生活保護

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生活保護 - (2022/03/26 (土) 01:10:34) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2012/09/25(火) 11:51:51
更新日:2024/03/24 Sun 17:26:25
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(この記事では法律の表記にならい、「障害者」表記を使用します)

概要

生活保護とは、国から生活に困った人達に生活の為に税金から給付金を出す制度である。

日本国憲法第25条は、国に、国民は健康で文化的な最低限度の生活を送る権利を有するとしてその生活を保障することを義務付けている。
これを受けて、生活保護について定めているのが生活保護法で、生活保護はこの法律に基づいて支払われる。

もちろん、国民は原則として自分で働いて生計を得るのが常識である。

「金なくなっちった…そうだ、税金使って助けてもらっちゃおう」

なんていう考え方は通用しない。
どっかの介護のブラック企業の社長が『そんなに嫌なら辞めて生活保護を受けろ』と言った話があるがそんなことはできない。

あくまで原則は自助努力なのである。
しかし、当然そんなことを言っていてはどうにもならない人達もいる。
仕事先が見つからない、体が弱くて働けない…

もしこういう人達を放っておいたらどうなるか?

「お金もない、食べ物もない、養ってくれる家族もいない、どうやって生きていけばいいんだろう…」

……そう、普通に生きることすらできなくなる。
そういう人達にこそ生活保護が必要な訳だが、今の日本は財政難。
生活保護費だけで年間3兆7000億円(2013年度予算)はあまりに痛く、生活保護にもメスが入るようになった。


◆生活保護受給者になったら


生活保護を受けることになったとしよう。
生活保護は、実は仕事をしていても収入が生活保護の基準に届いていない状態なら足りない部分について受けられる。
支給額がいくらかは人の置かれた状況によって異なるが、医療費もタダになるし、まさしくいいことずくめ、人生一気にイージーモード突入である。





とでも思ったか?


生活保護とは将来への苦労や不安だけを都合よく取り除き、思う存分趣味や娯楽に興じる楽天生活へのプレミアムチケットなどでは断じてない。
生活保護になったら支給の条件として、今まで手に入れたものを色々処分するように言われるのだ。

★確実に売却、処分、解約を命じられる物

1.宝石、貴金属類
間違いなく「売却して現金に変えて下さい」とケースワーカーに命じられる。
たとえ家族などの大切な人の形見であろうと例外ではない。必要最低限の文化的な生活をするにあたって全く必要の無い代物だからであり、個人的事情による所持を認めてしまったらゲーム機やPCなども家族の形見だと主張されて所持されかねない。
もちろん、売っても二束三文にしかならないのならそこまでは言われないが。

2.各種保険
何で保険まで解約させられるの?と疑問に思われる方もいるかもしれないが、
これは日本の法律では保険も財産だと見なされるからである。
少なくともこれ以降払うことはできないし、解約返戻金もある程度の財産だからだ。

3.クレジットカード、カードローンなど
これも解約、処分を命じられる。
生活保護というのはあくまでも「支給される保護費の中でやり繰りする事」が大前提となるので、
その上で借金するなど到底認められる訳がないからである。
下手に持たせたらカード破産のリスクがますます高まってしまうだろう。所持を許可などされる訳が無い。

当然ながらクレジットカードでしか決済が出来ないサービス(dアニメストアなど)やクレジットカード払いの方が支出を抑えられるサービスを利用していた場合も、問答無用で解約となる。

★基本的に処分が前提だが、状況によっては所持を認められる可能性がある物

1.個人所有の自宅、土地
大抵の場合は売却して現金に変えた上で、指定のアパートや市営住宅への転居を求められる。
ローンの支払いがまだの場合は、弁護士に相談して破産するよう命じられるだろう。
ただし売ってもほとんど価値が無いようなボロボロの家だったり、既にローンを完済していたり、
あるいは仕事場も兼ねていてどうしても必要、というようなケースの場合は、所持を認められることもある。
また余談的な内容になるがそういった住居は当然一般ペットである犬や猫の飼育は禁止の場所がほとんどの為
犬や猫を飼っている場合は別れなければならない。
もちろん捨てるなんて論外。
引き取ってくれる知り合いがいればよいが、いないなら保健所で殺処分と言う残酷な結末がまっている。

2.車、バイク
売っても1円にもならない車であっても、保険料や燃料代が嵩むからである。自転車ならOK。
ただし仕事で必要だったり、車が無いとまともに生活も出来ない様な超田舎の場合は、所持を認められるケースが多いようだ。
ただ、それも「持っている車を処分しなくて済む」のが限界で車を新たに買うとなると中古でも非常に困難である。
逆に交通網が発達している都市部などの場合は「車なんか無くても生活出来るよね?」と、確実に処分を命じられるだろう。

3.パソコン
売っても価値が無いような古い物なら当面持てるだろうが、壊れても次は買えない可能性がある。
最近ではインターネットでの求人サイトで職探しが出来るし、パソコンスキルを磨くのが求職活動にも役立つので、それを理由に所持を認められる事も多いようだ。
それでもあまり高額の物は認められないだろう。

4.テレビ、ゲーム機、ソフト、DVDやCDなど
中古に関してはある程度OKだが、新品だったり中古でも品数が増えてくればアウトと考えて良い。

★所持が認められるケースが多い物


1.漫画や絵本、雑誌や小説などの書物、囲碁や将棋、カルタやトランプなどの遊具
持っていてもOKだが、新しいものが欲しくなっても次は買えないと思っていい。

2.ネット回線、携帯電話
「あれば職探しに便利」「緊急事態にケースワーカーや病院に連絡手段が必要」であることから恐らく大丈夫だと思われるが、それでも一番安い料金プランへの変更を強要されるだろう。
無論カード払い決済などの方が出費が抑えられる様な物も認められず、料金表プラン上の最低ランクの物が基本とみていい。

★一時的な生活保護の場合


生活保護と言っても、一時的な失業・収入減少中の生活をしのぐためのもので、仕事さえ見つかれば生活保護も終わることが見込まれるケースもある。
そういう時に自家用車や自営用の器具を「売れる・金がかさむから」と言って処分すると仕事に復帰しづらく自立の妨げになるため、保有を認められることが多い。
特に2020年以降の新型コロナウイルス関係で発生した失業ではそういった点から処分を求めない運用が広がっているようだ。
今後ずっと生活保護に頼らざるを得ない人と一時的な生活保護で済みそうな人では扱いが違うということである。

★生活保護中の生活


生活保護を受ける人には担当のケースワーカーがつく。
ケースワーカーは定期的に訪問し(時に抜き打ちで)色々なことを細々と指導してくる。
帳簿をチェックしてちょっとでも使い過ぎるとこれは何に使ったと聞いてきたり、働ける人間には仕事を探せと指導。
借金が溜まっている場合には、保護費で借金を返さない為に、生活保護は出してあげるけど並行して弁護士の所に行って破産してもらって来てね、という場合も多い。
この時の指示に従わないと、保護を打ち切られてしまうこともある。
無論、所持が認められないものをこっそり隠していた、宝くじが当たったけど申請せず隠していた...といった事がバレようものなら、場合によっては不正受給とみなされて支給額の返還を命じられ、果ては詐欺罪で罰せられる。

◆生活保護って簡単に貰える物なの?


結論から言うと、現在は昔と比べて受給するにあたっての審査が相当厳しくなっており、また支給額も年々減り続けているというのが実情である。
ぶっちゃけた話、現在は健常者が生活保護で左うちわで暮らすというのは不可能だと思っていい。
その理由として、

1.生活保護の受給者が年々増え続けており、負担する国と地方自治体の財政を圧迫している
2.少子高齢化、団塊世代の大量退職の影響で、人手不足に悩む企業が爆発的に増えている
3.生活保護の不正受給に対する世間の目の厳しさ

などという事情から、生活保護の見直しが進められているからである。
健常者なら受けられないと言うことは決してないが、あくまでも仕事を見つけるまでの一時的なものとして位置づけられる可能性が高い。

もちろん、上記があるからと言って生活保護を健常者が受けることは決しておかしなことではない。
企業が人手不足に悩んでいると言っても、それはあくまでも「企業の条件にあった人手」が足りないだけ。
◯◯の免許が無いと物理的に仕事にならないのにそれを持たない人間に来られても企業側はただの負債にしかならない。
免許が取れるよう教育したり講習試験を受けさせるのだって、中小ならとても負担できないようなカネと人的リソースがかかる。
そこそこの難易度がある資格なら、入社段階で学歴など地頭で絞り込まないといくら教育しても資格自体取れない可能性もあるが、受給者せざるをえない立場の人々はそんな地頭がいい人々ばかりではない。
こっそり無免許で従事させるなんて法規的にも倫理的にも論外である。
「生活保護受給者を雇ってくれる企業が増えているか」というとそれは話が別なのである。

また、仮に雇ってくれる企業があったとしてもそれがブラック企業では意味がない。
生活保護を受けるならブラック企業に雇われろ、ということでは、国がブラック企業への就職を推進することに他ならない。
労働者の健康だけではなく、健全な経済競争を害するという意味でも害悪なブラック企業と国が共犯関係になってしまう。

生活保護を「申請する」ことは誰にも認められた権利である。
申請して審査の結果「働いてください」ということで生活保護の受給は認められないことはあるが、だからといって申請そのものを思いとどまる必要はない。
仮に申請が認められなくとも、生活保護を受けないで生活できるアドバイスがもらえることもある。



◆生活保護受給者の自立


生活保護費は、生活を維持するためのお金である。当然無駄遣いしていいお金ではない。
健康体で働ける人たちならば、仕事を探して早く自立することが求められる。
生活保護は、そんな人たちにとっては大切な自立資金でもある。

当座の生活費に限らず、就職先の面接に行くためのスーツや履歴書、交通費と言った費用も、早期に自立するためには必要である。
受給開始以降支援施設や障害者向けの作業所に通わせ、履歴書の書き方を教えたり、面接の突破方法を教えたり、パソコンなどの必要なスキルを身に付けさせるような方向で行政も動いている。
そのための出費はやむを得ないだろう。そういった出費を一切認めずに、いつまでも少額の生活保護を支給するのでは、かえって高くついてしまう。

ただし、生活保護受給者の50%は高齢者。仕事探しは難しい。
20%は働きつつ生活保護をもらっている人。もう仕事をしている。
15%は傷病者と障害者。これまた仕事探しが難しい。

つまり、自立支援が功を奏する可能性があるのは、受給者全体の1割程度である。
傷病者はまだ治れば働けるが、障害者のほとんどは統合失調症や発達障害などの精神障害を持っている人が多い。
身体障害であれば、企業側から見てほとんど支障がなく、適材適所の考えでやりやすいので、雇われやすい。
だが、精神障害の場合、ちょっとしたことで悪化して休みがちだったり、精神障害特有の行動パターンで周囲の人が不愉快に思う。
見た目だけでは精神障害だと分かりにくいため、周囲の理解を得ることも簡単ではなく、障害者雇用がある企業ですら雇わないことが多い。
仮に受け入れたとしても、精神保健福祉士などのアドバイスを受けないといけないので、コストがかかってしまうのである。

受給者の大半が、働きたくても働けない立場の人間であることは、認識しておくべきであろう。
またちゃんとした自立支援体制を整えている行政の場合、単なる失職者の方には制限の多い生活保護よりも制限の控えめな自立支援制度や失業年金の方を勧める。
むしろ闇雲に生活保護受給を勧める場合は行政としてアテに出来ない方とも言える。

◆困った生活保護受給者


保護費は決して無駄遣いしていいお金ではないのだが、生活保護費を貰うとパチンコや競馬などのギャンブルにつぎ込んだり、中には覚せい剤等の違法薬物を買うのに使う大バカ者も。
生活保護受給者は、もちろん不慮のリストラや会社の倒産、高齢や病気等で働けなくなった人達が多い訳だが、
計画的に金を使っていく習慣が身についていない受給者は、生活保護で追い詰められても計画的に使う習慣が身につかないことが多いのだ。
ギャンブルや覚せい剤の場合依存症になってしまっているケースも多く、ただ単に止めろと叱りつけるだけで止められるような代物ではない場合も多い。叱られるどころか何度刑務所に入って、周囲の支援を得ても止められない人もいるのである。(この人とか)
またギャンブルで稼いだ収入は受給する金額に影響しないので勝てばプチ贅沢が可能という事もギャンブルに金がつぎ込まれる理由の一つ。
不正受給の額は2013年度で年間190億。
家族がバイトしていたことや収入に変動があったことの申告漏れが中心であり、生活保護費をだまし取ろうという悪質なものはそう多くはないのだが、今なお摘発されずにいる件を考えると、
実際にどれくらい不正受給されているのかは正直わからないのだ…。

更には離婚して一方が受給したまま関係を続ける、他人から保護を受けているが黙っているといった方法で不正受給する者もいる。
ケースワーカーがつくので、高齢者所在不明問題のような事にはまずならないのだが…。


◆生活保護を狙う反社会的勢力


暴力団のような反社会勢力が、生活が苦しいことにして収入を隠し、自治体から生活保護費を巻き上げるということも後を絶たない。
暴力団の組員が暴力団から足抜けし、生活を立て直すためには、仕事が見つかるまでの生活保護は不可欠である。
だが、組員が暴力団から去ったかどうかは明確な記録が残らない。暴力団に問い合わせても答えてくれる可能性は低いどころか、足ぬけしようとしたことがバレたらその組員がリンチにかけられる可能性がある。
そのため、暴力団が組員を使って自治体から保護費を巻き上げようとしているのか、暴力団から抜けようとしている人が自立するための頼みの綱で生活保護を頼っているのかが分からない。
保護費を出さなければ暴力団員がいなくなるという社会的に望ましいことを邪魔しかねないし、出せば暴力団に金をやりかねないという悩ましい事態が起こっている。

さらには、住所のない生活保護受給者を囲い込んで刑務所以下の無料定額宿泊所に放り込んで、生活保護費を巻き上げるという生活保護ビジネスも問題になっている。
生活保護受給者は社会生活周りの能力に欠けこの手の情報を調べる能力の低い者が多い為この手の連中に騙されやすい人も少なくない。
役所さえも、彼らの施設を十分に検査できず、反社会勢力の運営する劣悪施設だと認識しないまま受給者にそうした施設を紹介してしまうことさえもある。

◆過熱する生活保護叩き


今、生活保護は、「ナマポ」等と呼ばれてヘイトスピーチの対象になってしまっている。
財政難の現状。
「働かずに暮らせる」ことに対するルサンチマン
しばしば報道される不正受給者や、不誠実な受給者。
人手不足過ぎて制度を回すので手いっぱいの行政。
そういった貧困者やその金を貰えるという制度に反感を持つアンチ。
「努力していれば報われる世界なのだから貧乏は自己責任」という公正世界信念
何より、生活保護制度や貧困に対する偏見や誤解。

「生活保護を受けている奴は働いてないんだ。働かざる者食うべからず、という事で出す必要なし!」
→働けるのに求職活動をしていなければ生活保護は打ち切りの対象になります(文字通りのニートは受給できない)し、働いていても保護は受けられます。
 あと先述の通り支援体制が整ってる所では単なる失職者には自立支援や失業年金の方を勧めています。

「生活保護が国の財政を圧迫する。とっとと打ち切ってその分を他の公共事業に回した方がずっと国が豊かになる。」
→生活保護がなくなった場合、困窮から犯罪が増加しかねず、犯罪者を刑務所に収容したり、被害者支援コストなど、生活保護以上の支出を強いられます。
 同時に自殺・餓死者も増えます。アパートなどで自殺や餓死をされれば大家は家が事故物件になって大損させられてしまいます。
 生活保護に頼れずブラック企業がはびこるのでその取締りも大変になります。
 生活保護に金を出さないならば、こうした支出が生じることを覚悟しなければなりません。
 犯罪・自殺・餓死の多い社会が健康的でないことはもちろんですが、それを無視した支出の面で考えてもそれは本当に生活保護より安上がりなのか、考えたことはおありですか?
 また受給者は金を溜め込まずに使う(使わざるを得ない)ので、地域経済の活性化には生活保護の支給は効果があるとも言われています。

「生活保護は不正受給ばかりだ!俺らはそんな連中を遊び呆けさせる為に働いてるんじゃねぇんだぞ!!」
→生活保護の不正受給は金額にすれば全体の0.5%程度で、しかも単なる申告漏れで後で支給額を減らすなどの形で調整できているものが大半です。
 無論、職員一同が限られた人出でとりうるあらゆる手段を用いて不正受給の撲滅に務めております。
 もっと人を増やして取り締まれ?不正受給取締りのために人を増やしたところで、減った不正受給より人件費がかかっていては意味がありませんよね?またこちらは「公務員多すぎだろ!」という非難に直面しております。

「俺は生活保護より安い給料で毎日クタクタになるまで働いているってのに、働きもしない奴の方が金持ちだなんて納得いくか!」
→それなら、あなたも生活保護を受けることが可能かもしれません。最寄りの窓口で申請されては如何でしょうか。
 自分で「生活保護が受けられるのに受けない」のは勝手ですが、他の人の権利に文句を言っていい理由にはなりません。
 また、朝から晩までくたくたになるほど働いて生活保護レベルの収入も得られないなら、あなたの仕事先がブラック企業という可能性も考えられます。その場合憎むべきは生活保護じゃなくて、ブラック企業ですよね?

「おいあの受給者自家用車に乗ってるぞ。車なんてぜいたく品の筆頭じゃねぇか。処分させるか保護打ち切れ!!」
→都市部の場合は、自家用車を処分しなければ生活保護自体が認められない場合が多く、それでも認められる場合には障害や仕事などの理由があるケースが多いです。
 田舎では最寄りスーパーまで10キロ以上ある場合も多く、公共交通機関もまともに通っていない場所もあり、自転車でも往復1時間以上必要になることも珍しくありません。
 そういった所では公共交通機関の利用者の絶対数が少なく運営しても赤字になります。赤字の公共交通機関維持に多額の税金を投入するより、車を認めた上で生活保護費を支給する方が安上がりです。
 受給者側から見ても、自転車では雨や雪になれば買い物に行けない上、帰り道では買った荷物を持ち運ばなければなりません。
 受給者は体の弱い人も多く、買い物にそんな体力を使わせることは物理的に難しいです。
 また、就職活動にも車が必要になることも多いです。

「あいつスマホなんて使ってやがる!どうせ、生活保護で貰った金で気色悪い萌えゲーなんかやってそれにズブズブ課金してるんだろ?そんなのやらせるくらいなら、解約させろ!!」
→生活保護受給者にスマホ所有を認めているのは、主に「緊急時にケースワーカーや警察等の公共機関に連絡を取れるようにするため」「職場を探すため」です。
 また、スマホを認めていてもそれらはほぼ料金プランは最低です(尤も、近年は多くの公共施設などでフリーWi-Fiが設置されているのでデータ通信量に於いての制限はほぼ形骸化している所がありますが…)。
スマホゲーム?真っ当に職探しや働いている人ならそんな余裕なんて全くないですし、仮にそれらに課金をしていたら、「最低限の生活が出来る」と判断されて生活保護も打ち切りになりますが?(こちらも支払い方法によっては追跡が難しいものがあるのですり抜けられる可能性もありますが)

「生活保護受給者なのにデブなのはおかしい!!デブはいいメシをたらふく食ってる証だろ?」
→食料自体が極めて少ない最貧国と言われるような国ならば、貧困者は骨と皮だけにやせ細っているケースが多いですが、そうでない日本の貧困者はむしろその逆です。
 安くて腹の膨れる食品の多くは炭水化物ばかりなので、そればかり食えば簡単に太り、体も壊します。俗に言う「現代型栄養失調」です。
 栄養バランスを考えられた食事ができる裕福な者は肥満にならず、栄養バランスの崩れた食事をする貧困に喘ぐ者が肥満になることは今や世界的にも常識になっています。
 こうした状態でデブになっているのが「健康で」文化的な最低限度の生活とは言えません。

「生活保護受給者が何惣菜なんか買ってんだ?そんな割高なモン買ってないで自炊しろよ?自炊の方が勉強になって、ずっと安上がりだろうが。」
→受給者の中には家に冷蔵庫や調理器具すらない人もいます。働いていたり身体を壊している場合、料理に回す時間や体力も無い場合もあります。
 十分な教育を受けられず、または知的な能力のない受給者の場合料理をするための知識もないケースもあります。
 無理をして料理をした結果火事でも起こされれば目も当てられません。
 また病気の種類によっては自炊調理の方が初期投資もランニングコストも高い場合があり、一概に「自炊の方が低コスト」とは言えません。

「生活保護受給者に現金なんか渡すから無駄遣いするんだ。商品券やフードスタンプで生活の必要雑貨以外買えないようにしろ!!」
→紙の商品券やフードスタンプを使った場合、それを印刷・発行・換金するための予算が必要になります。
 カードや携帯などで電子払いさせたとしても、今度は対応機器を受給世帯に配る必要があり、これも相当な予算がいります。
 対応させられる店舗の負担もあります。現在のクレジットカードや商品券・電子マネー類ですら、運用手数料は店舗の経営を圧迫しているのです。
 どうしてもある程度の現金は必要になりますし、一部だけでも現金を渡すなら結局全部現金・あるいは口座振替で渡すのが安上がりなのです。
 また、そうした商品券やフードスタンプを買い叩いて現金に変えさせる業者が現れる可能性が高く(パチンコ玉の現金化と原理は同じです)、そうすると無駄遣い防止効果もあまり上がらない可能性が高いでしょう。

「生活保護受給者に個別の住居なんてもったいない、行政で用意した建物で共同生活させろ!」
→憲法で居住移転の自由は基本的人権とされており、刑罰でもないのに特定の場所に住むことを強制することは難しいのです。少なくとも行政側からそれを行う事はほぼ不可能です。
 仮にそこをクリアしたとしても、民間の賃貸住宅に住んでいる受給者の場合、大家さんを通じて民間に金を回し、経済に貢献しています。共同生活はその経済への貢献を奪い、民業圧迫という結果になりかねません。
 また、共同生活はトラブルが生じやすくなります。精神や身体に障害を抱えた生活保護受給者も多く、その管理のためにそれなりの人手を準備しなければならず、そのためのコストも必要になります。
 加えて、都合の良い共同生活向けの住居を自治体ごとに準備できるかも問題があります。環境を悪くすればそれはトラブル発生の増加や「野宿の方がマシ!」と生活保護を受けない人の増加を招きます。
 地方に空き家が多いからそれ使え?空き家が共同生活向けの建物かどうかは話が別ですし、空き家はすぐに朽廃するので整備のために結構な予算が必要になってしまいます。
 それなら自立すればいい?受給者の9割近くが就職・自立が望めない高齢者や障碍者であることをお忘れですか?

「奴らは生活保護という金を貰ってるんだろ?なら、それに見合うだけの仕事をさせろ!建築業とか農業とか腐るほど手が余っているだろ?嫌という奴にはこの企業のような労働させてもいいから!
→日本には労働基準法「強制労働」の禁止によって、労働者の意思なく働かせる行為を禁止しています。
また、建築業や農業などは、近年深刻な人手不足こそ事実ですが、やる気の無い方を雇う余裕がないのも他の企業と同じです。
我々としても働き口がなかなか見つからない受給者には先述した自立支援やハローワークと言った可能な限りの支援をして生活保護から脱却できるようサポートしています。
その漫画の企業と同レベルの労働をさせろ?それは漫画だから出来るのであって、実際にやったら人権無視や強制労働、監禁等大問題ですし、そもそもそれを準備するのに生活保護以上の税金が必要だと想像できますか?


…などなど、生活保護に対する誤解や、生活保護以外の制度への無理解、貧困への無理解、受給者に対する無茶ぶり、費用対効果への考えの甘さや否定的な人のあまりに無茶すぎる暴論からヘイトスピーチは蔓延している。
生活保護を受給できる世帯のうち生活保護を実際に受給している世帯は2割程度とされているが、ヘイトスピーチが残り8割が生活保護を思いとどまってしまう一因であることは間違いないだろう。
税金を使う以上、生活保護のあり方を議論するのは必要なことかもしれないが、前提となる制度や事実に誤解がはびこっていては、議論以前の問題である。
また、外国を参考にするにしても、生活保護以外の様々な社会保障との兼ね合いの問題もあり、生活保護制度だけをピックアップして日本に輸入してもちぐはぐになることも忘れてはならない。

◆必要になっても生活保護が受けられない…


生活保護を受けているのにきちんとできない者と、生活保護について理解していない人の所為で、本当に生活保護が必要な人が保護されない、ということも起こった。例を挙げると…。

★「重度の心の病を障害だと認定されない」
大阪の建設会社で働いていた30代の男性が、常日頃から上司に酷い罵声を浴びせられ続けたことで酷い鬱状態になり、会社を退職。
やがて貯蓄が底を尽き、藁にも縋る思いで生活保護の申請をしたものの、肉体的には何の障害も無い健康体だったことを理由に、役場の職員から鬱病などというのは所詮ただの甘え。働いて下さい。などと突き放されてしまう。
この男性は法律事務所に駆け込んで事情を説明し、今度は弁護士を同伴させて役場に再度訪れた結果、弁護士が職員と壮絶な怒鳴り合いを繰り広げた末に、結局渋々生活保護の受給を認めさせたとの事らしい。

この件は中日新聞の社会面で特集が組まれた事があったので、ご存じの方も多いのではないだろうか。

★「全身に障害があるのに障害者だと認定されない」
2007年、北九州市で生活保護を受けていた人が、体中に病気を抱えている状態のまま「働ける」という扱いにされて生活保護を止められてしまい、ついには

「おにぎり食べたい」

という悲痛な日記と共に餓死しているのが見つかった。(北九州市生活保護受給者死亡事件

北九州市では暴力団による不正受給が元々酷く、これに激怒した前の市長が「生活保護は人をダメにする」としていたとされ、生活保護を徹底的に削ろうとしていた。
削る方法が就職支援や家族から扶養を受ける仕組みの支援などであれば、何の問題もなかっただろう。
ところが、実際に取られたのは、生活保護の支給を制限、それも後述する違法なやり方で制限するという方法であった。
その結果「受給しなければ生命さえ危うい人にまで受給させない」事態を生み出し、悲劇につながってしまった。
流石にこのやり口の酷さが報道ですっぱ抜かれて批判が殺到している。

★「役場を何度も何度もたらい回しにされ、様々な難癖を付けられて中々受理して貰えない」
2020年4月、三重県桑名市の自動車部品製造会社に入社した20代の男性は、一週間の研修期間を終えた翌日、さあ現場で働くぞ、と意気込んで出社したのだが。

「悪いけど雇えなくなった。コロナで仕事が無いんや。」

と突然解雇を言い渡され、一週間分の研修期間中の給料も全く払って貰えなかった。
この時点で既に労働基準法に2つも抵触している*1のだが、住んでいた社員寮を追い出されてしまったこの男性、いくら会社が悪く、場合によっては裁判をするにしても、それで金銭が手に入るまで生きていける状態ではない。
藁にも縋る思いで桑名市の市役所に事情を説明し、生活保護を申請した。
ところが桑名市の職員は

「うちは小さな町だから…。」
「名古屋で申請した方がいいと思いますよ。」

と男性に告げ、名古屋までの交通費とミネラルウォーター、乾パン一袋を渡しただけで、生活保護の申請を受理してくれなかった。
何故助けてくれないのかと疑問に思いながらも男性は名古屋まで足を運んだのだが、そこからさらに多くの役場をたらい回しにされてしまい、支援団体からの支援を受けながら野宿を繰り返し、辛うじて命を繋ぎながら、最終的に桑名市から遥かに遠く離れた東京で申請して、ようやく受理されたという事例があった。
この男性は中日新聞の単独インタビュー記事において

「一時は本気で自殺を考えました。」

と語っている。


北九州市以外でも、一部自治体や福祉事務所の担当者が生活保護申請にとんでもない対応をしていることが分かってきている。

  • 家族、住居、労働などの生活保護の要件について、嘘を言って申請を断念させる*2
  • 申請用紙を渡さないで申請を断念させる*3
  • 申請に現れたのに「相談」と言う扱いにして生活保護の申請として対応しない。*4
  • 申請者を恫喝する。

なんて手口が出てきたのである。もちろん、これらの方法は全て違法である。
本当に生活保護を認めるべきでないなら、申請をさせないのではなく申請を受け付けて審査の上でダメだ、と言わなければならないのだ。

こうしたやり方は水際作戦と言われたり、上の事件にちなんで北九州方式と呼ばれることも。
弁護士が申請者について行って監視して上記のような口論の末、ようやく申請にこぎつけることもある。

◆追い込まれるケースワーカー


生活保護受給をチェックし、働ける人たちの立ち直りを支援するのがケースワーカーであり、自治体の職員が担当することが多い。
しかし、このケースワーカーは、自治体によって差はあるものの一人で100世帯以上を受け持つのがザラで、酷いと150世帯を超えることも。
法律で80世帯以下を努力目標とされているのに、それはほとんど守られていない。法秩序の遵守どこいった。
しかも、激務になるため自治体内ではなりたくない仕事のトップに挙げられることが多い。体力勝負であることを理由に若手にケースワーカーを押し付けられることが多く、知識不足に悩まされる。
役所内で行われる異動によってせっかく手に入れた知識が定着せず、新しいケースワーカーが異動で来るたびに一々学び直させなければならない。
と言って、異動させずにずっとケースワーカーをさせようとすれば、今度は退職者が続出しかねない。
認知症や精神の障害で自立支援が全く効果を持たない受給者も多く、節約するよう指示しても聞いてもらうのが難しい。
生活保護に対するヘイトスピーチの対象にケースワーカーも巻き込まれ、その対処に追われることもしばしばである。

…これでは、世帯毎に行き届いた支援や監督などできるわけがない。

更には、受給者の中には精神的な障害のある人も少なくなく、ケースワーカーの指導に対して暴言を吐いたり、暴力を振るってくる例も少なくない。
もちろんそれを理由に生活保護を打ち切ることもできなくはないが、打ち切れば犯罪や事故物件ができる原因になるため、そこまで踏み切るのは非常に難しい。

こういった背景から、ケースワーカーのストレスはたまる一方であり、逆にケースワーカーが受給者に対してハラスメントをする例も目立っている。
女性の受給者に対しては、直喩・暗喩問わず性風俗店への勤務を促すセクハラ案件もある。
少しでも担当世帯を減らしたいからこそ、申請自体を不受理にしたり、余所の役所にたらい回しにしたくなる。
もちろんこうした対応は許される行為ではないが、ケースワーカーの人手不足や多忙はいつ臨界点に達してもおかしくないのである。


そうした中、小田原市生活支援課では所属する職員を鼓舞する目的でユニフォームが作られたが、生活保護受給者に恐怖心を与えるような言葉が書かれていたため問題となった(小田原市生活保護なめんなジャンパー事件)。
そのようなユニフォームを製作・着用することはとても肯定できるものではないが、ケースワーカーにかかる負担のことを考えれば該当の職員を非難すれば解決する問題ではない。

◆終わりに


本当に必要な生活保護を受けさせること、必要のない生活保護を受けさせないという結論の点に異論のある人は比較的少ないのではないだろうか。
だが、現実の運用を考えると必要か不要かを見極めることは非常に難しく、素人考えではとんでもない考え違いをしてしまうし、運用していく側も限られた情報の中で決断していくしかない。

そのため

「本来必要な人に支給しないで飢死or犯罪させる」
vs
「本来不必要な人に払って税金をムダにする」

と言う二律背反が起きやすい。
そうなると、人命がかかっているし、仮に払わないと別口で税金が無駄になる可能性も高く、どうしても後者の方がまだまし、という判断になりやすい。
不正受給を防止する為の制度はあるが、とても人手が足りず完璧とはいかないのが現状である。
不正受給の防止は徹底しければならないし、支援の必要な受給対象者を取りこぼすこともあってはならない…それは確かであるが、現実として行政のリソースは限られており、その中で最善を尽くすほかないのだ。

行政側には、人員を拡充するなどして現場の負担を抑えつつ、生活保護費が適切に運用されるよう監督する態勢や工夫が求められるだろう。

受給者側は、不誠実な受給者の存在が本当に困っている人たちの生活までも圧迫することを肝に銘じ、身を慎まなければならない。

一般市民は、生活保護に関する正確な知識を手に入れた上で、生活保護に頼らず生きていくために何が必要か、
諸々のコストを考えながら、生活保護について考えていくことが必要である。
知識もないままにルサンチマンで生活保護を叩くのでは、北九州で餓死者を出した市長と同レベルであることを肝に銘じるべきだろう。


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