キャラクター・ウェブ
物語は主人公だけで成り立つものではなく、複数のキャラクターが相互に関係し合う「キャラクター・ウェブ」によって構築されます。
主人公に焦点を当てる前に、全体のキャラクター構造を考えることが重要です。
キャラクター創作のプロセス
- 1. キャラクター・ウェブの構築
- 物語に登場するすべてのキャラクターを「ストーリー・ファンクション(物語上の役割)」や「アーキタイプ(典型的な役割)」に基づいて分類し、それぞれがどのように他のキャラクターと関わるかを整理します
- キャラクター同士を比較し合うことで、主人公や他の登場人物が自然な形で物語に溶け込むようになります
- 2. テーマと対立関係の設定
- キャラクターごとにテーマや対立関係を基盤として個性や特色を与えます
- これにより、物語全体の深みと一貫性が生まれます
- 3. 主人公の構築
- キャラクター・ウェブが完成した後、観客が心から共感できるような深みと複雑さを持つ主人公を一歩ずつ作り上げます
- 4. ライバルの詳細設計
- ライバルは主人公に次いで重要な存在であり、主人公を定義するカギとなります
- ライバルを丁寧に設計することで、物語の緊張感や対立構造が強化されます
- 5. 全体的な葛藤・対立の再確認
- 最後にストーリー全体を通じた葛藤や対立構造を見直し、キャラクター設計全体が物語と調和しているか確認します
キャラクター・ウェブとは
「キャラクター・ウェブ」は、物語内のすべてのキャラクターが相互に影響し合い、お互いを定義づける関係性のネットワークです。
このウェブは以下の4つの要素で構成されます:
- ストーリー・ファンクション
- アーキタイプ
- テーマ
- 対立
これら要素を通じて、主人公だけでなく他のキャラクターも自然かつ効果的に物語へ組み込むことができます。
ストーリー・ファンクション
ストーリー・ファンクションは、物語における各キャラクターの役割や機能を指し、すべてのキャラクターが物語の意義に貢献するよう設計される必要があります。
- 主人公
- 主人公は物語の中心であり、主要な問題を抱える人物です
- ゴールを目指す決意を持ちながらも、特定の弱点や欠陥が成功を妨げます
- 物語の紆余曲折は、主人公と他キャラクター(ライバルや仲間など)との間で生じる敵対や友好関係によって展開されます
- ライバル
- ライバルは主人公の目的を妨げる存在であり、主人公と同じ目標を追求することが多いです
- 表面上は直接的な対立が見えない場合もありますが、二人の関係性は物語のテーマや主要な論点を形成します
- ライバルは必ずしも主人公を嫌っているわけではなく、道徳的に優れた人物や友人、恋人である場合もあります
- 仲間
- 仲間は主人公を助ける存在であり、主人公の価値観や感情を観客に伝える役割も果たします
- 多くの場合、仲間は主人公と同じゴールを共有しますが、自身の別の目標を持つこともあります
- 仲間のふりをしたライバル
- 一見すると主人公の味方ですが、裏切りによって実際にはライバルとして行動するキャラクターです
- このタイプはプロットツイストやライバルの影響力を強化するために重要であり、多くの場合、役割上のジレンマを抱えています
- 最終的には主人公を助けることもあります
- ライバルのふりをした仲間
- 表面的には主人公と争っているように見えますが、実際には味方であるキャラクターです
- このタイプは「仲間のふりをしたライバル」と比べて作品に登場する頻度が少なく、プロットへの影響力も限定的です
- サブプロット・キャラクター
- このキャラクターは二次的なストーリーラインで活躍し、主人公と似た問題に異なる形で対処することでコントラストを生み出します
- その比較によって主人公の弱点やジレンマが強調されます
- ただし「仲間」のように主人公のゴール達成を直接助ける存在ではありません
すべてのキャラクターが一つのチームとして機能し、それぞれの役割を果たすことで、物語全体が成立します。
特に観客が興味を持つ「主人公の変化」を描くためには、他キャラクターとの相互作用が不可欠です。この相互関係によって物語が深まり、一貫性と説得力が生まれます。
+
|
作品例:『鬼滅の刃』におけるストーリー・ファンクション |
作品例:『鬼滅の刃』におけるストーリー・ファンクション
役割 |
キャラクター |
説明 |
主人公 |
竈門炭治郎 |
炭治郎は物語の中心人物で、家族を鬼舞辻無惨に殺され、妹・禰豆子を人間に戻すという 目的を持つキャラクターです。彼の優しさと強い意志は物語を前進させる原動力であり、 鬼たちに対しても同情を示す姿勢が特徴です。 彼の成長と変化は物語全体のテーマである「人間性」「赦し」「希望」を体現しています |
メインライバル |
鬼舞辻無惨 |
無惨は炭治郎の家族を殺し禰豆子を鬼に変えた張本人であり、物語全体の主要な対立軸です。 無惨は力と不死を追求する冷酷な存在であり、自身の支配を脅かすものを排除しようとします。 炭治郎との対立は「自己犠牲と利己主義」というテーマを象徴しています |
サブライバル |
上弦の鬼 |
上弦の鬼たちは鬼舞辻無惨直属の精鋭であり、それぞれが炭治郎や柱たちと激しい戦いを繰り広げます。 彼らは無惨ほどの「メインライバル」ではないものの、物語全体において重要な敵対者であり、 「サブライバル」と位置づけられます |
仲間 |
鱗滝左近次 |
鱗滝は炭治郎の師匠であり、元・水柱として鬼殺隊を支える重要な存在です。彼は育手として炭治郎を訓練し、 禰豆子に「人間を守る」という暗示をかけるなど、物語の進行を助ける役割を担っています。 したがって、鱗滝は炭治郎の「仲間」に該当します |
珠世 |
珠世は鬼でありながら無惨に反旗を翻し、人間に協力する存在です。 彼女は薬学の知識を活かして無惨を倒すための毒薬を開発し、炭治郎たちに協力しました。 そのため、珠世も「仲間」と見なせます |
産屋敷耀哉 |
産屋敷は鬼殺隊の当主であり、隊士たちを統率するリーダーです。 彼の指導と信頼は柱や隊士たちに大きな影響を与えています。 炭治郎たちにとっても重要な支援者であり、彼も「仲間」と言えます |
我妻善逸 |
臆病ながらも危機的状況で力を発揮するキャラクターで、炭治郎の旅を支える重要な存在 |
嘴平伊之助 |
野性的で直感的な戦闘スタイルを持つが、仲間との絆を深めることで成長するキャラクター |
煉獄杏寿郎(炎柱) |
炭治郎に大きな影響を与えるメンター的存在で、自己犠牲と他者への奉仕の精神を教えます |
仲間のふりをしたライバル |
該当なし |
このタイプのキャラクターは『鬼滅の刃』には明確には登場しません。 ただし、一部の鬼(例: 堕姫や妓夫太郎)は表面的には協力的な態度を見せつつも 内心では敵対的な意図を持つ場合があります |
ライバルのふりをした仲間 |
冨岡義勇 |
第一話において、炭治郎の甘さを指摘したり、鬼となった禰󠄀豆子を殺そうとする場面があり、 ライバル的な立場でありながら、その後は炭治郎を支援する立場にあり仲間としての役割が大きく占めています。 このことから、部分的にライバルのふりをした仲間としての側面を持っています |
一部の柱 |
胡蝶しのぶや煉獄杏寿郎など一部の柱が当初炭治郎と禰豆子に疑念を抱きつつも、 最終的には彼らを支援する形へと変化する点が部分的に該当すると言えます |
サブプロット・キャラクター |
禰豆子 |
物語全体の象徴的存在であり、人間性と鬼性との葛藤が描かれています。 彼女の変化は炭治郎の成長や物語テーマ(家族愛、希望)と深く結びついています |
兄妹関係にある鬼 |
「累(るい)と魘夢(えんむ)」と「妓夫太郎(ぎゅうたろう)と堕姫(だき)」は、 それぞれ下弦の鬼、上弦の鬼というライバルでありながら兄妹でもあるため、 炭治郎と禰豆子の関係性の対比となるサブプロット・キャラクターでもあります |
上弦の鬼たち (例: 猗窩座、童磨) |
それぞれ独自のバックストーリーや葛藤があり、 炭治郎たちとの対比によって物語テーマが強調されます |
|
無関係なキャラクターをカットする
ストーリーに無関係なキャラクターが登場すると、物語が挿話的で断片的になったり、無機的な印象を与える原因となることがあります。
そのため、キャラクターを創作する際には、以下のことを自問する必要があります。
- 「このキャラクターはこのストーリーにとって重要な役割を果たすか?」
もしその答えが「ノー」であり、そのキャラクターが単に物語に質感や色合いを加えるだけの存在である場合、そのキャラクターをカットすることを真剣に検討すべきです。
無関係なキャラクターは、ストーリーラインの貴重な時間やリソースを奪う可能性があり、その価値が物語全体に見合わない場合があります。
ストーリーの焦点を明確にし、読者や観客に強い印象を与えるためには、不要なキャラクターを排除し、物語の核となる要素に集中することが重要です。
2人の主人公の物語の創作
2人の主人公の物語として「ラブストーリー」と「
バディもの」があります。
形式 |
テーマと意義 |
構造と焦点 |
キャラクター・ウェブ |
ラブストーリー |
二人の同等な人物が運命共同体を形成し、互いを愛する ことで成長し、より深い存在になるという価値観を描く。 独りでは真の自分になれず、二人からなるコミュニティが 必要である |
二人のキャラクターが中心だが、「どちらか一方の欲求や視点」 を軸にストーリーが進む。男性が女性を追う形が多いが、 どちらを軸にしても良い |
欲求を持たれる側(恋人)は「第二の主人公」ではなく 「メインライバル」として機能する。 外部からのライバル(例: 家族からの反対、恋のライバル、 誘惑する異性)を含めることで葛藤や三角関係を描くことが一般的 |
バディもの |
二人の異なる特性や生き方を描きつつ、それらが 共同作業で補完し合う関係性を基盤とする。 主に男同士の友情が題材となります |
二人のキャラクターは対等だが、どちらか一方 (多くの場合、思索家・陰謀者・戦略家)が中心に据えられる。 相棒は主人公と似た存在でありながら明確な相違点を持つ |
外部から危険なライバル(社会のネガティブな側面を体現)が登場し、 二人の関係を切り裂こうとする。 二人の間に根本的な対立があり、その扱い方が物語の鍵となる |
両者とも二人のキャラクター関係が物語の核となりますが、「ラブストーリー」は愛と成長、「
バディもの」は異なる特性の協力関係に焦点を当てています。
それぞれ外部からのライバルや内面的な対立による葛藤が重要な要素となっています。
複数の主人公を持つ物語の創作
複数主人公の物語の特徴と課題には、以下のものがあります。
- 特徴
- 複数の主人公が同時期にそれぞれ異なる出来事を経験し、それらを比較しながら物語が進行する形式
- 課題
- 多くのキャラクターを同時に描くことで、物語の推進力が弱まり、ストーリーとしてのまとまりを失うリスクがある
この問題の解決策と推進力を保つ方法には以下のものがあります。
- 1. 中心的なキャラクターを設定
- 他の主人公よりも中心的な役割を持つキャラクターを1人設けることで、物語全体に焦点を与える
- 2. 共通の欲求やテーマで結びつける
- 全ての主人公に同じ欲求や目標を持たせる
- 主人公全員を単一の主題やテーマに基づいた例証として描き、物語全体に統一感を持たせる
- 3. ストーリーライン間のリンク
- 同じ人物があるストーリーラインでは主人公、別のラインではライバルとして登場するように描く
- 1つのストーリーラインをクリフハンガーで終わらせ、別のストーリーラインへの引き金とする
- 4. 空間的・時間的制約を利用
- 最初はバラバラな場所にいる主人公たちが徐々に一つの中心地へ向かう展開にする
- 時間制限(例: 1日、一晩)を設けて、その間に起こる出来事として描く
- 5. 繰り返しや偶然性
- 年間行事やグループイベントなど、物語全体で同じ出来事を繰り返し描写して前進や変化を示唆する
- 主人公同士が偶然出会う場面を時折挿入し、関連性を強調する
- 6. 各キャラクターの成長過程を明確化
- 各主人公がストーリー構造上必要な7段階の道程(例: 欲求、葛藤、成長など)をたどるようにすることで、それぞれが独立した主人公として成立する
これらの方法によって、複数主人公の物語であっても統一感と推進力を維持しながら観客に魅力的なストーリーを提供することが可能になります。
アーキタイプを基礎にしたキャラクター・ウェブ
アーキタイプを用いることは、ストーリー内のキャラクター同士を結びつけ、対比させる効果的な方法です。
- アーキタイプの定義と特性
- アーキタイプとは、人間の心に普遍的に存在する心理パターンであり、社会的な役割や他者との基本的な関わり方を表します
- 文化を超越した普遍性を持ち、観客にとって親しみやすく、直感的に理解されやすい要素です
- ストーリー内でアーキタイプを基盤にキャラクターを構築すると、そのキャラクターに重みと深みが生まれます
- これは、アーキタイプが観客の心に深く響き、強い感情を引き出す力を持つためです
- アーキタイプの応用と注意点
- (1) キャラクターの独自性を加える
- アーキタイプはそのままでは汎用的でありふれた印象になりがちです
- そのため、独創的なディテールや個性を加えることで、唯一無二のキャラクターへと仕立て上げる必要があります
- 具体的かつ個性的な設定や背景を組み込むことで、アーキタイプの枠組みを超えた魅力的なキャラクターが生まれます
- (2) 「シャドウ」の活用
- アーキタイプには「シャドウ」と呼ばれるネガティブな側面が潜在しており、それは心理的なトラップとなり得ます
- シャドウは、キャラクターがそのアーキタイプに基づいて行動する際に陥りやすい欠点や弱点として機能します
- この要素を取り入れることで、キャラクターに深みとリアリティが加わり、ストーリー全体に緊張感やドラマ性をもたらします
- アーキタイプの効果
- アーキタイプは観客に馴染み深い心理パターンであるため、直感的に理解されやすく物語への没入感を高めます
- 社会との相互作用も描けるため、キャラクター同士の関係性や対比がより明確になり、ストーリー全体の構造が強化されます
アーキタイプ |
長所 |
シャドウ (潜在する短所) |
キング (ファーザー) |
知恵と洞察力と不屈の精神を持つ。 自らの国民(または家族)を率いて、 彼らを成功や成長に導く |
厳格で制圧的なルールに従うことを国民(妻や子供)に強いる |
自分の国(家族)の情緒的な側面を心の中から排除する |
国民(家族)の生活が彼自身の喜びや利益のためだけに 営まれるべきと主張する |
クイーン (マザー) |
国民(または子供)が成長できる保護の殻を提供する |
独善的な視点での保護や抑制を強要する |
罪悪感や恥辱感を植え付けて子供を自分から離れさせないようにし、 それによって彼女自身の安楽を保つ |
老賢者 |
知恵や知識を授け、より良い人生を送ったり、 より良い社会を作ることを可能にする (→メンター) |
教え子に限られた特定の考え方を強いる |
考えの発想自体の素晴らしさではなく、自分個人の素晴らしさを 吹聴することを強いる |
戦士 |
実質上の正義の執行者 |
「殺すか殺されるか」という無情な信念に従い続ける |
弱者は誰であっても撲滅されるべきという信念を持つ |
悪の執行者と化してしまう |
魔法使い (呪術師) |
表面上の深いところに隠れている現実を人に見せる。 自然界にあるより大きな力や隠れた力のバランスをとり、 コントロールすることができる |
他者を虜にする |
自然の法則を破る |
より深い現実を操作しようとする |
トリックスター |
秘密や詐欺や口のうまさを駆使して、欲求を達成する |
自分のことだけを考えるあまり、完全な嘘つきとなる |
創造者 |
人々に、美とは何かを定義する。 何が機能しないのかをネガティブな形で見せる。 美や未来のビジョンを見せる。 見た目は美しいが実は醜くく馬鹿らしいものを見せる |
完璧だけを求める究極のファシストになる |
すべてを自分で統制できる特殊な世界を作り出す |
あらゆるものを無価値なものにしようと、すべてを破壊する |
ラバー (恋人) |
気づかい、理解、肉欲を提供して 相手を満足させて幸せにする |
相手に溺れてしまう |
相手を自分のシャドウで目立たせないようにする |
反逆者 |
群衆の中から立ち上がり、民衆を奴隷状態にしている 体制には向かう行動を取る勇気を持つ |
より良い代案を出すことができない |
代案を出そうとせず、現状の体制や社会を打ち壊すこと以外の 選択肢を持たない |
キャラクター・ウェブにおける個々のキャラクター作りのプロセス
キャラクター・ウェブを構築する際、ストーリーのテーマや対立関係を基盤にして、個々のキャラクターを現実味のある人物として作り上げます。
ただし、キャラクターを単独でバラバラに作るのではなく、全体のストーリーやテーマと関連付けて設計することが重要です。
- テーマと道徳的問題点
- キャラクター作りは、ストーリーの中心にある「道徳的問題点」を明確化することから始まります
- テーマとは、単なる主題(例: 人種差別や自由)ではなく、書き手自身の道徳観や「良い人生とは何か」という意見を指します
- キャラクターたちは、このテーマに対して異なるアプローチをとる存在として設計されます。
キャラクター設計のステップは以下の通りです。
- 1. 道徳的問題点の洗い出し
- ストーリーの中核となる道徳的問題点について考えられる要素をすべて書き出します
- これはプレミスづくりで既に用意されている場合が多いです
- 2. キャラクター要素の整理
- 主人公やライバルなど、すべてのキャラクターについて以下の要素をリストアップします。
- 弱点と欠陥(心理的な欠陥・道徳的な欠陥)
- 欲求
- 価値基準
- 力、ステータス、能力
- 中心となる道徳的問題点への向き合い方
- 3. 比較による関係性構築
- まずは「主人公」と「メインライバル」の比較から始めます。
- この2人の関係性が最も重要であり、ストーリー全体を定義するカギとなります。
- 次に「主人公」と「他のライバルたち」を比較します
- その次に、「主人公」と「仲間たち」を比較します
- 最後に「ライバルたち」と「仲間たち」を組み合わせごとに比較します
キャラクターウェブ構築のポイントは以下の通りです、
- 各キャラクターは同じテーマに対して異なるアプローチを取るように設計します
- これにより、テーマが多面的に表現されます
- 特にライバルたちは、主人公が道徳的問題点に向き合うことを強いる存在として機能し、それぞれがテーマの異なるバリエーションを体現します
主人公の創作
Step1: 素晴らしい主人公に不可欠な4つの要素
素晴らしい主人公を作り上げるためには、以下の4つの要素を満たすことが重要です。
- 1. 最初から最後まで人々の興味を集め続ける主人公であること
- 主人公はストーリーを前進させる原動力であり、観客の注意を引き続ける必要があります
- 退屈な主人公では物語が停滞してしまうため、観客を惹きつける工夫が求められます
- その1つとして、主人公をミステリアスな存在に設定する方法があります
- 例えば、主人公が「何か秘密を抱えている」ことを示唆することで、観客はその秘密を知りたいという好奇心から積極的に物語に関与します
- このようにして、観客は受動的ではなく能動的にストーリーに参加し続けるのです
- 2. 観客が共感できる主人公であること。ただしやり過ぎに注意
- 共感されるキャラクターとは、外見や背景ではなく「欲求」と「欠陥」を通じて描かれるものです。
- 「欲求」: 主人公の目標や願望が明確であることで、観客はその達成を応援したくなります。欲求が物語の推進力となります。
- 「欠陥」: 主人公が抱える道徳的または内面的な問題点は、深い葛藤として描かれます。この葛藤の解決を通じて、観客は主人公の成長を期待します
- ただし、共感を過度に強調しすぎると観客が主人公に没入しすぎてしまい、変化や成長が感覚的に伝わりづらくなるため注意が必要です。
- 3. 好意を持てる主人公ではなく感情移入できる主人公であること
- 重要なのは観客が主人公の行動や意図を理解し、その人物に気持ちを寄せられるかどうかです
- 必ずしも主人公の行動すべてに賛同する必要はありませんが、その背景や理由が明確であれば観客は感情移入できます
- この「感情移入」とは単なる好意ではなく、「理解して気にかける」という深い関心を指します
- そのためには、主人公の行動の意図や目的を常に明示することが重要です
- 4. 道徳的な欠陥だけでなく心理的な欠陥も持たせること
- 魅力的なキャラクターには複雑さが必要です。
- 特にパワフルな主人公には「道徳的な欠陥」と「心理的な欠陥」の両方を持たせることで、人間味と深みが生まれます。
- 「道徳的な欠陥」: 他者との関わり合いの中で浮き彫りになる倫理的な問題点
- 「心理的な欠陥」: 内面的な弱さやトラウマなど、個人的な葛藤や不安定さ
- これらの欠陥によって、主人公はよりリアルで複雑な存在となり、観客からさらに注目されます。
キャラクター・チェンジとは、物語の進行に伴うキャラクターの発展や成長を表す概念です。
この概念を理解するためには、まず「自我のストーリーテリングにおける目的は何か?」を考える必要があります。
- キャラクターとは「架空の自我」であり、その目的は人間の個性と共通性を同時に描き出すことです
- キャラクターが時間や空間の中で行動し、他者との比較を通じて「良い生き方」「悪い生き方」、あるいは「成長の過程」を表現します
- これにより、観客や読者はキャラクターを通じて人間性や人生について考察する機会を得ます。
キャラクター・チェンジを設計する際には、キャラクターの「自我」のタイプを理解することが役立ちます。以下に、自我の代表的なパターンを挙げます:
- 1. 冷徹で統制された自我
- このタイプは、自身の運命を探し求める強い意志を持ち、他者と明確に区別されています
- 特に「戦士」「ヒーロー (英雄)」のアーキタイプとして神話的なストーリーによく登場します
- この自我は深遠な能力や使命感を持つキャラクターに適しています
- 2. 葛藤する欠陥だらけの自我
- 欠陥や欲求を抱え、他者とのつながりや承認を求める一方で、内面的な矛盾と葛藤します
- このタイプは心理的な深みがあり、現代演劇やドラマ作品(イプセン、チェーホフなど)で頻繁に描かれるテーマです
- 3. 社会的役割に影響される自我
- 社会的地位や役割によってその存在が変化するキャラクターです
- マーク・トゥエインの「王子と乞食」や「ハックルベリーフィンの冒険」では、人間が社会的な役割によって&どれほど影響されるかが強調されています
- このタイプでは、社会構造や地位がキャラクターの変化に大きく関与します
- 4. 不安定で変貌する自我
- このタイプは非常に脆弱で影響されやすく、全く異なるものへと変貌する可能性があります
- 曖昧で統一性がなく、不安定さが特徴です
- カフカやボルヘス、フォークナーなどの文学作品で見られます
- 娯楽作品では吸血鬼や狼男などホラー作品にも多く登場します
- 具体例
- →キャラクター・チェンジ
- 1. 子供から大人へ
- 主人公が成長し、純粋で未熟な子供から責任感や自立心を持つ大人へと変化するプロセス。
- 自己発見、困難の克服、成熟した視点の獲得が中心
- 例: 『ハリー・ポッター』シリーズ(ハリー・ポッター)、『千と千尋の神隠し』(千尋)
- 2. 成人からリーダーへ
- 一般的な成人が、周囲を導くリーダーとしての責任を引き受けるようになる変化。
- 他者への影響力、自己犠牲、決断力の向上が描かれる。
- 例: 『ロード・オブ・ザ・リング』(アラゴルン)、『進撃の巨人』(エレン・イェーガー)
- 3. 消極的である者から積極的に関与する者へ
- 主人公が受動的な立場から、自ら行動を起こし物語を推進する積極的な存在へと変化する。
- 自己の目的意識や信念を見出し、周囲への影響力を発揮するようになる。
- 例: 『スター・ウォーズ』(ハン・ソロ)、『ぼっち・ざ・ろっく!』(後藤ひとり)
- 4. リーダーから独裁者へ
- リーダーとして始まったキャラクターが権力に溺れ、独裁者として堕落していく変化。
- 権力欲、道徳的堕落、他者との対立が中心テーマとなる。
- 例: 『DEATH NOTE』(夜神月)、『コードギアス』(ルルーシュ)
- 5. リーダーから予見者へ
- リーダーとして行動していたキャラクターが、より広い視野や未来を見通す予見者として成長する変化。
- 知恵や洞察力の向上、個人的な犠牲、自己超越が重要な要素となる。
- 例: 『風の谷のナウシカ』(ナウシカ)、『DUNE/デューン 砂の惑星』(ポール・アトレイデス)
- 6. 変身
- 主人公が物理的または象徴的に全く異なる存在へと変貌する変化。
- 変身は内面的な変化や自己認識の象徴として描かれることが多い。また、外見や能力だけでなく精神的にも新しい存在へと生まれ変わることを意味する場合もある。
- 例: 『変身』(グレゴール・ザムザ)、『進撃の巨人』(エレン・イェーガー)、『美女と野獣』(野獣)
- 具体例
- →キャラクター・チェンジ
Step3: 主人公の「欲求」の道筋を力強くする3つの方法
主人公の欲求を効果的に描き、観客を引き込むためには、以下の3つのルールが重要です。
このルールは物語の推進力を維持し、明確で感情的なカタルシスを生み出すための指針となります。
- 1. 欲求の道筋は「単一」であること
- 主人公の欲求は、物語全体を通じて一本の筋道として描かれるべきです
- 複数の欲求が存在すると、ストーリーが散漫になり、観客がどこに注目すべきか分からなくなります
- 例えば、主人公が「家族を救う」という欲求を持っている場合、その目標が物語全体を通じて中心に据えられるべきです
- これにより、観客は主人公の動機に共感しやすくなり、ストーリーに一貫性が生まれます
- 2. 欲求は「具体的」であり、達成が「明示的」であること
- 主人公の欲求は抽象的ではなく、具体的で達成可能な形で提示される必要があります
- また、そのゴールが達成されたかどうかを観客が明確に判断できる場面を用意することが重要です
- 例えば『トップガン』では、「トップガン賞を獲得する」という具体的な目標が設定され、そのゴールが達成された瞬間(校長から賞を手渡される場面)が描かれています
- このように、観客がゴールの達成を視覚的・感情的に理解できる場面を設けることで、物語の満足感が高まります
- 3. 欲求はストーリー「終盤」で満たされること
- 主人公の欲求は物語のクライマックスで満たされるべきであり、中盤で解決してしまうと新たな欲求を設定しなければならなくなります
- この場合、ストーリーが二分化されてしまい、一貫性が失われるリスクがあります
- 例えば、『ロード・オブ・ザ・リング』では、「指輪を滅ぼす」という主人公たちの欲求は物語終盤で達成されます
- このように、欲求の解決を最後まで引っ張ることで、ストーリー全体に緊張感と統一感を持たせることができます
Step4: ライバルの創作
ライバルは物語において主人公を引き立て、成長させるための重要な存在です。
その役割と意義には以下のものがあります。
- 1. 主人公の成長を促す存在
- ライバルは主人公にとって障壁であり、乗り越えるべき壁です
- この関係性が物語の緊張感を生み出し、主人公の成長を描く原動力になります
- 2. テーマや価値観の対立
- 主人公とライバルは同じ目標やテーマを追求しつつも、異なる価値観やアプローチを持っています
- この対立が物語に深みを与えます
- 3. 物語の中心的な関係性
- 主人公とライバルの関係性は、物語全体のドラマ性を決定づける重要な要素です
- 彼らの衝突や協力がストーリー展開の核となります
優れたライバルキャラクターを作る6つの要素は以下のとおりです。
- 1. 主人公に必要な存在であること
- ライバルは単なる障害ではなく、主人公が成長するために欠かせない存在であるべきです
- 2. 人間的な複雑さと弱点がある
- ライバルも主人公と同様に弱点や欠陥を持ち、それが行動や選択に影響を与えるように設計されるべきです
- 3. 主人公との「類似性」によって対比の対象となる
- 主人公とライバルには一定の共通点(目標や背景など)がありつつも、価値観や行動原理が異なることで対立が生まれます
- この類似性と対比が関係性に深みを加えます
- 4. 主人公に「匹敵」する強さや権力を持つ
- ライバルは主人公と同等かそれ以上の能力やカリスマ性を持つ存在である必要があります
- そうでなければ、主人公の一方的な物語となり単調な展開に陥ります
- 5. 道徳観や価値基準の違い
- ライバルは主人公とは異なる道徳観や価値基準を持ち、それが物語のテーマに関連していることが望ましいです
- 6. 同じ舞台で戦わせる
- 現実てきな人間関係では、通常お互いに嫌いな相手とは距離を置きますが、物語創作においては同じ舞台で戦わせなければいけません
- これはライバルとの舞台が離れてしまうと、対立の理由や別のゴールを目指してしまい葛藤が生まれにくくなるためです
- そのため、主人公とライバルは同じ目標や舞台で競い合う設定や理由が必要です
- これによって二人の対立関係が説得力を持ちます
対立関係のウェブ
2人だけのシンプルな対立関係は深みや複雑さ、人生のリアリティを描くには物足りません。
そこで
四隅の対立関係という構造を使います。
→
四隅の対立関係
関連ページ
最終更新:2025年03月04日 22:15