六行詩44番

六行詩集>44番*

原文

La belle rose1 en2 la France admiree,
D'vn tres-grand3 Prince4 à la fin desirée,
Six cens & dix, lors naistront ses amours
Cinq ans apres, sera d'vn grand blessée,
Du trait d'Amour, elle sera enlassée5,
Si à quinze ans6 du Ciel reçoit7 secours.

異文

(1) rose : roze 1600Mo 1611 1627Ma 1627Di 1644Hu, Rose 1672Ga
(2) en : dans 1600Au
(3) tres-grand : tresgrand 1600Mo, tres grand 1627Ma 1649Xa
(4) Prince : prince 1611B
(5) Du trait d'Amour, elle sera enlassée, : D'vn trait d'Amour elle sera enlassée 1600Au, Et sera du traict d'amour enlassee 1600Mo, Du tract d'Amour, elle sera enlassée 1672Ga
(6) Si à quinze ans : S'y a 15. ans 1600Mo
(7) reçoit : ne reçoit 1600Mo, teçoit 1611A

(注記)1行目の belle は bell e と空白入りで綴られているが、ささいなので異文として採録していない。

日本語訳

フランスで認められた美しい薔薇は
仕舞いには非常に偉大な君主によって所望される。
六百と十、そのとき彼の恋情が生まれるだろう。
五年の後、(薔薇は)ある偉人によって傷つけられるだろう。
愛神の矢によって彼女は虜になるだろう、
もしも十五の年に天からの救いを受け取るならば。

訳について

 3行目「彼の恋情」は「彼女の恋情」とも訳せる。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは非常に若くして結婚したルイ13世とアンヌ・ドートリッシュのこととした*1。ルイ13世の婚約は1612年に成立し、1615年に結婚した。

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌはフランソワ・ミッテランについてと解釈した。ミッテランは1916年の生まれで、その610ヶ月(約50年)後は1966年になる。その年の5月にミッテランは英国の「影の内閣」にならった野党による代替政府の形成を宣言した。その5年後にミッテラン主導で新生フランス社会党が出発した。その15年後の1981年にミッテランは大統領になった*2
 この解釈は、日本でも麻原彰晃『ノストラダムス秘密の大予言』などで紹介された。なお、麻原はオウム真理教の機関誌『マハーヤーナ』でこの詩の解釈がミッテラン政権誕生前になされていたと紹介していたが、実際には政権誕生後に発表されている。この点、単行本では政権誕生後の解釈と修正された*3

 マリニー・ローズは、シャルロット・ド・モンモランシーと解釈した。1609年頃にアンリ4世はシャルロットをバレエで見かけて気に入ったが、シャルロットは応じず、コンデ親王アンリと結婚した。その後もアンリ4世の恋情が消えることはなかったというが、1610年にアンリ4世はラヴァイヤックに暗殺された*4

同時代的な視点

 婚約の年は2年ずれたが、確かにルイ13世の結婚の年を言い当てているように見えないこともない。
 ただし、この詩が偽作された1605年頃に「非常に偉大な君主」といえば、まだ幼児だったルイよりもその父親であるアンリ大王の方がふさわしいだろう。
 アンリは正妃以外に名前がわかっているだけでも18人以上の女性と関係を持ち*5、その女性関係の奔放さは当時からよく知られていた。シャルロット・ド・モンモランシーとの出会いは時期的に言って偽作のモデルとはみなせないが、アンリ4世に新たな女性問題が生まれると予測することはそれほど難しくはなかったであろう。

その他

 1600au では42番になっている。


※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。

タグ:

六行詩
最終更新:2020年01月16日 12:34

*1 Garencieres [1672]

*2 Fontbrune (1982)[1984]

*3 『マハーヤーナ』第20号、pp.20-22 ; 『ノストラダムス秘密の大予言』pp.62-65

*4 Rose [2002a] p.231

*5 渡辺『フランス・ルネサンスの人々』岩波版p.200