けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

ROCK!!7

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 ムギが怒鳴り声を上げて、皆がバンドを続けていく事に憂いの目を瞬かせた部活。
 その部活を終えてから、私は律の家に行った。
 律の家の合鍵は随分昔にもらっていたので、いつものように鍵を開けて中に入る。
 玄関の靴を見ると、律の靴はなかった。私はまた不安になって、靴を脱いで律の部屋へ走った。
「律!」
 ドアを開けて部屋に飛び込むが、中はもぬけの殻だった。
 ベッドにも、椅子にも、どこにもいない。
 静かな空間と、無造作に転がっている抱き枕やぬいぐるみが私をさらに焦らせる。どうして早退したはずなのに律が帰ってきていないんだ? 
 どこかをほっつき歩いているのか? 
 そうに違いない。律はきっとそうだ。
 なら帰ってくる……帰ってくる。
 私は律のベッドを背もたれにして、体育座りをした。そして腕を膝の上に乗せて組み、顔をうずめる。
 視界は真っ暗になって、思考だけが頭に広がっていった。
 律……。
 律の無邪気で悪戯っぽい笑顔だけが頭に浮かんでくる。
 そういえば最近、あんまり律と話してないな……律が思いっきりボケることとか、私が律を殴ることも極端に減った。
 クラスが別れてしまっては仕方ないとは思う。新しいクラスで唯一の知り合いだった和に、最近は付きっきりだった。
 だって一人が怖いんだ。
 小学生の時、確かに一人で過ごしていて、律に出会った。
 親友という存在ができて、その存在が大切に思えて、かけがえなくて、失いたくないと思って。
そして、また一人になるのが怖くなってしまった。
 だから律を手放してしまった今が怖くてたまらない。
 また一人になってしまうかもしれないと、びくびくしていた。
 そこに現れたのが和で、唯一の知り合いだった。
 だから一年間の付き合いとして、できるだけ仲良くなろうと思った。
 律を忘れたわけではなくて、むしろ律の事をもっと大事にしたいと思えるようにはなったけど、律にはときどきしか会えない。
 私がこれから一年間一緒にいるのは和だろうから、悪い言い方かもしれないけど、『律の代わり』として彼女を見ていたかもしれない。
 でも、律を忘れたわけじゃないんだ。
 確かに和といつも一緒にいて、律ではなく和を選んだこともあったかもしれない。
 律がお茶を飲みに行こうって行った時、唯が和と行くというから私もついて行った。
 昼休みに律に会いに行くこともなかったし、本当に話す機会がなくなった。
 だからって律を忘れたわけじゃない。何度だって言える。
 律の事、忘れたわけじゃないんだ。
 だけど。
 でも――。





 でも。
 忘れてたのかな。
 律の事、少し忘れてたのかな。
 ちょっと忘れてたのかな。
 和といるのも楽しかったし、和と話すのも大切な時間だった。
 律の事、もしかしたら、少しだけ忘れてたのかな……。
「ごめん……っ」
 私は、誰もいない部屋で呟いた。
「律……ごめんな……」
 何がごめんなんだって言われたら、言葉に困るけど。
 私、律の事大好きなのに。
 そんな気持ちが、薄れかけていたのかもしれないんだ。
 本当は肯定したい。
 和と一緒にいる時も、ずっと律の事考えてたよって。律を忘れたわけじゃないんだよって。
 私の中にある律に対する想いは、いつだって変わっていなかったよって自信を持って言いたい。
 だけど、それは嘘なんだ。
 律の事を忘れて、和といたいって思った時もあった。律の事を考えていない時間だってあった。
 私の中にある律に対する想いが、少しだけ消えた瞬間だってあったんだ。
 だから、和とお茶を飲みに行っちゃったり、律が私を構っているのを煩わしく思っちゃってたんだ。
 構ってくれるの嬉しかったこともあったのに。律を殴ったりするのだって、大切だったのに。
 そうすることもしないで、やめろなんて言ったりした。
 そうすることも大切なのに? どうしてやめろなんて言ったんだ。それってやっぱり。
 私は、律の事を、もう何とも思ってないのかもしれないってことなのかな。
 そのまま腕に顔をうずめたまま、時が経つのを待った。
 そうすれば、律が帰ってくると思ったから。




 しばらくして、廊下から足音が聞こえた。
 顔を腕に埋めていたからか視界は常に真っ暗で、起きていたのか寝ていたのかはわからないけれど、足音にすぐに気付いたという事は多分起きていたんだろう。
「律っ!?」
 私は立ち上がって、すぐに部屋の扉を思い切り開けた。
 いたのは聡だった。
「あ、こんにちは……」
「……聡か」
 聡には悪いが、どうしようもなく肩透かしだ。
「……どうした?」
 私が問うと、聡は私の顔をしばらくじっと見つめて何も言わない。
 私が不思議そうな顔をしたからか、聡は「ああ、すいません」と取り繕ったような笑顔と共に謝り、返してきた。
 そしてそのまま言葉を続ける。
「澪さんこそ、どうしたんですか?」
「……律を待ってるんだ。どこに行ったのか知らないけど」
「姉ちゃん? ああ、姉ちゃんなら病院です」
 私は反射的に声を上げる。
「病院……!?」
 私の焦った声色は、聡には怒ったように聞こえたかも知れない。
 聡はびくりと顔を一瞬だけ引きつらせた。私は心の中でだけ謝った。聡はすぐにいつもの顔に戻って、言う。
「いやただの風邪ですよ。昨日放っておいたからか知らないけど、結構高熱で。というか澪さんなら知ってたでしょ?」
 そうだよ。調子が悪くて早退したのなら、病院くらい行くだろ。何を焦ってるんだ。
「そ、そうなのか。でも、なんでそれを?」
「下のテーブルにメモが置いてあったんです。病院に行く事と、あと体温と帰ってきた時間と」
「……いつ頃帰るとかは、書いてないのか」
「書いてないです。でも帰ってきたのが四時ぐらいで、今六時ですからね。もしかしたら病院、込んでたりしてるんじゃないかな」
 四時……ということは、学校の授業が終わった後だ。
 ムギたちの話だと、律が早退したのは三時頃の授業。
 学校から律の家までは、三十分くらいだから……やっぱり普通に帰ったのかな。
「澪さんも帰った方がいいですよ」
「え、でも……」
「澪さんに風邪がうつっちゃったら、姉ちゃんもっと熱出しちゃいますから」
 聡は無邪気に笑った。なんとなく背中を押された気がした。
「……うん、ありがとな聡」
「じゃあ俺、寝ますんで」
 そう言って、廊下の向こうへ歩いて行ってしまった。
 そういえばまだ中学に入学したばかりで、部活も大変なんだろう。
 何部かは知らないけど、確か運動部だ。
 私はずっと文化系の部だから、運動部の部活が終わった後の疲れを体験したことはなかった。
 でも律は中学時代運動部だったから、部活を終えて一緒に帰る時いつも疲れたとか眠いとか垂れていた事を思い出す。
「はは……」
 また律の事考えてるよ、私。
 自嘲気味に呟いて、廊下を歩きだす。階段を降りる。
 そのままふわふわとした浮遊感に身を任せるように、何の気なしにダイニングに入る。
 聡の言っていた『下のテーブル』というのは、食事をするこのテーブルの事だろう。
 そのテーブルにはペンと一緒に一枚の紙切れが置いてあった。殴り書きだったけど、律の字だ。
 『病院に行ってくる。体温は38.5度。もし晩御飯の時私が帰ってなかったら、冷蔵庫の中の物適当に食べといて。四時、律』
 簡潔な文章だけど、なぜか今は響いた。
 高熱……大丈夫なんだろうか。
 心配だけど、聡も言っていた。
 風邪が移ったら、律がさらに熱を出す。
 ――律の風邪が治るのなら、うつされてもいいのに。
 でも、一緒にいたって律は体を休めることはできないし、逆に邪魔になっちゃうだろう。
 それで私に風邪が移ったら、律はまた心配に心配を重ねてしまう。そうなるのは、私も嫌だ。
 だから、嫌だけど、今日は帰ろう。
 私は紙をテーブルに置いたままにし、ダイニングを出た。そのままゆっくり歩いて、玄関へ辿り着く。
 玄関の壁に掛けてあった鏡をふと見た。





 泣いていた。


「えっ……」
 私は、驚いて顔を制服の袖で拭った。紺色だからか、水が染みて色が濃くなる。
「な、なんで……」
 指で目を擦っても、指は濡れていくばかり。
 袖で拭っても拭っても、制服は涙で濡れていくばっかり。
 鏡の中の自分は、目の端っこからポロポロと水滴を落としていく。


 なんでなんだよ。
 律の事、何とも思ってなかったんじゃないのかよ。
 律の事忘れかけてて、律のちょっかいや弄る行為が煩わしいって思ったんじゃないのかよ。
 和と一緒にいるの選んだくせに。
 もしかして、律の事をもう何とも――親友でも、大好きな相手とも思ってないんじゃないかって不安だったのに。
 律への気持ちがなくなったんじゃないのかよ!



 嘘じゃ、ないよね。
 この涙は。流れてる涙は。
 律のこと、もし忘れてたなら。
 涙なんて流れやしないんだ。
 律への想いが消えていたんなら。
 こんなに会いたいなんて気持ちが溢れるわけないんだ。

 だから私は――……。




「律ぅ……」
 私は泣き崩れて、その場に座り込んだ。
「……っ……ひっく、う……りつぅ……」

 律のために泣けてる。
 私、律の事もうどうでもいいと思ってるんじゃないかって思って。
 それで謝っちゃったのに。


 まだ、律の事で泣けてる。
 嬉しい。
 嬉しい。
 まだ律の事、好き。
 好きなんだ。
 頭の中、今、律のことでいっぱいだ。
 会いたい。
 会いたいよ……律。
 もう忘れたりなんかしないから。
 私をこんな気持ちにさせてくれるの律だけだから。
 私をこんなに泣かせるのも、胸を苦しめてくれるのも――。
 こんなに会いたいって思うのも、会えない事に切なさを感じるのも、話しかけてほしいって願うのも。
 一緒にいたいって思うのも、ずっと一緒にいたいって思うのも。
 律――。

 聡が、あの時私の顔をまじまじと見たのは、既に泣いていたから。
 無意識に泣いていたなんて、どれだけ律の事想ってたんだろう。
 私は――。

 私は、律が好きな私が好きだ。
 だからまだ律のために泣ける事を――律の事が好きなんだってわかって嬉しかった。
 律の事をなんとも思ってない自分になるのが怖かった。
 いつまでも律を好きなままでいたかったんだ。
 だから嬉しい。
 律の事、まだこんなにも好きでいることが。







 次の日の朝、律の家へ律を迎えに行ったら聡が出た。
「ああ、澪さん」
「……律は?」
「学校に行けるか微妙なんですよ。先に行っててください。まあ姉ちゃんの事だから行くと思うんですけど」
「うん……わかった」
 本当は一目でも律に会ってから行きたかったが、仕方ない。
 私は聡に一言声をかけてから学校へ行った。


 二時間目が終わって、今は十時半頃だ。
 私は律が来ているであろう二年二組へ向かった。
「……」
 教室を覗く。
 ――いなかった。ムギも唯もいないから、三人で何処かに行ったのかな。
「あ、澪ちゃん」
 いきなり声を掛けられて驚いた。
 素っ頓狂な声を上げてしまうが、横を見ると、声の主はムギだった。
 横にはいつも通りな雰囲気の唯がいる。
 律はいなかった。
「りっちゃんね――」
「あ、いや……律の様子を見に来たんじゃなくって、その……」
 そうだったけど、そう言うのは恥ずかしかった。
 私は後ろ髪を撫でて顔を逸らす。多分顔に出てたから、嘘だってバレたと思う。
「学校休んでるの」
 私はそれに、小さく声を漏らすしかなかった。
 律なら、意地でも来ると思ったけど。
 それがちょっと、残念だった。
 でもよく考えると、やっぱり学校で会わなくてよかったかもしれない。
 もし律を見たら、泣いちゃいそうだったから。
 無理しないで休んでくれた方がいい。
「……私、今日は部活休むよ」
「澪ちゃん?」
「授業終わったら、すぐに律の家に行く」
 ムギが目を伏せながら「そうだね……」と囁いた。
 なんだろうと私は思ったけど、律の事が心配なだけだと思って何も言わなかった。
 唯は「それがいいよ」と賛同してくれて、一度に全員家に行くのは律も大変だから、最初は私一人で行って、他の三人は部活を終えてから来ると提案してくれた。
 律と二人っきりにしてくれたんじゃないかと、なんとなく二人に感謝した。


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