3日目のSPHIAで行われたバスケットボールのフリースロー対決

あの遊んでいただけに思えたシーンも、
実はとんでもない謎が潜んでいたと思います。

既読率を上げようとプレイしていた人はご存じだと思いますが、
あのフリースロー対決の結果は『ランダム』になっていました。

同じ選択肢を選んでもシュートの成否がランダムで変わるのです。
同じ選択肢を選んでいるにもかかわらずボールが入ったり外れたりする。

おかげで、既読率を上げようとすると、何度も何度も何度も
同じ選択肢を選ばないといけない羽目になり、
なんでこんな面倒くさい要素があるんだ。
と憤ったプレイヤーも少なくないでしょう。

ADVゲームやノベルゲームとしても珍しいランダム要素ですが、
このゲームにおいてはとてつもなく重要な問題をはらんでいます。

繰り返すことで成り立つ真理の世界にランダム要素などあってはならないからです。

そんなものがあっては真理の世界など存在できない。
なのにそれがある。
真理の世界を壊さない小さな遊びのシーンでだけ。

なんでもないように見えたあのシーンは実は大変な異常事態なのです。


では、なぜそんなことが起きてしまうのか。
やり直して確認すると、シュートの成否がランダムだったのは、
オレ悟と犬伏だけで、
ゆにとカーリーのシュート結果は固定でした。

この時点で、バスケットだからランダムという可能性は消えます。

そして、プレイヤーの影響でランダムが起きたという可能性も消える。
プレイヤーの選択がランダムを起こしているのであれば、
ランダムなのは悟のシュートの成否だけになるはずです。

何故、オレ悟と犬伏だけがランダムなのか。

それは犬伏が犬伏悟だから。だと思われます。


真理の世界は無限に繰り返す世界です。
が、当然登場人物の記憶は引き継がれない。
何周しても彼らの記憶はその都度リセットされる。

しかし犬伏悟だけは違う。

彼女(彼)だけは、俺悟とオレ悟の記憶を引き継いで
2周目の世界をやり直していることになります。

すると彼の目からSPHIAはどう見えるのか。

我々プレイヤーが2周目をプレイしたと考えてみてください。
同じ選択肢を選ぶことは少ないですよね?
既読率を増やしたりエンディングリストを増やすために、
違う選択肢を選ぼうとするはずです。

犬伏悟の目から見た2周目の世界は、
『SPHIAだけ』が自身の記憶、
オレ悟で経験した世界の記憶と微妙に違ってみえるはずです。

転移(ゲームが始まる)前までは、同じ世界なのに、
転移後から、何か微妙におかしいと気づくはずです。
オレ悟だった時の自分の言葉とは違う話をする目の前の悟に違和感を持つはずです。

そして決定的な違いを見つけてしまう。

犬伏は、悟がこころとやり取りしているメモ帳を見たと言っていました。

イラストを見たはずです。

こころが書いた上から、胎児の人格がぐちゃぐちゃにしたイラストを。

こころ編であのイラストは3択でした

雪だるまの絵を描く
ウサギの絵を描く
チューリップの絵を描く

この選択肢も、サトル編グッドエンド直前のテキストに影響するため、
既読率100%を目指すプレイヤーには大変面倒くさい要素だったのですが、
この面倒なだけに見えた選択肢が、
実は犬伏悟が世界の違いに気づく決定的な要素になったのではないでしょうか?

そしてもう一つの存在にも気づいた。

超越的な存在。我々プレイヤーの存在に。

彼はずっと、それを追い求めていたから。


気づいたものの、沙也香を救うために歴史をなぞるという
絶対の使命がある犬伏悟には、軽はずみな行動は許されない。

それでも自分の気づきをただ見過ごすことも出来ない。

だから歴史に影響しないフリースロー対決で、
自身がオレ悟で見た犬伏の記憶とは別の行動を取った。

オレ悟のシュートの寸前にも犬伏は接触、声掛けをしていました。
彼の中にいるであろう超越的な存在に気づいていた犬伏悟は、
逡巡し声をかけるタイミングが変わった。

それが、犬伏とオレ悟のランダム要素になったのではないでしょうか?

たまたま2周目の犬伏悟の記憶とプレイヤーの選択肢が一致して、
彼女が何も気づかずに終わることもあるでしょう。

その気づきの違いが、ランダム要素になったのではないでしょうか?

あのなんでもないように思えたランダム要素は、
超越的な意思を追い求めていた悟が、
プレイヤーが乱した世界を2周したことによって起こった奇跡。

二次元世界の人間が、本来知覚することなど出来ない
上位世界の超越的な存在(プレイヤー)を知覚し、
手探りで伸ばした指先が、決して触れることなどできないはずの指が
我々に触れた結果だったのではないでしょうか?

あのシーンは、メタフィクションの極致と言っていい、
斬新なアイディアが織り込まれた、とんでもないシーンだったのではないでしょうか。

最終更新:2024年03月18日 16:46