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短編127 - (2010/11/19 (金) 13:02:18) のソース
投稿日:2010/08/09(月) 05:27:23 「劇の練習もあとは通しで細かい修正をするだけだな!」 「ああ、最初は恥ずかしかったけど慣れるもんだな」 そう言いながら苦笑する。 学校から帰ると、最近はどちらかの部屋でクラスの劇について話したり、 二人で練習するのが日課になっていた。 「なあ律、最後の私が死ぬシーンからちょっと練習しないか?」 練習を続けているとはいえ、後半の台詞にまだ不安があった私は律に提案した。 「死ぬのは澪じゃねーだろ」 律はというと私の言葉に突っ込みながら笑った。 うっかり「私」と言ってしまうあたり、我ながら役に入り込んでる証拠だな。 「あはは、ロミオだった。でもずっとロミオ役やってるから変な感じだ」 「それわかるぞー。役に入り込むってこういうことなのかもな!」 素人二人で一丁前なことを言いながら笑い合う。 「それに、澪が死んだら私も死んじゃうよ」 何の気なしに律が言った。 その言葉が嬉しくて、でも切なかった。 私は笑ってごまかした。 律だって私に泣いてほしくて言ったんじゃないとわかっているから。 「それじゃあ本当にロミオとジュリエットじゃないか」 「澪しゃんったらクサイ台詞」 律が口に手を当てぷぷっと笑う。 先にクサイ台詞を言ったのは律のほうだろ。 「クサイ台詞は練習で飽きるほど言ってるだろー」 「それもそうだ」 そんな一連のやりとりをした後、やっと私たちは練習を始めた。 ジュリエットの死に悲しみ自ら命を断つロミオ。 ここから私は動いてはいけない、のだが意外に難しい。 微動だにするまいと意識すると余計に身体が動いてしまいそうになる。 そうだ!いっそ律の演技に集中しよう。 目を開けてはいけない分、律の声だけに集中するのは難しくなかった。 そして大詰めのキスシーン。 …あ。これはこれで意識のし過ぎで緊張するということに今さら気付いた。 徐々に律の顔が近づく気配がする。 ちゅ。 律の顔は近づくどころか、そのまま私の唇にぶつかった。 ?!律、本当にキスした?!! まったく想定しなかった出来事に混乱する。 キスシーンはするフリだけの予定じゃ…!ていうかまだ練習だし! すぐさま目を開けようとしたが、当の律はというとまだ演技を続けていて開けるに開けられない。 律が私の唇にそっと触れながら切なげに言う。 『あなたの唇、まだ温かい、その温もりで私を抱いて』 本当に悲しみのこもった声に聞こえた。 多分、今はクサイ台詞を言っている律よりも私のほうが恥ずかしい。 ジュリエットからロミオへ向けられた言葉のはずなのに、まるで律から私への言葉だと勘違いしてしまいそうになる。 もうどうにも目を瞑っていられなくて目を開けた。 「あ、澪なに目ぇ開けてんだ!」 いきなり練習を中断した私に律が怒ったような声を出す。 「ごめん、だって律が…いきなりキスするから」 「うっ…。だって、したほうが次の台詞が上手く言えそうだった、から」 律がしどろもどろに弁明する。 たしかにさっきの演技は感情がこもっていてすごく良かった。 しかし 「キスされて『私を抱いて』なんて言われた私の身にもなれ」 そういって私にもたれるような体勢になっていた律を押し倒した。 「ちょっ!澪ってば、あれは演技の練習だろ!?」 「演技でも正直ヤバいです」 覆いかぶさるようにして律を抱き締めた。 「練習しよって言ったの澪だぞ」 「うん、でも私あと死んでるだけだから」 「たしかに!…ってオイ!」 律はノリ突っ込みをしながら、ため息をついた。 「ほぼ最後まで練習できたし、まあいっか…」 私は抱き締める力をゆるめて顔を上げた。 今すぐにでも口付けたい衝動を抑えて律に言う。 「ねえ、キスしていい?」 律は得意そうにニヤリと笑った。 「いいよ、その温もりで私を抱いて」 カァっと顔が熱くなるのがわかる。 「もうほんと、その台詞反則だってっ…」 余裕のなくなった私はそれだけ言うとそのまま律の唇に口付けた。 おわり #comment