今の時代より何十年も昔のトリア市。
その輸入雑貨を取り扱う店は久しく開店しておらず、店内には埃が溜まっていた。
その輸入雑貨を取り扱う店は久しく開店しておらず、店内には埃が溜まっていた。
そんな店の二階、住居スペース。そこのベッドに一人の男が力なく横たわっていた。
――その姿はまるで神の使い、天使のように美しいのであったが、彼はひたすらに弱っていた。
サラサラとした金色の髪、有翼人特有の大きな翼は真っ白、美しく中性的で若い顔。その全てが美しく、そして生命が失われることによって完成に近付きそうな迫力を伴っていた。
――その姿はまるで神の使い、天使のように美しいのであったが、彼はひたすらに弱っていた。
サラサラとした金色の髪、有翼人特有の大きな翼は真っ白、美しく中性的で若い顔。その全てが美しく、そして生命が失われることによって完成に近付きそうな迫力を伴っていた。
「……僕は、何処で間違ったのかな」
彼は咳き込み、心と身体の両方で苦しみながら呟く。
「……ハイネ。彼は無事だろうか」
苦しみの中、黒髪の少年を思い出す。
「……『僕達の話を聞いてもらうためには、相手をこちらの立場まで下ろす必要がある』とは言ったけれど、ちゃんと皆に伝わったかな。
これで伝わっていなかったら。いなかったら……」
これで伝わっていなかったら。いなかったら……」
黒髪の少年と過ごし、色々と教え、そして己が理想を語った日を。商人や学者の友人達に伝えた意見を。そして――
「いや、伝わらなかったのだろうね。これが僕への、沢山の人を死に向かわせる男への罰か」
万雷の拍手の中、団結と連帯と友愛を唱えたあの日を思い返す。全ては遠くなったあの日のことを。
「……でも。でも……皆に幸せになって、欲しかったなぁ……」
そうして、彼は事切れた。40年に満たない短い人生でありながら、多くの人に覚えられ、語り継がれる人生を。
――だが、彼の願いは誰かに伝わることはなかった。
――だが、彼の願いは誰かに伝わることはなかった。