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ストラディバリウス

登録日:2012/04/17 Tue 11:28:29
更新日:2026/04/24 Fri 19:41:25
所要時間:約 5 分で読めます




【概要】


ストラディバリウスとは、イタリア北西部のクレモナで活動した弦楽器製作者、アントニオ・ストラディバリが製作した弦楽器を指す。アントニオといってもこの人とは関係ない。
アントニオの正確な生年月日は残っていないが、1644年あたりに生まれたらしい。
ニコロ・アマティに師事して技術を学んだ後、自分の工房を開き独立した。没したのは1737年12月18日であると言われている。
彼の技術を受け継いだ職人はおらず、クレモナにおける弦楽器製造の伝統自体も途切れてしまった。

数百年前のアンティーク楽器ではあるが、その出来は秀逸。
特に評価が高いのはヴァイオリンで、「ストラディバリウスを超えるヴァイオリンは誰も作れないだろう」とまで言われるほど。
ヴィオラやチェロも少数残され、いずれも相当な名器として知られる。しかし有名すぎるせいか贋作も多い。
現代のバイオリンの多くはストラディバリウスを手本にして作られており、そうしたコピーモデルはまとめて「ストラドモデル」と呼ばれている。

他のストラディバリウスとの区別、あるいはブランディングのため、いわゆる二つ名を有するものも多い。

例)
  • 裏板のニスの光沢がイルカみたいに美しいから「ドルフィン」
  • メディチ家がアントニオに製作を依頼したものの一つだから「メディチ」
  • 待てど暮らせど姿を見せてくれないから「メサイア」 だれうま


さて、このストラディバリウス。
我々の間で話題になる際は、その音色よりもむしろお値段の方に多くの時間が割かれるのではなかろうか。
なにせ最高のヴァイオリン、オークションに出ようものなら簡単に億の桁までいってしまう代物である。

そのブッ飛んだ価格から、格調高い場でしか使われないものと思うだろうが、『ストラディバリウスを聴こう』といった主旨のコンサートは意外と各地でやっていて、我々一般人であっても麗しい音色を聴く機会は結構ある。


【日本(人)とストラディバリウス】


現存しているストラディバリウスは約600挺。そのうち十数挺は日本音楽財団が所有しており、ヴァイオリニストに無償で貸出している。
なにせ高額な逸品なので、音楽関係の財団あるいは資産家が購入→贔屓の音楽家に貸与という形で運用されることが日本に限らず一般的。
とはいえ個人で所有している音楽家もいないわけではなく、家を売ってストラディバリウスを買った日本人ヴァイオリニストもいる……お子さんのように愛でているそうです。

2011年6月、日本音楽財団は所有しているストラディバリウス(1721年製、二つ名:レディ・ブラント)を英国オークションに出品。
売り上げを東日本大震災の義援金とした。
落札価格を円に換算すると、なんと約12億7000万円

( ゚д゚) ………。

1挺でこれである。
この価格は、これまでのストラディバリウスの最高取引額の4倍に相当する。

理事長曰く、「これは目茶苦茶大事なコレクションのひとつだけど、日本人同士でできることは何でもして助け合わなきゃね」(大意)
日本音楽財団が所有する楽器を売却したのはこれが初めてのこと。

バラエティ番組『芸能人格付けチェック』においてヴァイオリンの演奏が音感問題で取り上げられる際、使われる楽器はほぼこのストラディバリウスであるといっていい。


【フィクション作品において】


  • 『シャーロック・ホームズ』
    バイオリン演奏を趣味の一つとしているホームズが、質屋で安物と勘違いされて5,6万円ほどで売られていたストラディバリウスを発見し、真相を店主に教えずに買ってきたというエピソードが存在する。

  • 名探偵コナン
    ストラディバリウスの所有権が発端となった音楽家一族の連続殺人事件の真相を暴く『ストラディバリウスの不協和音』というエピソードがある。

  • 超人機メタルダー
    ストラディバリウス(作中では「ストラディバリ」と呼称)を片手に音楽攻撃で戦うラプソディという敵キャラが登場する。本当は心優しい性格で、戦いが終わった後は遊園地で余生を過ごす事となった。

  • METAL MAX2
    バトー博士が設計してくれる戦車のバリエーションとして「ストラディバリ」名義で登場。造形モデルはオリジナル版だとVI号突撃臼砲シュトルムティーガー、リメイク後はV号駆逐戦車ヤークトパンターに見える。

  • 真・女神転生
    隠し悪魔である「魔人ディビット」が奏でるバイオリンとして登場。同作では倒すと「ストラディバリ」名義で落とすことがある。とてつもない性能をした女性用武器だが、入手はあまりにも難しい。

  • 東方妖々夢
    4面ボスを務めるプリズムリバー三姉妹の長女、ルナサ・プリズムリバーがスペルカードとして『神弦「ストラディヴァリウス」』を使用する。
    難易度が上がると『偽弦「スードストラディバリウス」』にパワーアップ。偽弦……?
    ちなみに彼女の使うヴァイオリンは「ストラディバリウスも裸足で逃げ出すほどの名器の幽霊」だとか。パチモノじゃねえか!





以下浪漫をぶち壊す現実の話。悪ノリ注意。





~ストラディバリが生きた時代~


「時代はヴァイオリンだぜw」
「売れるから兎に角量産しようぜwwww」
「おkやろうずwwさくっと作ってさくっと売ろうぜw」

しかし、アントニオは違った。
彼は手抜きすることなく、ヴァイオリンを当時としては高い技術により、ひとつひとつ丁寧に作り上げた。
その精度の高さは、当初から評価された。

そして時は流れ、ヴァイオリン需要は飽和を迎える。
結果、安く質の悪いものは負け、良いものだけが残った……。

実は、「何故彼が手を抜かなかったのか」は不明である。
職人としての誇りが許さなかったのではないか、という見方もあるが、推測の域を出ない。

時はさらに流れる。

耐用年数が長くなれば、その分活躍の場も増える。
そして、有名なヴァイオリニストが愛用したとする。

「あの人が長く使うってことは、それほど良い品なんだな」
「そういえば、超有名な〇〇さんも使ってたっけ」

そう。奏者以上に楽器がすごいのだと、一般人は思いこんでしまった。
そしてブランド名が独り歩きし、ストラディバリウス=ヴァイオリンの神という図式になったのだ。
実際は、周りが次々と姿を消す中、その高い品質により価値を保ち続けたロングランナーと表現するほうが正しいだろう。

確かに歴史的な価値もあるだろう。
しかし、奏者がいなければその真価は引き出せない。

とある番組にて、一流のヴァイオリン奏者を集めストラディバリウスと国産の物を含め、4~5台の異なるヴァイオリンの音色の違いをテストした事があった。
一人一人にヴァイオリンの音を聞かせてどれがストラディバリウスでどれが国産のもので、と指定していく。

その結果……。

きっちり正解した奏者はいなかった。
それどころか、国産の安いヴァイオリンとストラディバリウスとの区別が付かず、国産のものをストラディバリウスと名指しした演奏家もいたという。



【ストラディバリウスの価値】


結局のところ、ストラディバリウスの価値はどこにあるのか?
それを理解するためには、ストラディバリウスの「工芸品」としての側面に目を向ける必要がある。


  • ニス
ストラディバリウスのボディに塗装されているニスの素材は、今もって判明していない。
たかがニスと思うなかれ、これはヴァイオリンの音色の命と言っても過言でもないほど音質を左右するのだ。

  • 木材
作者のアントニオが生きていた時代は太陽の黒点の関係で気候が現代と違い、そのため材料となった木材も現代のものと性質が違う。
寒い環境を生き抜いていたため年輪は薄く多く積み重なり、非常に密度が高いのだ。

  • エイジング
ストラディバリウスは製造されてから数百年の年月を経ている。
長きに渡って演奏され続けたことで各パーツが「馴染み」、当初より音質や響きが向上しているのだ。



このように、ストラディバリウスは現代科学をもってしても完コピできない要素を多々有している。要するにロストテクノロジーというやつである。
新しくストラディバリウスを作ることはできず、今現在残っているものを使うほかない。そうした稀少性・プレミア感こそが、ストラディバリウスをヴァイオリンの頂点たらしめる最大の要因なのである。

一方、アントニオと近い時代において「名工」とされた職人は他にも存在する。
ニスはともかく、木材やエイジングに関してはほぼほぼ同じ条件と考えてよいだろう。
しかしながら、今現在アントニオと同等の評価をされているのはバルトロメオ・ジュゼッペ・アントニオ・グァルネリ程度で、他の職人のヴァイオリンはゼロがひとつふたつ少ない金額でしか取引されない。
なぜ、この2人だけが突出した評価を得たのか?

実のところ、今に残るストラディバリウスは、元の形をそのままとどめてはいない。

当初は狭い室内で音を聞かせる楽器だったヴァイオリンは、時代の変化によって立場を変えた。
広いホールで多くの観衆を相手にし、大きな音を響かせることが求められた。
もはや演奏者の技術だけではどうにもならない。ヴァイオリンそのものに手を入れる必要がある。
もうおわかりだろう。彼ら2人以外のヴァイオリンは、そうした「改造」に耐えなかったのだ。

ストラディバリウスは優れた楽器であると同時に、極めて精巧な工芸品でもあった。
単に美しい音色を響かせるだけではなく、時代の変化にも対応できる「拡張性」をも備えていたのである。

さて、そうした中で、2011年に北米放射線学会議(RSNA)が「オリジナルの音色にかなり近いコピーの製作に成功した」と発表し話題となった。

発起人は放射線科医にして元ミネソタ大学助教授のSteven Sirr氏。
同氏の談によると「銃で撃たれた人を診たときのこと。患者が手術に運びだされたあと、練習に持ち込んでいたヴァイオリンをスキャナに突っ込んでみた。
色々向きを変えたりして見ているうちに、これはじつに興味深い観察対象だと気づいた」そうな。

コピディバリウスを製作する為に1000回以上のスキャンをくり返し、
虫食いや乾燥によって発生する小さな亀裂が楽器にあたえる影響や、長年の使用で生じた歪みまで分析。
さらに数百年を経て変化した木質まで考慮して材質を選び、楽器職人が完成させたという。

前述したとおり、今の楽器製作技術はストラディバリウスの制作当時よりも優れているとされる。
しかし現代のコピー品がストラディバリウスと同じ音色を奏でたとして、ストラディバリウスと同じ価値で取引されるかといえば、それはおそらくありえないことだろう。
こうした話を理不尽と捉えるか、それとも当然と考えるか。そのあたりは皆様の感性に委ねることとしたい。


【銘品あれこれ】


前述のとおり、ストラディバリウスには二つ名がついたものが多く存在する。
ここではそれらのうちの一部を紹介。

  • ドルフィン
ストラディバリウスの中でも極めて状態の良い「三大ストラディバリウス」の一角。1714年製。
二つ名は裏板に塗られたニスの輝きがイルカを連想させたことに由来する。

2026年現在は日本音楽財団が所有。
三大ストラディバリウスの中では唯一演奏に供されており、かつては諏訪内晶子氏に貸与されていた。

  • アラード=バロン・ヌープ
こちらも「三大ストラディバリウス」の一角。1715年製。
二つ名はフランスの同名ヴァイオリニストに由来する。

1981年に125万ドルでコレクターへと売却され、その後の巡歴は不明。
売却されたり貸し出されたりという話は聞かれないため、そのまま同じコレクターが保管し続けているものと思われる。
もったいないと捉えるか、未来のヴァイオリニストたちに対する投資と考えるか……。

  • メサイア
「三大ストラディバリウス」の一角にして、ストラディバリウスの中でもひときわ特殊な立ち位置にある一挺。

1716年製だが、どういうわけかアントニオの工房に留め置かれ、彼の死後にコレクターへと売却。
続いて楽器商のルイジ・タリシオに売却された。
演奏されることなく保管され続けたため極めて状態が良く、タリシオは事あるごとに本品を引き合いに出して自慢のタネにしていたという。

しかし、自慢するばかりで決して本品を見せてくれることがなかったタリシオに対し、その場に居合わせたヴァイオリニストがひとこと。
「まるでどこぞの救世主だ、待てど暮らせどいっこうに姿を現さない」 座布団一枚
かくして本品は救世主の名を冠することとなり、ついには「キリストの降誕」が描かれたテールピースが搭載されてしまった。

その来歴から「改造」もほとんど施されず、制作当時の状態を留めた唯一のストラディバリウスとされる。
そうした貴重さからイギリス・アシュモレアン博物館に寄贈され、現在は「未来の楽器製作者への学習の基準」として保存展示されている。
工芸品としての状態を保つため、ヴァイオリンでありながら公的な場で演奏されたことは皆無。
ゆえに実際の「性能」については疑問を呈する声も聞かれ、なんならパチモノ疑惑が持ち上がったこともある。

  • ハンマ1717
1717年製。二つ名はかつての所有者であるハンマ商会に由来する。
曰く「男性的」な弾き心地で、音を出すのにコツがいるそうな。

ゾゾの創業者として知られる 前澤友作氏が 2018年に購入。
自ら「きらきら星」を演奏する動画をインスタグラムに投稿し、大きな話題となった。
その後、2023年に吉村妃鞠嬢へと貸与されることが決定。12歳の若きストラディバリウス奏者が誕生した。

  • デュランティ
1716年製。二つ名はかつての所有者であるデュランティ家に由来する。

製造から300年近くに渡って誰にも演奏されることなく眠っていたという驚愕の逸品。
21世紀に入って売りに出され、千住真理子氏の手に渡った。
曰く「弾きこなすには絶対的な体力が必要」とのこと。
インパクトある来歴からテレビ番組で取り上げられたり、購入までの経緯が書籍にまとめられて出版されたりしている。


【余談】


  • パワーメタルバンドの「Stratovarius」の名前の由来の片方がコレ。なおもう片方はストラトキャスター。
    当時ギター担当だったティモのメインはJacksonのSoloistだとか…。

  • 格付けチェックでおなじみの楽器だが、楽器商の方々は外観をもとに鑑定を行い、音で真贋を判断することはないという。
    グァルネリを愛用する奏者にストラディバリウスを演奏させてみたところ、「いつもと同じ音が出る」とこぼしたとの逸話も残っている。
    重要なのはまず奏者の腕前、ということだろうか。

  • 価値のところでニスについて触れたが、科学的な調査においては「特に変わった成分は含まれていない」との結果が出ている。
    一方で、ニスの使い方そのものに秘訣があるとの主張もあり、ニスがストラディバリウスの命なのだという認識は今でも根強い。

  • 極めて貴重なヴァイオリンではあるものの、活動期間と製作数を突き合わせると月産20挺のペースでせっせと生産されたことになる。
    実際には2人の息子に加えて職人を雇ったりもしており、ひとりで製作に励んでいたわけではないようだ。




追記、修正はストラディヴァリウスを手に入れるため家を売ってからお願いします。

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最終更新:2026年04月24日 19:41