プレミスの創作

プレミスの創作


書籍「ストーリーの解剖学」に書かれている「プレミスの創作」についてのまとめです。


Step1. プレミスは「あなた自身の人生を変えてしまう」ほどのものを書くこと


プレミスを書く時、多くの人が「他者の模倣」から入り、どこかで見たような内容にとどまってしまいますが、私的なものがなく、ありふれた模倣は人の心に響きません。
方法として有効なのは「自分の人生を変える」ような話を書くことです。これは「自分にとって重要なストーリーは他人にも響く可能性が高い」という理由によるものです。
「自己分析」を行う
  • 人生を変えるような物語を書くための方法として有効なのは「自己分析」です
  • 自己の分析を行うことで、物語に自分自身の経験や価値観を反映させることができます
エクササイズ①:「書きたいことリスト」を作る
  • では自己分析はどのように行うのか?
  • 1つの方法として、映画や本、舞台で「自分が見たいもの」をすべて書き出します
  • 興味を引くテーマ、自分を楽しませたアイデア、キャラクター、印象的だったセリフ、衝撃的なプロットツイスト、特定のジャンルなどを制限なく列挙します
  • ここで注意点は、整理や制約を気にせず自由に書ことです
  • 私的な書きたいことリストからは、何一つ不採用にしてはいけません
  • 内容の重複も気にせず書き出します
エクササイズ②:「プレミスリスト」を作る
  • ストーリーのアイデア(プレミス)を一文で記述し、数多く書き出します
  • 5つかもしれないし、20、50のプレミスが思いつくかもれませんが、すべて書き出します
  • 注意点はプレミスの定義である『一文または二文で表現し、「誰が」「何を」「どうするか」を明確に伝える』をしっかり考えることです
  • こうやって明確な表現でアイデアを整理することで、後から見直しやすくします
共通要素を見つける
  • 最後に両方のリストから繰り返し現れる要素(特定のタイプのキャラクター、同じテーマや主題、同じ主張、あるジャンルのストーリーなど)を探します
  • これらが自分が本当に大切にしている核となる要素であり、独創的なストーリーの基盤になります

このプロセスは、自分の心を開き、本当に書きたいものを明確化するための手法です。
人生を変えるストーリーを書く保証はないものの、この作業によって自己分析を行うことで、今後は個人的で独創的なプレミスを生み出せる可能性が高まります。

Step2. アイデアの「可能性」を探る

1. アイデアの可能性を広げる
  • プレミスの段階で失敗しないためには、アイデアの真のポテンシャルを見極める必要があります
  • これは方法論だけでなく、経験も求められるプロセスです
2. アイデアの「約束」するものから複数の選択肢を探求する
  • たった1つの候補に飛びつかず、アイデアが持つ様々な可能性をブレインストーミングします
  • それには、まずはアイデアが何を「約束」するものかを見極めることが重要です
  • 例えば「マフィアファミリー」というアイデアは「冷徹な殺人と暴力的犯罪」を約束します
3. 「もし……なら?」と問いかける
  • 次に「もし……なら?」という問いを使い、ストーリーアイデアとその可能性を深掘りします
  • この問いは、ストーリーの世界で何が起こり得るか、または起こり得ないかを理解する機会を与えます
  • そして舞台設定やディテールを肉付けし、観客を惹きつけるアイデアを発展させます
  • 「もし…なら?」を使った考え方には、ミステリーであれば以下の例があります
  • 「もし殺人犯を捕まえることを超越して、正義とは何かを描いてみたら?」
  • 「もし究極なまでに詩趣に富んだ正義を描いてみたら?」
4. 評価せず自由に考える
  • ブレインストーミング中は自己評価や否定を行わないことが大切です
  • 一見「馬鹿げた」アイデアでも、クリエイティブな解決策や斬新な方向性につながることがあるからです

このプロセスでは、アイデアの可能性を最大限に広げ、その中から最良の道筋を選ぶことが目標です。
「もし……なら?」という問いと自由な思考が、新たな発見や独創的なストーリー構築につながります。
作品例 アイデア 約束 「もし……なら?」
『刑事ジョン・ブック 目撃者』 犯罪の現場を目撃した少年 ・サスペンスの典型
・迫りくる危機感
・激しいアクション
・バイオレンス
「もしアメリカ社会の潜在的暴力を探求してみたら?」
「もし暴力と無抵抗主義という両極を描いたら?」
「もし暴力を使う刑事が平和な恋に落ちたら?」
「もし無抵抗主義に暴力を持ち込んだら?」
『トッツィー』 女性軽視の男性が女装する ・女装男性の滑稽さ
・多くの困難な状況
「もし『約束』の予想外の展開が起こったら?」
「もし男性が心からの恋の駆け引きを見せたら?」
「もし立場上やりたくないことをやらせたら?」
「もし多くの男性と女性から同時に迫られたら?」
『チャイナタウン』 殺人事件を調査する探偵 ・新事実の発見
どんでん返し
・サプライズ
「もし事件が底なしに深まったら?」
「もし他愛ない浮気調査が大きな陰謀につながったら?」
『ゴッドファーザー』 マフィアファミリーの
ストーリー
・冷徹な殺人
・暴力的犯罪
「もしファミリーのボスがアメリカの王のような存在だったら?」
「もし伝統的な童話の構造をモチーフにしてみたら?」
「もし暗いアメリカの側面を描いた大作物語にしたら?」
『オリエント急行殺人事件』 探偵の隣の車室で
殺人事件が起きる
・精巧な推理物語 「もし正義とは何かを描いてみたら?」
「もし詩趣に富んだ正義を描いてみたら?」
「もし被害者が断罪すべき人物だったら?」
『ビッグ』 少年が目を覚ますと
成長した大人になっていた
・楽しい喜劇の
ファンタジー
「もし現実的な世界で描いてみたら?」
「もし美人でセクシーな女性と交際させてみたら?」
「もし少年と大人の心を併せ持つ理想的な大人を描いたら?」

Step3. ストーリーの「問題点」を見定める


どんなストーリーにも構造上の問題点が潜んでおり、それらを解決することが本当のストーリーを見つけ出す鍵となります。
この能力は執筆経験や他作品の分析を通じて身につけることが可能です。
作品例 問題点 解決法 説明
『スター・ウォーズ』 広大な世界観で多様なキャラクターを迅速に紹介し、
未来的な物語に説得力を持たせつつ、
観客に共感させる必要がある
シンプルなストーリー構造 物語を「善対悪」という普遍的テーマに基づくシンプルな構造にし、
観客が世界観を理解しやすくした (→表面的な善悪二元論)
キャラクターの役割分担 各キャラクター(ルーク、レイア、ハン・ソロ、ダース・ベイダーなど)
の性格や目的を明確化し、それぞれが物語の進行に
重要な役割を果たすよう設定
主人公の成長と変化をいかに描くか 英雄の旅 ルークの成長を「英雄の旅」(→ヒーローズ・ジャーニー)
という古典的な物語構造に沿って描き、彼が未熟な青年から
自信を持ったヒーローへと変化する過程を納得感のあるものにした
『フォレスト・ガンプ』 歴史的出来事を自然な形で凝縮された
個人的な物語に転換しなければならない
歴史的出来事との融合 フォレストがアメリカの歴史的瞬間(ベトナム戦争、公民権運動など)
に偶然関わる形で物語を進行させ、歴史と個人の物語を自然に結びつけた
知的障害を持つ主人公に物語を進める力と
説得力を与えることが重要となる
ナレーション フォレスト自身が語り手となることで、彼の純粋で独特な視点から
物語が展開され、観客は彼の視点に共感しやすくなる
特異な性格と純粋な言葉のバランスを取り
共感の得られるキャラクターにしなければならない
受動的主人公 フォレストは自ら積極的に行動するというよりも、
周囲の出来事に巻き込まれる形でストーリーが進む。
この受動性がかえって彼の純粋さや運命への信頼感を際立たせた
『ジョーズ』 サメという知性に限界のある敵との戦いを
リアルかつ緊張感ある恐怖として描く必要がある
見せない恐怖 サメそのものを頻繁には映さず、水中からの視点や音楽
(ジョン・ウィリアムズ作曲)で不安感と緊張感を演出。
これにより観客はサメへの恐怖心を増幅させられた
サメが頻繁に襲ってくるという状況を
しっかりと設定するにはどうすればよいか
現実的な設定 小さな島という閉鎖的環境でサメ被害が続発する状況を設定し、
住民たちの恐怖やパニックも描写してリアリティを高めた
(→クローズド・サークル, 家のなかのモンスター)
主人公とサメの1対1の対決で物語を締めくくる
工夫が求められる
クライマックス
逆転劇
最後は主人公ブロディが知恵と勇気でサメを倒す直接対決のシーンで
締めくくり、カタルシスを提供した
『華麗なるギャツビー』 アメリカンドリームの崩壊
(名声や富を追うだけの競争)
を描くにはどうすればよいか
象徴性 ギャツビー邸や緑色の灯台など、象徴的なモチーフ
(アメリカンドリームや希望)を多用してテーマ性を強調した
第三者視点の主人公に原動力を与え、浅薄な
キャラクターたちへの読者の興味を引き出すためには
ニック視点 ニックは「観察者」としてギャツビーやデイジーたちを見る立場だが、
彼自身もギャツビーへの憧れや失望という内面的変化を経験することで
読者との共感ポイントとなった
ささやかなラブストーリーをアメリカ社会の
メタファーへと変貌させるには
社会批判として昇華 ギャツビーとデイジーのラブストーリーだけでなく、
その背景にある階級格差や夢追い人たちの虚無感など、
アメリカ社会全体への批評として物語が機能するよう構成した

Step4. ストーリーの「設定原則」を見出す


設定原則とは、ストーリー全体を貫く抽象的で独創的な「基準」や「設計図」のようなもので、一文で表現され、物語の奥深いプロセスを示します。
これはストーリーの内部回路として、キャラクター、プロットテーマなどを系統立てて結びつけ、ストーリーは単なる出来事の積み重ね以上の深みを持ち、独創性が生まれます。
プレミスとの違い
  • プレミスは具体的な出来事を示します、設定原則はその背後にある抽象的なプロセスを表します
設定原則の重要性
  • ストーリーの「種」となり、物語全体を統一し独特なものにします
  • 優れたストーリーには必ず設定原則が存在し、それがストーリーの質を決定づけます
  • 設定原則がないストーリーは平凡で一般的な展開に陥りやすい傾向にあります
実践と継続
  • 設定原則は見出すこと自体が難しいが、一度発見したら執筆プロセス全体でそれに忠実であることが重要
  • 設定原則はストーリー設計の基盤となり、最後まで物語を方向付ける指針となる

設定原則の例は以下のとおりです。
作品例 プレミス 設定原則
『ゴッドファーザー』 マフィア一家の三男が組織を継ぐ物語 三人兄弟の末っ子が新しい『王』となる姿を、
古典的おとぎ話の戦略を使って見せる
『トッツィー』 男性俳優が女性に変装して役を得るが、
共演者に恋をする
男性偏重主義者を女性として
生きなければならない状況に陥らせる

設定原則の見出し方としては以下の方法があります。
1. ストーリー全体を総合的に捉えること
  • ストーリーの大目的やテーマを一文で表現する
  • アイデアを総合的に扱うことで、物語が内的にまとまり独自性を持つ
2. 旅のメタファーの活用
ストーリー全体を「旅」として捉える方法。例:
  • 『ハックルベリー・フィン』: ミシシッピ川をいかだで下る旅
  • 『闇の奥』: 川を下って未知へ進む旅
  • 『不思議の国のアリス』: ウサギ穴から逆さまの世界へ落ちる旅
3. ジャンル依存から脱却
  • ジャンルに典型的なプロットに頼らず、オリジナルな視点からプレミスを深掘りして設定原則を導き出す

Step5. アイデアの中から「ベストキャラクター」を決める


ベストキャラクターにおける「ベスト」とは、最も適したキャラクターを指し、必ずしも好感が持てる性格である必要はありません。
「最も魅力的」で「最も困難な状況」に置かれ「最も複雑な内面」を持つキャラクターであり、このキャラクターがストーリーの原動力となって、観客や作者自身の興味を引きつける存在となります。

ベストキャラクターを見極める方法には以下の問いを使います
1. 「好きなキャラクター」であるか?
  • まずは「私は誰のことが好きか?」ということを考えます
  • それに対する答えが出たら、次の問いに進みます
2. 「愛着や興味」がそのキャラクターにはあるか?
好きなキャラクターに対して本当に「愛着や興味」があるかどうかを確かめます。
具体的には以下の質問に答えられるだけの理由を考えます。
  • 「私はこのキャラクターが『行動』する姿を見たいと思うか?」
  • 「彼(彼女)の『考え方』に興味があるか?」
  • 「彼(彼女)が直面する『困難』に心から関心を持てるか?」
3. 「興味が持てない」と思ったら…
  • これらの質問に答えた結果、キャラクターの行動原理や葛藤に対して興味が持てないことがあります
  • その場合はアイデアを放棄し、新しいアイデアに取り組むべきです
4. ベストキャラクターが見つかってもストーリーに当てはまらない場合は…
  • 見つけたベストキャラクターがメインキャラクターでない場合、プレミスをそのキャラクターに合う形に作り替え、主人公として物語を再構築します
  • メインキャラクターが複数いる場合、それぞれのキャラクターに対応したストーリーラインを持たせ、それぞれの「ベスト」を引き出す必要があります

Step6. 中心となる「葛藤・対立」をとらえる


中心となる葛藤・対立とは、ストーリーの本質を決定づける、物語の根本的な対立や衝突のことです。
それは、ストーリーの原動力となる人物が関わる、最も重要なテーマや争いです。
葛藤・対立を見出す方法には以下の方法があります。
1. 「誰が何をめぐって誰と戦うのか?」
  • この問いに答えることで、ストーリーの中心的な構造が明確となります
2. 簡潔にまとめる
  • この答えは「簡潔な一文」で表現することで、物語の本質を把握できるようになります
「葛藤・対立」をとらえることの重要性
  • ストーリーにおけるあらゆる葛藤や対立は、この中心的な葛藤・対立に集約されます
  • これにより、本質的なレベルで何を描くのかが明確になり、物語全体の方向性が定まります

Step7. 原因と結果という「1本の道筋」をとらえる


原因と結果の一本道とは、Aが原因でBが起こり、そのBが原因でCが起こるという一本道の因果関係で構成されていることです。
この一本道はストーリーの「背骨」に相当し、これが欠けたり複数に分裂すると物語がバラバラになってしまいます。

問題点と解決策としては、以下の例があります。
悪い例
「恋に落ちた男が、ワイン醸造場の支配権を兄と争う」
→ 2つの独立した道筋("恋愛" と "兄弟争い")が混在しており、統一感がない
修正例
「ある男が、善意ある女性の愛を通して、ワイン醸造場を支配している兄を倒す」
→ "恋愛" と "兄弟争い" が一本化され、原因と結果の道筋が明確になる

一本道を見出すコツには以下の方法があります。
1. 主人公の基本的行動を特定する
  • 主人公の行動全体を統合する「特に重要な行動」を見つけます
  • これが原因と結果の道筋となります
2. プレミスを一文にまとめる
  • ストーリー全体を簡潔に表現することで、分裂した道筋を発見し修正しやすくなります

例として、有名作品の基本行動を考えてみます。
作品例 プレミス 基本行動 説明
『スター・ウォーズ』 プリンセスが死の危機にさらされたとき、
ある若者が戦うものとしての
技術を駆使して彼女を救い、
銀河帝国の邪悪な力を打ち倒す
「戦うものとして技術を駆使する」 プリンセス救出や帝国打倒に繋がる
『ゴッドファーザー』 マフィアファミリーの末っ子の息子が、
彼の父親を撃った男たちに復讐して
新たなゴッドファーザーとなる
「復讐する」 父親への復讐から新たな
ゴッドファーザーへの成長に繋がる

もし複数のメインキャラクターが存在する場合は、それぞれに一本の原因と結果の道筋(ストーリーライン)を持たせる必要があります。
それによって、ストーリーラインは最終的に統合され、全体として一つの背骨となります。
例: 『カンタベリー物語』
  • カンタベリー物語は複数の登場人物の視点で物語が語られます
  • ただ、それらは「カンタベリーへの旅」という共通の背骨で結びついています

原因と結果による一本道は、ストーリーに統一感と説得力を与える重要な要素です。
主人公の基本的行動を軸にプレミスを整理し、分裂した要素を一本化することで、物語全体を強固な構造へと導くことができます。

Step8. 主人公の「キャラクターアーク」の候補を考える


キャラクターアークは、ストーリーの核となる要素であり、観客に深い満足感を与えます。
主人公が葛藤や対立を経て変化する過程が、物語全体の感情的な柱となり、変化がポジティブであれネガティブであれ、キャラクターの成長や堕落が明確であることが重要です。
キャラクターアークは以下の3つの要素で構成されます。
1. W (Weak)
  • 主人公が抱える精神的・道徳的な弱点
  • 例:恐怖心、自己中心性、過去のトラウマなど
2. A (Action)
  • ストーリーを通じて主人公が取る基本行動と、それに伴う葛藤や対立
  • 例:愛を求める行動、復讐への執着、新しい挑戦への挑む姿勢など
3. C (Change)
  • ストーリーの結末で見られる主人公の変化した姿
  • 例:弱点を克服して成長する(ポジティブな変化)、または弱点に飲み込まれて堕落する(ネガティブな変化)

この公式「W x A = C」に基づき、弱点(W)を中心に基本行動(A)を設定し、それによって生じる変化(C)を描きます。
キャラクターアーク設計の手順は以下のとおりです。
1. シンプルなプレミスを書く
  • まずは物語全体を一文で表現できるプレミスを作成します
  • この時の注意点として、柔軟性を持たせて後から修正可能な形にしておきます
2. 主人公の基本行動(A)を決める
  • 主人公が物語全体で繰り返す中心的な行動を明確にします
  • この行動は弱点 (W) と向き合い、変化を強いるものである必要がある
3. Aの正反対(~A)を考える
  • 基本行動 (A) と対極にある行動 (~A) を想定することで、主人公のスタート地点 (変化前) とゴール地点 (変化後) を明確化する
4. W(弱点)とC(変化)の候補を書き出す
  • 主人公が抱える可能性のある弱点を考えられる限りリストアップします
  • W (弱点) に基づき、最終的にどのように C (変化) するか(成長・堕落)も考えられるものすべての候補をリストアップします
具体的なコツ
  • 主人公が直面する「対立」を設計するときは、それが基本行動(A)の「支点」となるように設定します
  • 対立や葛藤によって主人公が「鍛えられ、生まれ変わる」プロセスを意識します
  • 弱点と向き合うことを避けられない状況や選択肢を物語内で提示し、自然な変化へと導きます

実践例を上げておきます。
プレミス
  • 「孤独を恐れる青年が、人とのつながり方を学び、自立した人生へと踏み出す」
1. 基本行動(A)→ 正反対の行動 (~A)
  • 他者に依存し続けようとする → 自分自身で問題解決に取り組む
2. 弱点(W)
  • 孤独への恐怖、自信の欠如
3. 変化(C)
  • 孤独でも自分自身で立ち上がれる強さと自信を得る

Step9. 主人公の「道徳的決断」の候補を考える

道徳的決断の役割
  • ストーリーのテーマは、主人公が迫られる道徳的な二者択一の決断を通じて表現されることが多いです
  • 特にストーリー終盤で下されるこの決断が、物語全体を通じたテーマの核心を形作ります
  • テーマは「キャラクターの行動や選択」を通じて表現されるべきであり、哲学的な議論ではなく、人生観や価値観を「行動」で示す形が理想的です
本物の決断とは
  • 本物の決断は、どちらを選んでもポジティブ、またはどちらを選んでもネガティブな結果が生じる選択肢です
  • 本物ではない決断とは、明らかに一方が優れており、主人公が迷う必要のない選択肢です
  • 例:「刑務所行き」か「好きな人と結ばれる」かという選択。この場合、当然「好きな人と結ばれる」を選びます

本物の決断を作るには以下のような条件を満たす必要があります。
どちらもポジティブな選択肢
  • 例として「愛」と「名誉」のどちらを選ぶか
  • 「武器よさらば」の主人公は愛を、「マルタの鷹」の主人公は名誉を選んだ
どちらもネガティブな選択肢
  • 稀に「ソフィーの選択」のように、どちらも苦痛を伴う中で一方を回避する選択肢も有効
バランスの取れた選択肢
  • 可能な限り二つの選択肢は均等に近いものにします
  • ただし、一方をほんの少しだけ魅力的にすることでリアリティと緊張感を高めます
  • 選択肢が均等であればあるほど、主人公の内面葛藤が深まり、物語としての厚みが増します

執筆初期段階での活用
  • この手法は執筆プロセス初期段階で、テーマについて実践的に考えるためのツールとして用いる
  • 初期段階で考えた道徳的決断は、ストーリー全体を書き進める中で変化する可能性があるため柔軟性を持たせる

主人公に強いる道徳的決断は、ストーリー全体を支えるテーマそのものとなります。
そのため、どちらを選んでも意味や価値が生まれる「本物の決断」を設計することが重要です。この過程は単なるアイデア出しではなく、物語全体のテーマやメッセージを深く掘り下げるための重要なステップとなります。

Step10. 観客へのアピール度を評価する

観客へのアピール度を問う重要性
  • プレミスが完成したら、自分以外の多くの人々にとっても興味を引く内容かどうかを問い直すことが重要です
  • もし自分だけ、あるいは自分の家族だけが興味を持つような内容であれば、そのプレミスを基にストーリーを書くべきではありません
自己満足と商業性のバランス
  • 自分が興味を持つものを書くべきですが、「自分だけのため」に書くべきではありません
  • 多くのライターが陥りがちな「自分が書きたいもの」と「売れるもの」の二元論にとらわれる必要はありません
  • 古風な「芸術のために貧困に耐える」というロマンティシズムに縛られるべきではなく、観客にも響く作品を目指すべきです
アイデア選びの指針
  • 書きたいアイデアが浮かんだとき、それが観客に受け入れられるかどうか全く想像できない場合でも、即座に諦める必要はない
  • 一生のうちに思い浮かぶアイデアは膨大であり、そのすべてをストーリー化することは不可能です
  • そのため「自分が心から関心を持ち、なおかつ観客にも選ばれるもの」を優先して取り組むことが重要です

プレミスの評価では、自分自身の情熱と観客へのアピール度の両方を考慮する必要があります。
自己満足だけでなく、多くの人々に共感や興味を引き起こす内容であるかどうかを冷静に判断し、限られた時間や労力を最も価値あるアイデアに注ぐことが成功への鍵となります。

まとめ:プレミスの執筆エクササイズ

プレミス
  • 一文の文章でプレミスを書きます
  • そのプレミスはあなたの人生を変えることができる物語かどうかを自問します
「書きたいことリスト」と「プレミス・リスト」
  • 「書きたいことリスト」と「プレミス・リスト」を作成します
  • この2種類のリストを一緒に分析し、共通する項目や心から関心のある要素、楽しんでいる要素を導き出します
潜在性・可能性
  • そのプレミスで何が可能なのかを探り、その選択肢の数々を書き出します
ストーリーの課題と問題点
  • そのストーリー・アイデアならではの課題と問題点を、考えられる限り記述します
設定原則
  • そのストーリー・アイデアの「設定原則」を書き出します
  • 設定原則とは、ストーリーが独創的に展開するための深いプロセスや形態について述べたものです
ベストキャラクターを見つける
  • そのストーリー・アイデアにおけるベストキャラクターを決めます
  • そのキャラクターをプレミスの主人公にします
葛藤・対立
  • 「この主人公は誰と戦い、何をめぐって戦っているのか?」を自問します
基本行動
  • 主人公がそのストーリーで行う「基本行動」を特定して、原因と結果の1本の道筋を見つけます
キャラクターアーク
  • 「基本行動 (Action)」を定め、その基本行動の正反対にあたるものを考えます
  • そして物語の開始地点における主人公の弱点(Weak) と終盤での変化 (Change) を色々と考えます
  • その過程でキャラクターアークの候補を上げていきます
道徳的決断
  • 主人公がストーリーの終盤近くで下す「道徳的決断」の候補をリストアップする
  • 主人公にとって決断が難しく、しかも説得力のある二者択一を用意します
観客へのアピール
  • そのプレミスが幅広い観客にアピールできるかどうかを自問します
  • アピールポイントが弱いと感じた場合、もう一度白紙の状態からやり直します

参考資料


関連ページ

最終更新:2025年03月13日 00:49