「ですが…補給と整備には最短で5日を要します」
「あなたは?」
「見かけない顔だな」
「初めまして。活動再開と同時にソレスタルビーイングにスカウトされた、アニュー・リターナーです」
「スカウト?」
「一体誰が?」
「王留美に紹介されてな。アニューは凄いぞぉ。宇宙物理学、モビルスーツ工学、再生治療の権威で操船技術や料理に長け、おまけに美人だ。どうだ、なかなかの逸材だろう?」
「あ…宜しくお願いします……」
「これでお別れか…。アンタとは、もう少し話をしてみたかったが……」
「それが、お別れしないんです」
「ん…?」
「イアンさんの推薦を受け、プトレマイオスに乗船する事になりましたから」
「へぇ、そいつは……」
「そろそろ、ブリッジに行ったほうがいいんじゃないか?――どうした?」
「えっ!?あっ、何も……」
「緊張してんのかい?」
「そうですね、少し……」
「行こうか」
「はい……!」
「どなたと通信してたんですか?」
「野暮用だよ」
「気になるんです…」
「ん?」
「アロウズがプトレマイオスの位置を、何故あれ程までに正確に把握出来たのか……」
「……成程。リターナーさんは俺を疑ってんのか?」
「まさか…!疑問に思っているだけです。あ、それと…呼び名はアニューで良いですから」
「だったら俺もライルで良い」
「“ライル”?」
「ライル・ディランディ。俺の本名だよ」
「まずいぞ!未確認モビルスーツが2機、別々の方向から向かって来てる!」
「えっ?」
「……フェルト、アレルヤとティエリアを出撃させて」
「りょ…了解です…!」
「やっぱり、こちらの位置が……」
「情報をくれたカタロンに、感謝しなきゃ…な?」
「ッ…!言っとくよ」
「ライルにも……」
「こんな状況で、全てが一つに纏まってゆく……!」
「刹那の容態はどう?」
「肩口の傷を中心に、細胞の代謝障害が広がっています」
「擬似GN粒子の影響…」
「ですが、その進行は極めて緩やかなんです。ラッセさんの症状とはまるで違う……。
何かの抑制が働いているとしか……」
「ねぇ、ライル、聞かせてくれる?」
「何を?」
「あなたのお兄さんの事」
「……思い出なんか無いよ。俺は、ジュニアスクールの時から寄宿舎にいたんでね……」
「どうして寄宿舎に?」
「出来の良い兄貴と、比べられたくなかったんだよ…。戦う事より、逃げる方を選んじまった……」
「でも、あなたはお兄さんと同じ、ガンダムマイスターになった」
「ハッ、動機が違うって……。そういや聞いた事無かったが、アニューの家族は?」
「私の、家族……?」
「ああ」
「……私は、その……」
「フ…言いたくないなら言わないで良いさ。アニューは今此処にいる。俺は…それだけで良い」
「ライル……」
「ありがとう、ライル…」
「えっ…?」
「私の事、何時も気に掛けてくれてるでしょう?でも心配は無用です。トレミーの操作にも、大分慣れましたから」
「ッ……。アニュー…。君は聡明で博識だが、ちょっと鈍いな…」
「ッ…?鈍い…ですか?」
「ちょっとじゃなくて相当にな」
「どういう風にです?」
「おいおい、それを俺に言わせる気かよ?」
「言ってくれなければ分かりません。“鈍い”ですから…!」
「アニュー、聞いてるか?」
「どうかしたの?」
「愛してるよ」
「ええっ?」
「おお〜ッ!」
「まさに狙い撃ちだな!」
「ていうか、何時の間に!?」
「凄いですぅ!恋の花が咲いたですぅ〜ッ!!」
「おめでとうございます」
「えぇ…っ、あっ、い、いいから行って!」
「オーライ!ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜぇ!」
「何をする?そんな事決まってるわ。だって私は…イノベイターなんだから」
「リ、リターナーさん、止めないですか?今なら皆も……」
「黙って」
「は、はいです…!」
「フッ、あなたの存在を失念していたわ。Cレベルの脳量子使い。出来損ないの超兵……」
「止めとけよ、アニュー!」
「ライル……!」
「フッ、俺を置いて行っちまう気か?」
「……私と一緒に来る?世界の変革が見られるわよ」
「私を撃つの……?」
「ホント、愛してるのよ……。ライル……」
「興奮しないでライル!いい男が台無しよ!!」
「行きなさい!ファング!!」
「何故だ!?何故俺達が戦わなければならない!?」
「それはあなたが人間で…私がイノベイターだからよ!!」
「分かり合ってた!!」
「偽りの世界でね!!」
「嘘だというのか?俺の思いも、お前の気持ちも!!……ならよぉ!!!」
「アニュー、戻ってこい……。アニュー……!」
「ライル…私、私は……。愚かな人間だ……」
「アニュー…?」
「イノベイターは、人類を導く者……。そう。上位種であり、絶対者だ。人間と対等に見られるのは、我慢ならないな。
力の違いを見せ付けてあげるよ……」
「ライル…私、イノベイターで良かったと思ってる……」
「何でだよ……?」
「そうじゃなかったら、あなたに逢えなかった…。この世界の何処かで擦れ違ったままになってた……」
「いいじゃねえか、それで生きていられるんだから……」
「あなたがいないと生きてる張りが無いわ……」
「アニュー……」
「ねぇ…私達、分かり合えてたよね?」
「……ああ。勿論だとも」
「良かった……」