様々な謎を解いてきましたが、
ぽっかりと空いた穴のような存在があります。

犬伏景子

彼女が沙也香であるという真実を知っても
このゲームがかごめ歌のようなゲームだと知ってもなお、
多くの不明点、疑問点が残る。

A~Kまでのあだ名しかない11の多重人格
病院での無差別殺傷事件
未来を知っているかのような数々の言動
エピローグの崖上での悪魔のような顔

なぜこれらの不明点が残るのか

・・謝罪します。
私の考察の一部が間違っておりました。
そのために、本来通るべき謎解きのルートを飛ばしてしまい、
犬伏に関する謎を解くことができなかったのだと思います。

では、その間違いとはなにか

複数あるのですが、最初の1つ目は『多重人格の人格転移』についてです。

犬伏景子のE人格と沙也香の人格を入れ替えることで沙也香が救える。
と考えた私は、多重人格の人格転移は、
個別に人格を抽出して入れ替えることが可能だ
と思いこんでしまいました。

E人格に他の人格がくっついて転移してしまうと、
未来を知る人格が過去に行ってしまうことになるからです。

しかし、沙也香を救うE人格がエピローグの悟から生まれたのであれば、
別の可能性が出てくる。

それは、
多重人格者が人格転移した場合、全ての人格がまとめて転移する。
という可能性。

それを示す現象もあります。
穂鳥の人格転移です。

彼女は墜落のショックで患った失語症という心の病を、
転移先の犬伏の体にも持ち込んでいた。

多重人格も心の病のはずです。
ならば、同じことになるのではないでしょうか?

未来の犬伏の体には沙也香の人格だけでなく、他の人格も移動していた。
そう考えると、2001年の沙也香の中には、廃人悟の人格だけが残ることになる。
犬伏と沙也香の人格交換では歴史をなぞりながら沙也香を救い出すことはできず、
廃人悟と沙也香の人格交換でしか沙也香を救い出すことはできない。

犬伏のA~Kの多重人格は、沙也香の多重人格ではなかった。ということになります。

では、A~Kの人格は、どうやって生まれたのでしょうか?

多重人格とは、幼少期の子供が耐えきれないストレスを受けた際に
そのストレスから主人格を守るために、
ストレスを肩代わりするために、別の人格が生まれるものです。

悟は大人で、かつその耐えきれないストレスを受けて一度は心が死んでしまっています。

もし、耐えきれないストレスで大人の悟にも多重人格が生まれるのであれば、
時計台かエピローグで生まれているはずです。

仮に、沙也香の中に送り込まれた廃人悟の人格がよみがえり、
沙也香の中で目覚めたストレスで多重人格になったのだとしても、
A~Kなどという不自然な人格は生まれないはずです。
主人格を守るための別人格は、確固たる個を持っていないといけない。
名前のない人格など、生まれないと思うのです。


ならば、残る可能性はなにか?

 

・・犬伏景子のA~Kの多重人格は全て『詐病』


犬伏景子は多重人格ではなく、その中には悟の人格しかない。


エピローグで死んだ悟の人格は、
沙也香の体の中でよみがえり、全ての記憶を取り戻し
多重人格を偽った。


犬伏景子とは、優希堂沙也香であり優希堂悟でもあった。

彼女は我々のよく知る主人公の成れの果てだった。



それが私の出した結論です。


とんでもないことを言っている自覚はあります。
一度死んだ人格がよみがえるのか?という疑問も残るし、
いつ、何をきっかけに人格と記憶がよみがえったのかもわからない。

そんな馬鹿な。ありえない。と笑う方もいるでしょう。

しかし、このゲームは、そんなありえない真相ばかりのゲームではないでしょうか。

現に、悟の人格が多重人格を偽っていた。
という前提で、犬伏のことを考えると、
様々なことに説明がついてしまうように思うのです。


犬伏の奇怪な行動や言動も、彼女が悟だった。とすると説明がつく。

まるであらかじめ知っていたかのような言葉も、『悟として知っていたから』

転移直前に行きたくないと騒いだのも、どのタイミングで転移をするか知っていたから。

「刺すのと刺されるのどっちが好き?」と悟に聞いたのも、
悟の身体がナイフで刺され、悟の身体に入り込んだ胎児の人格が榎本を刺し殺すのを知っていたから。

DMTに苦しんでいるオレ悟に「アレやると、喉が渇くんだよね?」と言ったのも、
オレ悟としてDMTを飲んだ経験が犬伏にあったから。

 

狂人めいた行動も説明がつきます。

ネズミを躊躇なく殺したのは、助からないと知っていたから。

悟に殺されたがっていたのも、悟を殺したがっていたのも、
妹を殺し全ての元凶となっていた自身への嫌悪ゆえでしょう。

 

悟に興味を持っていたのも、自分自身だから。

5日目の犬伏とオレ悟のやり取りの『同じ境遇』という言葉も
転移のことではなく、『同じ人格』のことを指していたのでしょう。
悟「オレは今、非日常的な、とんでもなく特殊な状況に置かれてるんだ」
悟「一般的な基準は、オレには当てはまらない」
穂鳥「どう特殊だって言うの?」
悟「話しても信じてもらえないよ」
穂鳥「そんなのわからないじゃん」
穂鳥「もしかしたら、私も同じ境遇に巻き込まれてるのかも知れないわけだし」


ドラマCDでの凶行も説明がつきます。

時計台から落ちた悟を見て狂ったように笑っていたのは、
自分がセルフだと気づかずに時計台に登り、
自身の影をセルフだと思い込み怯え、
挙句、そこから落下し記憶を失った自身の愚かさを笑ったのでしょう。

 

犬伏を悟だとして見ると、彼女(彼)がオレ悟に抱いている感情は
『自嘲と自虐』であることがわかります。
彼女は、自身の愚かさを笑いつつも、自身の罪に苛まれていたのでしょう。

 

沙也香=犬伏=悟
として、3者の登場人物パーソナルデータを見ると、
そこにもトリックがいくつも隠されていたことがわかります。

まず犬伏=悟としてパーソナルデータを見た場合、一致する部分があります。

悟の趣味と犬伏の趣味がこちらです。


趣 味:読書
(ジャンルは問わず。
活字中毒で電話帳さえ楽しく読める)

犬伏
趣 味:電話・メール・チャット

通常は別人として見るので気づくはずもないことですが、
同一人物として見ると、その『電話帳さえ楽しめる活字中毒』という部分が
犬伏にも当てはまっていることがわかります。
 

悟の嫌いなことも犬伏に当てはまる。

嫌 い:嘘(真実を言えない場合は喋らない)
 

犬伏景子は、人をからかうのが好きな嘘つき。
という印象を抱いている方も多いと思いますが、
彼女が悟だという前提でサトル編を見返すと、
実は嘘をほとんど言っていないことがわかります。
彼女が嘘つきに見えるのは、『嘘に思える真実』と、『誤解を招く言葉』ゆえでしょう。
「私はDIDじゃない。」という、嘘にしか思えなかった言葉すら真実だった。
そして、どうしても嘘をつかないといけない場面では、その言葉の前か後ろに嘘、あるいは冗談だと宣言しています。

彼女が穂鳥だと名乗っていたことも、そのためだと思われます。

そのことを表している悟と犬伏の質疑応答がこちらです。

Q1:穂鳥はゆにからオレの名前を聞いたというが、それは本当なのか?
A1:本当である。
穂鳥(犬伏景子)とオレは、ずっと前からこの施設にいたはずだ。
にもかかわらず、穂鳥はゆにから聞くまで、オレの名前さえ知らなかったという。
穂鳥の人格は、昨日まで表に現われることはなかった、ということか……?

これも以前から悟を知っていた犬伏の嘘に思えますが、そうではない。
これは、犬伏のことではなく、『本当の穂鳥』のことを言っていた。
『穂鳥の人格』は、ゆにから悟の名前を初めて聞いたはずです。
この言葉も嘘に思える真実なのです。

犬伏は、穂鳥の名前を騙ることにより、
私(犬伏=悟の人格)と、穂鳥(本当の穂鳥の人格)を使い分け、
嘘になってしまう言葉や、言いたくない真実を、
穂鳥のことを語ることで躱していたのです。

犬伏が穂鳥の名前を騙っていたにも関わらず、
失語症という簡単に偽ることが出来た症状を偽らなかったのは、
その話のすり替えトリックの為だったのでしょう。

A~Kの人格に名前がなかったのも同様のことでしょう。

名前を名乗れば嘘になるから。
だから、〇〇と呼ばれている。という不自然な多重人格だったのです。

だから犬伏は、自分を決して犬伏景子だと認めなかったのです。
架空の人間だから。その名前を名乗れば嘘になるから。

穂鳥の名を騙っていることは嘘じゃないのか?と思われる方もいるでしょうが、
彼は人格転移により、一時的に雪山の穂鳥として存在していました。

オレ悟がこころの名を騙ることや、犬伏が穂鳥の名を騙ることは、彼にとって嘘にならないのです。

俺悟とオレ悟の記憶を有し、多くの人格転移を経験してきた彼は、
優希堂悟であり、優希堂沙也香であり、榎本尚哉であり、冬川こころであり、双子の胎児でもあった。
しかし、そのいずれの名も、言いたくない真実に該当する。

犬伏は穂鳥の名を騙るしかなかった。
だから彼女は自身が犬伏であることを否定し、涼蔭穂鳥だと言い続けていたのです。


犬伏景子が嘘つきに思えたのは、嘘が嫌いな男の人格のこだわりによるものだったのです。


正直、そこまでして嘘を言いたがらないのは異常と言っていいレベルですが、
オレ悟はいくらこころに言われても、腕時計を外すのをやめませんでした。
彼はどんな状況下にあっても、そういうこだわりを捨てられない男なのでしょう。

 

沙也香=犬伏として2人のパーソナルデータを見てもトリックがあったことがわかります。
沙也香のパーソナルデータには度々『人格により変動(主人格=』という表記があり、
多重人格者のデータであることを記していることがわかりますが、
犬伏のパーソナルデータにはその表記が一切ありません。
これは、一見、犬伏には主人格がない=沙也香の人格がない。ということに思えますが、
真実は、主人格がないのではなく、別人格がなかったからでしょう。
 

犬伏のパーソナルデータにあるこの文章も、誤解を招くトリックだったと思われます。

こころ視点で登場する方が、
本物の涼蔭穂鳥。
肉体は同一だが人格は別もの。
DID(解離性同一性障害)。
この設定は2012年のもの。

正確には、犬伏と穂鳥は『肉体も人格も別もの』でしょう。
にもかかわらず肉体は同一と言っているのは、
人格転移によって起こった疑似的なDIDを、本当のDIDだと読み手に誤解させるため。
各登場人物それぞれに
『この設定は2011年のもの。』
『この設定は2012年のもの。』
と、記していたのも、犬伏の真実を隠すため。
『本当はDIDではないが、2012年1月の転移が起きている間だけ疑似的なDIDだった』
という真実を、紛らわしい表現で誤解させるためにあったのだと思います。

TIPSにあって然るべきだった『ある情報』がなかったのもその為でしょう。

TIPSには『DID(解離性同一性障害)』の情報がなかった。
性同一性障害や境界性人格障害
DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の情報はありながら、
DIDの情報がなかったのは、犬伏の不自然な多重人格に気づかせないためだった。

沙也香の多重人格と犬伏景子の多重人格の情報がTIPSになかったのも同様でしょう。


このゲームは、TIPS(用語解説)という、
プレイヤーが知るべき情報、嘘のない情報、
と誰もが思うであろう情報すらも、トリックがあった。
TIPSすらも信用してはいけなかったのです。


「全ては誤解だったのだ」

「誰の言葉も信用してはいけない」

「常識という枠に囚われてはいけない」

犬伏景子という存在も、これらの言葉に合致する、
誤解にまみれた非常識な存在だったのです。

 

その非常識な存在が、なぜ多重人格を偽ったのか?
それは次の項目、病院事件で解説させていただきます。

最終更新:2024年11月25日 13:51