・THE DAY AFTER DAY 第4話『永遠の少年』
医師「どうやら、無事に安定期に入ったようですね。」
カーリー「あぁ、そうですかっ、先生ありがとうございますっ。」
医師「ああそうだ。お子さんの性別がわかりましたよ。」
カーリー「ほんとですかぁっ」
医師「ええ、お教えしましょうか?それとも内緒の方が楽しみがあって良いかな?」
カーリー「ああ、それはどうしましょう。」
カーリー「とっても知りたいけどあの人が帰ってきてから一緒に聞いた方が良いかしら」
カーリー「今日には戻ってくるんだから・・ああでも知りたぁぃっ」
医師「はははっ。どうします?」
カーリー「えっと・・えっと・・・ううぅぅぅんんん・・。」
医師「悩みすぎですよ。それじゃ秘密って事にしておきますか。」
カーリー「でっ、でもっ、それじゃあたし眠れなくなっちゃいますっ」
カーリー「・・教えて下さい!」
医師「いいですよ。お子さんの性別は――」
カーリー「だぁーーーっ!ちょっと待って待って下さい。心の準備をさせて!」
カーリー「すぅーー。はぁーーー。すぅーー。はぁーーー。・・はい、どうぞ!」
医師「お子さんの性別は・・・、男の子、と、女の子!です。」
カーリー「・・男・・と・・女・・・?中間ってことですか・・・?」
医師「違いますよ。内海さんのお腹の中には双子の赤ちゃんがいるんです。」
カーリー「えぇーーーーっ!?ホントですかぁ!?」
医師「あ、あれ?言ったはずですよ?」
カーリー「初耳です!ホントに双子!?」
医師「えぇ。男の子と女の子。二卵性双生児です。」
カーリー「あぁっ・・。そうですかぁっ。」
カーリー「潤一は一度に二つの命を授けてくれたのね・・。聖司もきっと喜んでくれるわね。あはっ。早く帰ってこないかしら。」
医師「お大事になさって下さい。それから、精神科の薬についてですが。」
カーリー「はい。先生とも相談しました。」
カーリー「この子、いえ、この子達を授かってからとっても調子が良くって。お薬はやめてもいいそうです。」
医師「そうですか。」
カーリー「このままいけば、退院出来そうなんですよ。」
医師「おぉ。そりゃ良かった。」
(バタン!)
女性看護師「内海さん!」
カーリー「・・?どうかしましたか?」
大変なんです!テレビっ、待合室のテレビ見て下さい!」
カーリー「テレビ?」
女性看護師「飛行機っ!飛行機がっ!!」
(バタバタバタ)
アナウンサー「・・・繰り返します。羽田発稚内行きのHL18便が消息を絶ちました。」
アナウンサー「乗員名簿によりますと、行方不明になった乗客は以下の38名です。」
アオヤギ ケイゴさん、48歳、男性
イノウエ ユミさん、28歳、女性
クスダ ユニさん、10歳、男性
カーリー「嘘・・嘘でしょ・・・。」
フユカワ ココロさん 20歳、女性
マユズミ リンさん、23歳、女性
――ヨモギ セイジさん、35歳、男性
Remember11CDドラマ、THE DAY AFTER DAY、第4話『永遠の少年』
???「ぅわああああんっ、わぁぁぁんっっ、ぅわぁぁぁっ!」
カーリー「ああ、ほらほらどうしたの?お腹がすいたのかなぁ?」
カーリー「ああ、よしよし、良い子だから泣かないでっ。ほらっ、いないいない、ばぁっ!」
1年後の2012年、私は青鷺島の施設にいた。
隔離と保護のための特定医療施設、通称スフィアに精神科医を装って潜り込むことに成功した。
そんなことをした理由はただ一つ。全ては犬伏景子を殺すため。
夫が死んでしまった今、私が敵を討つしかない。
潤一が殺された同じ日付、同じ時間に犬伏景子を殺してやる。
潤一がそうされたように、むごい方法で。
今日は1月11日。復讐を果たすまで、あと3日。
カーリー「ああ・・困ったわねぇ。あ、そうだ、歌を歌ってあげるわね。お願いだから泣き止んでちょうだい。」
カーリー「かーごめーかーごめ。かーごのなーかのとーりーはー。いーつーいーつでーやーるー」
???「ぅぅぁ・・あぁぁ・・。」
カーリー「あはっ」
理由はわからないけど、先日の定期連絡船に乗って、職員のほとんどが島を離れてしまった。
そのため患者の世話は、私ともう一人のスタッフでおこなわなければいけなかった。
もっとも現在スフィアに収納されている患者はほとんどいなかったし、
犬伏景子を殺そうと思っている私にとっては好都合なんだけど、
出来ることなら殺人鬼の人格を確認してから、この女を殺してやりたい。
それまでに、この女に隠された人格について、もっと理解を深めなくちゃいけない。
カーリー「――うしろのしょうめん。だーぁれ?」
???「ぅゃぁ・・。ぅぅ・・。」
カーリー「あっはっ、泣き止んでくれたわね。あはっ、いいのよ、もっと甘えても
???「ぁぁぁ・・、きゃはっ。」
カーリー「んふふっ。」
(コンコンコン)
カーリー「はい?」
優希堂「失礼。・・って二人して何抱き合ってるんだ?そういう関係だったのか?」
カーリー「そういう関係って、どういう関係かしら?」
優希堂「まぁ、なんだ・・。つまり、科学用語を駆使して説明すると、二人はデキているのか?」
カーリー「あっははっ。ちっとも科学的じゃないと思うけど。」
カーリー「私たちの関係は決まっているでしょ。医者と患者の関係よ。」
優希堂「それじゃなんで抱き合ってるんだ?――犬伏景子と。」
カーリー「・・今は、人格Bが現れているの。」
優希堂「人格B?」
カーリー「えぇ。資料によるとベイビーなんてあだ名がつけられたらしいわね。赤ん坊の人格よ。」
優希堂「そうなのか?」
優希堂「・・こうしていると可愛い女の子なんだけどな。稀代の殺人鬼も。」
カーリー「あら、女の子じゃないわよ。」
優希堂「え?」
カーリー「Bの人格は男の子。」
優希堂「ああ。そいつは悪かったな。」
犬伏B「ぅわぁぅっ」
優希堂「今のは怒鳴られたのか?」
カーリー「んふっ。きっと許してくれたのよ。」
優希堂「そうなのか?よくわかるな。」
カーリー「えぇ。これでも私、母親だから。」
優希堂「はぁ・・。俺には永久にわかりそうもないね。そういう感覚的なのは苦手だ。」
カーリー「それで、何か用かしら?優希堂君。」
優希堂「同じ事を聞こうと思っていたんだ。何か用はないか?」
カーリー「え?」
優希堂「いやぁ、今日はこれからやらなくちゃいけない仕事があるんで、手を離せなくなりそうなんだ。」
カーリー「そうなの。」
優希堂「あぁ。だからやっておいて欲しい雑用があったら、今の内に言って欲しいと思ってね。」
カーリー「あら、偉いわね。」
優希堂「研究員待遇とはいえ、ここのスタッフだからな。」
カーリー「そうね・・。何か力仕事があったかしら・・。」
(奇妙な音)
???「あぁ、優希堂、君に頼みたいことがある。」
優希堂「・・なっ、えぇっ!?あ、赤ん坊じゃなかったのか!?」
カーリー「・・人格が変わったのよ。」
犬伏?「私の部屋を掃除してくれないか?」
優希堂「はぁ!?なんで俺が?」
犬伏?「私は患者。君はスタッフ。それ以外に理由が必要かね?」
カーリー「掃除なら私が―」
犬伏?「内海カーリー、あなたには頼みたくない。」
カーリー「なっ!?」
犬伏?「私はあなたが嫌いだ。部屋を引っかき回されたくない。」
カーリー「そんなっ!」
犬伏?「ふっ、私を殺す罠でも仕掛けられたら、困るからね。」
カーリー「そ、そんなことしないわっ!」
犬伏?「どうだか・・。おっと、いつまで私を抱いているつもりだ?私は赤ん坊ではない。」
犬伏?「それじゃ、頼んだぞ。優希堂。」
優希堂「・・突然変わったな。あの人格は?」
カーリー「たぶん人格I。インテリジェンス。理知的な老人の人格よ。極度の潔癖症でもある。」
(他の人格からは私は嫌われているだけだけど、人格Iには、殺意を見破られているみたい。気をつけなくちゃ・・。)
優希堂「・・俺は、掃除をしなくちゃいけないのかな・・?」
カーリー「お願いするわ。」
優希堂「やれやれ・・・。」
その後、私は昼食の準備を始めた。もちろん、毒なんて盛らない。
潤一の命日までは、私は優しい精神科医として接するつもりでいるから。
腕によりをかけて食事を作ってあげよう。犬伏景子のために・・。
『おいおぃマジかよ・・。』
と、優希堂くんの声が聞こえてきた
彼は今、犬伏景子の部屋を片付けさせられているはずなんだけど、何かあったのだろうか?
気になった私は、犬伏の部屋をそっとうかがってみることにした。
優希堂「ったく、どうして俺がベッドメイクまでしなくちゃならないんだよ。」
犬伏I「黙ってやれ。シワ一つ残すんじゃないぞ。私はシーツにシワがよっているだけで、眠れなくなるんだ。」
優希堂「だったら自分でやればいいじゃないか・・。よっ。こんな感じでいいか?」
(奇妙な音)
優希堂「おい?聞いてんのか?」
犬伏?「・・まだ、ダメ。」
優希堂「シワ一つ無いぜ?」
犬伏?「ダメ。ねぇ・・、ちょっと、そこに横になってみて。」
優希堂「はぁ?そんなことしたらシワが出来ると思うけどな。完璧なベッドメイクが無駄になるだろ?」
犬伏?「いいから。」
優希堂「はいはい。・・これでいいか?」
犬伏?「うん。とっても。」
犬伏?「ねぇ悟・・もっと違うモノをメイクしてみたくない?」
優希堂「えぇ?違うモノを・・メイク・・?つくる・・?」
犬伏?「そぅ。ベッドでメイクする別のモノ。なーんだ?」
優希堂「お、おい。」
犬伏景子はベッドで横たわる優希堂君に、にじり寄った。
犬伏?「ねぇ・・悟は、痛いのが好き?痛くないのが好き?」
人格F。フラウ。淫乱な女性の人格が現れた。
優希堂「そりゃ・・痛くない方が好きだけど。」
犬伏F「んふっ、あたしはぁ、両方好き。」
甘ったるい声を出し、潤んだ瞳で優希堂君を見る。
犬伏景子はせまる。その唇は淫靡に濡れていた。
優希堂「お、おい・・お前・・・。」
犬伏F「ぅふっ、ねぇ、お願いがあるの。」
優希堂「な、なに・・?」
犬伏F「あたしのお願い、聞いてくれる?うっふふっ、んふふふふっ、んふふふふっ・・・。」
(5話に続く)