詩百篇第8巻52番


原文

Le roy1 de Bloys2 dans Auignon3 regner4,
D'amboise5 & seme6 viendra le long7 de Lyndre8
Ongle à Poytiers9 sainctes10 æsles11 ruiner
Deuant Boni.12

異文

(1) roy : Roy 1568C 1597Br 1603Mo 1606PR 1607PR 1610Po 1611B 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1650Mo 1653AB 1981EB 1665Ba 1667Wi 1672Ga 1716PR 1720To 1772Ri 1840
(2) Bloys : bloys 1611A
(3) dans Auignon : Auignon 1649Ca
(4) regner : Regner 1672Ga
(5) D'amboise 1568A 1590Ro 1668 : Damboise 1568X 1653AB 1720To, d'Amboise 1606PR 1607PR, D'Amboie 1627Di, Daɯboise 1665Ba, D'Amboise T.A.Eds.
(6) & seme : & semer 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1644Hu 1650Ri 1650Le 1668 1716PR, & Seme 1672Ga 1772Ri, essaim conj.(PL)
(7) long : lon 1627Ma 1627Di
(8) Lyndre : lyndre 1590Ro 1716PRb
(9) Poytiers : Potiers 1611B
(10) sainctes : Saintes/Sainctes 1603Mo 1650Mo 1672Ga
(11) æsles 1568 : asles 1590Ro, ailles 1667Wi 1668P, aisles T.A.Eds.
(12) Boni. : boni. 1568X 1653AB 1665Ba, Bony. 1568C 1672Ga, Boni 1627Ma 1627Di

(注記)1665BaのDamboise の m は逆に印刷されている。

校訂

 2行目 D'amboise は当然 D'Amboise となっているべき。また、Lyndre は l'Indre の誤植であろう。以上2点は、多くの論者の間で異論がない。

 4行目は途切れている。
 1791年にアヴィニョンのジャック・ガリガンによって出された版では、
  • Devant Bonieu viendra la guerre esteindre.
  • ボニウの前へと戦争を消し去りに来るだろう。
となっている。
 この原文はその後いくつかの版に引き継がれたが、ガリガンがどこからこの原文を見つけてきたのかを明示していない以上、無批判に受け入れるわけにはゆかない。

日本語訳

ブロワの王がアヴィニョンで君臨するために、
アンドル川沿いにアンボワーズとセムから来るだろう。
ポワチエでは爪が聖なる翼を滅ぼす。
ボニの前へと。

訳について

 2行目は seme が何なのかによって訳が変わる。
 ここでは町の名としてセム(Sepmes)と捉えているマリニー・ローズの読みに従った。
 ピーター・ラメジャラーのように & seme を essaim の誤記と見るのなら、「アンドル川沿いにアンボワーズから群衆が来るだろう」となる。

 3行目について。
 ジャック・アルブロンは Ongle を Angoulesme の改竄されたものと見て、saintes もロワール地方の町サント(Saintes)のことだろうとしている*1
 その場合、「アングレームはポワチエとサントで翼を滅ぼす」、もしくは少々強引だが「アングレームとポワチエとサントで(ブロワの王が)翼を滅ぼす」と読めるのかもしれない。

 既存の訳についてコメントしておく。
 大乗訳はアンドル川を「リンデン」、ポワチエを「ポワチュー」とするなど固有名詞の読み方がひどいが、構文理解上の問題はほとんどない。

 山根訳2行目「アンボアーズ セメから アンドル川の長さ」*2は誤訳。
 viendra が訳されていない上、川の名前の直前にある le long de(「~沿いに」を意味する成句)を訳し間違えている。

信奉者側の見解

 ヘンリー・C・ロバーツは、ナポレオンの戴冠式にローマ教皇が呼ばれたことと解釈していた*3
 ただし、簡潔な解釈であり、個別の地名が史実とどう関連付けられるのかについての説明はない。

 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌは、著書刊行時点で未来に属していた20世紀末の戦争で、ソ連を含むワルシャワ条約参加7カ国(seme = sedme)によってフランスが侵略されることの予言と解釈していた*4

 セルジュ・ユタンは、ヴァロワ王朝の末裔にあたる未来に現れる大君主の予言としていた*5

同時代的な視点

 ジャン=ポール・クレベールは、アンボワーズの陰謀(1560年)などを引き合いにだしつつ、当時の政治情勢と関連づけている*6

 ピーター・ラメジャラーは『ミラビリス・リベル』と関連付け、イスラム勢力の侵攻からフランスが解放されることの予言ではないかとしている*7

 いずれも曖昧なようだが、seme と Boni. という内容理解に関わる単語の意味を確定できていないこともあってか、他にめぼしい解釈はない。

 なお、表現について、ピエール・ブランダムールは、「聖なる翼を滅ぼす」を「翼が衰える」などの「敗戦を喫する」意味の表現と同じに見ている*8
 その場合、「ポワチエでは爪が聖なる者たちを破る」といった意味だろうか。

その他

 詩の解釈それ自体よりも、1行目が詩百篇第8巻38番と全く同じ(1行目の訳は文脈を考慮してそれぞれ少し変えているが、原文は全く同じ)であることや、4行目が途切れていることなどによって有名な詩である。

 偽作説を唱えるアルブロンは、1行目の使い回しに偽作者の杜撰さの表れを見出している*9


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最終更新:2020年06月09日 00:20

*1 Halbronn [2001] p.108

*2 山根 [1988] p.269

*3 Roberts [1949]

*4 Fontbrune [1980/1982]

*5 Hutin [1978]

*6 Clébert [2003]

*7 Lemesurier [2003b]

*8 Brind’Amour [1996] p.55

*9 Halbronn [2001] p.108