SCP-3780

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SCP-3780 - (2022/05/13 (金) 20:48:10) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2018/02/12 (月) 18:44:50
更新日:2024/04/14 Sun 22:59:46
所要時間:約 18 分で読めます





確かに大統領は殺された。だが暗殺者は目標を仕留めきれなかった。
あの稲妻の年月を、その雷鳴の一日とて消し去ることなど、誰にもできはしないのだ。
――グレゴリー・ペックによるナレーション


SCP-3780とは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に投稿されたオブジェクトの一つである。
オブジェクトクラスはKeter。

前書き

財団本部の置かれた地、アメリカ合衆国。その歴史の裏には、常に異常存在の影がちらついていた。
それは大規模な入植によってもたらされた歪みか、それとも多様な人々の精神活動が共鳴した結果か。ともかく、この国は急激な成長のかたわらで爆発的なアノマリーの増加をも経験することになった。国家元首といえどもそれと無縁ではいられないほどに。
その存在自体が異常であった初代大統領ワシントン。出世欲ゆえに秘密結社と繋がりを持ってしまったニクソン。今なお画面の中で冒涜され続けるレーガン…。
アメリカの歴史は確保と収容の歴史だったと言っても過言ではないのだ。

さて、こうして歴代大統領の名前を並べると、ある特定の人物がまだ出ていないのが気になる人も多いことだろう。
多くの謎と陰謀が渦巻く、あの事件の犠牲となった大統領。あれほどの大事件が異常性とかかわりなく起きたなどということが考えられるだろうか?

あなたの想像は正しい。われわれ時間異常部門はかねてよりこの案件を内密に処理してきたが、このたびついにあなたがたアニヲタ部門の上級職員にも閲覧クリアランスを付与する運びとなった。
事件から50年以上が経過した今、改めて皆さんにも真実を知ってもらいたい。


SCP-3780

誰がJ.F.K.を撃ったのか?
Who Shot J.F.K.?


オブジェクトの概要

SCP-3780とは、第35代大統領ジョン・F・ケネディの暗殺にまつわる一連の現象である。
より正確に言えば、ケネディ大統領の暗殺が何者かによって阻止されるという過去改変現象を指す。タイムパトロール案件である。

この件の厄介なところは、実行犯が多岐にわたっていることだ。既知の要注意団体のこともあれば無名の個人のこともあり、関連性が見出せない。
そして財団が対処してもすぐまた別の誰かが似たような改変を試み、いたちごっこになってしまう。首謀者も動機もわからないのに繰り返し発生するので、改変現象そのものにオブジェクトナンバーを振って管理することになった。

もっとも、在任中のケネディ大統領の支持率は平均7割とかなり高かった。政治的動機でケネディを生存させたいと願う人々は枚挙にいとまがないだろう。
いやたとえ反ケネディ派であろうとも、民主主義者を自負する限り、暗殺という卑劣な手段をよしとするはずがない。国民感情で言ったら大多数があの悲劇を防ぐことに賛成なのでは、とも思えるくらいだ。はたしてこれが悪意や策謀に基づく過去改変なのかどうかは判断しかねるところがある。

しかし、だからと言って過去改変を放置しておくわけにはいかない。
SCP-1941-JPという前例をご存じの方なら納得してもらえることだろう。我々は決して安易に歴史を塗り替えてはいけないのだ。たとえそれが悲劇を防ぐためだとしても、倫理的に良いことのように見えたとしても。
よかれと思って行った過去改変がバタフライエフェクトを起こし、現在の我々の時間軸に致命的な影響をもたらさないとも限らないのだから…


実際のところ、ケネディ暗殺が成功裏に阻止されても時間軸に顕著な変化は生じませんが、
影響ないんだ!?

…ゴホン、たとえ影響がなかろうとも、「現在の我々の歴史」を保護するのが財団の理念である。
結局、財団がこの現象をコントロールできていないことには変わりがない。それは我々の歴史がどこかの他人の手に委ねられたままであるということを意味する。だからこそのKeter認定なのだ。

よって財団は過去を定点観測し、ケネディ暗殺事件を本来あるべき姿のまま保護し続けることを目的とする無期限プロジェクトを始動させた。名付けて「オペレーション・サンダーボルト」。


史実上の暗殺事件について

財団の暗殺阻止阻止記録を見ていく前に、まず「現在の我々の歴史」における定説を確認しておこう。

  • ケネディ暗殺実行犯として逮捕されたのはリー・ハーヴェイ・オズワルドという人物である。
  • オズワルドは勤務先であるテキサス教科書倉庫ビルの6階に陣取り、大統領の車両を後方から狙撃した。

しかし事態をややこしくしているのが多数の異説の存在だ。特に「真犯人は別にいる」という見方は根強い。これはしばしば次の証言の存在を出発点とする。

  • 倉庫ビルの南にある「芝生の丘〈グラッシー・ノール〉*1」から銃声が聞こえた、とする証言が複数の見物人から寄せられた。

真犯人がここから狙撃したとすると、大統領は前方から撃たれたことになる。
この説は見物人が偶然撮影していた8mmビデオ(撮影者の名前をとり「ザプルーダー・フィルム」と呼ばれる)の発見によって補強されることになった。2発の命中弾のうち、2発目が当たった瞬間のフィルムをコマ送りでよく見ると「前方から撃たれたように見える」という主張だ。

しかし結論から言えば、グラッシー・ノール説はデマだというのが公式見解である。
現実のグラッシー・ノールは身を隠す物陰すらない開けた緑地の一部でしかないし、現場から物証も出ていない(一方、倉庫ビルからは確かにライフルと薬莢が発見されている)。また司法解剖の結果は2発の銃弾がどちらも後方から命中していることを示唆している。
「ザプルーダー・フィルム」は今やYoutubeや各種アーカイブサイトにアップされているので誰でも確かめることが可能だが、見てみると本当にこれが前方から撃たれた証拠になるのか?目の錯覚じゃないのか?としか思えないのが正直な感想だ。
(粗い映像とはいえ殺人の瞬間には違いないので、検索する際はご注意いただきたい)

もちろん懐疑派が持ち出す材料は他にもあるが、それらも一通り反証されている。少なくとも狙撃自体の流れについては、定説が確立していると考えて差し支えない。

だがこれで疑問が解消し一安心…ではない。大統領が倒れた後にも一悶着あるのだ。

  • およそ1時間後、不審人物に職務質問をした警官(ティピット巡査)が射殺される。これは逃亡中のオズワルドの犯行とみなされた。彼はまずこの警官殺しの罪で立件された。

これも疑う声があるが今は省略。

  • オズワルドは逮捕の2日後、ダラス市警察署地下からの移送中にジャック・ルビーという人物に射殺された。
どうしようもないのがこれである。やっとの思いで捕まえたオズワルドは、まだろくに口も割らないうちに銃を持った不審者に殺されてしまうのだ。しかも白昼の警察署内で堂々と、である。
犯人のジャック・ルビーはマフィアとも交友関係のあるナイトクラブ経営者。本人がマフィアというわけではないが、いかにも脛に傷がありそうな人物だ。そんな人物をやすやすと留置場へ侵入させた警察の怠慢は擁護のしようもない。「マフィアが警察とグルになって口封じをしたのでは?」という噂がささやかれるのも無理ないことだろう。

とはいえ証拠があるわけでもない。仮に陰謀を疑うとしても、じゃあ誰の差し金なのか?マフィア?CIA?KGB?…と想像していくと決定的に得をしたと言えるような主体が見つからず、なかなか意見が一致しない。
結局、大統領暗殺はオズワルドの単独犯行、オズワルド殺しもルビーの単独犯行、という形で幕引きとなった。といっても単独犯である裏付けがとれたわけではなく、他者の関与の裏付けがとれなかったという消極的な理由によるものだ。いわば、公式調査委員会すら背景解明については事実上ギブアップした状態である。

このようなすっきりしない終わり方になってしまった以上、それを「すっきり説明してくれる」陰謀論は今後もなくなることはないだろう。
だがひとまず今は箇条書きした事実の部分だけを覚えておいてくれればいい。これをふまえて、いよいよ財団の記録を見ていくことにしよう。


財団による介入記録

1963年11月22日

倉庫ビルに潜んでいた殺し屋がオズワルドを殺害したため、狙撃は実行できなかった。依頼者は不明。
そこで財団はグラッシー・ノールにスナイパーを配置し、殺し屋をビルの外から排除。オズワルドは自分を狙う殺し屋がいたことに気付かないまま、無事狙撃を成功させた。

「グラッシー・ノールから聞こえた銃声」の噂は間違いなくこの工作に由来するものだろう。現在の我々の正史にもっとも近い世界線かもしれない。
え、グラッシー・ノールには人が隠れる場所なんかないっていう話はどうなったんだって?そりゃほら、アレだよ…財団だからなんとかなるだろたぶん…

1963年11月22日

何者かの時空干渉により、オズワルドが12:29時点から12:42時点に突如タイムスリップ。その間に大統領の車は通り過ぎてしまったため、狙撃は実行できなかった。
そこで財団は12:42に出現したオズワルドを同じ要領で即座に12:29へ再ジャンプさせた。オズワルドは自分が2回のタイムスリップを行ったことに気付かないまま、本来の計画通り12:30に狙撃を成功させた。

1963年11月22日

同日早朝、マーシャル・カーター&ダーク株式会社のエージェントがオズワルドの母親の家に侵入し、ひそかに「ユニコーンの角」の粉末を飲ませようとした。こいつは財団がまだ収容できていないMC&D社の「商品」の一つで、飲んだ女性を遡及的に処女にするというものである。どういうことかって?子供も生まれなかったことになるんだよ!
「どんな女でも処女に戻せる薬だって?ひらめいた」
よからぬことを考えた職員など最初からいなかったので話を続ける。もちろん起こるとわかっている工作を防ぐことなど時間異常部門にとっては朝飯前だ。ただちに財団職員が過去に派遣され、MC&D社のエージェントを拘束した。尋問を試みているが、成果があったかどうかは明らかでない。

1963年11月22日

シャンク博士「やあ、私はタデウス・シャンク博士。シャンク/アナスタサコス恒常時間溝でおなじみ時間異常学の権威だ。今日はオズワルド君の存在が因果律に与える影響を調査するためにやってきた。なお私の回りにはSEPフィールド*2を張っているから、暴れでもしない限りバレる心配はないぞ」
シャンク博士B「ん?誰だお前は!ここは私が調査に使う場所だぞ!出て行け!」
シャンク博士「グワーッ!」

暴れたはずみでSEPフィールドが乱れる。それを目撃したオズワルドは動揺して狙撃を外す。

シャンク博士「くそっ、このままじゃ調査も失敗だ。こうなったらあいつより前に…いや、あえてさっきの5秒後に戻ってやり返してやる。くらえ!」
シャンク博士B「グワーッ!くそっ、こうなったらさっきの5秒後に(略)」
シャンク博士「グワーッ!くそっ、こうなったら(ry」
シャンク博士B「グワーッ!やろう、ぶっころしてやる。」
シャンク博士きゃあ!じぶんごろし。

こうして二人の到着時間はどんどん後方にずれていく。やがて二人とも、オズワルドが既に狙撃を完了した後の時刻に来てしまったことに気付く。

シャンク博士「…まだやる?」
シャンク博士B「やめよう。じぶんどうしのあらそいは、みにくいものだ。」

1963年11月22日

今度の敵は力押しで来た。多少の妨害などものともしない強力な重武装部隊を送り込み、力づくでオズワルドを制圧しようとしたのだ。
多数の死傷者を出したのち、ついに財団は切り札を…機動部隊タウ-5“サムサラ”を派遣した。
サムサラとは財団科学と古代秘術の融合によって作られた、何度でも再生産できるクローン四名で構成されるサイボーグ分隊だ。死を恐れる必要のない彼らはまさしくパーフェクトソルジャーであり、SCP-1730のような極めてハイリスクな異常状況に投入される正真正銘の秘密兵器である。隊員にはそれぞれオンルゥ、イラントゥ、ムンルゥ、ナンクゥのコードネーム(タミル語で1、2、3、4の意味)が振られている。

激しい戦闘が終結したとき、ついに相手の正体がわかった。相手も未来の財団から派遣されたサムサラ分隊だったのだ。
ようやく交渉可能な相手と出会えたように見えたが、やっぱり向こうの目的は明らかになっていない。ひょっとしてSCP-3780現象にはミーム的な情報妨害効果も含まれていたりするのでは…

なお敵方のナンクゥ隊員が一人生き残ったが、どうせクローンだしということで、記憶をリセットしてこっちのバックアップとして再利用している。


結びと追加記録

以上である。オチはない。
なぜ(財団自身を含む)世界中の組織がよってたかってケネディ大統領を守ろうとするのか?そのくせ守っても守らなくても目立った変化が起きないのはなぜなのか?そもそもケネディ大統領は何者なのか?それに対する解答は用意されていない。
というか おもちゃにしてくださいと言わんばかりに 誰でも編集できる追加事件記録ページ(未訳)が設置された時点で、バックストーリーが明かされる見込みは完全になくなったと言っていい。


正解はどこにもなく、全貌は誰も知らない。無限に拡張しつづける並行世界の中で、ケネディ大統領とオズワルドはこれからも繰り返しおもしろおかしい方法で守られ、そして殺されていくのだろう。永遠に…。
満を持して作成されたケネディSCiPがこんなギャグ時空でいいのかって?好評だからいいんだよ!*4


ところで冒頭部で引用したナレーション台詞は、事件の翌年に公開された政府公認ドキュメンタリー映画『John F. Kennedy: Years of Lightning, Day of Drums』(1964)からのもの*5。このタイトルをふまえて、英語圏ではケネディ政権に言及する際にしばしば雷のたとえが用いられる。
作戦名「オペレーション・サンダーボルト」の由来もおそらくこれだろう。稲妻のように一瞬だけ輝き、消えていった大統領。彼には稲妻のままでいてもらわなければならないのだ。


関連オブジェクト

ケネディ暗殺事件といったらいくらでも話をふくらませられる陰謀論マニア垂涎のネタのように思えるが、さすがにこれほど有名なテーマとなると書く側のハードルも高いのだろう。これまではさりげなく言及するにとどめた作品ばかりで、正面から切り込んだものは皆無であった。
2017年になってようやくこの作品が現れたのは、「みんな遠慮して書かないなら俺がテンプレ化しちまうぞ!お前らが書きやすいようにな!」という作者のメッセージなのかもしれない。
そう考えると、土台の部分を穏健な公式見解ベースにしているのも、うかつに実在団体を黒幕にするネタを採用して政治論争で荒れたりしないように、というベテラン作者ならではの配慮とも受け止められる。
…もっともこの配慮により「誰がJ.F.K.を撃ったのか」は確定してしまっているので、タイトルは「いかにしてJ.F.K.は撃たれたか」の方が正しい気もするが…。

最後に、ケネディ大統領への言及が含まれるオブジェクトをいくつか紹介して締めくくりとしたい。





追記・修正は生きてても死んでても歴史に大した影響を与えない方にお願いします。



SCP-3780 - Who Shot J.F.K.?
by A Random Day
http://www.scp-wiki.net/scp-3780
http://ja.scp-wiki.net/scp-3780 (翻訳)

SCP-3780 Extended Incident Log
http://www.scp-wiki.net/scp-3780-incident-log

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