登録日:2025/05/23 (金) 04:24:43
更新日:2025/05/24 Sat 12:23:05NEW!
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『サブスタンス(The Substance)』とは、2024年に公開されたイギリス・フランス合作映画。
日本ではギャガ配給で2025年5月16日に公開された。映倫により
R15+指定を受けている。
監督は『REVENGE リベンジ』を監督した、フランス人女性監督のコラリー・ファルジャ。
主演は『
ゴースト ニューヨークの幻』『G.I.ジェーン』のデミ・ムーアと、『
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『憐れみの3章』のマーガレット・クアリー。
概要
本作は、かつてはアカデミー賞でオスカーを手にしたものの、今や見向きもされず、エアロビクス番組の司会に甘んじている元大女優の物語である。
レギュラー番組を降板させられた彼女は、ある日ひょんなことから「サブスタンス」なる美容技術と出会い、それにより肉体にある「変化」が生じる。
それは、若くて美しい自分の「分身」を作り、意識を転移させることだった。
一週間ごとの交替により「若くて美しい体」を満喫する彼女だったが、次第にその欲望は抑えきれなくなり、用法を破った結果、取り返しのつかない事態へと発展していく。
いわゆる
「女性が美貌を求めるあまり禁断の方法に手を染め、身を破滅させていく」という筋書きで、映画『
永遠に美しく…』、『
整形水』や漫画『笑ゥせぇるすまん』、『洗礼』等で昔から描かれてきた物語ではあるが、本作における表現は
かなり悪趣味かつアバンギャルドなものとなっている。
予告編では断片的なものしか見せていなかったが、
本編中の表現は非常にグロテスクであり、クライマックスに至っては「どうしてこうなった」としか言いようのない、血、肉、骨をぶち撒け、「肉体変化」ホラーとしての最高峰とも言うべき表現がこれでもかと用いられ、確実にグロ描写の耐性がない人にはお勧めできない代物である。
本作の製作背景にあったのは、ファルジャ監督の「女性が晒されている体への性欲や理不尽な支配欲に対する反抗」という意志である。
本作の主人公エリザベスは、「もう若くないから価値はない」と周囲の男達に侮蔑され、屈辱に甘んじており、その反動として、サブスタンスに依存するも、最終的には破滅と共に欲望を周囲に解放するようになる。
その解放感のアクセントとして、執拗なまでの男達の性的な視線、「若い女性」の肉体へのクローズアップが生理的嫌悪感さえ抱くような描写が加えられており、それらを破壊するクライマックスに一つの爽快感さえ抱く観客も少なくないはずである。
この挑戦的すぎる表現を用いた映画は、第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、第97回アカデミー賞においてはメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。
なお、多くの主演候補者が辞退する中でオファーを即決したデミ・ムーアは、第82回ゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞を受賞。同年のアカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされた。
ストーリー
エリザベス・スパークルはハリウッドを代表し、オスカーを受賞したこともある名女優……であった。
50歳となった彼女は今や人気も下火となり、エアロビクス番組の司会として励む毎日を送っていた。
だが、その番組でさえ、「もう若くないから無価値」という理由でプロデューサーから一方的に降板を言い渡されてしまう。
絶望し、悲嘆に暮れる彼女だったが、そんな中起こした交通事故で検査した病院で、一人の看護師から「適合者に相応しい」という言葉と共に一本のUSBメモリを渡される。
メモリの中には、「サブスタンス」なる美容技術のPVが入っていた。
当初は胡散臭いと一蹴したエリザベスだったが、自分への周囲の扱いの悪さに憤り、藁にも縋る思いでメモリに書かれている電話番号に連絡し、人気のない廃ビルへと案内される。
そこで受け取ったのは、怪しい薬と医療キットの数々。
不安に思いながら、「活性化剤」を注射するエリザベス。
すると、突然全身に違和感を覚え、昏倒してしまい、目覚めた彼女は「一変」していた。
老いた自分の体から脱皮したかのように、若くて美しい「もう一人の自分」が分裂し、意識を転移させていたのだ。
彼女は街へと繰り出し、若い体を満喫し、「エリザベスの後釜」のオーディションを受け、秘密主義のタレント「スー」としてデビューする。
しかし、サブスタンスにはいくつかの制限があった。
「放置されている母体/分身の栄養補給と分身の安定化を毎日欠かさず行うこと」「一週間おきに必ず交替すること」、そして「自分は自分一人であるという意識を忘れないこと」。
当初は要領よくバランスのいい生活を送っていたエリザベスだったが、若い体を手にして有頂天になったスーは、何かと理由をつけて体のメンテナンスや一週間交代のルールを破るようになる。
やがてその皺寄せはエリザベスの体に表れ始め、「スー」と「エリザベス」は互いの体を憎み合うようになる。
そしてその果てに、とんでもない事態が彼女らを待ち受けていた……。
登場人物
演:デミ・ムーア
かつてハリウッドで名を馳せたオスカー女優。だが、今となっては知る人ぞ知る「過去の人」となっている。
50歳になってもなおその美貌は決して衰えてはおらず、レギュラーのエアロビクス番組の司会を難なく務めていたが、プロデューサーのハーヴェイの一方的な判断により番組を降板させられる。
途方に暮れていた中で看護師の情報でサブスタンスの存在を知り、投与したことで分身「スー」を生み出し、若い体を満喫する。
しかし、「スー」としての自分は老いた母体の自分を忌み嫌い、扱いが雑になっていったために徐々に肉体が劣化。
点滴生活の影響からか暴飲暴食も繰り返すようになり、みるみるうちに美しさを損ない、スーの美しさに激しい嫉妬心を抱き、「恩知らず」と罵倒までするようになる。
遂には日常生活を行うことすら困難なほどに肉体が老化してしまい、サブスタンスを中止しようとするが……。
演:マーガレット・クアリー
エリザベスがサブスタンス投与により生み出した若くて美しい分身。
これまでの不遇生活の反動からか、自身の美貌を最大限に利用し、「エリザベス」の後釜番組に選ばれ人気者になっただけでなく、性生活にも奔放になる。
なお、人格としては間違いなくエリザベス本人のものなのだが、母体と自分を比べるあまり「エリザベス」を忌み嫌うようになり、扱いが徐々に粗雑になっていき、自分と同じだと認識できなくなっていく。
その過程で母体を閉じ込めるための隠し部屋をDIYで作り上げており、何気に凄いスキルを発揮している。
そして、一週間を超えて分身のままでいようとするため、サブスタンスとして必要なメンテナンスすら怠り、母体の劣化を進行させていく。
遂にはエリザベスからサブスタンスを中止するための薬を打ち込まれるが、混乱したエリザベスにより「交替」施術をされたために両者の意識が同時に存在する事態が発生。
結果、取り返しのつかない凶行に手を染めてしまう。
演:デニス・クエイド
エリザベスのエクササイズ番組のプロデューサー。
「女性は25歳から生殖機能が低下し、50歳からは止まる」がモットーの完全外見至上主義の性差別主義者であり、ホモソーシャル内で女性の外見を評論してあげつらう最低の男。
無論、エリザベスのことも表向きは称賛しているが陰では「ババア」と侮蔑していた。
スーの外見にすっかり魅了され、彼女をスターダムに押し上げ、大晦日の特別番組の司会に抜擢する。
女優への性的虐待により告発され、ハリウッドを追放後逮捕された某プロデューサーと名前が同じなのは偶然ではあるまい。
演:エドワード・ハミルトン=クラーク
エリザベスの中学時代の同級生。
当時から高嶺の花だったエリザベスに憧れを抱いており、病院で再会した時は一緒に飲みに行こうと誘っていた。
結果的にエリザベスからはすっぽかされるも、一度はサブスタンスを諦めて希望を抱いたエリザベスから再び飲みに誘われる。
しかし、「スー」としての快楽に身も心も侵された彼女にとっては最早老いた「エリザベス」は苦痛でしかなく、せっかくのチャンスもふいにしてしまった。
演:ゴア・エイブラムス
エリザベスのマンションの向かいの部屋に住んでいる男。
浴室の工事をしていたエリザベスの部屋に文句を言いに行ったが、現れたスーに心を奪われ、すっかり絆されてしまう。
その後も「スー」とは親しくしていたが、二重生活に苦しむようになった彼女からは段々距離を置かれていった。
演:オスカー・レセージ
スーと関係を持った若い男。
スーの見た目だけが好きな軽薄な人間であり、年増のエリザベスには罵声をかけるだけであった。
演:ロビン・グリア
事故で検査入院したエリザベスを検診した若い男性看護師。
彼女の体を見て、「理想の候補者」と太鼓判を押し、サブスタンスに誘った。
その正体は下記のダイナーの男の「分身」。
演:クリスチャン・エリクソン
ダイナーでエリザベスを見て「分身」の容態を尋ねてきた中年男性。
その正体は、エリザベスをサブスタンスに誘った看護師の「母体」であり、サブスタンス被験者の一人だった。
様子のおかしいエリザベスを見て、「段々分身に生活を侵されていくが、自分からは逃れられない」と彼女に警告した。
声:ヤン・ビーン
サブスタンスのPVのナレーションやカスタマーサービスの電話口にて応対する男の声。
機械的かつ冷徹な口調で被験者に応対し、使用方法に困るようになったエリザベス/スーを冷酷に突き放す。
結局、その正体が最後まで明かされることは無かった。
- モンストロ・エリサスー(Monstro Elisasue)
二度の活性化剤使用によりスーから生まれた「かつてエリザベス/スーだった何か」。名前の由来は「怪物(Monster)」のポルトガル語である。
異常な細胞分裂により肉体は膨張し、体中の至る所に顔や臓器が生え、最早人間とは呼べない「新たな生物」と化している。
細胞活性の影響により肉体も脆弱なものとなっており、なおかつ細胞の増殖により一度出血したら人体の容積を優に超える大量の血液を噴出し、辺り一面を血の池地獄へと変えてしまう。
人格面も完全に破綻しており、エリザベスとスーの両方の美への妄執だけが生きる気力となっている。
エリザベスの顔写真を顔に貼り付けて特別番組に出演するが、その結果待っていたのは罵声と暴力。
それにより完全に発狂し、スタジオを血と臓物で埋め尽くされた阿鼻叫喚の地獄絵図に変えた挙句、スタジオの外を彷徨い歩いた末に、止まらない細胞分裂に肉体が耐えきれず遂に限界を迎えて崩壊した。
その果てに、彼女が見たものとは……。
サブスタンス
体細胞を人工的に「分裂」させることにより、若くて美しい「分身」を生み出すことにより、その分身と意識を共有することで一週間限定で「若い体」を体験できる医療技術。
SF作品の感覚としては、クローン体やコピーロボットに意識を転移させる技術に近いが、本作では文字通り「分裂」した分身が生まれるというグロテスクな表現がされている。
使用する薬品と医療キットは廃ビルの奥にあるロッカールームに「配達」され、調達される度に取りに行く必要がある。
活用にはいくつものの制約があり、それらを守らないとまともな生活すら危うくなるという、ぶっちゃけリスクが多すぎて行う旨味がほとんどない美容技術である。
そもそも、一週間の期限による交替制を絶対的ルールとして敷いた場合、スケジュールが守られなくなるリスクが発生するのは人間として当然であり、「守れない」人間を容赦なく見捨てるスタンスを取った時点で破綻した技術であると言える。
しかも説明書らしきカードには簡潔な言葉しか書かれておらず、何も知らない人は医療キットだけ「はい」と渡されて使用方法もわからずに失敗する可能性が高い。というより、あの説明だけで使用方法を熟知したエリザベスはある意味凄い
1.活性化
最初に行う施術。黄緑色の薬品「活性化剤」を注射する。
これだけなら簡単だが、その後すぐに昏倒し、体細胞がロックされ、分裂を開始し、背中から昆虫が脱皮するように「分身」が生まれる。
分身としての意識が安定したら、母体の出血を防ぐために同梱の金属糸で背中の傷を縫合すること。
なお、活性化剤は必ず「1回のみ」投与し、使用後は破棄しなければならない。
過剰に投与した場合、細胞分裂は1回だけでは済まなくなり、細胞の異常増殖により肉体そのものが変質してしまう。
2.安定化
母体から骨髄液を摘出し、7回に小分けできる容器に採取する。
7日間で1日ずつ、「必ず毎日」骨髄液を分身に注射し、分身の容態を安定化させる。
注射を怠ると、分身の内出血が始まってしまう。
また、骨髄液の摘出には必ず新規発注される「未使用の」容器を使用すること。
これと並行して、放置されている母体もしくは分身の状態を保つために、7日分の栄養分を点滴する。
点滴が切れた場合、栄養不足により肉体が劣化してしまう。
3.交替
きっちり一週間ごとに(例外なく)、母体と分身を専用のチューブで繋ぎ、血液を入れ替える。
入れ替えが完了すると自分の意識が転移し、「交替」が成功する。
はっきり言って理屈は不明だが、「そういうもの」と思うしかない。
なお、母体や分身が劣化した状態でこの施術を行った場合、意識の交替に失敗し、二つの体に同時に意識が存在する事態が発生することがある。
中止
サブスタンスを中止したい旨を電話にて伝えた場合、黒い薬品が届けられる。
これを分身に注射すると、分身が自己崩壊を始め、「処分」されることとなる。
無論、一度注射したら分身は崩壊を始めるだけなので、この状態の分身と「交替」した場合死ぬ羽目になるのは自分である。
余談
- 本作はカメラワーク、美術デザインにも大きな工夫が加えられている。テレビスタジオの左右対称な廊下はスタンリー・キューブリック作品を連想する人も少なくないはずである。クライマックスにおいてはデヴィッド・クローネンバーグ作品を連想した人も多い。
追記・修正はサブスタンスをバランスよく続けられる自信がある方がお願いします。
- エリザベスのポスターを顔に貼り付けるのが象徴的。失って初めて気付く「ありのままが一番」 -- 名無しさん (2025-05-23 11:15:41)
- 文章だけでもゾっとする内容だなぁR15どころかR18じゃないの? -- 名無しさん (2025-05-23 15:39:16)
- こんなややこしい手間が必要だわ(医術の心得がない人間にできるのかこれ?)事実上の活動制限ができるわ……最後の説明を読んでみるととてもではないが使いたくないわコレ……「不治の病に侵されいつ死んでもおかしくないベッドの上から動けず延命処置を受け続けるだけの身体からでも、至って健康体かつ若さの恩恵に満ちた分身を作れる」くらいでもないと価値が見出だせないしそれすらも「最後にどうしてもやりたいこと」と遺品や未練の気持ちの整理の制約付きで使うべきだろう…… -- 名無しさん (2025-05-23 20:43:29)
- 「BBA無理すんな」この言葉が如何に残酷で非道かを再確認させる映画 -- 名無しさん (2025-05-24 12:07:36)
最終更新:2025年05月24日 12:23