SCP-1682-JP

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SCP-1682-JP - (2022/12/17 (土) 15:39:02) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2019/07/29 Mon 18:14:36
更新日:2024/04/29 Mon 22:18:17
所要時間:約 35 分で読めます





人はいつ死ぬと思う・・?
心臓を銃で撃ち抜かれた時・・・違う
不治の病に侵された時・・・違う
猛毒のキノコのスープを飲んだ時・・・違う!!
・・・人に忘れられた時さ・・・!!


SCP-1682-JPとは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの1つ。
オブジェクトクラスはKeter。
項目名は『慈悲よ、汝いずこへ』。

なお、前作者のSCP-1682-JP - 救難信号についてはSCP-1682-JP/AiliceHersheyを参照のこと。

概要

COGNITOHAZARD WARNING

当該報告書は潜在的にSCP-1682-JPの影響を拡散するベクターとして扱われており、アクセスには研究担当職員らのうち5名以上からの許可が必要です。当該報告書には明確な人為的エラーが存在しますが、異常性の理解を補助する目的で意図的に修正されていません。編集機能はロックされています。



現在、該当報告書は歴史的資料として掲載され、アーカイブされています。財団の最高機密情報に関連した記述が含まれるため、閲覧にはセキュリティクリアランスレベル5/1682-JPが必要です。
‌ - O5-01 -



[ 報告書にアクセス ]


                    
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                    
                    


たすけて


                    


[ アクセス承認 ]



アイテム番号: SCP-1682-JP    LEVEL 5/1682-JP
オブジェクトクラス: Keter       CLASSIFIED

SCP-1682-JPとはミーム汚染能力を持つ、とある概念。現時点で世界人口の実に85.2%がこのミームに感染しており、さらに現在進行形で増加しつつあることもわかっている。
これにより財団の上層部はAK-クラス:世界終焉シナリオを引き起こしており、高度収容優先事項であると判断した。


このミームはSCP-1682-JP-Aに指定されている感染源が何かを認知しているかに関わらず、悲壮感であったり喪失感のような負の感情を抱くようになる。
また、ミーム汚染の常として感染者は他人にミームを伝播させようと試みる。
タチの悪いことにこのミーム汚染は財団の如何なる処置も効果を発揮することができない。その代わり、SCP-1682-JPが引き起こす負の感情は気分転換となる行動を行うことや嗜好品を使うなどすることである程度は軽減が可能。
だが根本的な解決はできないため、感染者は精神的健康を損ねていくことになる。ただし、そもそも死の概念を理解できないような人、例えば乳幼児などは記憶の削除こそ不可能なものの、精神的影響はない。

ではこのミームとは何か。それはSCP-1682-JP-Aに指定されている女性、『イサナギマコモが死亡した』というもの。


……これだけ見るとそこまで有害そうにも見えないが、SCP-1682-JPの真髄はそこではない。

SCP-1682-JPのミーム伝播トリガーだが、以下の通り。
  • 録音されたSCP-1682-JP-Aの声を聞く
  • 写真や映像に記録されたSCP-1682-JP-Aの姿を見る
  • SCP-1682-JP-Aの死体を見る
    厳密には髪や爪ではトリガーにならないが皮膚組織を視認するとアウト
  • 『Isanagi Makomo』もしくは『Makomo Isanagi』と聞き取れる発言を聞く
    姓名どちらか片方だけでは発動しない
  • 『Isanagi Makomo』、『Makomo Isanagi』、『日奉 菰』と読み取れる文章を読む
    姓名どちらか片方だけでは発動しない

多すぎねぇ?

かの有名なSCP-444-JPのミーム伝播トリガーでも、
  • SCP-444-JPについてのナンバー以外の情報を見る/聞く
  • SCP-444-JP罹患者の血液を見る
これだけ。
単純な脅威度で言えば明らかに向こうの方が上とはいえ、いかにSCP-1682-JPの影響範囲が凄まじいかがお分かりだろう。
ただし、これらSCP-1682-JPが引き起こす効果やトリガーは心理抵抗度63以上、もしくは何か確固たる心の拠り所を持つ人には効果を及ぼさないことが実験で判明している。
一般人の心理抵抗度は軒並み50以下に対し、財団職員は殆どが60を上回っているため、職員たちはSCP-1682-JPの効果をあまり受けにくいこともわかっている。


ところで、SCP-1682-JP-Aの本名は、トリガーから見るに日奉 菰という名前なのだろう。
この“日奉”という特徴的な名字だが、実は日奉家は準要注意団体-JPに日奉一族という名称で登録されている。
日奉の姓を持つ人型異常存在が日本全国各地で発見されており、その全員が何故か名に木偏もしくは草冠を持っているという、なんとも不思議な一族である。

アニヲタWikiにおいてもSCP-745-JP - 日奉樹の解説が行われている。このSCP-1682-JPとの直接的関わりはないものの、興味があるならば一度閲覧してみるといいだろう。


日奉 菰の話に戻るが、彼女は生前「あまてる」というハンドルネームを使用してインターネット上で活動していたことが判明している。
が、わかったことといえばあとは東京都に住む‌20代の女性であることくらいで、本当に彼女が日奉家に関係ある人物なのか、家族関係はどうなっているのかなどは財団の力をもってしてもわかっていない。


ミームの拡散タイムライン

神様 もう許してください
ここからはSCP-1682-JPがどのように広がり、どのように被害が発生したかを解説していく。

1日目 - 2017/07/07
日本のSNSにおいて、『イサナギマコモが死亡した』との言及が見られ始めた。
この日はまだ一般的な拡散具合であり、財団が保有するWebクローラーなどは異常を発見しなかった。

2日目 - 2017/07/08
国外のSNSや動画配信サイトにおいても言及が多発。更には複数メディアが『イサナギマコモが死亡した』ことについて報道を開始。
午後には数人の財団エージェントが『イサナギマコモが死亡した』ことへの負の感情や拡散欲求を覚えたと報告。
この情報や概念は何かしらの異常現象だと見なされ、SCP-1682-JPのナンバーが振られる。

3日目 - 2017/07/09
早朝より早速情報隠蔽プロトコルや虚偽情報キャンペーンが始動し、鎮圧が試みられた。
また、当時開発が終了したばかりの『タイプ-ψ電子記憶処理エージェント』が散布され始める。これらにより拡散速度が減速しはじめた。

4日目 - 2017/07/10
ところがどっこい、通常の記憶処理や先程のタイプ-ψ電子記憶処理エージェントが効果を発揮しないことが判明。
実はこのタイプ-ψ電子記憶処理エージェントというのが曲者で、効果が表れるまでに1日間かかる上に強烈な吐き気、偏頭痛、眼精疲労などが見られる副作用付きという代物。

効果発揮に時間がかかる上に意味がないとくれば隠蔽が追いつくはずもなく。
この時点で情報統制部門はSCP-1682-JP拡散源となるイサナギマコモの自殺映像の回収に成功したものの、拡散速度は加速し続けており、SCP-1682-JPのオブジェクトクラスはKeterに格上げされた。

5日目 - 2017/07/11
財団の保有するWebクローラおよび人工衛星「四黒号」に搭載されているグスタフ/サイディア広域ミームスキャナが収集したデータによると、世界人口の約80.2%以上が感染者となっていることが判明した。
また、『イサナギマコモが死亡した』ことから抑鬱状態、酷い場合は自殺にまで至る事例が多数報告され始め、小規模とは言え暴動も発生。
これらの事実からSCP-1682-JPは監督評議会から高度優先事項と判断。同日、SCP-1682-JPの伝播条件を調査する実験が行われ、また収容方法確立会議が行われることも決まった。

6日目 - 2017/07/12 以降
感染者が83.1%を超えた辺りから拡散速度の低下が見られ始めた。これは識字率が著しく低い地域においての拡散力が低いことを示しており、逆に言うならば識字率がそこそこ以上の地域においては完全に感染しきったことを示している。
実際識字能力のある地域の感染率は98.0%を記録。
もちろん精神疾患の発症や自殺、暴動は増大の一途を辿り続けている。


これにより制定された特別収容プロトコルは以下。

  • Webクローラが発見したSCP-1682-JPについて言及しているWeb上の全情報はコピー後即時削除されるよ
  • 機動部隊エータ-10(“シー・ノー・イーヴル”)等によってSCP-1682-JPの情報を公開した人物は特定・拘束されるよ
    取っ捕まえたらそいつの持ってた画像や映像の複製を全削除した上で記憶処理して解放させてね
  • 機動部隊ミュー-4(“デバッガー”)によって一般人のコンピュータはクラッキングされるよ
    事後処理としてタイプ-ψ電子記憶処理エージェントを適用しといてね
  • 機動部隊ガンマ-5(“燻製ニシンの虚偽”)等によってSCP-1682-JPの拡散状況が、多目的人工衛星「四黒号」に搭載されたグスタフ・サイディア広域ミームスキャナで特定・監視されるよ
    適宜SCP-1682-JPの拡散防止と記憶処理やっといてね
  • 機動部隊ユプシロン-4(“糖衣錠”)によってSCP-1682-JP対抗ミームが作られるよ
    精神健康を損なっている一般人を最重要ターゲットとして対抗ミームを散布してね
  • SCP-1682-JP-Aの死体は防腐処理された後サイト-8181の一般収容室で機密性の高い箱に入れられて保護されるよ
    研究担当職員以外の立ち入りは禁じられてるよ



とこのようになっている。またシー・ノー・イーヴルと燻製ニシンの虚偽が過労死するのか……

アポテオシス・プロトコル

気づいて 気づいてよ
SCP-1682-JPが日本のみならず全世界に広まったことを受け、本部や他国支部も黙っちゃおれんとアメリカのインディアナ州ブルーミントンにあるサイト-81を中心として収容方法確立会議を行った。
参加権限はセキュリティクリアランスレベル5/1682-JP保持者のみ。これには各国の“管理者”だけではなく複数の内部部門構成員が含まれている。

以下はこの会議で行われた提言の一部をリストアップしたもの。

提案 #: 1682-JP-001
コードネーム: カゲムシャ
概要: SCP-1682-JP-Aはある組織から命を狙われ現在は身を隠している状況にあり、自殺した人物はSCP-1682-JP-Aを死亡したことにするため用意された別人であったという虚偽情報を流布する。SCP-1682-JPの死に関する情報が異常に拡散されている原因は、SCP-1682-JP-Aが死亡したという事実を広めることで該当組織の気を逸らすためであると説明する。

この際コードネームについては置いておくが、結論から言うとこの提言は却下された。
事由としては、『イサナギマコモが死亡した』ことをわざわざ拡散するのはその身を隠す対策としてあまりにも不自然だという点と、感染者のネガティブな感情への説明がつかない点の二つ。

提案 #: 1682-JP-008
コードネーム: エリミネーション
概要: GOC等の複数の要注意団体の協力を仰ぎ、SCP-1682-JPを除去可能な技術の開発を急ぐ。

こちらも結論は却下。
宗教系要注意団体は技術開発に向いていないことお前それGOCのビックリドッキリメカ見ても同じこと言えんの?、構成員の心理抵抗度が低いことから現実的でなく、また高度収容優先事項に指定されているにもかかわらず、実現に半年以上かかるものは不適切だとされたため。

提案 #: 1682-JP-017
コードネーム: アクイタル
概要: [編集済]を全人類に適用し、SCP-1682-JPの精神影響を和らげる。

この提言はまさかの保留。
[編集済]の効果は財団職員が身をもって証明しているが、コイツの適用は死そのものへの関心を薄れさせ犯罪発生率が上昇する可能性があるため。また[編集済]は財団の最高機密であることも一員。

……余談だが、SCP-001-JP/solvexの提言 - 免罪と箱庭で実行されているプロトコルネームは“アクイタル・プロトコル”

提案 #: 1682-JP-036
コードネーム: アポテオシス
概要: 世界規模の記憶処理を実行した後、SCP-1682-JP-Aを神格化した宗教を広める。

こちらも保留。
SCP-1682-JPの抵抗条件は心理抵抗度が高いことだが、もう一つは確固たる心の拠り所があること、である。
ならばイサナギマコモを神格化してしまえば精神影響による問題のアレコレを収束できるとともに、SCP-1682-JPが異常である事実の隠蔽が同時に可能になるのだ。
だが世界規模の記憶処理をどないすんねん、という問題があり実行は困難だとされた。不可能ではないが。


保留となった提言については監督評議会に送られ、最終的に一つの案が採用された。
その案に基づき公衆虚偽情報部門と81管区*1民俗文化部門の共同で特別対策手順案が作成された。
選ばれたプロトコルは、アポテオシス・プロトコル

痛い痛い 痛い痛い痛い痛い たすけて だれか
このプロトコルの主目的は『公衆のSCP-1682-JPに対する考え方を変化させることによる精神影響効果の軽減』である。
『SCP-1682-JPの除去』ではない理由は勿論記憶処理や対抗ミームで処置することができなかったためである。
その代わり、このプロトコル実行により、SCP-1682-JPは正常な概念として認識されるようになるのだ。


ではこのプロトコルの手順というと、以下の4つが主なものである。
1.残存するイサナギマコモに関する情報の駆逐
2.全世界に化合物ENUI-5を大量に散布
3.カバーストーリー「日本発祥の宗教"日奉教"」をアジアの無宗教地域とヨーロッパに流布
4.燻製ニシンの虚偽主導の下、大規模な記憶と歴史の改竄処理を行う

1つ目の『残存するイサナギマコモに関する情報の駆逐』だが、もしも情報が残ってしまっていた場合、改竄処理が徒労に終わってしまうため行われた。
各国支部の機動部隊やWebクローラが総動員され、一文字足りとも元の情報が残らないよう駆逐され切って初めてこのプロトコルが正式に発動することとなる。


次に2つ目。記憶処理薬の散布なのだが、この化合物ENUI-5という薬品。コイツの正式名称はクラスE記憶処理薬であるのだが、この報告書の記憶処理のカノンはアニヲタWiki内の項目である記憶処理(SCP Foundation)と違うのだ。
あまり記述すると蛇足になるため一覧形式で記述するが、この報告書で用いられているカノンではこのようになっている。

  • クラスA 一般性健忘…5〜6時間以内の特別な記憶、例えば異常存在との遭遇などの際立った記憶を削除する
  • クラスB 後進型健忘…投与時の記憶から順に遡って記憶を削除する
    投与量に応じて削除範囲が広がる
  • クラスC 標的型健忘…神経イメージング装置なるモノと併用し、投与された記憶処理薬が消したい記憶の領域に届いたことを確認してから作用させて処理する
  • クラスD 前進型健忘…クラスBと反対に、指定した古い記憶から順に伝って記憶を削除する
    こちらも投与量に応じて削除範囲が広がるが、人生の大部分を処理するには大量投与が必要で副作用も大きく、使用されるのは稀

ではクラスE記憶処理薬の効果はというと、アンニュイ
ただしこの気怠げ(アンニュイ)という言葉はあまり的を射ているとは言えず、どちらかといえば反追憶(アンチノスタルジア)が正しい。


……もうお察しだろう。
このアポテオシス・プロトコルはかつてSCP-8900-EXで用いられたアンニュイ・プロトコルと同じことを始めようとしているのだ。

このクラスE記憶処理薬は他の記憶処理薬と同じく記憶を司る神経に作用するが、脱固定化(記憶の削除)を行うことはない。
代わりに神経の回路を弱体化させて、記憶と感情の結びつきを弱め、記憶との矛盾について考える意欲を失わせる。

結果として眼下に広がる世界が異常なものだろうと何だろうとあるがままに受け入れさせ、どれほどの違いがあろうとも世界が今とは異なっていたという事実を自然消滅させるのだ。
この化合物ENUI-5を散布することで、後に流布されるカバーストーリーへ疑問がかけられることを防ぎ、またカバーストーリーが素早く浸透するようになる。


で、カバーストーリーである「日本発祥の宗教"日奉教"」とは何ぞやというと、日奉 眞菰(イサナギノマコモ)と呼ばれる存在を信仰する日本発祥の宗教である。
つまりこのカバーストーリーはSCP-1682-JP-Aが神格化され信仰対象として扱われることに主眼が置かれていると思っていただいて良い。

日奉教は古くから口伝てによってのみ布教されてきたため文献などはないのだが、世界で3番目に信者の多い宗教である。宗教的配慮により(実際にはアポテオシス・プロトコルによって突然生やされた宗教なので当然なのだが)、歴史書などに日奉教の記述はなく、古い祭祀施設などは存在しない。しかし世界的に常識として、日奉教の存在が世に知られている。

信仰対象である「日奉 眞菰」は菅原道真公のような、死後神格化された人神である。
基となったのは14世紀後半ごろに誕生したと推測される日本人の女性、「日奉 菰」で、彼女は当時発生した大災害に対し、自殺する事で人々の心に寄り添うという行動を取り、人々に生存への希望を与えたと伝えられている。
そこからこの日奉教は、『日奉教は常に心の中に日奉眞菰が生きていて人々を励ましていると考えることにより心の安寧を得ようとする』のが教義となっている。

だが、日奉 眞菰は菅原道真公がそうであったように、祟り神の性質も持ち合わせていた。日奉 菰が自殺する際に所有物や家屋など全ての財産を焼却処分したとされ、何故かは分からないが自身について言及した書物や絵巻物などを作成した人物に罰を与えるという言い伝えがある。
その逸話のために人々は祟りを恐れ、文書や建物を作る事なく口伝でのみ日奉教が広まったのだと考えられている。
実際に罰が当たるかといえばもちろんそうではないのだが、現代においても多くの信者は日奉 眞菰についての記述をするなど彼女の祟りに触れるようなことは謹んでいる。


と、このような大規模なカバーストーリーを燻製ニシンの虚偽の主導の下流布し、人々の記憶と歴史を塗り替えてSCP-1682-JPを何としてでも収容するのが、このアポテオシス・プロトコルの全貌である。


コンテンツ、名前、一人の人間

どうして書くの 消してよ お願いだから
2017/07/10、財団はSCP-1682-JP-Aが拡散源となった原因と見られる動画ファイルを回収することに成功した。本家報告書は映像ログが転載されているため、本家に習い掲載する。

前記: 当映像ログは2017/07/07にSCP-1682-JP-AがYouTube上でリアルタイム配信を行った際の映像の転写です。SCP-1682-JP-Aは「あまてる」名義で活動しており、当時のチャンネル登録者数はおよそ11000人であったことが記録されています。この配信を行う前日にSCP-1682-JP-Aは投稿済みであった全ての動画を削除しています。これらの動画のうち幾つかは一般人が保存や録画をしていたため部分的に発見されています。
当配信のタイトルは「別れの挨拶」でした。
どこにも慈悲(Chesed)はないの?

[ログ開始]
(SCP-1682-JP-Aはスマートフォンを用いて公園内に設置されたベンチに座りながら配信を開始する。この公園は既に東京都八王子市の[編集済]にあることが特定されている。SCP-1682-JP-Aは落ち着いた様子に見える)
SCP-1682-JP-A: どうもこんにちは。あまてるです。以前から告知してた通り、昨日の夜全部の動画を削除させていただきました。
打ち明けると、実は前からこうやって配信者をしていくのに息苦しさを感じてました。私がTwitterやってないのは皆さん知ってますね。でもたまに覗いたりしてたんですよ。驚きました?それで、あの、本当に嬉しいこともいっぱいあったんです。私の動画や配信を好きって言ってくれる人がいて、ニコニコしてたんです。
でも、時代は変わることを知りました。私の悪口を書く人、動画が昔より面白くないという人、何だか私が変わってしまったようだって言う人。いっぱいいました。再生数も伸びなくなって、動画にも低評価が目立つようになりました。私は今に追いつけなかったんです。今まで通り、自分の好きなものを作ってみんなに楽しんでもらえればそれでよかったのに。私から見たら変わったのは私じゃなくて、あなたたちなんですよ。私は何も変わってない。
(間)
それでも頑張って動画を作りました。低評価が増えました。登録者が減りました。悪口が増えました。低評価はまだいいですよ。それは私の落ち度でもあるし。でも、悪口は?
気づきました。みんな「あまてる」というコンテンツしか見てなくて、私自身のことなんてちっとも見てない。
(間)
動画を消したのは自分の動画を見るのも嫌になってきたからなんです。もはや私にとって、過去は何の意味も持たなくなりました。動画を作ってきたことすら後悔してるんですよ。そうなった原因は何か?
(間)
わかりませんか。あなたたちです。
(SCP-1682-JP-Aがペットボトル飲料を飲む)
視聴者の方全員がそうだって言いたいわけではないんです。極一部、極一部の私をただのコンテンツとしてしか見ない人たちのせいで、私は。
(SCP-1682-JP-Aが再びペットボトル飲料を飲む)
私は今から自殺します。もう何もかもどうでも良くなりました。動画は私の全てでした。そしてそんなものはもうない。色を失った世界が再び色づくことなんてないんです。ちょっと文学チックすぎましたかね。>(笑い声)
(SCP-1682-JP-Aが立ち上がる)
じゃあ、最後にいつも通り1個だけ格言言って終わりにしましょう。
(イサナギマコモが悲しみに満ちた笑みを浮かべる)
「人は喪って初めてそれがどれ程大切だったのか気付く愚かな生き物だ」。それじゃあ、これで配信は終わりです。最後の最後まで目立とうとして消えるなんて恥ずかしいけど。
でも、そう、これだけは言いたかった。私は「あまてる」ってコンテンツじゃない。ちゃんと「イサナギマコモ」って名前がある。配信者である前にひとりの人間なんだよ!分かれよクソが!
(間)
すみませんでした。さようなら。
(イサナギマコモは配信を終了しないまま公園を駆け出し、道路へ飛び出て大型車に衝突された。のちに通報によって駆け付けた病院関係者により、頭部を強打したことによる即死と判断されている)
[ログ終了]

後記: それでもイサナギマコモは、私たちの心の中に生きています。
もういっそ ねぇ

なお、本家報告書の編集者はSCP-1682-JPの影響を強く受けていたため、後にクラスC記憶処理を受けている。
その後、上記映像ログは直で視聴した際に限り心理抵抗度に関わらず、負の感情を強く引き出すことが判明している。そのため映像ログの視聴は禁止された。


イサナギマコモはなぜ負の感情を撒き散らすようになったのか、まるで何もわからない。
ただ、彼女はコンテンツ化された自分ではなく一人の人間として見られたかっただけなのだ。

だから、財団のやろうとしていることは彼女にとっては不都合かもしれない。
神格化された日奉 眞菰という存在は、紛れもなくコンテンツ化された“それ”だからだ。


2017/07/17。監督評議会によってアポテオシス・プロトコルが実行される日だ。

異常な世界を守るため、異常な世界を異常だと認識させず気怠るげ(アンニュイ)にあるがままに受け入れさせるプロトコル。

財団のその尽力は対抗手段としても、人道的にも正しいものなのだろうか。



おねがい わたしを ころして






……と、ここまで記述してきた報告書解説なのだが、実はこれらの記述は2017/07/21当時の旧リビジョンのものであり、現在は改訂されている。

というわけで。










SCP-1682-JP
登録日:2019/07/29 Mon 18:14:36
更新日:2024/04/29 Mon 22:18:17
所要時間:約 35 分で読めます





「せめて(オワリ)に見る世界が暖かいものでありますように」
——cosMo@暴走P「リアル初音ミクの消失」より


では改めて。
SCP-1682-JPとは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの1つ。
オブジェクトクラスはKeterを経てTiconderoga

概要

アポテオシス・プロトコルが実行されて以降、SCP-1682-JPこと『イサナギマコモが死亡した』ことは正常な概念として大衆に認知されるようになり、イサナギマコモに対する本質的な情報も日奉教によって淘汰されたため、SCP-1682-JPは実質無力化となった。

おそらく、ブッダやキリスト等のような聖人と同じようにイサナギマコモが死んでいるのは当たり前であり、何も不安がる必要はないと認識されるようになったと思われる。


これにより特別収容プロトコルも改訂されており、Webクローラ/人工衛星/エージェントによる異常性の再発への監視をしつつ、必要に応じてSCP-1682-JPの補助研究をするよ、となっている。

以上のことから、オブジェクトクラスもKeterからEsoteric/Narrative ClassesであるTiconderogaクラスに認定された。
このタイコンデロガとかいうよくわからんのは、SCP-4444を始めとする『収容は困難だが、性質上いかなる収容プロトコルも必要としない』オブジェクトに対して特別に与えられるシロモノ。
なるほど、既に全世界に広まってしまったため『収容は困難』だがアポテオシス・プロトコルの効果によって『収容プロトコルも必要としない』と、このSCP-1682-JPにはピッタリなオブジェクトクラスだろう。

ただし、Ticonderogaクラスは暫定的なものとも言える。
というのはこのクラス、ある規定が定められており、大規模なインシデントの兆候が見られれば分類委員会の投票を待たずに即座にKeter等の他のクラスに指定されることが決まっているからだ。


現在、世界において無宗教を自覚している人物はほぼいない。
以前自分は無宗教だと考えていた人々は全員がアポテオシス・プロトコルによる日奉教に入信しており、また別宗教から改宗した人物もいる。なので、日奉教はアポテオシス・プロトコルが終わった今もじわじわと信者を増やしている。

この日奉教に入信した人々をはじめとした日奉教を知る人々は、総じてSCP-1682-JPの影響を免れたため、混乱、精神疾患、暴動、自殺などなどの割合は正常な値にまで低下した。



財団は確かに一度敗北したかもしれない。
でも、財団は諦めなかった。
最後の切り札を切ってでも、世界を異常と混乱が支配したままにさせなかったのだ。

……だが、それは財団の勝利だと、本当に言えるのだろうか?




SCP-1682-JPの研究チームのトップを務めるルーシー・ブラッドベリー博士は以下のように証言している。

博士によると、財団が収容するオブジェクトの中でもそこそこの割合を占める、文書に影響を及ぼすことが可能な自我を持つSCiPたちが、アポテオシス・プロトコル以降SCP-1682-JPについて言及を始めたのだという。
現在確認されているだけでも63のSCiPが一様にある一貫した主張をするのだ。

——曰く、『イサナギマコモは生きている。そして形容し難い苦しみの中にある。』と。

そして彼らの証言によれば、イサナギマコモは文書や映像などのありとあらゆるメディアを通して我々に何かを伝えようとしているそうだ。
何よりも奇妙なことが、彼らSCiP達は『イサナギマコモは死亡していない』ではなく『イサナギマコモは生きている』と主張していることだと、博士は語る。

もう一度確認するが、日奉教の教義は『常に心の中に日奉 眞菰が生きていて人々を励ましている』と考えることである。
なぜ、アポテオシス・プロトコルを適用していないSCiPの主張と、非常識を常識に塗り替えてまで広めた日奉教の教義が一致したのだろうか?ただの偶然なのだろうか?


財団はSCiP達の主張を受け、それぞれのSCiPにイサナギマコモは今どのようになっているのかを尋ね、また財団の誇るぶっ飛び技術の一つであるエーテル共鳴イメージング検査やハルトマン霊体撮影機、カーデック計数機などを使用して調査した。

だが、SCiP達は誰一人として詳細にイサナギマコモの現状を答えることはできなかった。彼らはイサナギマコモが生きていることや苦しんでいることに気づくことはできても、イサナギマコモと意思疎通することは叶わず、イサナギマコモの主張を理解することもできなかったのだ。

また研究チームは思いつく限りの可能性を想定し、死力を尽くした。しかし、SCP-3430で使用されているエーテル共鳴イメージング調査はSCP-2718でO5-11であるロジャーの状態、シェルドン級霊魂縛鎖の証拠を微塵も示さなかった。
SCP-2996-JP-EXにて霊的存在に使用されたハルトマン霊体撮影機とカーデック計数機は幽霊の存在に気づいた様子すら見せなかった。
肉体とかそういう物理的なものを最初から一切持たない概念体であることはイサナギマコモの死体が全て否定している。

調査すればするほどイサナギマコモは肉体的にも精神的にも死亡していることしかわからなかったのだ。


そして博士は証言をこの言葉で締めた。

SCP-1682-JP-Aは紛れもなく死んでいます。しかし世界には多く「人は忘れられて初めて死ぬ」と考え主張する人々もいます。これはまさしく憶測に過ぎませんが、もしSCP-1682-JP-Aがただ生命活動を終えただけであり、異常性そのものやアポテオシス・プロトコルによって私たちが知ることもできない何らかの形で生きているのなら……

確実に、私たちは何かを見落としているのでしょう。


死ね
[ログ終了]




イサナギマコモの苦しみは一体何なのか。
作者であるFennecist氏はディスカッションで一つのアンサーを出している。

テーマはそのものずばり、『人は忘れられて初めて死ぬ』。

イサナギマコモは肉体が死を遂げたとともに、人々に忘れられない異常性を得てしまった。
人に忘れられないと死ねないという、このオブジェクトのテーマにおいて真っ向から反逆する異常性であり、イサナギマコモは死とともに不死を、『死にながら生きている』状態を得てしまった。

そしてイサナギマコモの苦しみ。それはあるはずのない肉体の痛みを感じる、幻肢痛が正体である。
彼女は『死にながら生きている』状態だと上述したが、正確には『肉体が』死にながら『精神が』生きている状態である。
つまり、イサナギマコモは頭のてっぺんから爪先まで皮膚も筋肉も骨も内臓も全て失ったその痛みを幻肢痛として延々と受けているのだ。

そしてこの痛みは、全人類に忘れ去られるまで決して癒えることはない。
だが財団は彼女を神格化し、絶対に全人類から忘れ去られることのないようにしてしまったのだ。

これはあくまで作者のヘッドカノンであり唯一無二の正解ではないが、我々が考えつく最高で最悪の『死にながら生きている』人の苦しみが、アンサーの一つとなると答えている。



また、作者はイサナギマコモの苦しみに続いてこのオブジェクトの元ネタについて語っているが、氏は
「人によっては読んだら確実にFennecistを嫌いになるでしょうし、もう二度とFennecistの作品なんか見たくもないし、Fennecistなんて奴いなくなればいいと思うかもしれないくらいに酷い内容かもしれません。それでもあなたは閲覧しますか?知らないのも幸せなことと私は断言します。閲覧は本当に自己責任です。」
と前置きしている。

氏に習い、その文を噛み砕いた解説も折りたたみの中に記述する。この項はSCP-1682-JPにはほぼ関係なくいわゆる蛇足にあたるものなので、自己責任で閲覧されたし。



ディスカッション先頭に残されている、Dr.ヒルルクの言葉。
人が本当に死ぬのは忘れ去られた時であるということ。
逆説的に、忘れられない間は死にたくとも生き続けてしまうこと。

Dr.ヒルルクの言葉にリンクが貼られてある、リアル初音ミクの消失。
歌詞に込められた想いは『楽器かつアイドルで本当のキャラクターがあるはずのVOCALOIDが、オリキャラの歌を歌いオリキャラのキャラクターを被らされていることへの疑問』。
言い換えるならば、『本来見せるべき/見てほしい本質(一人間としての個人)ではなくオリジナルキャラクター(コンテンツとしての個人)に注目が集まることへの疑問』。

異常性を受けた人々(我々)は、かつて存在した一人の人物を忘れることができない。その人がどう考えていようとも。どんなに苦しんでいようとも。



彼女の遺した爪痕は大きいのなら、
彼女が多くの人に影響を与えたのなら、
今もその記憶によって考え方や作品が変わるのなら、



SCP-1682-JP
『慈悲よ、汝いずこへ』



間違いなく、『彼女は生きている』と言えるのだろう。



追記・修正は忘れられない痛みを知ってから、お願いします。

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