ガスペリ家には複数の屋敷がある。フローレンシア市の本邸(リリアーナの拠点)、トリア市の別邸(こちらは当主カルロの拠点)が筆頭であるが、この別荘――辺境の温泉街にあるものは趣が違った。
源泉から引っ張ってきた温泉が常に浴槽を満たしており、一族の権勢をアピールしていた。
また温泉街といえば、むしろ空気というものは硫黄などで悪い場合もあるが、ここは空気もよかった。
源泉から引っ張ってきた温泉が常に浴槽を満たしており、一族の権勢をアピールしていた。
また温泉街といえば、むしろ空気というものは硫黄などで悪い場合もあるが、ここは空気もよかった。
そんな温泉街の別荘に、馬車が乗りつける。古い設えではあるが、頑丈さと快適さを兼ねたものである。
そんな馬車から降りてきたのは――輝かしい銀の髪と清らかにして汚れのない白い肌。優しげな目つきは最高等級のルビーのように輝く目と、相互の魅力を引き立たせる。しっかりと通った鼻筋、柔らかそうな唇。
そしてこれらを収める顔も小さく、体型に至ってはまさしく出るところは出ており、締まっていて欲しい部分は出ている。すらりとした手には細く美しい指、適度に肉のついた足も不健康な印象を与えない程度。これら全てが整っているまごうことなき美人。
そんな馬車から降りてきたのは――輝かしい銀の髪と清らかにして汚れのない白い肌。優しげな目つきは最高等級のルビーのように輝く目と、相互の魅力を引き立たせる。しっかりと通った鼻筋、柔らかそうな唇。
そしてこれらを収める顔も小さく、体型に至ってはまさしく出るところは出ており、締まっていて欲しい部分は出ている。すらりとした手には細く美しい指、適度に肉のついた足も不健康な印象を与えない程度。これら全てが整っているまごうことなき美人。
それが、今回この別荘で『療養』することとなっているアメーリア・ディ・ガスペリ。大人顔負けの美貌を持ちながら、まだ伸び代があると言わんばかりの14歳である。
尚、二年前の時点で従姉の身長を余裕で抜かしていた。それまでは余裕ぶっていた従姉がこの事実を自覚してひきつった顔をしていたな――というのは、アメーリアにとって貴重な『楽しかったこと』である。
そんな彼女がえっちらおっちら辺鄙な温泉街にまで来た理由はただひとつ。湯治のためであった。
尚、二年前の時点で従姉の身長を余裕で抜かしていた。それまでは余裕ぶっていた従姉がこの事実を自覚してひきつった顔をしていたな――というのは、アメーリアにとって貴重な『楽しかったこと』である。
そんな彼女がえっちらおっちら辺鄙な温泉街にまで来た理由はただひとつ。湯治のためであった。
「はぁ……」
だが、当の本人はため息をついていた。
「お嬢様?」
隣に控えて、荷物(貴人を不自由させないためのアレコレ)を抱えるメイドがそれを聞き漏らすことなく、なんの意図か確認する。
「ああ、なんでもないの。わたくしの宿命ですもの、この身体は」
「……そういうこと、でしたか」
「ええ、そういうこと。皆、わたくしに期待しているからこそ。このような扱いで……ううっ、けほっ、けほっ……」
「お、お嬢様!」
「……そういうこと、でしたか」
「ええ、そういうこと。皆、わたくしに期待しているからこそ。このような扱いで……ううっ、けほっ、けほっ……」
「お、お嬢様!」
メイドが荷物をその場に置き、咳き込むアメーリアに駆け寄る。そのまま、アメーリアを抱えて屋敷の中に入っていく。
彼女の湯治は、まだ始まる前からこのような状況であった。
彼女の湯治は、まだ始まる前からこのような状況であった。
アメーリアの体調が落ち着いたのは、ベッドの上だった。
「……迷惑、かけましたね」
「いえ、それが仕事ですから。何より、好きでお仕えしていますので……と、さてお嬢様、食事となさいますか?それともお風呂?或いはもう少し休まれますか?」
「いえ、それが仕事ですから。何より、好きでお仕えしていますので……と、さてお嬢様、食事となさいますか?それともお風呂?或いはもう少し休まれますか?」
メイドは何事もなかったかのように次の行動をどうするか、と確認する。
「では……もう少しだけ休んでから、湯に浸かります」
「わかりました。では、私は準備をして参ります。といっても、お嬢様の着替えを用意するくらいですが……」
「なら、そのように。……お父様なら「よきにはからえ」でしょうか」
「カルロ様であるなら、確かにそのような答え方でしょうね……と、それではお嬢様。失礼します」
「わかりました。では、私は準備をして参ります。といっても、お嬢様の着替えを用意するくらいですが……」
「なら、そのように。……お父様なら「よきにはからえ」でしょうか」
「カルロ様であるなら、確かにそのような答え方でしょうね……と、それではお嬢様。失礼します」
メイドが出ていき、一人きりになった後。
アメーリアはそっと窓の外を見てから――自分の立場について悩むのだった。
アメーリアはそっと窓の外を見てから――自分の立場について悩むのだった。
そうして、メイドが準備を整えたあと。アメーリアはようやく湯を楽しむ。
といっても多少は慣れ親しんだ、落ち着いた湯。湯治としては効いている……ということになっている。アメーリア当人でさえ、「確かに気休め程度には荒れるのが減ったかな」「気休めと言うには少し落ち着きすぎな気もするけどそんなもの」くらいの感覚であった。
実際世界各地で温泉と魔力には関連付けられることもあるので、そういうものであった。
といっても多少は慣れ親しんだ、落ち着いた湯。湯治としては効いている……ということになっている。アメーリア当人でさえ、「確かに気休め程度には荒れるのが減ったかな」「気休めと言うには少し落ち着きすぎな気もするけどそんなもの」くらいの感覚であった。
実際世界各地で温泉と魔力には関連付けられることもあるので、そういうものであった。
ただ、アメーリアにとって湯治では一時の改善は出来てもそれ止まりなのだろうという感覚はある。
そのくらいのものである。
そのくらいのものである。
「はふぅ……」
さて、アメーリア側の様子はと言えば。銀の髪を湯で痛めぬよう纏め、その清らかな肌は衣類の下でさえも続いていてシミや傷、デキモノの類いがないことを存分に示しつつ。支えを失った筈のそれらも元々の弾力と強靭さでつんとしている――そんな、世の男女両方が羨むようなものを兼ね備えた具合で湯を楽しんでいた。
先程のアレコレも喉元過ぎればなんとやら。本邸でも場合(市域で水不足であるとか、あまり世の感情を逆撫でしない時)によっては断られる湯船に好きなだけ、自由に入れるというのは特別感もあり贅沢さも感じさせた。
思わず、緩んだ声すら出てくるくらいには。
先程のアレコレも喉元過ぎればなんとやら。本邸でも場合(市域で水不足であるとか、あまり世の感情を逆撫でしない時)によっては断られる湯船に好きなだけ、自由に入れるというのは特別感もあり贅沢さも感じさせた。
思わず、緩んだ声すら出てくるくらいには。
何度も来たいとすら思うアメーリアであったが、ふととあることが脳裏によぎる。
「……また来たいけれど、来るとなると『そういうこと』でもありますね」
この場所に来る時は湯治が必要な時――そのような関連付けが出来てしまっていた。
そんな湯治が終わった後、アメーリアに大きな出会いがあるのはまた別のお話。