原文
L'Occident
1 libre les isles
2 Britanniques
Le recongneu passer le bas, puis haut
Ne content triste
Rebel.3 Corss.4 Escotiques
Puis rebeller par glus
5 & par nuict chaud.
異文
(1) L'Occident : L'occident 1660
(2) isles : Isles 1605 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668 1672
(3)
Rebel. : Rebel 1605 1649Xa 1672, Rebel, 1660
(4) Corss. :
corss. 1605 1611A 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1668A 1672, corrss. 1660 1668P
(5) glus 1588Rf 1589Rg : plui 1672, plus
T.A.Eds.
(注記)底本は1588Rf で、比較に用いたのは 1589Rg, 1589Me, 1605, 1611A, 1628, 1649Ca, 1649Xa, 1650Le, 1660, 1668, 1672 である。
リヨンで出された版などには原則として掲載されていない。
校訂
予兆詩第72番と見比べて頂きたいが、3行目 corss.(海賊たち?)は Corse(コルシカ島)が本来の原文で、4行目 glus(ニカワ)は glas(弔鐘)が本来の原文である。特に後者は1588Rfの glus が1589Meで plus に書き換えられて広まり、さらに
テオフィル・ド・ガランシエールが plui(= pluie?, 雨)にしてしまうという形で、どんどん本来の形から遠ざかってしまった。
日本語訳
自由な西方、
イギリス諸島。
認められた者は低きを通る、ついで高きを。
スコットランドの海賊たちは悲惨な反逆に満足せず、
そして、暑い夜に膠で反逆する。
訳について
3行目と4行目は本来の原文とかなり異なっており、そのまま訳すのは困難である。とりあえず信奉者たちが支持してきたcorss. をcorsaires(海賊たち)の略と見なす読み方を使っている。
大乗訳は3、4行目「スコッチ・ピレイトは悲しみにみたされることはなく / 暑い雨の夜に」にかなり問題がある。明らかに
ヘンリー・C・ロバーツの英訳に基づいているが、その英訳自体が Scotch Pirates shall be, who shall rebel, / In a rainy and hot night.と問題がある。この英訳はガランシエールの英訳を丸写ししたものだが、3行目 triste(悲しい)と Ne content(不満な)の訳が抜けている。大乗訳はそれを補おうとしている点は評価すべきかもしれないが、Scotch Piratesを「スコッチ・ピレイト」と表記するのは明らかに不適切(英訳を音写するなら「スコッチ・パイレイツ」とすべき)。また、「反逆」にあたる言葉を落としてしまっている。なお、大乗訳1行目「東方は自由になり」は、単に orient(東方)と occident(西方)を取り違えたものだろう。
信奉者側の見解
アンドレ・ラモンは、アメリカ独立戦争とその前後でのジョン・ポール・ジョーンズの活躍と解釈した。
アメリカは当初イギリスの植民地だったが、そこから独立を果たした(1行目)。アメリカは新大陸の国で(ラモンは「認識・承認された者」reconnu を「発見された者」discovered と英訳している)、当初、取るに足らない(「低き」)国と思われていたが、次第に国際的な重要性を増していった。
アメリカ独立当初、当時の屈強なイギリス海軍を抑えることに活躍したのがスコットランド出身の私掠船船長(privateer)ジョン・ポール・ジョーンズであった。彼は祖国であるイギリス(連合王国)に逆らい、アメリカ海軍の基盤確立に尽力したのである(3、4行目)。
特にホーグは、詩番号「第7巻80番」(780)はジョン・ポール・ジョーンズが軍艦「ボノム・リシャール」を指揮して大きな戦果を挙げた1779年に近いとしている。
同時代的な視点
この詩は本来
1561年9月向けの予兆詩だった。これに第7巻80番という詩番号をあてがったのは非正規版の出版業者
バルブ・ルニョーで、
ノストラダムスの承諾を得ないものであったと考えられる。ゆえに、詩番号から何らかの解釈を導き出すことは、かえってそれが単なるこじ付けに過ぎないことを示している。
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最終更新:2009年09月21日 12:27