・THE DAY AFTER DAY 第5話『愛情は狂気にも似て』


潤一は、わんぱくで、ワガママで、それでいて人一倍寂しがり屋で、甘えん坊な子だった。
夜中、怖い夢を見ると、いつも私の所にやってきた・・。


潤一「お母さん・・。お母さん。」
カーリー「んーっ?潤一?こんな夜中にどうしたの?」
潤一「うん・・。あのね・・。ぼく・・・。」
カーリー「さては、また怖い夢をみたんでしょ?」
潤一「うん・・。」
カーリー「ほんとにしょうがない子ね。」
潤一「ごめんなさい・・。でも・・・。」
カーリー「ほら。こっちおいで・・。」
潤一「えへっ。」
カーリー「もう甘えん坊さんね。男の子なんだから、もっとしっかりしなきゃ。」
潤一「だって・・。」
カーリー「今度はどんな夢見たの?」
潤一「・・お母さんの夢。」
カーリー「私の?」
潤一「よくわからないんだけどね、お母さんが泣いているんだ。」
カーリー「そうなの?」
潤一「うん。それでね、僕が慰めてあげたいんだけど、僕がどれだけ声を出してもお母さんには聞こえないみたいなんだ。」
潤一「お母さんが泣いてると、僕まで悲しくなってきて、そのうち、お母さんの姿が見えなくなっちゃうんだ。」
潤一「それで・・、すごく不安になって・・。」
カーリー「だからお母さんの所に来たのね?」
潤一「だって、お母さんにもう二度と会えなくなるかもしれないって・・。思っちゃったんだもん・・。」
カーリー「潤一・・。」
潤一「そんなの、絶対嫌だから!ねぇお母さん、ずっと一緒にいてね?」
カーリー「んふっ、当たり前でしょ。」
潤一「ほんと?ほんとのほんと?」
カーリー「えぇ。お母さんが潤一を置いて、どこかに行くと思ったの?」
潤一「ううん・・。」
カーリー「お母さんはね、潤一のことが世界中で一番大好きよ。だからどこにも行ったりしないわ。」
潤一「お母さん・・。お母さん・・あったかい。」
カーリー「さぁ・・抱きしめていてあげるから、もう寝なさい。」
潤一「うん・・。おやすみ。」
カーリー「おやすみ。潤一。」


Remember11CDドラマ THE DAY AFTER DAY 第5話『愛情は狂気にも似て』


優希堂「ベッドでメイクするモノって・・なんだ?」
犬伏F「ラブとかぁ・・子供とか?んふっ、どっちも意味は同じね。」
優希堂「・・まいったな・・。」
犬伏F「そんなことは、もういいの。私のお願い、聞いてくれない?」
優希堂「お願い・・?」
犬伏F「服・・脱いで・・。一緒にした方が、いいでしょ?」
優希堂「はぁ・・?」
犬伏F「それともぉ、脱がして欲しいの?そういうのが好み?」
優希堂「ちょっ、ちょっと待て!何考えているんだ!」
犬伏F「バスルームで、いいことしたいと思わない?」
優希堂「いいこと?」
犬伏F「そ。い・い・こ・と。」
優希堂「な、なんというか、抽象的な表現は嫌いなんだ。具体的に言ってくれ。」
犬伏F「とぉっても、気持ち良いこと。」
優希堂「・・。」
犬伏F「ここってぇ、暖房聞いているでしょ?だからぁ、少し汗かいちゃったから・・。」
犬伏F「泡立ててぇ、揉みしだいて、綺麗にして欲しいの。」
優希堂「な、なにを?」
犬伏F「あたしに言わせる気?」
犬伏F「もちろんそのあとは・・んふっ、わかるでしょ?悟も子供じゃないんだから。」
優希堂「・・・。」
犬伏F「ねぇぇ。お願い・・。いいでしょ・・?」
優希堂「あ、あぁ・・・。」
犬伏F「んふっ・・・。」
(奇妙な音)
犬伏?「じゃぁ、洗濯お願いねっ♪」
優希堂「は?」
犬伏?「この部屋洗濯機が無いから不便でしょうがなくってさぁ」
優希堂「洗濯?」
犬伏?「もしかして、知らない?洗濯って言うのは汚れた服を石けんで泡立てて、ゴシゴシ揉みしだいて綺麗にすること。」
優希堂「そんなことは知ってる!」
犬伏?「あっれー?なんで顔が赤いのかなぁ?」
優希堂「う、うるさいなっ!」
犬伏?「んふぅっ、もしかして変なこと想像しちゃった?」
優希堂「そんなことないよっ!」
犬伏?「かっわぃー♪悟ったらエッチだねーっ♪」
優希堂「お、おまえーー!」
犬伏?「きゃははははっ、怒らないでー♪ごめんなりー♪なのでありー♪」
優希堂「・・・。」

そこまで聞いてから、私はその場を離れた。
優希堂君がとまどうのは無理もない。
犬伏景子はまた、人格が交代したのだ。
あれは人格G、極端な躁状態の人格。ゲイリーに違いない。
もしもゲイリーではなく殺人鬼の人格が現れていたら、
きっと優希堂君はむごたらしく殺されていただろう。
そう、潤一と同じように

(潤一「おかあさーん」)

あの子は私の宝物だった・・。あの子さえいれば他に何もいらなかった。
それなのに・・。それなのに・・・。
あんないたいけな子を・・。あの女は・・・。あの女は・・・ッ!
許さない!絶対に許さないッ!!
私がこの手で殺してやるッ。潤一と同じ苦しみをあの女に味あわせてやるッ!
潤一・・待っててね・・・。お母さんがきっと仇をとってあげるから。


それから、数時間が経過した。
吹雪が一段と強くなってきた。
強い風が叩きつけ、窓ガラスが悲鳴を上げている。
雷まで鳴り始めた。まるで・・嵐・・。
狂ったように鳴り響く風の音と雷鳴が、悪魔の叫び声のように聞こえた。

カーリー「きゃっ!?今のは近かったわね・・。」

雷鳴に驚いた私はリビングから窓の外を眺めた。
その時―
再び、まばゆい電光が私の網膜を焼いた。
青白いフラッシュが瞬いた。その刹那、まさにその瞬間!
優希堂君が空から落ちてきた。
おそらく時計塔から落ちたのだろう。
この建物には他に落ちるような場所は存在しないから。
でも、どうして?
一瞬だけ考えて、私は確信した。
優希堂君は慎重な男性だ。不注意で足をすべらせるなんてことは考えにくい。
誰かに突き落とされたに違いない。
誰に、突き落とされたのか。
ふっふふふふっ・・そんなこと決まっているわね。
あの女だ。
優希堂君は、犬伏景子に突き落とされた。
やっぱり、あの女には殺人鬼の人格がやどっている。
憎むべき、悪魔の人格が。

カーリー「・・・ふ、ふふふふふっ。そうよ・・。そうでなくちゃ困るわ。」
カーリー「犬伏景子、あなたは冷酷な殺人鬼でいてくれなくては困るのよ。」
カーリー「ふふふふふふふっっ、あはははっ・・」
???「――はははははっあはははっ」
カーリー「ッ!?」

まるで私の笑い声とユニゾンするように、犬伏景子の笑い声が聞こえてきた。
犬伏「きゃっははははははは、あーっはははははは。きゃははははいひひひひはははははははは」
狂ったように続く笑い声。
現れたわね、殺人鬼J、ジャックの人格が!

犬伏J?「あははははは、うふふふふ、ははははははははっ。」

笑い声は・・ゆっくりと近づいてきた・・。
犬伏景子は、いえ、殺人鬼が、リビングに入ってきた。

犬伏J?「ねぇ、今の見た?悟は死んだかな?」
犬伏J?「・・ぷっ、あはははははっはっ!あーーっははっはははっいひひひひ――」

 

(第6話へ続く)

最終更新:2023年05月31日 18:38