SCP-2736

登録日:2017/10/11 Wed 01:57:59
更新日:2024/07/15 Mon 22:57:43
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SCP-2736はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスは現時点ではNeutralized。
項目名は『The Age of Nixon (ニクソン時代)』。


概要

SCP-2736は、遺伝子的に全く同一のSCP-2736-1とSCP-2736-2によって構成される。
両者はともに、財団が確認できる限り、元アメリカ合衆国大統領だったリチャード・M・ニクソンである。
…そう、ニクソン大統領。なんで財団世界の首脳はジュカノビッチといいハロルド・ホルトといい異常存在しかいないんだ。
元々はたった一人だったニクソンだが、とある事象『事案ヤヌス-2736』の結果、分裂してしまった。
簡単に言えば『マゴグの大衆』と呼ばれる宗教団体による儀式で、それ以降、
肉体的・精神的には因果関係共有を有する(片方が風邪をひけばもう片方も風邪を引く、みたいな)ものの、
意識それぞれは相手を別々の存在だと見ている。

SCP-2736-1は、財団に収容されており、収容時はオブジェクトクラスはEuclidだった。
普段はテレビと新聞を読み、都合に応じて財団に支給された金額内から本を購入することもできる。
SCP-2736-2は、財団に収容されていないほうであり、オブジェクトクラスはかつてKeterだった。
SCP-2736-2を守るようにマゴグの大衆のメンバーたちは警戒を強めており、
財団は彼が大統領に就任しているのを見守るしかなかった。

ニクソン大統領はもう亡くなっていることはみなさんもご存知かもしれないが、
この死亡も連動しているため、現在は両者ともにNeutralized、ということになる。

儀式『事案ヤヌス-2736』

詳しくは元の報告書を見たほうがいいと思うが、簡単に要約すると、
「リチャード・ニクソンをボヘミアン・グローブに呼んで、そこで仮面をつけた人たちがナイフで精神的に傷つけていく」というもの。
そしてニクソンさんを土に埋めると、近くで麦藁人形を燃やし始める。すると二人のニクソンさんが土から出て来る。

ここでマゴグの大衆は片方にナイフを手渡し、もう片方を襲わせる。
だが、襲われた方は傷つけられながらも、襲ってきた方を拾った石で気絶させて逃げる
その逃げた個体を財団が確保したということになる。

このボヘミアン・グローブだが、これは有名なエリートクラブ『ボヘミアンクラブ・オブ・サンフランシスコ』の持つ庭園である。
現実世界にも存在し、「音楽、演劇、芸術、文学」を柱とした芸術愛好紳士倶楽部として続いている。
財団世界においては、これは単なる芸術愛好家ではなく、宗教団体としての顔も持っていたようだ。

ニクソンさんは元々、彼らに招待されたらしく、「招待されるためなら殺人すら犯す奴がいる」その招待を喜んで受けたという。
ニクソンさんは「大物に招待されて、そこで相談をした」という。その相談とは、ずばり彼の夢についてである。
ニクソンさんは、マゴグの大衆に、「この世界には4人の王が必要で、そのうち一人目の王になってほしい」と言われる。
これを受けたニクソンさんがその後上述の儀式に参加したようだ。

ちなみに儀式的には片一方がもう片方を殺す、ということで完遂できるはずだったのだが、
殺されかけたほうが「海軍時代の訓練の賜物」でノックアウトしてしまったというのは想定外だったようである。

二人のニクソンの苦悩


さて、財団に収容されたニクソンさんは、たいへん怒っていた。
いや最初こそ財団には感謝はしていたのだが、ずっと収容されているとそのうちやっぱり腹立ってくるものである。

「妻と子に会わせろ!あいつら絶対寂しがってるぞ」と。

ところが財団は申し訳無さそうに、ある真実を言う。
…収容されてない方のニクソンさんが帰宅していて、ぶっちゃけ家族はあなたを失踪したとも考えてないよ、と。
自分の『偽者』が家に帰っていると聞いたニクソンさんはそいつをどうにかしろと財団に言うが、
財団は2つの点でそれを否定した。

①マゴグの大衆が収容されてない方のニクソンさんを守るために警戒を強めており、財団にはどうしようもない
②そもそもあなたは自分が『本物』ということを自明のようにいうけれど、「向こうが本物」または「両者とも本物」という可能性もあるじゃないか

そんな財団に対して、「彼らは何かを自分にしたんだ」と語る収容された方のニクソンさん。

ニクソンさんはかなり野心家だったようで(だから王になるという提案を受けたんだろう)
栄誉に地位に名誉にとにかく飢えていたという。だが今の自分はなんかぽっかりそんな野望が消えてしまっている。
ということは、もう片方は逆に野心が残されているんじゃないかと。

儀式を受ける際に、「あなたは権力のために何をする覚悟があるか」とマゴグの大衆は問うた。
それにたいして、「何であろうとも」とニクソンさんは答えた。
要はそれに対して、マゴグの大衆は「ん?今なんでもするっていったよね?」となったと。
それが彼らの求める答えであり、収容されてない方のニクソンさんは今や彼らの得た王であり、
そして財団いわく、そのバケモノが家族と住んでいる、マゴグの大衆によって住まわされているんだな、と
収容された方のニクソンさんは愚痴った。

SCP-2736-2の政治的キャリアの要約版タイムライン

1951/06/21: ボヘミアン・グローヴで事案ヤヌス-2736が発生。

1952/11/04: ドワイト・D・アイゼンハワーがアメリカ合衆国大統領に就任し、SCP-2736-2が副大統領となる。

1956/11/06: ドワイト・D・アイゼンハワーがアメリカ合衆国大統領に再選し、SCP-2736-2が再び副大統領となる。

1968/11/05: SCP-2736-2がアメリカ合衆国大統領に就任。

1969/07/20: NASAのアポロ11号が、2人の人間を歴史上初めて月面に着陸させる。

1972/11/07: SCP-2736-2がアメリカ合衆国大統領に再選。

1974/08/09: ウォーターゲート事件をきっかけに、SCP-2736-2がアメリカ合衆国大統領の職を辞任する。

1974/09/08: アメリカ合衆国大統領ジェラルド・フォードがSCP-2736-2に、任期中に犯したあらゆる罪への全面的恩赦を行う。

あれから23年


収容された方のニクソンさんに、財団はインタビューをする。向こうのニクソンさん、大統領辞任しましたねと。
それに対して収容された方のニクソンさんは、「まさか妻と娘にあんなことするなんて」と言った。
知られている限りニクソンさんは夫婦関係に悪いことがあったなんてことはないのだが、
ニクソンさんは財団から何かしら聞いていたのかもしれない。

さて、ウォーターゲート事件を受けて最悪のイメージのもとにもう片方のニクソンさんは辞任し、政治生命は尽きた。
財団は問う。「ボヘミアンの友人たちが約束したものとは到底かけ離れていますよね」と。

そもそも大統領選も、最初の一度目はケネディに敗れた。その後もベトナム戦争、カンボジア爆撃と悪いイメージがついた。
そしてウォーターゲート事件。…かつてマゴグの大衆は「あなたが王になればあなたは世界を手にすることができる」と約束したのではなかったのかと。

要は「ボヘミアンの友人たち」は詐欺師だったのではないかと。
しかしニクソンさんはそれを否定する。
「彼らはそれができたはずだし、むしろそれ以上のことすらできたはずだ」と。
財団が訝しがると、ニクソンさんは続ける。

「最初にいたのは普通の建物(=収容サイト)だった。その後、かなり厳重な建物(=武装サイト)に移された」
ニクソンさんは、自分が危険であり対抗する必要があるような存在ではないはずだとし、
実はずっとマゴグの大衆は自分を狙っていたんじゃないのかと。財団は自分を守るためにこんな物騒なサイトに移したんじゃないのかと。
財団はそれには「まあそういうことにしときましょうか」(あくまでニクソンさんにそれを知らせることはダメらしい)と答え、
じゃあその必要は何だと問う。

儀式が完結しなかったからさ。君たちの部隊が私をグローヴから救出した時、君たちは奴らの計画に大きな穴を空けてしまったわけだ。気付かなかったのだろうが、それでも君たちは成し遂げた。だから奴らにとって、そしてあいつにとっても、全ては地獄行きだ。私はあの晩、死なねばならなかったのだよ。

おそらく、自分が死んでいたら、彼は本当に世界を手に入れる大物になっていたんだろうと、ニクソンさんは推察していた。

妻の死とニクソンさん


その後、パトリシア・ニクソン、つまりニクソンさんの妻は肺癌でこの世を去った。
ニクソンさんはそれに深くショックを受けて喋らなくなっていった。
そしてその後脳卒中になり、入院する。その時、外にいたもう一人のニクソンさんも脳卒中になり入院した。

そしてその後両者は喋れなくなり、更に病状が進行して別々の病院で危篤状態になったが、
その時、収容された方のニクソンさんは突然、

<00:46> 大地は7日間にわたって赤き油を流し、私たちはそこに埋葬された死体へ思いを馳せる。数十億。魂は常に最初の犠牲者だ。何も変化しないが、変化は訪れつつある。

<03:03> 月は最初の小さな一歩に過ぎない。

<07:55> (不明瞭)

<10:55> 祈りは美しい物だが、君たちは逃れられない。空は裂けるだろう。

<12:11> 第一なる者は彼の剣へと身を投げるが、彼の血潮は次の千年のための種を播く。第二なる者は全ての罪業を拭い去り、誰も城郭の下に眠る齧られた骨を見つけ出すことは無い。第三なる者は二重の歯を見せて世界へと微笑み、彼の笑い声は水門を開く。第四なる者は主へと刃向かい、永久にその対価を払い続ける。

<13:45> 山脈よりも高き煙突。雲を覆い隠す煙。私たちは一つの旗の下へと団結するのだ。大規模な新体制。終わり無き世界。瞼無き世界。

<14:30> (笑い声が続く)

<16:14> まず初めにアメリカが墜ちた。それは再び墜ちるだろう、井戸の奥深く、君たちが見逃すことの無い何処か他の場所へと。警告はさせてもらったぞ。

<17:03> (啜り泣き)

<18:18> (恐怖に震える声) 彼が… 私を、見ている。

と、発狂しながら20分喋り出した。

その後、両方のニクソンさんは死去。1994/04/22、東部標準時21:08のことであった。

おそらく、ここでいう新体制とは、『新世界秩序(ニュー・ワールド・オーダー)』のことであろう。
世界のエリートによって、現在の国家を中心とする世界は作り変えられ、世界全てを統括する管理社会が来るという陰謀論である。
ボヘミアンクラブ、いやマゴグの大衆はそれを実現しようとするクラブだったのだろうか。




さて、本報告書は最後、とある写真で終わっている。
それは、ニクソン(収容されてない方)、ジミー・カーター、ジェラルド・フォード、そしてロナルド・レーガンの4人が写っている写真。
だが財団いわく、ジミー・カーターはPoI-62679、ジェラルド・フォードはPoI-56121、そしてロナルド・レーガンはPoI-86761に指定される
要注意人物(Person of Interest)であるとキャプションにつけている。

そしてロナルド・レーガンは関係するオブジェクトとしてSCP-1981(演説中に解体されるロナルド・レーガン)なんてものまである。
このオブジェクトでは、レーガンがやはり新世界秩序に言及するかのようなことを述べている。

アメリカ大統領は、一体何をしようとしていたのか?そしてそれは、アメリカを、世界をどう作り変えようとしているのだろうか?



CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2736 − The Age of Nixon
by Hercules Rockefeller
http://www.scp-wiki.net/scp-2736
http://ja.scp-wiki.net/scp-2736

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最終更新:2024年07月15日 22:57