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SS23 - (2010/12/01 (水) 21:55:25) の1つ前との変更点

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投稿日:2009/12/09(水) 20:43:29 「……こんなところにいたのか律」 「お、澪。どしたの」 「それはこっちのセリフだ。わざわざ屋上まで来てなにしてるの」 「ん? いやー、別になにってわけじゃないんだけど」  言いながら、あたしはちょいちょいと空を指差した。 「いい天気だなーって」 「……どう見てもめちゃくちゃ曇ってるぞ」  苦笑する澪。まあ、当たり前だろう。  澪の言う通り、あたしたちの頭上に広がる空はどんよりと暗く、  今にも雪を落としてきそうな分厚い雲が広がっているのだから。 「寒いだろ。ぼーっとするなら部室にしなよ」 「んー……まあ、もうちょっとしたら戻るよ」 「…………」  澪は何か言いたげな顔をしていたけれど、やがて諦めたようにため息をついて、 「まったく」  そんな悪態をつきながら隣にやってきた。 「澪は戻りなよ。寒いだろ」 「律の方が寒そう。コートもマフラーもしないで」 「全部部室に置いてあるんだもーん」 「そんなんじゃ風邪ひく……まあ、律なら大丈夫か」 「……おい」  どういう意味だそりゃ、とは何となく悔しくて突っ込みたくない。  そりゃ、澪に比べれば……って、いや、そんなことはどうでもいい。多分。  と、ひとり拗ねモードに入ったあたしを澪は軽く笑い飛ばすと、 「ごめん、うそ。律だって風邪くらいひくよな」 「なーんか引っかかる言い方してくれんじゃん」 「ふふ、いつもからかってくるから仕返し」 「そーかい。ほれ、いいからもう戻れって」 「なんで?」 「なんでって……ほら、あたしって孤独が似合う女だし?」 「疑問系で言われても説得力ないな」  呆れ顔でそう言うと、ふいに澪が一歩、あたしへの距離を縮めてくる。 「本当は寂しがりのくせして」 「う、うるせ――」  てっきり「バカ言ってないで帰るぞ」と首根っこでも掴まれるものだと思い、思わず肩をすくめたその瞬間。  ふわりと澪の香りに包まれた。  * 「……珍しいじゃん。澪からこんなこと」  あたしの首元を覆うのは、ふわふわのマフラー。  澪の愛用しているシャンプーの香りに包まれて、あたしは隣を見た。  マフラーで繋がったふたり。なんだか不思議な光景だ。  ……ていうか、あの澪が自分からこんなこっ恥ずかしいことをしてくれるとは。 「ま、たまにはいいんじゃないか」 「……そか。そだな、たまには」 「そう。たまには」  しれっと言いながら、澪は明後日の方向を見ている。  ちらりと覗いた耳が赤いのは、寒さのせいだけなんだろうか? 「……あ、律、ほら」  澪が空を見上げる。それに引っ張られるようにして、あたしも顔を上げた。 「雪、降ってきた」 「うわ、ほんとだ」 「……そろそろ戻ろう。本当に風邪ひいちゃうよ」  ちらちらと舞い始めた雪を手の平に乗せて澪が言う。 「…………」  先に戻れよ。そう言いかけてあたしは口をつぐんだ。  そんなこと、言えるはずがないんだ。  だってあたしは、もうこの温かさを知ってしまった。 「そーだな。戻るか。受験生が風邪ひいちゃけしからんからな」 「そういうこと」 「へへ、こんな姿、他のやつらに見られたら大変だな」 「こ、校舎に戻ったら取るに決まってるだろ!」 「えー」 「えー、じゃない!」  ごちん。愛情たっぷりのゲンコツをもらって、あたしたちは歩き出す。 「で、律は結局屋上で何してたの」 「ん? まあ、ちょっとね」  最後の文化祭が終わって、卒業が近づいて。  感傷に浸っていた……とは、言えないよな。  律らしくないと笑われてしまうに決まってる。 「ま、いろいろと考え事してたのよ」 「考え事? 律らしくない」 「…………」  考え事してるだけで「らしくない」とはあんまりだと思います。 「まーいいじゃん。たまには」 「そうだな。……たまには」 「ほぎゃっ」  きゅ、と手を握られてあたしは飛び上がる。  氷のような冷たい手。他でもない澪の手だ。  あまりの冷たさに思わず振り払ってしまいそうになったけれど、 「……ま、たまには、な」  澪の冷たい手を温めてやる日があってもいいだろ。 #comment
//>>551 投稿日:2009/12/09(水) 20:43:29 「……こんなところにいたのか律」 「お、澪。どしたの」 「それはこっちのセリフだ。わざわざ屋上まで来てなにしてるの」 「ん? いやー、別になにってわけじゃないんだけど」  言いながら、あたしはちょいちょいと空を指差した。 「いい天気だなーって」 「……どう見てもめちゃくちゃ曇ってるぞ」  苦笑する澪。まあ、当たり前だろう。  澪の言う通り、あたしたちの頭上に広がる空はどんよりと暗く、  今にも雪を落としてきそうな分厚い雲が広がっているのだから。 「寒いだろ。ぼーっとするなら部室にしなよ」 「んー……まあ、もうちょっとしたら戻るよ」 「…………」  澪は何か言いたげな顔をしていたけれど、やがて諦めたようにため息をついて、 「まったく」  そんな悪態をつきながら隣にやってきた。 「澪は戻りなよ。寒いだろ」 「律の方が寒そう。コートもマフラーもしないで」 「全部部室に置いてあるんだもーん」 「そんなんじゃ風邪ひく……まあ、律なら大丈夫か」 「……おい」  どういう意味だそりゃ、とは何となく悔しくて突っ込みたくない。  そりゃ、澪に比べれば……って、いや、そんなことはどうでもいい。多分。  と、ひとり拗ねモードに入ったあたしを澪は軽く笑い飛ばすと、 「ごめん、うそ。律だって風邪くらいひくよな」 「なーんか引っかかる言い方してくれんじゃん」 「ふふ、いつもからかってくるから仕返し」 「そーかい。ほれ、いいからもう戻れって」 「なんで?」 「なんでって……ほら、あたしって孤独が似合う女だし?」 「疑問系で言われても説得力ないな」  呆れ顔でそう言うと、ふいに澪が一歩、あたしへの距離を縮めてくる。 「本当は寂しがりのくせして」 「う、うるせ――」  てっきり「バカ言ってないで帰るぞ」と首根っこでも掴まれるものだと思い、思わず肩をすくめたその瞬間。  ふわりと澪の香りに包まれた。  「……珍しいじゃん。澪からこんなこと」  あたしの首元を覆うのは、ふわふわのマフラー。  澪の愛用しているシャンプーの香りに包まれて、あたしは隣を見た。  マフラーで繋がったふたり。なんだか不思議な光景だ。  ……ていうか、あの澪が自分からこんなこっ恥ずかしいことをしてくれるとは。 「ま、たまにはいいんじゃないか」 「……そか。そだな、たまには」 「そう。たまには」  しれっと言いながら、澪は明後日の方向を見ている。  ちらりと覗いた耳が赤いのは、寒さのせいだけなんだろうか? 「……あ、律、ほら」  澪が空を見上げる。それに引っ張られるようにして、あたしも顔を上げた。 「雪、降ってきた」 「うわ、ほんとだ」 「……そろそろ戻ろう。本当に風邪ひいちゃうよ」  ちらちらと舞い始めた雪を手の平に乗せて澪が言う。 「…………」  先に戻れよ。そう言いかけてあたしは口をつぐんだ。  そんなこと、言えるはずがないんだ。  だってあたしは、もうこの温かさを知ってしまった。 「そーだな。戻るか。受験生が風邪ひいちゃけしからんからな」 「そういうこと」 「へへ、こんな姿、他のやつらに見られたら大変だな」 「こ、校舎に戻ったら取るに決まってるだろ!」 「えー」 「えー、じゃない!」  ごちん。愛情たっぷりのゲンコツをもらって、あたしたちは歩き出す。 「で、律は結局屋上で何してたの」 「ん? まあ、ちょっとね」  最後の文化祭が終わって、卒業が近づいて。  感傷に浸っていた……とは、言えないよな。  律らしくないと笑われてしまうに決まってる。 「ま、いろいろと考え事してたのよ」 「考え事? 律らしくない」 「…………」  考え事してるだけで「らしくない」とはあんまりだと思います。 「まーいいじゃん。たまには」 「そうだな。……たまには」 「ほぎゃっ」  きゅ、と手を握られてあたしは飛び上がる。  氷のような冷たい手。他でもない澪の手だ。  あまりの冷たさに思わず振り払ってしまいそうになったけれど、 「……ま、たまには、な」  澪の冷たい手を温めてやる日があってもいいだろ。 #comment

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