、
どんな狩りでも許されるという素晴らしい夢だったんです。
ところが、
その夢がクライマックスに達したころ、
惜しいことに目が覚めてしまったんです。
あたりを見回すと小人はもういなかった。
森の様子も少し変わってた。
ウィンクルは慌てて、
妻に会うために村へ戻ったんです。
ところが、
妻はとっくの昔に死んでたんですよ。
村の様子も全然変わってましてね。
……分かります?
つまり、ウィンクルがひと眠りしてる間に、
何十年もの歳月が経っていたんです。
面白いでしょ?
━━ある大雨の夜。
警視庁捜査一課の警部補・岡田が男に襲撃されて刺殺され、拳銃を奪われた。
岡田から拳銃を奪った男は、下見の為に刑事を殺害する前まで訪れていた営業を終えた違法カジノに引き返すと、凄まじい射撃の腕で中に居た支配人と従業員達に瞬く間に深手を負わせる。
支配人達は何とか反撃しようとしたものの先制された影響は大きく、反対に男に反撃の為に使うことすら出来なかなった銃を奪われて次々とトドメを刺されてゆく。
支配人達を始末した男は、札束の山に顔を突っ伏して歓喜に浸る。
男の名は伊達邦彦━━。
去年まで大手の通信社に務めていながら、カメラマンとして向かった数々の悲惨な戦場での目を背けたくなるような世界の真実を目にして心が壊れてしまった男。
━━これは、恐ろしい体験から人間を捨てて“野獣”と成り果てた伊達の見る狂気の物語。
【主要登場人物】
※以下は、ネタバレ含む。
演:
松田優作
本作の主人公。29歳。
戦場カメラマンとして活躍していたが、何時しか戦地の悲惨な環境や残酷な行いといった人間の闇の部分のみに目を向けるようになったことから日本に呼び戻された。
帰国後に通信社を辞めた後に、地獄のような戦場とは大違いの日本の姿に何か思うところがあったのか、大胆にして大掛かりな犯罪計画を立てると粛々と実行してゆく。
現在の職業は翻訳のアルバイト。
哲学書を愛読しており、クラシックを好んで聞く。
東大出身で、学生時代は射撃クラブに所属していた経験から卓越した射撃の腕を持ち、普通では有り得ない距離からも拳銃を命中させることが出来る。
また、体格にも恵まれている上に自らを鍛錬しており、警視庁の現役の警部補に襲いかかっても圧倒してしまえた程。
果たして、人間の心を捨てて自らが生み出した狂気に呑まれてゆく“野獣”となった男の辿る最期とは……?
演:小林麻美
本作のヒロイン。……が、物語上で大きな役目を果たすというよりは、伊達とのみ深く関わる存在であり、伊達が“戻れたかもしれない”普通で善良な世界を象徴する存在として登場する。
外資系企業の社長秘書で、伊達と同じクラシックを好む。
伊達もまた、彼女には確かな運命を感じていた筈だったが……。
伊達と真田が実行した銀行強盗の現場に居合わせてしまい、犯人が伊達であると気づいた後に自ら顔を晒した伊達に行員とガードマン以外で射殺された唯一の利用客となる。
演者は芸能界一時引退までテレビドラマに数多く出演していたが、映画出演は意外にも本作と1981年の『真夜中の招待状』のみであった。
演:鹿賀丈史
伊達の同窓会が行われたレストランにて、ボーイとして働いていた男。
伊達とは同年齢ながら、伊達やその学友といった“エリート”達とは対照的な人生を送ってきた怒りを溜め込んだ青年であり、同窓会にて騒ぎを起こした後に、その凶暴性と内に秘めた鬱憤を見抜いた伊達からの接触を受けて共犯者とされる。
演:根岸季衣
真田の恋人。ダンサー。
夜の店でダンスを披露しつつ、メリケン(アメリカ)に渡り東洋出身のフラメンコダンサーとして成功するという夢を抱いており、その計画に真田も付き合わせているが、内心では真田がそのことに不満を持っていることには気付いていない。
雪絵の存在が枷となっていると見抜いた伊達にお膳立てをされ、真田もまた雪絵を殺害して“野獣”となる。
演じているのは、若き日の風間杜夫、岩城滉一、阿藤海(快)、林ゆたか……といった錚々たる面子。
演:青木義朗
警視庁捜査一課の警部補。
伊達のターゲットとされ、数日に渡る尾行の後に目撃情報が少なくなるであろう大雨の夜に襲撃されて拳銃を奪われる。
演:安岡力也
違法(闇)カジノの支配人。
スタッフは、彼を含めて非合法に拳銃で武装していたが、卓越した拳銃の腕を持つ伊達に反撃を考えられないような距離から先制されてしまい、後はろくな抵抗も出来ずに殺害されてしまう。
演:草薙幸二郎
宝石店(銀座ジュエル)の社員。
伊達から商談と称してターゲットとする東洋銀行に呼び寄せられた後、電話のみで銀行強盗に仕立て上げられてガードマンの到着する時間や警報システムを確認するための餌として利用される。
演:佐藤慶
銃の密売人。独特の訛りがある。
銃を買った伊達を何処かのヤクザの構成員だと思っていた。
真田に覚悟を促す目的もあってか、伊達に売ったばかりのサイレンサー付きの拳銃で白昼堂々に町中で射殺される。
演:前野曜子
雪絵の店で、やけにいい声で歌っているホステス。
…演じているのは企画的な意味での前作に当たる『蘇える金狼』で主題歌を歌っており、他にも『
スペースコブラ』のOP&EDでも有名な歌手である前野曜子さん御本人。
演:室田日出男
警視庁捜査一課の刑事。
上司の岡田が殺害されて拳銃が奪われた件にて、犯人の可能性は低いとされながらも目撃情報があった「長身でガッシリした体格ながら死人のように歩く男」が伊達ではないかと思い、唯一人のみで執拗に追い続ける。
共に動いてくれる仲間も居ないとあってか、伊達の行動を阻むことは出来なかったものの、地下鉄と鉄道を乗り継ぎ東京から出た伊達を追い続けていたが……。
【余談】
- 興行収入は7億円以上と、当時としては決して少なくない数値ながら製作者の角川春樹は「1億円程度」と振り返っている。
前述の松田のやりたい放題が耳に入っていたのか、初日の舞台挨拶の後に武闘派社員により松田を渋谷のガード下まで連行することまで命じていたそうなのだが、実際には大入りだったので拉致は見送ったのだとか。
- 当初は更に20分も長い映画であったが、配給の東映側が「1日の上映時間(のサイクル)が短くなる」として短縮を要求。
これを角川が確認も無しに了承したことで監督の村川は角川映画と袂を分かった。
もっとも、東映としても当初の予定の脚本から大幅に内容が変更されるなど、相当に戸惑った末の話であったらしいが。
追記修正は戦場での狂乱を思い出しつつお願い致します。
- イキスギィ!イクイクイクイク…ンアッー! -- YJSNPI (2025-01-01 12:28:00)
- 原作の伊達は伊達である意味とんでもないことになってしまう -- 名無しさん (2025-01-01 12:58:42)
- 伊達を演じるために奥歯4本抜いたって逸話を聞いたときは凄いよりも怖いなと思った 松田優作を -- 名無しさん (2025-01-01 15:37:35)
- ↑4 誰かがやると思ったw -- 名無しさん (2025-01-01 15:44:38)
- HELLSINGの女射手の人が真っ先に浮かんだ -- 名無しさん (2025-01-01 16:44:22)
- アンタ、ウィンクルのなんなのさ。 -- 名無しさん (2025-01-01 17:02:15)
- ↑7 Go back to the nest. -- 名無しさん (2025-01-01 17:09:30)
- Go back to the nest.(激寒) -- 名無しさん (2025-01-01 17:53:25)
- 野獣死すべし慈悲はない -- 名無しさん (2025-01-01 17:59:52)
- 序盤に積み重ねた展開(ヒロイン、相棒、強盗計画)が悉くぶん投げられる映画なんだよね。スケジュール通りに作ったらたならまず出来ない筋書きではある -- 名無しさん (2025-01-02 12:50:41)
- リップ・ヴァン・ウィンクルの行は時々真似する -- 名無しさん (2025-01-02 21:50:05)
- (角川側から見れば)勝手な事したとはいえ脂が乗ってたであろう松田をガード下に拉致って時代を感じるなぁ… -- 名無しさん (2025-01-03 05:32:14)
- IP「2400:2412:6c3:5d00:55c:a1d3:f17:ca0f」のコメントを荒らし報告ページへ通報しました。通報事由は「他利用者への暴言」となります。 -- 名無しさん (2025-04-23 08:19:22)
- 2400:2412:6c3:5d00:55c:a1d3:f17:ca0fのコメントを削除しました。 -- hitoridayo25 (2025-04-23 19:11:15)
- 淫夢厨ってのは本当どこにでも湧くんだな -- 名無しさん (2025-04-25 18:20:24)
最終更新:2025年04月25日 18:20