事件解決
聖華暦833年 11月4日 10:17
今、僕は留置場の中にいる。
「リコス・ユミア、出なさい。」
留置場から出された。また取調べだろうか。
昨日あの後、駆け付けてきた警邏によって僕は身柄を拘束された。
エミリさんは必死に僕の無実を訴えていたけれど、警邏の軍人達は全く取り合わなかった。
エミリさんは必死に僕の無実を訴えていたけれど、警邏の軍人達は全く取り合わなかった。
殺されたのが自分達の同僚なのだから、怒りで頭に血が昇っていたのだろう。
それは仕方がないと思う。
それは仕方がないと思う。
彼が殺人犯かどうかは置いておいても、僕が彼を殺した事実に違いは無いのだから。
昨夜の取調べの最中に殴られた頬が痛い。
事情を説明したけれど、取調べを行う軍人達は僕が嘘を言っていると決めつけ、犯行を認めろと二度、拳を振るった。
事情を説明したけれど、取調べを行う軍人達は僕が嘘を言っていると決めつけ、犯行を認めろと二度、拳を振るった。
終いには今回の連続殺人も、僕の仕業だろうと言い出し、僕は机に頭を擦り付けられた。
理不尽な仕打ちだったけれど、僕は抵抗しなかった。
下手に抵抗すれば、彼らを余計に怒らせるだけなのは目に見えていたから。
それに暗黒騎士の修行に比べたら、このくらいはどうという事は無かった。
理不尽な仕打ちだったけれど、僕は抵抗しなかった。
下手に抵抗すれば、彼らを余計に怒らせるだけなのは目に見えていたから。
それに暗黒騎士の修行に比べたら、このくらいはどうという事は無かった。
結局、取調べは深夜まで続き、夜中の3時ごろに留置場へと入れられた。
そして今に至る。
ところで、今僕を連れ出した軍人は、なんだか僕に対しての態度が昨日とは打って変わって静かだ。
一晩経った事で落ち着いたのかもしれない。
一晩経った事で落ち着いたのかもしれない。
今度は取調べ室とは別の部屋へと連れて行かれた。
扉が開き、中に入るように促される。
中に入ると隊長と思しき軍人と、猫背気味で違う制服を着たもう一人の軍人、それと…師匠がいた。
扉が開き、中に入るように促される。
中に入ると隊長と思しき軍人と、猫背気味で違う制服を着たもう一人の軍人、それと…師匠がいた。
「師匠、申し訳ありません。この度はご迷惑をお掛けしました。」
「リコス、それはいい。」
師匠はそう言うと、隊長へと視線を向けた。
「リコス・ユミア殿、この度は警邏の者達が先走った為に誤認逮捕に至り、多大なご迷惑をお掛けしました。心より謝罪致します。どうかご容赦を。」
隊長が僕に精一杯頭を下げて謝罪をして来たのを見て、僕は師匠へ視線を向けた。
「あの、これは?」
「この件については私が説明します。」
もう一人の軍人が口を開く。
「まずは自己紹介します。私は第六特務のマッキネン中尉です。」
マッキネン中尉と名乗った軍人の所属は、あまり聞き覚えのない部隊だった。
「今回の件は内密にお願いしますが、第六特務は普段は表に出ない案件、ことさら魔族関連の事件に対処する部署になります。」
「……魔族…ですか? 今回と、魔族になんの関係が?」
「ええ、それが大ありでして。貴女が対処した殺人犯、ランベル軍曹は『愚者』、つまり魔族の手先になっていたんですな、これが。」
魔族と、愚者。
愚者は魔族に魂を売り渡し、魔族の奴隷となった者の事だ。
歴史の授業でしか聞いた事がないような事が、今現実に起きているというのだろうか。
愚者は魔族に魂を売り渡し、魔族の奴隷となった者の事だ。
歴史の授業でしか聞いた事がないような事が、今現実に起きているというのだろうか。
「ランベル軍曹の自宅を家宅捜査しましたらね、奥さんと子供の遺体が見つかりましたよ。ナイフで切り刻まれてましたから、今回の連続殺人の犯人で間違い無いですね。」
僕は思わず口を覆った。
どうしてそんな事に……。
どうしてそんな事に……。
「原因はコレですねぇ。この凶器のナイフです。」
マッキネン中尉はクリスタルケースに保管されたナイフを僕の前に出した。
ナイフには見た事の無い文字が彫り込まれているが、それ以外は普通のナイフに見える。
ナイフには見た事の無い文字が彫り込まれているが、それ以外は普通のナイフに見える。
「この彫り込まれた文字ですがね、魔族の使う『ゲヘナ』なんですよ。このナイフを持つと精神に異常を来して、あの通り。」
そんな文字くらいで人がおかしくなるものなのだろうか?
僕の疑問は顔に出ていたのか、マッキネン中尉は補足するように言った。
僕の疑問は顔に出ていたのか、マッキネン中尉は補足するように言った。
「『ゲヘナ』というのは『魔神の力』なんですね。これは我々の使う魔法とは全く異なる法則の異能ですからねぇ。理解出来ないような現象も起こせるんですな。」
「では……、そのナイフが無ければ、こんな事件は起きなかった、という事ですか? いえ、ですが……、僕がランベル軍曹を殺した事には変わりありません。」
「起こってしまった事をとやかく言っても仕方がありません。それに愚者を元に戻す方法はありません。今回はこれで良かったんですよ。」
それでも、握りしめた拳に力が入る。
また人を殺したのに、罰を受ける事が出来ないのか。
また人を殺したのに、罰を受ける事が出来ないのか。
「ともあれ、今回の事件はお前のお陰で解決した、という訳だ。」
「もう殺人事件は起きないんですよね。」
何かモヤモヤとしたものを感じながら、僕はマッキネン中尉を見た。
「ひとまずは、ですね。後は我々がこのナイフの出どころを追いますので。ご協力感謝致します。」
そう言って、マッキネン中尉はいそいそと部屋を後にした。
「さて、リコス。どうする?」
「どうする、とはなんですか?」
「お前を誤認逮捕し、取調べにおいて不当な行動をした警邏の処遇だ。」
あぁ、そういえばそうだった。
隊長が神妙な面持ちで僕の処断を待っている。
僕は一度深呼吸をして、彼らへの処遇を伝えた。
隊長が神妙な面持ちで僕の処断を待っている。
僕は一度深呼吸をして、彼らへの処遇を伝えた。
「今回の事では確かに不当な扱いを受けました。しかし、あの時点では誤解されても仕方のない状況であったのは事実です。ですので、警邏の方々の行動については不問にしたいと思います。今後も帝国臣民の安全を守る為に一層の努力を期待します。」
「それで良いのだな?」
師匠は念を押すように言いました。
「はい。」
「では私からも何も言うまい。」
「寛大なご処置に感謝致します。」
こうして、僕はようやく解放され、師匠と共にお屋敷へと戻った。
お屋敷の前で、エミリさんが出迎えてくれた。
「良かった、ご無事でしたか。とても心配致しました。」
目尻に涙を浮かべたエミリさんはそれでも笑顔を見せてくれた。
こんなにも心配させてしまった事が、なんだか申し訳なく、情けない。
こんなにも心配させてしまった事が、なんだか申し訳なく、情けない。
「エミリさん、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。…あ、あれ?」
そう言った瞬間に安心感で力が抜けて、へたり込んでしまった。
「リコス様、大丈夫ですか?」
僕はエミリさんに手を引かれてゆっくり立ち上がり、そのまま彼女に部屋までエスコートされてしまった。
「今日はゆっくりお休みください。」
彼女と繋いだ手のひらが、心地よい熱を帯びていた。