彼が10歳か11歳のときのこと、ナヴァル家ないしベアルン家の王子に任命されていた彼は、1564年の国王シャルル9世のバイヨンヌ旅行の帰途に、王とともに当時ノストラダムスが住んでいたプロヴァンス州サロン・デュ・クロー〔原文ママ〕に立ち寄った。ノストラダムスは執政官(gouverneur)に、この若い王子に会わせてほしいと頼んだ。
翌日、起床時に裸だった王子が下着を渡されたときに、ノストラダムスが部屋に引き入れられた。彼は王子を十分にじっくりと眺めた上で、執政官に、彼は遺産の全てを手に入れるでしょうと告げた。そして「もし神が貴殿をそのときまで生き永らえさせてくれたなら、フランスとナヴァルを統べる王が貴殿の主人となるでしょう」(Et si Dieu vous fait grace de vivre jusques-là, vous aurez pour maître un Roy de France et de Navarre.)と付け加えた。そのときには信じられないと思われたこの話は、今日実現した。
この予言的な話は、王が王妃にさえもしきりに語っていたものである。王はふざけて、彼に肌着を着せるのが遅れたのは、ノストラダムスが背中をじっくり見られるようにするためだったのに、ノストラダムスが鞭で叩こうとするのではないかと恐ろしかったよ、とも付け加えていた。
この予兆は、フィリップ6世の代に始まり、261年に渡ってフランスに君臨してきたヴァロワ家の完全消滅によって成就した。その結果、子孫の男児はシャルル9世の子アングレーム公シャルルしか残らなかったが、彼は私生児のため、王位を継ぐことはできなかった。(*3)
フランス人画家ルイ・ドニ=ヴァルヴラーヌ(Louis Denis-Valverane、1870 - 1943)は、このエピソードを基にした彩色画を描いた。
カトリーヌ・ド・メディシスやシャルル9世が臨席する中、裸のアンリの頭にノストラダムスが手を置く構図の絵だが、カトリーヌらが臨席したというのはドニ=ヴァルヴラーヌの脚色であろう。
現在はサロン=ド=プロヴァンス博物館に所蔵されており、John Hogue, Nostradamus : A Life and Myth, 2003 などではカラーで見ることが出来る。ただし、残念ながら、まだ著作権法が定める保護期間内なので、当「大事典」では絵画そのものの紹介は当面行わない。