届かない、M /─僕はここにいる─◆gry038wOvE





 ──少年は追っているはずだった。必死に走って、必死にあがいて、それを求めているはずだった。
 それが何なのか、彼自身にさえわからない。ただ、それが無ければその人間は、その人間としての価値を失ってしまうということだけは、うっすらとわかった。
 人間の価値──それは、人間であるはずの彼には確かに必要なものだったはずだ。
 だから、彼は必死にそこに手を伸ばしていくのだろう。
 もしかしたら、彼自身、既にそれに届かないと気づいていたのかもしれない。
 それでも彼は必死に手を伸ばし続けた。
 ……しかし、どんなに足掻いても、それは日々遠ざかって行った。
 普通の人たちだって、いつかはそれを失い続けるのはわかっている。


 だが、彼にとってそれは、常人の何倍ものスピードで消えていくものなのである。
 ……あきらめたくない。
 手を伸ばしても、声を出して呼んでも、それに手が届くことはなく、彼の声も聞いてないふりをされるだけだった。
 やがて、それを求めていたことさえ忘れ始めた。


 そして、もう完全に失ったのだろう。


 ある時、少年は気づいた。
 Mが遠ざかっているのではない。
 自分の足場がMから離れていくのだ。
 自分の中の崩壊は、もはや留まるところを知らない。


 殺しの記憶が蘇る。
 海外の戦地。何人の人間を殺したか。
 兵士、民間人、老人、子供……。


 普通に生きていれば……ある出来事がなければ、彼は優しい少年だったはずだ。
 家族想いで、戦争や争いごとなんて大嫌いな、正義感の強い少年だったはずなのだ。



 彼を崩した物は何?
 彼からMを奪った物は何?
 彼を殺人鬼にした物は何?



 心はいつしか空っぽになっていた。
 空っぽで、乾いた心が、殺人を何とも思わない人間にした。
 失ったものはもう取り戻せない。
 それを失った時点で、取り戻したいと思う心も消えていったのだから。



☆ ★ ★ ★ ★ ☆



 花咲つぼみは、再びキュアブロッサムに変身して走り出していた。
 走る、という動作はほぼ自然に行われている。「走ろう」と考えてもいないのに、彼女はただ真っ直ぐに走っていた。
 まあ、言ってみれば「来た道を戻るだけ」だった。特に意識しなくとも体が勝手に行ってくれる動作である。
 行きと景色が違えど、森の木々が、僅かに聞こえる川の音が、なんとなく彼女を元の場所に帰す方法を教えてくれた。彼女自身、ほとんど真っ直ぐに走っていたことを記憶していたので、深く考える必要もなかった。
 とはいえ、本来、山中や森では、道順を意識して進まなければならないであろう。樹海に迷い込む人間がいるのも事実だ。
 なのに何故彼女は、まったく別の事を考えているのだろう。
 理由は、ここまでの話の順序を考えれば、ごく単純だった。


(ゆりさん……)


 頼れる先輩にあたる仲間────月影ゆりという人の死。
 それを、キュアブロッサムこと花咲つぼみはつい先ほど知ったのである。自分のことなど忘れて、そこに意識を置いてしまうのも仕方なかった。
 死体を見たわけではない。しかし、段階的にその死を確信的なものへと変えていった。
 仮面ライダーエターナルの言葉で知り、ダークプリキュアの挙動で確信へと変わった。

 月影ゆりは、もういない。

 つぼみの仲間のプリキュアが、無二の親友・来海えりかに続いてもう一人、逝ってしまった。


 そして、もう一つの事実──その来海えりかの死に、よく知っている人間が関っている可能性が浮上してきた事も、彼女の頭の中を混乱させていた。
 これに関しては、二つの全く違った情報が入り混じっていたゆえに、余計に混乱を強めたのである。
 仮面ライダーエターナルの言葉によると、えりかはキュアムーンライト──つまりゆりによって殺害されたらしい。
 どちらかといえば、彼の言葉の方が信用に足らないものだろう。
 ダークプリキュアによれば、えりかを殺害したのはダークプリキュア自身だという。
 勿論、どちらも敵の言葉には違いない。いずれも嘘という可能性だってある。


(ダークプリキュア、あなたの言葉は……)


 だが、素直すぎる少女は、このどちらかが真実なのではないか……と思った。
 そして、つぼみが選ぼうとしているのは、ダークプリキュアの言葉の方だった。

 ダークプリキュアは、確かに敵だ。しかし、わざわざ「自分がマリンを殺した」というくだらない嘘をつくような相手とは思わせなかったのだ。──彼女の告白こそが、真実に近いと考えていた。
 確かにダークプリキュアは狡猾な敵だ。だが、嘘をついてまで自分の手柄を得ようとする敵だとは思えない。はっきり言って、キュアムーンライト以外の人間は彼女にとって同等。たとえプリキュアであっても、それは違わないだろう。
 倒してもいないのにわざわざ「キュアマリンは自分が倒した」などと言う必要は彼女にはないし、キュアマリンは彼女にとって、特別視される存在ではない。

 そして、砂漠の使徒で敵である彼女には、キュアマリンを撃退する理由も存在する。
 実際に、つぼみたちは彼女と何度も交戦しているのだ。ブロッサムも先ほど、ダークプリキュアによって殺されかけている。
 同時に、その戦いこそが、情報を混乱させる最大の理由にもなっているのだが。


(えりか……えりかは──)


 そこまで決まっているにも関わらず結局のところ、つぼみはその答えを断定できないのだ。だから、聞けるのなら、えりかに聞きたかった。その死の真実──全てを。
 ダークプリキュアが彼女を殺したのだと決定づけてしまえば非常に楽なのに──そこに踏み出す勇気がなかった。
 えりかの死を受け入れられない、というわけではない。
 ただ、ダークプリキュアの態度が、とにかく引っかかったのだ。
 あの落ち着きは何だろう。
 キュアブロッサムに見せた瞳は、まるで敵意を感じないものだった。
 彼女の目にあったのは、「決意」とでも言うべきもの。まるで、普段彼女がキュアムーンライトに見せるような表情と、どこか似通っていたのである。
 ゆりの代わりを求めているのとも違う。
 そう、あれは、悪辣で非情な彼女とは、まったく別なのだ。
 なにか、憂いのようなものが入った瞳だったのだ。


 ドゴォォォォォォォォオン


 爆音が鳴る。
 そこで、つぼみの意識が別の方向に向いた。
 えりか、ゆり、ダークプリキュアではない。
 今は今の仲間と共に、撃退しなければならない相手がいる。今聞こえた音は、きっとその戦闘音だろう。


 ──仮面ライダーエターナル。

 彼を撃退するために、キュアブロッサムは力を貸さなければならないのだ。
 何故か。
 そう、──彼女には守るべき仲間がいる。
 一条薫、響良牙──彼らはあの場を引き受けてくれたが、戦力を持つ人間ではなかった。
 いや、確かに良牙は人間離れした戦闘能力を有しているし、一条も人間としては破格の強さを持つ男だった。
 しかし、ここで言う戦力とは「変身」の力のことである。二人はそれを持ってはいなかった。


(待っててください、一条さん、良牙さん!)


 少しその音に惑わされて、迷いながらもキュアブロッサムは走る。
 己の力の全てをかけて、戦いを止めたいのだった。



☆ ★ ★ ★ ★ ☆



 ドゴォォォォォォォォオン


 クウガとエターナルの拳がぶつかり合った瞬間、何処かから爆音が鳴り響く。
 それは、ブラスター化したテッカマンたちのボルテッカがぶつかり合った音なのだが、どちらから聞こえた音なのかは、この森でははっきりとはしなかった。
 その周囲が驚きに固まる。
 耳を打つ爆音に、良牙は不吉な予感を感じずにはいられなかった。


「……つぼみ!」


 良牙は、花咲つぼみの心配をする。
 彼女のいる場所から発された音なのではないか、と思ったのである。
 死人が出たのではないかと思えるほどの轟音だった。
 どうやら、一瞬拳をぶつけ合った二人──仮面ライダークウガと仮面ライダーエターナルもそれを気にしたようだった。
 拳をぶつけ合った瞬間に爆音とは、まるで映画の演出のようだったが、その音を気に掛ける二人は戦闘から一瞬だけ解放されたようだった。
 懐の距離にありながら、敵以上に気になる存在があったのだ。


「どうやら、どこもかしこも、戦いが好きらしいな」


 エターナルは言う。
 鼻で笑ったような言葉だった。
 ここにいる誰もが、もう人の死や争いには慣れ始めている。
 しかし、それが実際また起きても、笑うことができるのは、この場では仮面ライダーエターナル──大道克己ただ一人だった。
 あの爆音の結果、誰かが死んだとしても、彼はそうして鼻で笑うようなそぶりを見せるに違いない。


「……さあ、中断は無しだ。俺たちも続きを始めるか」


 と言っている隙に、エターナルの顔面に向けてクウガのパンチが放たれる。
 戯言を言い続けているのはエターナルだ。クウガは、爆音に一瞬気を取られながらも、エターナルに対する注意を忘れなかった。
 が、エターナルはその腕を真横から掴んで止めていた。


「────俺が気を抜いてると思ったか?」


 エターナルは、エターナルエッジを構えている。
 そのブレードがクウガの体へと至ろうとしていく。
 片手を封じられたクウガには、それを避ける術がない。
 だが、仮面ライダークウガ──一条薫にも隙などなかった。


「超変身!」


 その姿を「赤」のマイティフォームから、「紫」のタイタンフォームへと変化する。
 身体はどんな刃にも屈さぬ銀色の鎧に覆われる。この鎧に守られたゆえ、彼の身体にエターナルエッジが到達することはなかった。


(……なるほど、傍から見るぶんにはもう少し簡単そうだが、やはり実戦では難しいな)


 一瞬の判断に一条薫は救われたのである。
 少なくとも、いまの判断がなければ身体へのダメージはもう少し深刻なものになっていただろう。ただ、一条自身、それは余裕のある状態での判断ではなく、混乱した状態で咄嗟に出た判断だった。
 五代雄介は、このフォームチェンジのやり方にある程度慣れてはいたようだが、これがいかに難しいものだったのかを一条はその肌で理解する。


(各形態の差も考えなければな。緑のクウガはこの場で使うのは難しい、か……)


 クウガは、エターナルエッジをエターナルの手から強い力で引き抜くようにして奪った。
 刃を持つエターナルエッジは、クウガの手でタイタンソードへと変化していく。
 ナイフから大剣に変わっていくエターナルエッジ──いや、タイタンソード。
 それは、周囲から見れば異常な光景だっただろう。


「……面白い能力だな」


 エターナルは、至近距離では危険と感じ、敵の腕を離しながら、咄嗟に木の上へとジャンプする。
 予感的中だった。
 タイタンソードは、エターナルのいなくなった虚空へと振り下ろされた。
 長年の戦闘経験ゆえ、至近距離での戦闘が危険な相手くらいは判断がつく。
 ブォンッ、と音が鳴ると、エターナルが乗っていた枝葉もそっと揺れた。


「エターナルにも欲しい技だ」


 敵の武器を奪い、それを自分の武器へと変える……という能力はエターナルにとっても新鮮で、随分と面白みのあるものだった。
 その切っ先は長く変化している。名刺を使ってたとえるならば、ナイフという形状から大剣へと質量を越えて変化を遂げていたのである。
 ガイアメモリのような特性を持つそれに、エターナルは思わず苦笑した。


(クッ……五代によれば、ずっと金で戦えるらしいが……)


 一方、一条も別のことを考える。
 金──ライジングフォームの力をここで使って大丈夫だろうか。
 この場であの強すぎる力を放てば、周囲は壊滅、そして良牙も巻き込むのは間違いない。
 周囲の物を爆破し尽くすあの封印エネルギーを使うことは、おそらく今は許されないのである。
 五代がアマダムそのものを進化させているならば、おそらく一条が変身したクウガでも変わらないはずだが、五代もおそらく使わなかっただろう。


「はっ!」


 エターナルは、また準備が完了したように木から降りてくる。
 エターナルの体重を支えていた硬い枝が、ざわっと揺れ、エターナルが完全に着地した瞬間、その木の枝が折れた。エターナルが落下する時の踏み込む力にやられたのだろうか。それとも、体重を支えるにはもろかったのか。タイタンソードの素振りの効果か。
 まあ、彼はそれを意にも介していなかった。
 彼の目の前にあるのは戦いのみ。
 作戦はないが、エッジがなければ戦えないわけではない。
 格闘能力も当然常人と比べて高いのが克己だ。


「さあ、そいつを返してもらおうか」


 ……とはいえ、武器がないといろいろと不都合だ。
 エターナルは右手を前に差し出し、タイタンソードと化したエターナルエッジの返却を求める。
 が、一条がそれに応じるわけもない。

「……人を傷つけるための剣を、返すわけにはいかない」

「おいおい、人のこと言えるのか?」

「……君にはわからないだろうな」


 そう言って、クウガは大きく振りかぶってエターナルに踏み出た。
 剣道の「面」の構えと同じ。
 隙のない踏み込みであるがゆえに、エターナルは簡単に避けることができた。
 が、避けたところに今度は、「銅」を打つ。エターナルローブが遮るが、それは、刃が通り過ぎた後に風が来るようなキレの良い一撃だった。


「剣道か」


 警察の必修である剣道を、一条ができるのは当然だった。
 ただ、タイタンソードの鎧に包まれた身体がやや重いゆえにそれが少しぎこちない動きになってしまうのが問題か。
 何にせよ、剣道の腕においては一条も克己には負けないほどである。
 攻撃を受け続けて敵に面を与える……という五代の戦法に、一条は更なる味を付け加えることに成功した。


「そういえば、NEVERにはそういう技を使う奴はいなかったな」


 エターナルの足が、クウガの腹へと叩き込まれる。クウガはやや後方へ下がると、タイタンソードを握りしめた。
 と、その瞬間、


「チッ、定時放送か」


 エターナルは舌打ちし、その言葉で残りの二人も定時放送の時間であることに気づく。


『初めまして、参加者の皆さん。私の名はニードル』


 上空のフォログラフィ、首輪から鳴る主催の男の音声。
 それはサラマンダー男爵とは違う人間によるものだ。彼が感じさせていた気品とはまったく違う。落ちこぼれた科学者のような、汚い白衣に包まれた、髪型も髭も無精な男によるものだった。


 ────休戦。


 エターナルにせよ、クウガにせよ、良牙にせよ、その瞬間に敵と戦おうなどという真似はしなかった。
 この時間は戦いそのものを中断するのが暗黙の了解なのだ。
 全員が、互いを気にしつつも、上空のフォログラフィに目を奪われ、首輪の音声をはっきり聞いている。


 下手に敵を襲って、禁止エリアなどの重要な情報を聞き逃したら目も当てられないだろう。
 彼らは、理性というものがあるゆえ、そのあたりの分別はまだついていた。


『では、サラマンダー男爵の時と同じく、まずは第一回放送からここまでの死亡者を読み上げましょう。
 相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介────』


 一条と良牙の中で何かが奮い立つ。
 一条はその場にいたのだから、五代雄介の死は誰よりも強く認識している。
 その名前がこうして放送で呼ばれるのは、また不思議な感覚だった。
 大勢の名前は知らない。相羽シンヤや井坂深紅郎がどんな人間なのか、一条ははっきりとは知らない。
 なのに、五代が死んだのを一条は知っている。
 偶然、一条は五代雄介の死を目撃しただけで、確かにこの場では相羽シンヤや井坂深紅郎の死を見届けた人間たちがいるはずなのだ。その人たちはその人たちで、またかなり重い宿命を背負っている。それが不思議だった。
 ……ちなみに、実は、二人とも一条のかなり近くにいたのだが、一条は二人とすれ違い同然の関係だった。



『早乙女乱馬』


 良牙に、心臓を射抜かれたような感覚が襲う。
 まさに、最も身近に「死にえない」人間の名前だ。
 高校の同級生であり、何度戦い合い、何度共闘したかもわからぬ男──早乙女乱馬、その死。
 良牙は、暴力的な衝動に見舞われることさえなく、ただその場で力そのものを失っていく感覚に飲み込まれた。



『志葉丈瑠』


 彼らは知らないだろう。
 その名前が、自分たちを助けた男の名前だったことに。
 いつか、気づくことがあるか否かはわからない。
 ただ、二人はあの男の名前を何も知らずに聞き流してしまっているのは申し訳ないと少し心の中で思っていた。
 この瞬間呼ばれているなど、想像もしなかっただろう。


『筋殻アクマロ、スバル・ナカジマ』


 どこまでも縁のある名前ばかりが呼ばれる。
 スバルの名前は、良牙の胸に刻まれていた。あの少女が呼んだ名前だ。
 スバル。
 スバル・ナカジマ。
 良牙は、その名前をきっと忘れない。


『園咲霧彦』


 園咲の名を知る克己も、これに少し反応する。


『月影ゆり、ティアナ・ランスター、パンスト太郎──』


 彼らにとって因縁のある名前が、今回は多すぎた。
 すれ違い。
 名前も知らない相手。
 近くで戦闘を繰り広げていた者。
 元の世界の知り合い。
 克己本人が殺した者。


 あらゆる名前が呼ばれ、死者の名前が呼ばれる時間は終了する。
 天道あかね、という名前が良牙の中で反芻されるが、その名前が呼ばれなかったことに安心感はなかった。
 乱馬の死という痛みを、彼女が抱えているとするのなら──。


『次に禁止エリアを発表します』


 禁止エリアも、知っておかねばならぬエリアだった。
 ここから街に行くには確実に通る森中が、15時からの禁止エリアだ。……まあ、一応目的地は呪泉郷のはずなのだが。
 マップを用意できる状況下なのでマークはできないので、三つのエリアは一条が記憶する。
 絶対に良牙を単独行動させないようにという決意が彼の中に生まれた。


 その後、ボーナスについても発表される。
 強力な兵器、というものがまた気になった。
 しかし、それ以上に、一条や良牙にとっては、殺し合いの状況下でゲーム感覚でなぞなぞを出題してきた主催陣に対する冷めぬ怒りが渦巻いている。


「クソォォォォッ!!!!!」


 辛うじて抑えられていた良牙の怒りが放送終了と同時に爆発し、轟音が鳴る。
 そちらを見ると、良牙の拳のあたりから綺麗に折れた木が有った。
 彼の人間離れした腕力は、木をあまりにも見事に折っていた。
 早乙女乱馬。
 その死が、良牙の中では強くのしかかっていた。


「……さあ、始めるか。休戦時間は終了した」


 エターナルは言う。
 勿論、良牙の精神状態を汲み取って、デリケートな言葉をかけるなんて、彼にはありえない。
 ただ、放送はエターナルが提案する稀有な休戦時間だった。
 しかし、いっそ戦闘をして忘れていた方が良いような事実が、良牙には伸し掛かる。
 五代の死を知っていた一条、ほとんどの死に関心がない克己は、戦闘体勢に入っている。
 強い悲しみや、驚きに見舞われることがない。
 だが、良牙には強いショックが与えられていた。



(くそっ……。あの野郎が死んだくらいで俺は……)


 早乙女乱馬の死。
 それは、良牙にとってもありえない事象。
 殺しても死なないから、良牙は彼を相手に本気で戦ってきたのだ。
 その全てを否定しながら、乱馬は死んだ。
 良牙が本気を出しても息の根が止められないような男が、おそらく何者かに殺されたのである。許しがたい出来事だった。


(……なんなんだよ……! この湧き出る怒りは! なんで勝手に死にやがるんだよてめーは……)


 良牙のプライドもある。
 はっきり言って、常に乱馬の行動にはイライラしていたし、彼からあかねを奪おうと必死になったこともある。
 しかし、悔しいが……彼が死んだことにより、あかねはきっと笑顔を忘れた。


(くそっ……あかねさんはどうする気だよ……)


 良牙もあかねが好きだった。
 ……しかし、その一方でわかっていたのだ。
 彼女は間違いなく、乱馬と一緒にいるときが一番輝いていた。彼には本心をぶつけていたが、良牙に対してのあかねは優しく笑いかけるだけだった。
 あかねは、良牙を友達としか見ていない。
 それを認めたから、自分は今──


 泣いているんじゃないか──


 と、思っていた。
 乱馬の死を悲しむあかねの姿を必死に想像した。
 それによって自分が泣いているのだと思い込みたかったからだ。


 しかし、実際はそうじゃなかった。
 それも良牙の中ではわかり始めている。
 乱馬と共に戦ったあらゆる日々ばかりが目に浮かぶ。
 そこにあかねの姿はなかった。
 時にはあかねの姿もあったが、良牙はその姿に泣いているのではなかった。


 想い人の悲しむ姿で泣いているんじゃない──
 良牙は、親友の死に泣いているのだ。


「……ダチじゃ」


 良牙は、涙ごしにクウガとエターナルの戦いを見ていた。
 クウガは、タイタンソードを使って、良牙を庇うように戦っている。
 良牙は先ほど倒した木の幹に目をやった。


「ダチじゃねえのかよ、俺たちは……」


 木の幹が立ち上がる姿は異様だったと言えるだろう。
 エターナルとクウガの目の前で、折れたはずの木の幹が、また生えたように立ち上がる。
 それは、良牙が全身を使ってそれを抱え込んでいるからだった。
 人がこんなものを持てるはずがない。
 大木を、僅か十六歳の男が全身で抱え持っている。


「もう会えないなんて俺はいやだぜ!! 乱馬ああああああああああああああああああああ!!!!」


 良牙はそれを思い切りエターナルの方に投げつけた。

「何ッ!?」

 エターナルは初動が遅れたせいでその大木が自分に降りかかるのをよけきれなかった。
 NEVERでもこんな真似ができる奴はいない。
 はっきり言って、化け物としか思えない。


(……クソ! ……だが、コイツもなかなか、面白い奴だ……!)


 エターナルの上に大木がのしかかり、エターナルは体を崩す。
 絶句するクウガを前に、良牙は、ここにいる誰でもない男に言った。


「────乱馬! 俺は方向オンチだから言わせてもらうぜ。てめーのいる所には、じじいになるまでたどり着かねえ! 会いたくても我慢しろよ!」


 俺は仮面ライダーごときにやられる男ではない。
 俺は簡単に死ぬ男ではない。
 だから、三途の川の向こうにはたぶんしばらくは行き着かないだろう。

 良牙の発言の意味は、だいたいこんな感じだった。
 そして、エターナルを前に見せたこうした技が、その言葉に確かな説得力を持たせていた。


 ……ただ、「乱馬に会いたい」と言っていたのはほかならぬ良牙自身であって、当の乱馬はおそらく天国で「誰も会いたくなんかねーよ」とジト目で彼を見つめていたであろうことは保障する。



★ ★ ★ ★ ★



「……ニードル」


 村雨良はその名前を呟いた。
 つい先ほど上空に現れたホログラフ、そして音声はその男のものだった。
 BADAN──ゼクロスが刻んだ記憶の中にあった悪魔の組織の名前。
 そいつらの追跡をゼクロスは未だに受け続けていた。


「……やはり、BADANが絡んでいたか」

「BADAN、だと……?」


 鋼牙もその言葉に反応する。
 未知の言葉であるが、どうやらこの殺し合いの主催者にまつわる言葉らしいので、情報の一つとして訊いておかねばならない。


「人間を拉致し、記憶を消し、改造して殺戮兵器にする集団だ……ニードルは、そこの幹部だった。そして、俺も……」


 彼の顔は怒りに満ちていた。
 BADANという組織への怒り……奪う者たちに対する憤り、全てを拳に込めつつ、彼はただ震えていた。
 どこにも振るう当てはなかった。


「……」


 鋼牙はそんな彼を黙って見守る。
 人として生きながら、ある日突然奇妙な組織に拉致され、洗脳され、改造され、殺戮させられる……そんな苦しみから解放された彼の先にあったのは、きっとまた苦しみだ。
 この男の辛さがわからない限り、鋼牙は声をかけることができなかった。


「……前回は18人、そして今回は15人の命を……奴らは奪った」


 鋼牙と村雨は、険しい顔をしていた。
 今回の戦死者は15名。それは男女や人間非人間問わずだ。
 魔戒騎士や仮面ライダーの死者はいなかったものの、気になる死亡者は何名か確かにいたし、第一回放送終了以降に何人もの参加者が死んだのを二人は確認していた。


(相羽シンヤ、奴もか……)


 鋼牙が冴島邸で出会ったあの奇妙な男も死んでしまったという。
 それは、鋼牙にとってどことなく寂しいものだった。
 この半日の間に様々な出来事があったために、随分昔に会ったような気分だったが、シンヤと出会ったのは数時間前である。


(スバル……あの女の子が呼んだ名前だ)


 村雨は思い出す。
 どちらも死んでしまったが、あの少女は最後に「スバル」と名前を呼んだ。
 スバル・ナカジマ。
 放送によって呼ばれたその名前で間違いないだろう。──村雨良は、全身のうちで唯一「村雨良」のものである脳に、その名前を刻んだ。



(五代雄介)


 二人が確かに知っている名前だ。
 鋼牙は、はっきり言えば彼を看取っただけだが、最後まで誰かの身を案じたというその男の魂に敬意を払っていた。
 村雨は、その名前の男によって心の中の何かを動かしていた。
 そう、人間らしい何かを。



「……行くぞ」

「ああ」


 たとえ、呼ばれた名前に思うところがあっても、彼らは立ち止まるわけにはいかない。
 そう、良牙たちを追い、万が一の場合に彼らに加勢する戦力となるのだ。
 ボーナス、なぞなぞ。それらはまた後で考えればいい。
 内容は二人とも頭の中に叩き込んでいた。────明らかに五代雄介の意味を持つ、「雄介」や一条薫の意味を持つ、「薫」という言葉もあったのだから当然だ。


 二人は良牙たちの向かった場所へと歩き出した。
 検討はついている。
 良牙のことだから、呪泉郷に向かっただろう。……ということはつまり、「呪泉郷ではないところ」。
 そして、この近くで戦闘音が聞こえる場所だ。



☆ ★ ★ ★ ★ ☆



「……そんな」


 キュアブロッサムが足を止める。
 首輪から響いた放送の音声に、彼女は立ち止まらずにはいられなかった。


「やっぱり、ゆりさんは……」


 これがまず一つ目の衝撃だった。
 月影ゆりは死んだ。──悪役二人に聞かされた話は、やはり事実だった。
 先ほどの出来事で覚悟はしていたが、やはり僅かにここで呼ばれない事を期待したつぼみの胸が痛む。


「……それに、プリキュアのみんなも」


 二つ目の衝撃。
 それは、山吹祈里、東せつなの二名も死亡したことだ。
 共にボトムと戦ったプリキュアの仲間であり、共に遊園地で遊んだ友人たちだった。
 第一回放送終了時点では、来海えりか以外のプリキュアは死亡していなかったが──。


「さやか……五代さん……」


 美樹さやかの死、五代雄介の死。
 いずれも彼女の心を抉るような事実だった。
 放送によって初めて知ったことではないが、やはりあの時の出来事を思い出してしまう。
 二人もの人間が、つぼみの近くで死んでしまった……。
 それは、広間でのクモジャキーたちの死とともに強く刻まれていた。



「スバルさん、アヒルさん……」


 それから、何度となくつぼみに襲いかかる戦いや死。──スバルと呼ばれていた女の人。名は知らなかったけどアヒルの姿をしていたあの男の人。他にも、たくさんの死がつぼみに伸し掛かる。
 全ての幕開けであるあのオープニングさえ、つぼみの心を痛めつけた。


「……やっぱり、こんなの間違ってます」


 誰のために争いが開かれたのか。
 何のために殺し合いをしなければならないのか。
 殺し合いをする人は、何故殺し合いをしてしまうのか。
 つぼみの心は、あらゆる疑問が渦巻いていた。


「……えりかが死んで、さやかが死んで、ゆりさんも死んで、みんな……みんな悲しんでるのに────なのに、どうして殺し合いなんて、するんですか!!」


 本当は誰も、殺したくなんてないはずなのに、殺し合いは進んでしまう。
 つぼみは、そのやり場のない怒りをぶつけることができない。
 たとえ、その想いをぶつけたとしても、誰かが答えてくれることはない。


 つぼみに、──キュアブロッサムに出来ることは、誰かを守り続けることだけだった。



 この殺し合いがある理由。「変身」に拘る理由。
 すべて、今のつぼみには解明しようがない。
 だから、つぼみに出来るのは、殺し合いをする人もしない人も──たとえ誰であっても、この殺し合いの会場で犠牲を出さないように奮闘することだけだ。


 キュアブロッサムは再び走る。


 響良牙や一条薫を守らなければならない。
 そして、仮面ライダーエターナルの、心も────。



☆ ★ ★ ★ ★ ☆



 倒された木は再びざわめき始め、その下敷きになっていた者の声が聞こえた。


「よう」


 その木を片手でどけながら、仮面ライダーエターナルの白い姿が現れる。
 エターナルローブに包まれていない状態での一撃は、流石にこたえたらしい。
 不意の一撃。まさにそう呼ぶに相応しい攻撃。
 その感触にエターナルは酔う。
 生身であれだけのパワー、そして耐久力。NEVERに一瞬でもダメージを与えた生身の身体能力。
 それを浴びるのは最高の気分だった。


「……エターナルッ……!!」


 起き上がったエターナルを相手に、仮面ライダークウガが警戒を始めた。起き上がった彼の手には、先ほどまでは持っていなかった長い刀を持っていた。
 刀といっても、それは一条ら「リントの人間」の理解を超えた形状だった。まるでグロンギが使うような、古風で異文化的で珍妙な刀であった。それを刀だと見分けることができたのは、持ち手があり、辛うじて銀の刃になっている部分が見えたからだ。
 それは、エターナルが木々の下から掘り出した、自分のデイパックとともに置かれた武器である。
 エターナルエッジが扱いにくくなるゆえ、こうしてデイパックとともに付近に置いておいたものである。
 それが、同じく木の下敷きとなっていたので、エターナルはこうして昇竜抜山刀を手持ち武器にして戦うことにしたのだ。
 一緒に置いてあったデイパックをその近くから放り投げ、エターナルは言う。


「……剣と剣だぜ? 剣道をやってみるか?」


 エターナルの手から振るわれた昇竜抜山刀の先から、かまいたちのような風圧が放たれ、クウガの身体にその衝撃が到達する。タイタンフォームとなったクウガには、それは微々たるものだったが。


「君に蹲踞ができるとは思えないな」

「……武士道とかいうやつか。だが、そいつも俺は忘れちまったな。戦いは常に殺し合い……正々堂々も何もない」


 エターナルは正々堂々戦う気など毛頭ない。
 人をだますことも、不意をついて攻撃することも、彼には躊躇のないことだ。
 ルール通りに戦い合うなど、馬鹿げている。


「なら、それは剣道でも何でもない」

「……そうか。じゃあ、殺り合いだな」


 タイタンソードと昇竜抜山刀がぶつかり合い、鈍い音をたてた。
 それは、竹刀と竹刀の争いにも……あるいは、戦国の争いにもない、古来の異形が使った大剣と大剣のぶつかり合いである。
 だが、一条の動きが剣道に倣ったものであるのは変わらなかった。
 エターナルの攻撃が面ならば、それを受けるように真横一文字にタイタンソードを構える。鎧が邪魔でしなやかさに欠け、いまいちしっかり守るのは難しそうだった。




「……超変身!!」


 敵の攻撃を強い力で弾き返し、クウガは敵がドラゴンフォームへと変身する。ドラゴンフォームに超変身したために、タイタンソードはエターナルエッジに戻る。
 クウガは先ほど良牙が倒した木から枝を折り、それをドラゴンロッドへと変形させた。


「……ほう、青か。俺のエターナルと同じだな」


 エターナルは、そういいながらエターナルエッジを奪おうと手を伸ばす。


(あの剣が無くとも、このナイフを狙おうとする……ということは、これは彼にとって特別使いやすいものなんだろう……)


 一条はそう考えつつ、ドラゴンフォームのまま何度かエターナルに攻撃を到達させようとする。ドラゴンロッドは、エターナルに向けて何度も振るわれる。
 スピードや俊敏性、瞬発力に特化したこのフォームは、一条にはドラゴンロッド以上に向いていただろう。
 だが……


「……はぁっ!!」


 ドラゴンロッドはすべて、エターナルローブに弾かれ、エターナルが足を巧みに使ってクウガの身体に何発もの蹴りを叩き込む。
 クウガの身体はエターナルの蹴りの方向に向かって回転し、エターナルに背中を向ける形になった。
 そして、そこに今度は昇竜抜山刀の一撃が振るわれる。
 右肩から左わき腹にかけて、強い一撃が放たれ、クウガは悲鳴のような声をあげた。


「ぐああああああっ!!!!!」


 一条とて、クウガのフォームごとの特性を理解していないわけではなかったが、それを見るのと実際に戦うのとでは大きく違う。
 ドラゴンフォームの防御性能がどのくらいなのか、実際のところ、こうして戦わなければわからないのである。
 タイタンフォームの鎧の恩恵も、戦わなければわからなかったのである。


「……クッ」


 しかし、それでもエターナルエッジは離すまいとして、クウガは拳を硬く握ったまま白へと体色を変化した。
 初変身だったのだから、扱いが難しく、すぐに白のグローイングフォームに変化してしまうのも無理はないことだった。


「ハッ!!」


 エターナルの足が再びクウガの腹部に命中し、白きクウガの身体は吹き飛んだ────。
 だが、吹き飛んだ先で、クウガの身体が地面へと落ちていくことはなかった。
 良牙がクウガの身体をキャッチしたのである。クウガは後ろから抱きかかえられた状態で地面にそっと落ちる。


「その弱さじゃもう、お前たち二人は絶望的だな!」


 エターナルがそう言ったが、二人はそうは思わなかった。
 戦う意思があるからではない。勝てる方法があると思っているからではない。


(確かにエターナルが言うとおり、ここにいるのが二人だけならば絶望的かもしれないだろう……だが)


 勝機の足音が二人には聞こえ始めていた。
 三人。
 そう、三人分の足音が、彼らに近づいてきて、やがてその姿が木の間からチラチラと見え始めた。





 ……二方向から、救援が現れたのはその直後のことである。





☆ ★ ★ ★ ★ ☆



「良!」

「良牙」

「冴島君」

「薫……か?」

「みなさん!」


 良牙による木の倒壊を合図に、五人の戦士が結集する。
 左端、冴島鋼牙。
 左端と中央の間、村雨良。
 中央、響良牙。
 右端と中央の間、仮面ライダークウガ。
 右端、キュアブロッサム。
 変身、非変身の違いがあれど、彼らはいずれも志の強い戦士であった。


「……なるほど、五人がかりか。面白いじゃねえか」


 そして、ここからも楽しい戦争の時間が始まることだろう。
 険しい顔でエターナルを見つめる五人の姿を、彼は笑っていた。


 ────と、同時にクウガに変身していたはずの一条薫が変身を解く。


「……くっ……やはりダメージを受けすぎたか……」


 仮面ライダークウガ・グローイングフォームは、戦う覚悟か戦闘能力のいずれかが欠如した状態のクウガである。
 それは変身が解ける赤信号の役割のようなものを果たしている。
 一条は、変身して戦った経験がなく、身体能力の向上に追いついていくこともクウガを扱うことも難しかったし、エターナル自体が強敵だったせいもあり、この形態になってしまったのである。
 更に、グローイングフォームになって変身が解けた場合、その後二時間は変身不可能になってしまう。


「……すまないが、後は任せた」


 一条は申し訳なさそうに誰かに言う。
 誰に言えばいいのかはわからなかった。
 冴島鋼牙か、村雨良か、響良牙か、花咲つぼみか。
 しかし、誰かが確かにその言葉を継いで戦ってくれることを彼は信じた。


「……おっと、その前にこいつは返してもらうぜ」


 エターナルの初動は速かった。
 彼は一瞬で一条の前まで走りぬけた。まるで瞬間移動のようにさえ見える。
 エターナルは、一条の首を絞めながら、一条の右手にあるエターナルエッジを半ば強引に掴む。
 敵に武器を返すまいと、一条はエターナルエッジを強く握ったが、残念なことにエターナルの握力を前には無意味だった。
 エターナルエッジを奪った彼の満足げな目を見た一条の身体は、そのまま吹き飛ばされ、高く舞い上がってから地面に叩きつけられた。


「……がほっ、がはっ……」


 一条は、急所か何かを打ったせいか、むせ返る。


「一条さん!」


 ブロッサムが声をかけるが、一条はむせ返りながらも「私のことはいい」と返した。
 ともかく、一条の身体は少しの間このような状態になるだけで、これから行動するのに大きな支障はなさそうだった。
 一条の身体は、それなりに頑丈にできているのだ。
 それより、一条が今気にかけているのは、エターナルの姿だった。


「さあ、残りの四人。誰が俺と戦いたい? 全員かかってくるのも一つの手だ」


 エターナルエッジを構えたままのエターナルは、四人の戦士に対してそう言った。


「……一人ずつ行くぞ」


 鋼牙が言った。
 彼は今のところ、ほとんど「共闘」というやつをしてこなかった。
 銀牙騎士絶狼や、済し崩し的に共闘した仮面ライダーたちくらいだろうか。


 だが、今回はほとんど見ず知らずの相手との共闘。
 それは、冴島鋼牙にとって厄介だった。
 巨大なホラーが相手ならともかく、この体積の相手にした場合、うまく連携が取れず、仲間同士で自滅する可能性だって生じてしまうだろう。


「……まずは俺が行く。良、お前は休め」


 それに、村雨良は疲労の度合いが大きい。
 この中で最も信頼できる相手は一条と村雨なのだが、その二人は今戦闘に出せる状態ではない。
 そのうえ、残りの良牙とつぼみはまだ子供だ。
 できれば、戦いはさせたくない。
 いざ、という時は戦闘力がある彼らにも任せなければならないが……


 エターナルは問う。


「おい、いいのか? 一対一で」

「構わん」


 鋼牙は魔戒剣を右手にぶら下げたままエターナルにゆっくりと向かっていく。
 ブロッサムは、その姿を心配そうに見つめた。



「……あの、何なら私も手を貸──」

「手を出すな」


 ブロッサムの言葉を遮ったのは、良牙だった。
 その手はわなわなとふるえている。
 その顔を見ると、彼の顔は目を充血させて怒りに満ちた表情をしていた。
 ブロッサムは思わず良牙を恐れたが、彼は別にブロッサムに怒っているわけではない。


「あいつにはここにいる全員がムカついてるんだ。……これは、誰があいつの息の根を止めるかを選ぶ戦いだ!」


 ブロッサムには良牙の気持ちはわからなかった。
 しかし、ブロッサムも確かにエターナルと戦いたい気持ちがあったのである。
 それは、決して彼の命を奪うためではなく、救うためなのだが。


「それに、エターナルはタフだ……順番にやって体力を崩すのも良い手段だろう。奴自体もそれに気づいているのか気づいていないのか、このやり方に乗ってる」


 良牙は言った。
 鋼牙の中にも、そういう考えはあっただろう。順番に一人ずつ戦うことで敵の体力を削っていくというやり方も一つの手だ。



「それに、俺が勝つにせよ、エターナルが勝つにせよ……アイツが回復するまでの時間稼ぎくらいにはならねえといけない……!」


 良牙は、良の方を見る。
 先ほど、良牙たちを逃がした戦いのうちで、彼はかなり疲弊し切った様子である。
 彼はおそらく順番に一人ずつ戦うなら、最後に戦う戦士だろう。
 現状では疲弊も目に見えており、良牙の中で最も「戦士」として信頼されているのは村雨良──ゼクロスだった。

 それぞれの目的を胸に秘めながら、エターナルとの対戦が始まる。


「面白いな、順番に俺と一対一で戦うゲーム──名づけるなら、【エターナルゲーム】ってところか」


 鋼牙が眉をしかめる。

 ゲーム──それは、この殺し合いにおいて最も禁句となる言葉であった。
 バトルロワイアルというゲームの中で、仲間の死を何度も見ることになる。それを、ゲームと呼んでいいはずがないはずなのだ。
 しかし、最も呼びやすいネーミングであるゆえ、誰もが皆、ついその名前で呼んでしまう。「バトル・ロワイアル」、「殺し合い」と言った呼称よりも呼びやすいのだ。殺し合いに招かれながらも、「殺す」予定のない人間には、喉に引っかかる時がある。
 このエターナルがこの戦いを「エターナルゲーム」と名付けたことで、「ゲーム」という呼称に対する嫌悪感が増した。
 ゲームは遊ぶもの、あるいはバルチャスのように戦略を考えるものだ。
 こんなに辛い思いをしながらやるものじゃ、ない。


 ────仮面ライダーエターナルと、冴島鋼牙が対峙する。


「エターナルゲーム、一回戦の始まりだ────」


 エターナルゲームと名付けられた遊戯が、今始まった。



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最終更新:2014年07月22日 16:06