・THE DAY AFTER DAY 第6話『終わりと始まり』


あの事件は、二年前の冬――

北海道の市立病院で起こった。
静かに眠っていた病院を、黒い悪夢が襲った。


犬伏?「・・かーごめかーごめ・・かーごのなーかのとーりーは・・いーつーいーつーでーやーる・・
よーあーけーのーばーんに・・つーるとかーめがすーべった・・」
犬伏?「うしろのしょうめん、だーぁれ・・・」
ヒュッ!ズドッ!
男の声「うぎゃあああああああああああああああ!!」

そして、その殺人鬼が私の大切なものをうばっていった。

犬伏?「くっくくくくっ・・・。」
潤一「お母さん・・やだ・・・。助けてよ・・・。お母さん・・・。」
犬伏?「ふっふふふ・・。ひゃはっははは。くく・・はは・・・。」
ズドッ!
潤一「うああああああああああああ!!!」


Remember11CDドラマ THE DAY AFTER DAY 第6話『終わりと始まり』


スフィアのリビングで犬伏景子と向かい合った。
いいえ、違う。
目の前にいるのは、犬伏景子の中に潜む殺人鬼の人格。

犬伏「いーひひひひあーはははっ、あぁっはぁっ~~・・ぁぁお腹いたぁい・・っふふふふ。」
カーリー「ついにあらわれたわね、殺人鬼。」
犬伏「はぁ?何の話?私は殺人鬼なんかじゃない。」
カーリー「今あらわれてるのは殺人鬼の人格でしょ。加虐主義、悪魔の人格。」
犬伏「違うってばぁ。」
カーリー「優希堂君を突き落としたんじゃないの?!
犬伏「私にそんなこと出来るわけ無いでしょ。自分の部屋にずぅっといたもん。時計塔の上にのぼったことなんてないし。」
カーリー「ならば、なぜ笑っているの!」
犬伏「人が空から降ってきたら笑うでしょ?あっはははっ、死むぅ~っ笑いじむ~~。」
(ビンタ音)
カーリー「笑うのを止めなさい!!」
犬伏「ぃったッ!何するの!?」
カーリー「あなたがやったんでしょ!嘘をつかないで!!」
犬伏「・・私が殺人鬼だったら、どうするの?・・・私のこと、殺す?・・殺すんだ?殺したいんでしょ?」
犬伏「今あんたすごい目してる。ギラギラ光った殺人鬼の目。」
カーリー「黙りなさい・・。」
犬伏「でもぉ、殺されてあげないっ♪殺人鬼に殺されるなんて、そんな最低な死に方まっぴら♪うっふふふ。」
カーリー「くっ。」
犬伏「どうせ殺されるなら、私のこと守ってくれるような人に殺されたいなぁ。・・やさしく、やさしく殺されたい。」
カーリー「矛盾してるわよ・・。」
犬伏「矛盾してるわよ・・。プッ・・あははははっっ」
カーリー「・・今の人格はなんなの?!殺人鬼の人格があらわれたんじゃないのっ?!」
犬伏「人格なんて変わって無いよ。私は私。最初から最後まで私は私のまま。」
カーリー「そんなハズはないわ。」
犬伏「どうして?」
カーリー「あなたはDIDよ!それは間違いない!」
犬伏「・・本人が違うって言ってるのに?」
カーリー「あなたは、DIDと認められて裁判で免罪になったでしょ!」
犬伏「ところにより、そんなこともあったでしょう~」
カーリー「2008年からDIDの検査には催眠試験が用いられるようになったわ。催眠状態にある人間は、嘘をつくことはできない!」
犬伏「ふむふむ。」
カーリー「あなたが多重人格であることに、間違いは無いはずよ!」
犬伏「うっふふ・・。」
カーリー「なにがおかしいの!」
犬伏「気にしないでぇ、思い出し笑いだから。あぁ、思い出し笑いをする人ってぇ、エッチだ。っていうよねぇ。」
犬伏「悟は、エッチな女の子嫌いかなぁ?」
カーリー「何を思いだしたって言うの?」
犬伏「えぇ~、あなたに言う必要ないしぃ。」
カーリー「答えなさい!」
犬伏「しょうがないねぇ~、特別に~、いいこと教えてあげりゅ♪」
カーリー「いいこと?」
(奇妙な音)
犬伏I?「たしかに、催眠状態では嘘はつけない。ふっ、いくら私でもそれは無理だ。」
カーリー「っ!?」
(奇妙な音)
犬伏F?「でもねぇ、催眠術師は嘘がつける。鑑定した医者も、嘘がつける。警察の人も、嘘がつける。」
カーリー「・・・あ・・・。」
犬伏F?「鑑定員の人、悟に似てて、ちょっとかっこよかったよぉ。」
カーリー「まさか・・あなた・・、鑑定員を誘惑して、鑑定結果を偽装させたの!?」
(奇妙な音)
犬伏?「うふふふっ。」
カーリー「あなたはDIDじゃないの!?犬伏景子という人格しか(奇妙な音)存在していないの?!」
犬伏G?「あっははははは。なーんちゃってー♪そんなわけないない♪ゆるしてぇ~冗談ナリ~♪」
(奇妙な音)
犬伏?「私はDIDよ。じゃないと死刑になっちゃうし。」
カーリー「真実は何ッ!?あなたは誰ッ!?あなたは何者ッ!?」
犬伏?「さぁ?私は誰?私はどこ・・?プッ、あははははっあははははっあははっ」
犬伏?「あぁ、そんなことより大事なこと忘れてない?悟をそのままにしておいていいの?」
犬伏?「雪の上に落ちたから、まだ生きてるかも。助けてあげれば?」
カーリー「っ!」

私は、優希堂君を助けに向かった。

カーリー「優希堂君!大丈夫っ!?」
優希堂「う・・ぅぅ・・・。」

雪に埋もれていた優希堂君を助けながら、私は思った。
犬伏景子という女、よくわからない・・。
本当にDIDなのかすら、よくわからなくなってきた・・。

カーリー「ほらっ、しっかりしてっ!優希堂君っ!」
(優希堂を運びだすカーリー)
カーリー「ほら、ベッドに寝て。」
優希堂「ぅ・・ぁぁ・・。」
カーリー「骨は・・・、折れてないみたい。今、手当してあげるから。」
優希堂「・・すまない・・。」
カーリー「気にしないで。頭痛はない?吐き気は?」

犬伏景子のことがよくわからない・・。
でも、あの女が潤一を殺したことに、間違いはないのよ。
1月14日。あの子の命日に、必ず、犬伏景子に罪を償わせてやる。
必ず、この手で。

しかし、私は知らなかった。
優希堂君が時計塔から落ちたことが、合図だったなんて。
この出来事を境に、狂気に満ちた7日間が始まった。
そう、あの忌まわしい7日間が。


優希堂君の手当を終えた直後――

???「ぅぅぅ・・」

私の耳に子供のうめき声のような音が聞こえてきた。

???「ぅぅ・・ぅぅ・・」
カーリー「潤一・・?潤一なの!?」
???「ぅぅ・・ぁぅ・・・ぅぅぅ・・・」

確かに声が聞こえる。幻聴じゃない。
私と犬伏景子と優希堂君しかいないはず。
私は、謎の声に導かれるように、スフィアの廊下を歩いた。

???「ぅ、ぅぅ・・・ぁ・・・。」

声は、空き部屋から聞こえてくる。
おそるおそる、私は空き部屋のドアを開いた。

???「寒い・・。寒いよう・・。」
カーリー「誰かいるのっ!?」
???「助けて・・。助けてよう・・。」
カーリー「だ、誰っ?どうやってここに入ってきたのっ?」
???「ゆに・・。楠田ゆに・・・。」
カーリー「楠田ゆに!?」
ゆに「飛行機に・・・HAL18便に乗っていたはずなんだ。でも、気がついたら・・。助けて・・。」
カーリー「・・どうして・・。」
ゆに「寒いよう・・・。」
カーリー「どうしてあなたがここにっ!こんなところにいるはずない!!いるはずないのよっっ!」
ゆに「何言ってるの・・?わけわかんないよ・・寒いよ・・・。寒いよう・・・。」
カーリー「あの事件の生き残りがどうしてっ!!!」
(ガチャーン)
カーリー「・・っ!?今度はなにっ?」

キッチンから壮絶な物音が響いてきた。
私は悪夢にうなされているような気分で、キッチンに走った。
キッチンで、犬伏景子が倒れていた。
うめき声一つ立てず、ぐったりと横たわっている。
死んでる?
一瞬そう思った。
しかし、呼吸も、脈拍も、正常だった・・。

カーリー「人格・・Eなの?」

人格E。
エンプティとあだなされた五番目の人格。
鑑定にあたった医師たちの間でも謎とされていた人格だ。
意思のベクトルが剥ぎ取られたかのようなからっぽの人格。
完全なる虚無。それが、人格Eなのだと、解釈されている。
しかし、どうしてそんな人格が誕生したのかは、不明とされていた。

その時だった。
戸惑う私の耳に声が聞こえてきた。
犬伏のものでも、優希堂君のものでもない。
あの少年のものでもない。
不気味な、声!

 

セルフは・・どこ・・・。

 

(終)

最終更新:2023年05月31日 18:53