百詩篇第4巻67番

原文

L'an que1 Saturne & Mars esgaulx combust2,
L'air3 fort4 seiché5, longue traiection:
Par feux6 sccretz7, d'ardenr8 grand lieu9 adust10
Peu11 pluye12, vent chault13 guerres14 incursions15.

異文

(1) L'an que : L'àn que 1650Le, L'An que 1672, Lors que 1597 1600 1610 1611 1627 1644 1650Ri 1653 1660 1716, Lorsqne 1665, Lorsque 1840
(2) combust : compust 1588-89
(3) air : Air 1672
(4) fort : soit 1588-89
(5) seiché : seché 1588-89 1627 1644
(6) feux : feu 1588-89 1653 1840
(7) sccretz 1557U : secretz 1557B 1568A 1568B 1590Ro 1840, secret 1588Rf 1589Me 1627 1644 1653 1665 1840, secrets T.A.Eds.
(8) d'ardenr 1557U : d'ardeur T.A.Eds.(sauf d'argent 1588-89)
(9) grand lieu : grands lieux 1672
(10) adust : abust 1588-89
(11) Peu : Feu 1588-89
(12) pluye : pluyc 1716
(13) vent chault : Vent chauds 1672
(14) guerres : Guerres 1672 1712Guy
(15) incursions : Incursions 1672, incursion 1840

(注記1)1588-89では、3-4-1-2行目の順で VI-46としても採録。そちらでは1589Rgのみ四行目の冒頭の語がPeuと綴られている
(注記2)1712Guy はバルタザール・ギノーによる異文。

校訂

 3行目 sccretz, d'ardenr は当然 secretz(secrets), d'ardeur の方がよい。

日本語訳

サトゥルヌスマルスが等しく焼かれる年、
空気は非常に乾燥する。長い流星。
秘密の炎によって、大きな場所が熱に灼かれる。
雨はほとんどなく、風は熱い。戦争と侵略。

訳について

 山根訳は特に問題はない。

 大乗訳は2行目「空気はとてもよくかわき」*1は、longue trajection に対応する訳が抜けている。同3行目「多くの国で神秘の火によって いたるところが熱で焼かれるだろう」は、ヘンリー・C・ロバーツの英訳で2行目の後半にあった in many countries を3行目に持ってきて訳した結果だが、不適切。そもそも longue trajection が many countries になる根拠が不明だし、3行目の grand lieu は単数なので、many places というロバーツの訳も、それを反映させた「いたるところで」という大乗訳も、正確性を欠く。
 ちなみに、grand lieu を many places と訳したのはテオフィル・ド・ガランシエールが最初だが、彼の場合は上の異文欄にあるように、grands lieux と複数形に直していたので、特におかしな訳でもなかった。ロバーツの場合、原文を他で多く見られるものに直したのに、英訳をそのまま引き継いだためにおかしなことになったのである。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、この星位にあるときに大旱魃が起こるという漠然とした解釈しかしていなかった。なお、星位については、土星と火星の間のどのような関係を言ったものか、「占星術師が判断してくれ」と解釈を投げていた*2

 エリカ・チータムは、ここでの星位が1985年にあったとして、1987年と1989年にエチオピアであった大旱魃などと結び付けた*3
 流智明(未作成)は、火星と土星の合があるときに大旱魃や大規模な暴動などが起こることを予言したものとし、候補として1988年、1990年、1992年、1994年などを挙げていた*4

同時代的な視点

 ロジェ・プレヴォによれば、ここで言われている星位は、火星と土星が合になっていて、なおかつ太陽に近い時を指しているという。彼はその候補として1556年4月を挙げている。
 その年は確かに酷暑だったという。また、戦いの描写は、教皇領への進入や、「大いなる場所」ローマに近いアナーニで略奪行為に及んだスペイン軍に対し、教皇パウルス4世が対抗措置を取ろうと秘密裏に画策していたことに対応しているとした*5

 ピーター・ラメジャラーもこうした読み方に近く、彼はさらにその年の春に彗星が目撃された記録があることを指摘しつつ、指摘されている戦いは、フランス、イングランド、サヴォワなどが入り乱れていたイタリア戦争末期の当時の様子の描写とした*6


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  • アウシュヴィッツ強制収容所所長のルドルフ・ヘスとロケット兵器V2、ナチの副総統ヘスの単独飛行、日本への核攻撃を予言した詩篇である。 第二次大戦中の1940年2月10~13日,土星と火星が火の要素のある牡羊座で1度以内の合になっていた。 -- とある信奉者 (2020-02-11 23:11:28)

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百詩篇 第4巻
最終更新:2020年02月11日 23:11

*1 大乗 [1975] p.140

*2 Garencieres [1672]

*3 Cheetham [1990]

*4 チータム [1988]

*5 Prevost [1999] pp.110-111

*6 Lemesurier [2003b]