ジークフリード・キルヒアイス

登録日:2025/03/17 Mon 19:13:23
更新日:2025/04/01 Tue 23:55:28
所要時間:約 7 分で読めます




ラインハルト様……宇宙を、手にお入れください……



CV:広中雅志(石黒版OVA) 、子安武人(黄金の翼)、梅原裕一郎(Die Neue These)

ジークフリード・キルヒアイス(帝国暦467~帝国暦488年)は銀河英雄伝説の登場人物の一人。



【来歴】

帝国暦467年(宇宙暦776年)1月14日、銀河帝国内のごく一般的な家庭に生まれる。
父も司法省下級官吏に過ぎず、平凡な人生を歩むかに思われたが、彼が10歳の時に家の隣にミューゼル家が越してきた事により、ラインハルト・フォン・ミューゼル、そしてアンネローゼ・フォン・グリューネワルトと運命的な出会いを果たす。

ラインハルトからは第一声で「ジークフリードは俗な名だが、キルヒアイスという名は気に入った」として、友となる。
その後もラインハルトの無茶に度々付き合わされ、その度にアンネローゼに叱られると言う日々を過ごす。
しかしそんな幸せな日常も長くは続かず、アンネローゼが皇帝フリードリヒ4世に寵姫として迎えられる事となった。
これによりラインハルトはゴールデンバウム王朝の打倒を誓い、キルヒアイスもアンネローゼを奪われたショックから、ラインハルトと共に帝国軍人への道を歩み始めた。

常にラインハルトの傍に寄り添う腹心的な立ち位置であり、当初は軍内でもラインハルト同様に軽んじられていた。
しかし、カストロプ動乱の早期鎮圧より頭角を表し、ラインハルトに並ぶほどの戦略家として一目置かれる存在となる。
常にラインハルトの傍に控え、周囲の人物もそれをごく自然のことと受け取っていたが、オーベルシュタインはそれを快く思わず、「忠誠心は替えの効かないものであるべきだ」「排除ではなく他の臣下と同等に扱うべきだ」という進言を受けたラインハルトにより、距離を置かれることとなる。
それ自体に不満はなかったものの、「ヴェスターラントの惨劇」によりラインハルトとの間には決定的な亀裂が生まれてしまった。
しかしながらキルヒアイス自身のラインハルト・アンネローゼ両名への敬愛はここに至っても全く損なわれておらず、
ブラウンシュヴァイクの腹心アンスバッハによるラインハルト暗殺を身を挺して防ぎ、僅か21歳にしてそのあまりに短い人生に幕を下ろした。

その死はラインハルトにとって多大な衝撃と後悔を遺し、以後彼の生涯にわたり彼の行動に影響を及ぼし続けている。
ローエングラム王朝下ではジークフリード・キルヒアイス武勲章という新たな名誉称号が加わった他、ラインハルトの子の名前にジークフリードがミドルネームとして付いていることからも窺えよう。


【人物・能力】

何より特徴的なものは深紅の髪色である。
「ルビーを溶かしたような鮮やかな赤」と例えられるほどに美しく、ラインハルトにも気に入られている。
また、身長は190cmとかなりの長身であり、女性士官からは「ハンサムな赤毛ののっぽさん」と称された。

性格は温厚で心優しく、軍人とは思えないほどに清廉潔白。
部下であるベルゲングリューンに、無謀と思えた進軍に面と向かって文句を言われても、その作戦内容を説明する穏やかさもあって、優秀な教師になっただろうと評される事もある。
「ゴミ溜めの中にも美点を見出すタイプ」であると言われているが、人並みに人間を好む好まないといった面も無いわけではなく、オーベルシュタインに対しては警戒心を抱いていた。
初対面の人間に対して「この人物はラインハルトやアンネローゼにとって有益か」という基準で評価を定めてしまいがちな一面もあり、
これはキルヒアイス自身もあまり褒められた事ではないと自嘲している。

その優しさは熱しやすいラインハルトの緩衝材になることも多く、ビッテンフェルトの失態を不問に処したり、
短期間に連続しての艦隊戦を強いられている末端の兵士たちの負担に配慮するよう進言する場面もあった。
軍内においてはラインハルトが唯一頭の上がらない人物であったと言っても過言ではない。
捕虜交換の際にイゼルローン要塞にてヤン・ウェンリーと対峙した時も、軽口を交わしながらも互いに良い印象を抱きあっていた。
しかし、その優しさは敵に対する甘さにも繋がっており、丸腰であるオーベルシュタインを始め、武器を持たない無抵抗なもの、老人や女のような力の劣る者に銃を向けざるを得ない状況は苦手としている。
同じ理由で謀略や陰謀についても好く思っておらず、ラインハルトにも「キルヒアイスに陰謀事は向いていない」と理解されている。

なお、その温厚さはラインハルトに付き合った結果培われたものであり、アンネローゼに対する侮辱にはラインハルト同様怒りを見せる場面もある。
そして、その清廉潔白さ故に、オーベルシュタインの唱える覇業を成そうとするラインハルトは、ヴェスターラントにて致命的な過ちを犯してキルヒアイスとの間に深い溝を残してしまう事となった。

また、ラインハルトの腹心ではあるがその能力は非常に高く、指揮官としても兵士としても高い水準を誇っている。
そもそも存命中もラインハルトの補佐として的確な助言を出しており、キルヒアイス無くしてラインハルトの躍進はなかったと言っても過言ではない。
その実力は周囲の人々にも認められており、彼の死後、作中でも幾度となく「キルヒアイスが生きていれば」と惜しまれる場面が見られた。
相対したヤン・ウェンリーからは「外連味のない良い用兵をする」「付け入る隙も逃げ出す隙もない」と最高級の賛辞*1を送られ、リップシュタット戦役で辺境鎮圧を任された際、部下をして「ローエングラム侯が二人いるかのよう」と評されている。
その用兵は前述の隙のなさに加え、中核の高速艦隊を用いたシャープな突撃のような激しさも兼ね備えている。
作中で幾度となく活躍したゼッフル粒子にナノマシンを混ぜ、指向性を持たせた「指向性ゼッフル粒子」を始めて戦場で利用したのもキルヒアイスである。
フジリュー版では「自らは凡人に過ぎず、天才の用兵を目の当たりにすることで近い水準まで引きずりあげられたに過ぎない」と謙遜しているが、それができること自体余人の成すところではない。

射撃や白兵戦の腕も非常に高く、学生時代の成績で言えばラインハルトよりも上であり、白兵戦の名手であるシェーンコップとも互角以上に渡り合って見せた。
ラインハルトからは自身の護衛役としてもその能力に全幅の信頼を置かれているが、
その一方で装甲擲弾兵総監の「オフレッサーに勝てるか?」との問いには「自信がない」とも答えており、さすがにその道のプロフェッショナルには一歩及ばないようである*2

死の原因となったアンスバッハの暗殺にしても、丸腰で取り押さえようとした結果指輪に仕込んだ銃で射抜かれた結果であり、もしこの時ラインハルトが武器の携行を認めていれば、容易に暗殺を防げたであろうことは想像に難く無い。

彼自身の乗艦の名前はバルバロッサ。
ラインハルトの乗艦ブリュンヒルトと同世代の最新鋭艦であり、彼の赤い髪と同様、真紅の艦体が特徴。
キルヒアイスの死後は帝都オーディンで動態保存されたまま運用されなかったようで、作中では二度と戦場に立つことは無かった。

【主な人間関係】

◆銀河帝国

  • ラインハルト・フォン・ミューゼル/ラインハルト・フォン・ローエングラム
言うまでもなく主君にして半身的存在。
アンネローゼだけでなく、ラインハルトにも十分に心惹かれ、長い年月を共に歩んできた。
ラインハルトも姉と並んで誰よりも心の拠り所としていた人物であり、キルヒアイスの死に際してはこれ以上ないほどに狼狽え、気力を失っていた。
その後もキルヒアイスの遺髪をペンダントに納めており、事あるごとにそのペンダントを弄っている。
そして第一子誕生後は名前を付けるのに紙屑の山を作った末に「俗な名」を息子のミドルネームにする事になる

  • アンネローゼ・フォン・グリューネワルト
ラインハルトの5つ歳上の姉。彼女からは「ジーク」と呼ばれている。
キルヒアイスが想いを寄せていた女性であり、彼女以外の女性に関心を示すことは無かった。
彼女自身もキルヒアイスに対し、特別な想いを抱いていたように見えるが、それを表に出すことはなかった。

  • パウル・フォン・オーベルシュタイン
冷徹な性格の義眼の軍人。
流石のキルヒアイスも、オーベルシュタインに対しては警戒心を抱いており、彼の頭脳を利用すると言ったラインハルトには不満そうにしていた。
本人からはキルヒアイスの人格や能力は認めつつも、彼自身のナンバー2不要論からはラインハルトとの関係も含めて半ば危険視されていた。

  • ハンス・エドアルド・ベルゲングリューン
キルヒアイスの部下。
当初はキルヒアイスの実力に懐疑的であり、カストロプ動乱鎮圧の際には無敵を誇るアルテミスの首飾りに対し、たった2000の艦隊で挑む無謀さに呆れ、共に配属されたフォルカー・アクセル・フォン・ビューローに窘められるも酒を飲んでやる気を出さないでいた。
しかし、キルヒアイスの作戦を聞いてその評価を改め、忠誠を誓った。
キルヒアイスの死後はロイエンタールの部下となり、彼からも『得難い男』『部下になってから無用な言を聞いたことがない』と信頼を得ていたが
ロイエンタールが嵌められ謀反を起こすのを抑えようとしたが結局止められず動乱の末に再び上官を失う、最期はラインハルトへの怨嗟を口にしながらビューローの説得にも応じず自ら命を絶った。

  • マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ
ヴェストパーレ男爵家の女当主。アンネローゼの数少ない宮廷での友人の一人。
芸術家のパトロンとして有名で七人の愛人がいるが、個人的にキルヒアイスのことを気に入っている様子で「ジーク」と呼ぶこともある*3
当のキルヒアイス本人は苦手意識を抱いており、冗談めかしに「黒い髪の女性は嫌い。性格もきつそう」と漏らしている。

  • マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー
OVAオリジナル外伝「奪還者」に登場するアニメオリジナルキャラクター。
リッテンハイム侯爵の係累であるヘルクスハイマー伯爵家の娘。
弱冠10歳とは思えないほど聡明な少女で、強欲な父親には全く似ず良い意味で門閥貴族らしい威厳を持っている。
宮廷闘争により家族や一族を伴って自由惑星同盟へ亡命する最中、密命を帯びたラインハルト達と出会う。
その折の事故で父もろとも他の一族を失い、当初はラインハルト達を憎むがの紳士的に対応したキルヒアイスには心を許し、「ジークフリード」と名で呼んだり自分の後見役も望むほど気に入るようになる。

  • マルティン・ブーフホルツ
キルヒアイスの幼年校時代の旧友。
国立オーディン文理科大学で古典文学について研究している。
文学は兵役免除の対象にならないため徴兵される運命にあったが、その前に学生によるの反戦地下組織の摘発で憲兵隊に逮捕されてしまい、二年後*4に政治犯収容所で死去してしまう。
同級生だったラインハルトのことは「気の強かった気位の高い転校生」と良く想っていなかった様子。


◆自由惑星同盟

  • ヤン・ウェンリー
イゼルローン要塞にて、捕虜交換の際に対面する。
敵対する国家の軍人同士とは思えぬほど穏やかな会話を交わしており、キルヒアイスの死を知った際には「古くからの友人を亡くしたような感覚」を感じた。
彼以外のヤン艦隊の主要メンバーからも好印象を抱かれており、特に直接言葉を交わしたユリアン等は、
初めて対面した帝国軍人がキルヒアイスのような尊敬に足る人物であった事に強い感銘を受けている。


【余談】

  • 佳人薄命
原作10巻中2巻での退場はその存在感に対してあまりにも早く、前述の通り作中の人物からも幾度となく「キルヒアイスが生きていれば」と存在を惜しまれた。
それは読者やファンにとっても同様で、中には「銀河英雄伝説は全2巻」と評するファンも存在するほど。
更に言うなら作者にとってもそれは同じであり、流石に2巻での退場が早すぎたことを認めている。
これは銀河英雄伝説が当初は全3巻での刊行を予定していた名残であり、担当の指示によりそのように構成されたとのこと。
しかし、その死自体は当初から定められていたものであり、早すぎる退場に後悔はしても、それ以上に生み出した物語に愛着があると語っている。

  • 戦いの殉教者
餓狼-MARK OF THE WOLVES-のグラントは盟友カインの関係と含めてキルヒアイスをモチーフにしているが、グラントは身長201cmの巨漢であり民族的な仮面着用・半裸でマント着用・格闘スタイルは暗黒空手で「魔人」と恐れられる濃いキャラクターである。
グラントはカインを庇った際に受けた銃弾が徐々に心臓に近付いており余命僅かと宣告されている設定だが、キルヒアイスが生き残ったIFとしては一考に値するキャラクターかもしれない。風体がちょっと異様すぎるのが難点だが。

  • 演者について
石黒版OVAにて担当声優を務めた広中雅志氏にとっての代表作であり、かなり思い入れのあるキャラであると本人が述べている。
キルヒアイスを演じることで、「それなりの仕事ができるかな」と思えるようになったそうであり、「もし再びキルヒアイスを演じる機会があれば、他の仕事を断ってでも駆けつける」と公言している。
また、ラインハルトを演じた堀川りょう氏とは、銀英伝の声優陣では最年少コンビであったと語っている。

Die Neue Theseにて担当声優を務めた梅原裕一郎氏だが、第1シーズン放送中に急性散在性脳脊髄炎の治療のために休業する事になってしまい、
収録も間に合わなかったのか第1シーズン最終話ではキルヒアイスが帝国側の指揮官で画面にもちゃんと映っているのに台詞が一切ない
また、広中雅志氏からはキルヒアイス役を受け継ぐにあたって「思ったより早く死ぬから気を付けて」と忠告されていたとか。
その他第1シーズン放送中の特番でも広中雅志氏(と原作者の田中芳樹氏)と共演している。


それと、アンネローゼ様にお伝えください……ジークは、追記・修正の誓いを守ったと……


アニヲタの歴史が、また1ページ。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 銀河英雄伝説
  • 銀英伝
  • 銀河英雄伝説登場人物項目
  • 赤髪
  • 赤毛
  • 最強候補
  • 公式チート
  • 赤毛ののっぽさん
  • 高身長
  • 銀河帝国
  • 広中雅志
  • 子安武人
  • 梅原裕一郎
  • 佳人薄命
  • 忠臣
  • キルヒアイスが生きていれば
  • 温厚
  • 誠実
  • 腹心
  • ジーク
  • 何故かなかなか立たなかった項目
  • ジークフリード・キルヒアイス
  • ゼッフル粒子
  • バルバロッサ
  • ナンバー2
  • 幼なじみ
  • ストーリー構成の被害者
  • ある意味不遇
  • Mein Freund「我が友」
  • ガキ大将
  • 完璧超人
  • 公明正大
  • ゼッフル粒子
  • ゼッフル厨
  • 早すぎた死
  • 苦労人
  • 黄金の翼
  • 獅子帝の半身
  • 獅子帝の良心
  • 大公
  • 上級大将
  • 元帥
  • さらば、遠き日
  • イケメン
  • 軍人
  • ジークフリード
  • 天使たちの騎士
  • 俗な名
最終更新:2025年04月01日 23:55

*1 ただし、この時のキルヒアイスはヤン艦隊とは4倍の兵力差があったことは留意すべき。

*2 シェーンコップとの戦いも相手は片手でかなり余裕を残していたのに対し、キルヒアイスは息を切らしている。

*3 キルヒアイスからは「そう呼んで良いのはアンネローゼだけなのに……」と内心で愚痴られている。

*4 時期的には帝国領侵攻作戦時にあたる