けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

ROCK!!4

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 澪ちゃんからメールの返事が来た。
「……」
 その文面を見て、私は激しく残念に思う。
「『律が、まだ会えない、だって。私も残念だけど、また今度にしないか?』……か」
 眠そうに講義を聞いている唯ちゃんの隣で、私は携帯の画面を凝視していた。
 講義は聞いてなきゃいけないけど、それよりも重要な事がある。
 あとで唯ちゃんか誰かにノートを写させてもらう事にしよう。
 今はこっちの方が私にとっては重要だ。
 二ヶ月後のお盆の前後、私と唯ちゃんは実家に帰る。
 その時、久しぶりに五人で会わないかと提案したのだ。
 もし賛成ならその時やっとりっちゃんに会えそうと思って期待していたのに。
 本当はりっちゃんにメールしようかとも思ったけれど、多分返事は期待できそうにない。
 卒業してから三ヶ月間、りっちゃんが澪ちゃん以外とメールすることはないみたいだった。
 だから今回も澪ちゃんを通じて、なんとかりっちゃんに会えないかなと期待していたのだけど……
 そううまくはいかず、やっぱりりっちゃんは会ってくれなかった。
 もう私たち四人が離れて三か月。卒業式の日以来会っていないから、久しぶりに会いたかったのに。
 また今度って。
 また今度っていつになるんだろう。
 頭の中にりっちゃんの顔がずっと浮かんだままで、優しくこちらを見つめている。
 それを思い出すだけで、泣きそうになる。
 りっちゃんの事、大好きで。
 会いたいなあって思うけど、会ってくれない。
 りっちゃんはいつも、澪ちゃんにしか会っていないんだ。
 正直、嫉妬する。
 澪ちゃんが大学を辞めると言った時、私は何を思ったかよく覚えていない。
 その時はりっちゃんが何処かへ逃げ去ってしまって、その事で頭がいっぱいだったから。
 りっちゃんが事故に遭っていないかとか、何か変な事件に巻き込まれたりしないかと不安だったのだ。
 だから勝手に大学の窓口に行ってきて、「大学辞めてきた」と複雑そうな表情で私と唯ちゃんに告げた澪ちゃんに気を回すことができなかったのだろう。
 今、冷静に思うと、澪ちゃんはすごい選択をしたと思う。
 りっちゃんが大学に落ちて、だから自分も大学を辞めるなんて。
 私もそれに次いで辞めるって言ったけれど、澪ちゃんはそれを止めた。
 「ムギまで辞める必要ないよ」と諭すように優しい口調で言ったのだ。
 私はそれを、なんて自分勝手なと今は思う。
 りっちゃんの事が好きなのは、澪ちゃんだけじゃないのに。
 どうして澪ちゃんは、りっちゃんを慰めたり励ましたりできるのは自分だけだって自信過剰なんだろう。
 澪ちゃんはいつも恥ずかしがり屋だったり、自信も持てないのに、どうしてりっちゃんの事になるとあんなになんでも出来るんだろう。
 自惚れだって思う。
 いや逆だ。私がそう思ってるだけ。
 澪ちゃんはりっちゃんの事が大好きなんだって。りっちゃんも澪ちゃんの事、大好きなんだろうなってわかる。
 高校時代、いつ見たって二人は一緒だった。
 どんな時もお互いの事を想ってたし、片方がいなくなったら寂しさで顔を歪ませてたから。
 だから寂しい。
 澪ちゃんから、りっちゃんを奪えない事が切ない。
 教授は長々と語って、唯ちゃんは眠そうに頬杖をついてノートを取る。
 私は『会えない』と映っている画面だけとにかく見つめていて、それが何度も心の中で暴れまわっているのに苦しみを覚えるしかなかった。
 会ってくれない。
 これほどに悲しい事なんて、ない。
 澪ちゃんがいなければいいのになあなんて思う私は、悪い子だと思う。
 澪ちゃんがいなくなればと行かないまでも、あの二人が別れてくれないかなとなんとなく思っている。
 そう思うことがいけないことだってわかる。そんなことになったらあの二人は壊れてしまう。
 だけどりっちゃんと一緒にいたい。
 一緒に遊びたい。
 だけどりっちゃんはやっぱり、澪ちゃんを選んじゃうんだ。
 痛みはズキズキと軋むけど、それを隠すように私は机に突っ伏した。
「ムギちゃん……?」
 唯ちゃんが私の名前を呼んだけれど、答える事は出来なかった。
 頭には、りっちゃんの顔と、一緒に笑っている澪ちゃんの照れている顔だけが浮かんでいた。






 予備校の帰りに、律と書店に寄った。
 書店とはいっても文房具が目的だったので、私たちは漫画や小説コーナーに立ち寄ることなく目的の一角に向かう。
 店内を二人で並んで歩いている途中、遠くに知った背中を見つけた。
「律、あれ梓じゃないか?」
 ギターケースを背負って、真っ黒なツインテール。身長は律より低い小柄な子だ。
 今は受験生で、もうすぐ夏休みだし本格的な勉強にさしかかっている頃合いだろうか。
 聞いた話によると、憂ちゃんと鈴木さんも軽音部に入り、それ以外の新入部員も入ったらしい。
 梓一人だったらどうしようと皆で頭を悩ませていた事もあった。どうやら心配いらなかったようだ。
「……ホントだ」
 律はぼそっと呟いただけに終わる。
 昔の律なら――梓の名前を意気揚々と叫んで、梓の首に手を回して首を絞めていただろう。
『中野ー!』『り、律先輩?』『うりうりー』なんて。そうした絡み合いも昔はたくさんあったのに。
 今の律は、そんなことしない。
 私でさえそうなのに、梓や唯に絡む事なんてない。
「澪……私行くぞ」
「ああ、うん」
 ここで梓と話すのは、律にとって苦いだろう。
 梓の背中を後にして文房具コーナーへと向かった。




 欲しい雑誌を手に持ってレジに並ぶ。
 店員さんが会計をしている時ふと向こう側に目をやると、並んだ二人の後ろ姿が見えた。
 茶色かかったショートカットが後ろに跳ねた人と、真っ黒で鮮やかな長い黒髪の人だ。
(……澪先輩と、律先輩?)
「あの、お客様」
「え、あ、す、すいません」
 向こう側の二人をじっと見つめすぎて、レジにいた事を忘れていた。
 会計を言えた店員さんからレシートとお釣りを受け取り、雑誌の入った袋を受け取る。
 少し恥をかいたからいたたまれなくて、すぐにその場を立ち去った。
 どうしよう、話しかけるべきかな。
 もし去年だったら、私は何の気なしにあの二人に話しかけていただろう。
 あの時は普通に先輩後輩という関係だったし、逆に先輩たちといる方が楽しいと思えている時期だったからだ。
 だけど今は、そうでもない。
 先輩たちといるのは確かに楽しい。
 だけど見えない溝ができている。そんな気がする。
 その溝を作ったのは律先輩なんだ。
 律先輩が受験に失敗して、昔より元気なくなっちゃって。
 澪先輩もそれに次いで大学を辞めて二人で予備校に通っている。
 ムギ先輩と唯先輩は辞めずに、四人で行くはずだった女子大に二人で通っているらしい。
 皆、昔よりも楽しくない人になってしまった。
 そうしたのは全部、律先輩なんだ。
 受験の時期も真面目に勉強しないし、いっつも澪先輩をいじってばかり。
 夏期講習に行ったらしいけど、本当に真剣に受けたんだろうか。
 部室ではいつも元気溌剌でギャグばっかりかまして、唯先輩と笑ったり澪先輩と漫才かまして。
 そんな調子で受かるの? って思ってたけど、本当に落ちてしまった。
 それは律先輩の自業自得と甘えなんだきっと。
 だから落ち込んで元気のない律先輩に思ってしまう。
 ざまあみろって。
 澪先輩といつだって遊んでいるからそうなっちゃうんだ。
 ……。
「――……最低」
 もう私も律先輩と変わらないじゃないか。
 澪先輩が大好きだからって、いつも一緒にいる律先輩に嫉妬して。
 だから律先輩が受験に失敗したらそれをざまあみろと笑うなんて。もう最低だよ中野梓。
 あんなに楽しく一緒に笑いあっていたバンドメンバーなのに……。
 なんでこんなに醜い感情ばかり溢れるの?
 律先輩が苦しんでいるのを見て、どうしてちょっと喜べるの私?
 自問自答は渦巻いて、手汗が出る。
 でも、答えは簡単に出た。
 それは澪先輩が大好きだから。
 だから、そんな澪先輩を一人占めする律先輩に、嫌な感情を抱くのは当然だ。
 澪先輩に嫌われちゃえばいいんだ。澪先輩と離れちゃえばいいんだ。
 お互いがお互いを嫌いになっちゃえばいいのにな。
 こんな風に思う私を、澪先輩が認めてくれるわけない。
 でも、もう収まりつかない。
 私は少し勇気を振り絞って歩き出した。並ぶ後ろ姿に声をかける。
「先輩」
 振り返った二人は、少し驚いたような顔をしていた。
 二人とも気まずそうに一瞬目を逸らしたのを、私は見逃さなかった。
 澪先輩は優しい瞳で、言った。
「梓、久しぶりだな」
「はい」
 やっぱり澪先輩と話せるのは、嬉しい。
 例え挨拶でも、心が舞い上がる。
「……よう、梓」
 律先輩は、私と目を合わせなかった。
 私に対して後ろめたい感情を持っているんだろう。
 当然だと思う。受験に失敗して、夢をちょっとだけ遅らせちゃったんだから。
 でも私はそんなのどうでもいい。
 五人でバンドを組むのなんていつでもできる。来年まで待てばその夢は叶うんだ。
 だから今そんな事に悩んでいる暇も落ち込む要素もない。
 私が律先輩に思うのは。
「お久しぶりです」
 今は言えないけど。
 澪先輩を苦しめないでってことだ。







 梓が話しかけてきた時、どきっとした。
 振り返ると、少しだけ身長が伸びて顔もちょっとだけ大人びた印象がまず目に入る。
 まだ私に身長は届いていないけど、一つ年下にこんなにも敗北感があるなんて。
 敗北感は、外見のせいじゃないのに。
「梓、久しぶりだな」
 澪がまず目を細めて言った。
「はい」
 梓は嬉しそうに返事をする。昔から梓は澪をよく慕ってたと思う。
 澪もいい後輩だって可愛がってたし、梓も澪だけはとにかく信頼してついていっていた。
 もちろん澪だけじゃなく私たちも信用してくれていたんだろうけど、梓の入部当初から比較的真面目だった澪は、梓にとって普通の先輩という存在だったのだろう。
「……よう、梓」
 何も言わないとおかしいと思って、私は梓に向けて口を開く。
 でも、目は合わせれなかった。
 怖かった。
 梓の私を見る目が、怖かった。
 睨むのだろうか。眉をひそめて怒るかもしれない。
 それともいつものようにちょっと怒っただけの視線かもしれない。
 それとも煩わしいというように冷めた目で見据える瞳かもしれない。
 もしかしたらとても優しい目かもしれない。
 でもどれも嫌だったんだ。
 会いたくなかった。
 梓に会いたくなかったんだ。
「お久しぶりです」
 顔は見えないまま梓の放った一言は、ひどく落ち着いていた。
 私はこんなに怖いのに。
 梓はどうとも思ってないのかな。
 そんな心境の差を推し量るとまた居心地が悪くなって、胸の軋みは鳴り始める。
「澪、私トイレ行ってくる」
「っておい、律?」
 澪の声を振り切って、梓に目もくれないままトイレに走った。


「はあ……はあ……」
 鏡を見た。
 黄色いカチューシャや、伸びた横髪。少しだけ痩せた顔。
 ――馬鹿だな私。
 なんで逃げるんだ? どうしてあんなにいつも一緒に笑っていた後輩が怖いんだ?
 サイッテー野郎だ。
 梓が話しかけてくれたのに。
 楽しく過ごしていたメンバーなのに。
 なんで信頼できていないんだ。
 怖いなんて思っちゃうんだ。
 梓は私を嫌いになってるんじゃないかって、思うんだ。
 仲間なのに、同じバンドメンバーで、大好きな後輩なのに。
 なんでこんなに怖いんだ。
 一緒に笑ってたじゃん。楽しく演奏してたじゃん。
 その思い出に嘘偽りなんてなかったはずだ。少しの一瞬でも誰かが笑っていればそれが幸せだった。
 演奏するのもお茶をするのも、全部最高に幸せだったはずなのに。
 私のドラムや。
 澪のベースや声が。
 唯の下手なギターやボーカルが。
 ムギのキーボードが。
 梓の上手なギターが。
 あんなに愛しかったはずなのに。
「っ……」
 今は怖くて溜まらないのはなんで?
 唯にもムギにも梓にも会いたくないのはなんでなんだ。

 手洗い場の縁に手を付いて、咳き込んだ。
 涙はポタポタと吸水口に流れていく。

 もうあの頃に、戻れない。
 そんな原因を作ったのは、全部私なんだ。






「律先輩、どうかしたんでしょうか」
 梓はトイレの方面を見据えた。
 私はなんとなく理由を掴めてはいたが、何も言わなかった。
 律……。
「あいつは……昨日アイスたくさん食べてたから」
 嘘だ。
 梓はそれに気をかけず、笑って言った。
「どこかでお茶にしませんか」
 無邪気な笑顔に、私はなんとなく嫌な気持ちだった。
 律がトイレなのにここで提案するか?
「してもいいけど、律が」
「律先輩、調子悪そうですからね……二人で行きませんか」
 なんだよそれ。律を除け者にしようってことなんだろうか。
「いや律が調子悪いのなら私がついてなきゃ、心配だ」
「澪先輩がついてなきゃ駄目だなんて、そこまで律先輩は子供じゃないでしょう」
「そ、そうだけど……」
 梓の言葉の妙な説得力に気圧される。
 でも本当に大丈夫なんだろうか。
 律は大人に見える。確かにそうだ。
 部長としていつも皆を引っ張っていたし、冗談を言ったり皆を笑わせていたけれど、それは律がそういうおちゃらけた性格だからではなくて。
 皆に笑っていてほしい、そして自分も笑いたいという思いからの行動だった。
 だから律はとても大人だ。
 あんなに人を笑わせることができても、時には誰かのサポートや、穏やかに人に突っ込んだり、冷静に物事を対処することだってできる。
 多分五人の中じゃ一番大人だと思う。
 でもだからっていつも大人じゃないんだ。
 律は大人に見えて、とっても繊細な子だ。
 心は壊れやすくて、すぐに色んな事を一人で抱え込んでしまう。
 昔律と喧嘩した時も、全部悪いのは自分だと律は言い張ってしまう。
 私に非があったとしても、律は全部請け負ってしまう。
 だから傷つきやすい。
「……やっぱり、行けない」
「澪先輩……?」
 梓が心配そうに顔を覗き込んでくる。私はその時どんな顔をしていたのだろう。
 私は場を取り繕うために、提案した。
「そ、そうだ……来月、唯たちが帰ってくるんだ」
「唯先輩たちが?」
「うん。だからさ、お茶はその時にしないか? 二人だけってのも、あれだし」
 言葉にぎこちなさがあるのに気付いて、梓が嫌な思いをするかもしれない。
 だけど、今はまだ一緒にお茶は飲めないだろう。
 いつまでも律の事を考えて、律が心配なままじゃ、楽しく飲めない。
 もしかしたら唯たちが帰ってきても、私と律は誰にも会おうとしないかもしれない。
 律はそんなの、まだ望まないだろうから。
「……そうですね。そうしましょう」
「悪いな」
「いいんです。皆で集まるの、楽しみですね……」
 梓はそう言って、私から目を逸らした。
 その瞳に憂いの色を含んでいるのに、私はどうしようもない切なさを覚えた。


 梓と別れてトイレに行くと、律は手洗い場に手を付いて項垂れていた。
「り、律!」
 私は急いで駆け寄って、肩に触れた。
 律はひどい汗をかいていて、顔はびしょ濡れだ。
「澪……」
 振り向いた律の目に、水滴が溜まっていた。
 ああ。
 泣いていたのか――。
「り――」
 名前を呼ぼうとした瞬間、抱きつかれた。
 胸に顔を押しあてられる。
 ドキッとしたけど、律は悲痛に呻いた。
「っ……澪……ごめん……ごめん」
 ごめん。
 ごめん。
 私の胸を涙で濡らす律。
 こだまする謝る声。
 私は律の頭を撫でた。
「……謝るなって。もういいって、言っただろ」
「言ったけど……ごめん……ごめんな」
 律は謝り続けた。
 私は律を抱きしめ返して、私より少し小さな体を愛しく包む。
 律の温もりが伝わってくる。
「帰ろう」
「うん……」

 私たちは手を繋いで帰った。
 律はいつまでも暗い顔をしていたけれど、ぎゅっと握り返してくれる手だけが、律の心を映してくれてるんじゃないかなって、なんとなく思えた。


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