SCP-745-JP

登録日:2017/08/08(火) 22:08:00
更新日:2025/06/05 Thu 19:35:41
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過去を変えたくば己もまた、歪まねばならない。


SCP-745-JPは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクト(SCP)のひとつである。
オブジェクトクラスは「Euclid」、項目名は「日奉樹」。


特別収容プロトコル

まず収容プロトコルを説明していこう。このオブジェクトはサイト8115に設置された耐時間異常施行済の快適居住型上級収容室、
より具体的に言うとシャンク/アナスタサコス恒常時間溝(XACTS)を設置した快適居住型上級収容室に収容されている。
……しれっと変なアイテムが出てきたが、XACTSは財団が持つ秘密兵器の一つであり、端的に言うと「効果範囲内を外部世界の時間の流れから切り離す」装置。
日本支部で利用しているのはこいつくらいだが、本部においては調子の悪い財団の最終兵器の収容に使われていたりする。
なお、ひと月ごとにXACTSは点検整備を行うことになっている。

財団世界に慣れた方はもうお気づきかもしれないが、当オブジェクトの正体は時間、特に過去に対して干渉する人型オブジェクト。
彼の収容は「XACTSの範囲内に閉じ込めて二度と出さない」ことを中核としており、収容室の居住性の高さもオブジェクトを一歩も外に出さない上での必要経費なのだ。
基本的にオブジェクトはタイプβ-現在先行型過去改変能力者を対象とする規定された収容環境下に置かれるが、
一切の筆記用具及び著作物の提供が許可されていない他、いかなる形でも格納エリア外にオブジェクトによる思考の伝達を行わせないことが厳命されている。

纏めると、このオブジェクトの特別収容プロトコルは
  • 絶対に奴に読み物・書き物を提供するな。奴が何かを外に伝えることはあってはならない。何であっても
  • 奴を収容室から出さないことで、奴の発生させる時空間異常を食い止める
となっている。なお、実験は碓氷博士による事前承認なしでは行えない。


概要

ではSCP-745-JPの説明に移る。彼は「日奉樹」という名前の日本人男性であり、収容当時は26歳にして世界的に注目された数学者であった。
名前の読みは報告書内の表記曰く"Isanagi Tatsuki"。精神鑑定の結果「演技性人格障害」であることが示されているが、
それ以外には心身共に通常の人間と変わらない。
財団世界においては数々の数学的業績を若くして積み重ね、単独研究による████予想*1の証明を経て国際数学連合に異例の特別賞を授けられたというから中々の大人物である。
当然そんな人を突然攫ったら大騒ぎになるので、カバーストーリーとして「虚血性心疾患による急死」を流布し公的には死亡してもらっている。
……まぁ、大方の予想通り彼の業績は彼が発揮する異常性のたまものなのだが、その発現の仕方が問題なのだ。

彼が異常性を発揮するのは、彼が何らかの著作物を「剽窃」した際。
彼が対象物の写し(SCP-745-JP-1として識別されている)を作成したうえで
「SCP-745-JP-1は自分が独自に考え出した」という旨を何らかの方法で提示すると「剽窃」が成立し、
対象となった著作物やアイディアは今まで存在していなかったものとして過去改変が行われる。
この過去改変による再構築の影響からはSCP-745-JP本人とSCP-745-JP-1だけが逃れる……が、
後述するインタビューを見る限りアイディア・著作物の消失による過去の辻褄合わせは必ずしも一様に行われるものではないようで、
剽窃がバレることにこそならないものの、アイディアへと至る思考過程がどこまで「本来の著者」に残るかには個人差があるようだ。

ここまで言えばお分かりだろう。若き天才数学者日奉樹の正体は、剽窃論文の常習犯なのである。
……レポートを真面目に書かない不良大学生か何かか、と思った方、半分正解です。彼の最初の異常性発現は大学のレポートが対象だったので。
財団は2009年に過去改変を時間異常対応部門を通じて感知し、以後世界規模の起点捜索を実施。
2013年9月に碓氷博士が過去改変前後記録比較調査を導入した結果SCP-745-JPを改変起点として特定に成功、同月12日に回収を行った。
面倒なことに実験に対しSCP-745-JPが非協力的なためまだまだ改変発生の詳細な条件は解明しきっていないが、
  • 「対象の写し(SCP-745-JP-1)」の存在と、他者への「提示」が異常性発現に不可欠である
  • あくまでも「改変された異常な過去」はSCP-745-JPを起点に発生する
ことは確定したため、現在の収容プロトコルが制定された。起点さえ分かってれば異常な時間の流れは食い止められますってあたり財団も大概である

ちなみに天才数学者さんが実際のところどれだけ数学ができるのか、を財団が検査した結果は
「財団所属の数学博士号取得者平均を若干下回る」とのこと。
……天才としてはあまりにも寂しい結果だが、論文が読めません、というオチもつかない何とも言えない点数である。


インタビュー

報告書内にはこのSCiPに関連するインタビューが2つ掲載されている。
1つ目は過去改変がなかった場合████予想の証明を最初に宣言していたはずのオックスフォード大教授のネイル・ウィズダム氏*2に対するもの。
生涯を一つの難題の証明に奉げ、そしてその成果を目と鼻の先で(誰にも理解できない形で)掻っ攫われた一人の研究家の悲哀を感じるものとなっている。
また、この事例他の調査から「SCP-745-JPがアイディアの飛躍的発展・変化をもたらすことは不可能である」と結論づけられた。……そりゃ剽窃ですしねぇ。

もう一つのインタビューは収容後のSCP-745-JPへのもの。
対象は報酬としてのゲーム機と対応するソフトを要求してきたため、審議のうえでこれに応じたうえでインタビューを行っている。
ゲームソフトの写しを作成する環境がない以上、妥当な範囲ではあるのだろう。およそ活字を与えられない状態でカンヅメですし。
このことからもわかるように「対価も利益もない行動に意味を感じない」性格の持ち主であり、
実験の対価として要求したインターネット開設が認められないことが実験への非協力的姿勢につながっているようだ。まぁ、コピペで発動しうる能力なのだから許可できるわけもない。
ちなみにインターネットがほしい理由は「自分の死への世界の反応が見たい」*3からだそうだ。

彼が初めて行った過去改変は大学3年の時。多忙のため作成できなかった講義レポートの一時しのぎとして友人のレポートを借りて提出したところ、
友人のレポートが消失し、友人が「レポートなんざ書いてねぇ」と言ったために発覚したのだとか。
しれっと言っているが、別に当人の自覚が異常性の発現に必要ない、という割と困った事実が発覚している。
また、発表した論文の内容に対して単独研究を続けていた、と取材に答えてきたのは全くの嘘っぱち。
誤魔化すために必要な最低限の知識は持つように心がけてはいたようだが、剽窃対象の内容を剽窃する段階で理解している必要は別段ないらしい。

剽窃対象を過去4年以内に発表された数学関連に絞り込んでいたようだが、これはあくまでも当人が過去改変のリスクや自身の「才能」への疑念を避けるための用心と語っている。
現段階では小説や楽譜といった内容も含めて歴史的著作物を剽窃できる可能性への否定材料は存在していないし、おそらく問題なくできてしまうのだろう。
財団に発見され収容されることはさすがに予想外だったが、もうボロが出る可能性を気にしなくていいし、生活も保障されているので特に嫌悪感はないと述べている。
総じて、「能力を必要十分に理解しその利益を享受してきた小市民」と言えるだろうか。


SCiPの精神状態

全貌が明らかになっているとは言いきれないSCP-745-JPであるが、実は現状で収容が維持されていると明言できる理由がもう一つある。
カギは彼が「演技性人格障害」を罹患していること……「注目されることへの快感に依存し、その快感を得るために無自覚的に嘘をつき続ける」行動様式を示していること。
要するに彼は自己顕示欲の塊にして重度の虚言癖持ちである、ということなのだが、
これゆえに彼は「若き天才数学家として全世界的に死を惜しまれている」「過去改変能力者として財団の注目を集めている」という現状にご満悦である可能性が高く、
収容環境を自分から放棄する可能性は低い、と考えられるのである。
なお、自身の異常性を自覚する前の彼については「いたって真面目で優秀な大学生で、友人も多かった」と伝わる。
……天才数学者の青年期と思えば美談ではあるのだが、随分と皮肉なことになっている。

彼は確かに過去改変による再構成はされないのだろう。だが、彼自身の人生もまた、「本来の著者たち」と同様に捻じ曲げられたことは間違いない。
そして、捻じ曲げられたものはもはや戻ることはない。財団は捻じ曲げられた今を、捻じ曲げられたまま、保護していくだけである。


補足

このSCiPの収容室が外部世界の時間から切り離されており、これにより内部で時間が異常化しても外部に影響が漏れないようになっていることは既に述べたが、
これを「じゃぁ外部で時空間異常が起きても内部は正常な時間軸に保たれるんじゃ?」と解釈した報告書がSCP-1780-JPとして製作されている。



追記・修正はきちんと参照元を示してお願いします。




CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-745-JP - 日奉樹
by tsucchii0301
http://ja.scp-wiki.net/scp-745-jp

SCPフレーバーテキスト集
共同編集項目
http://ja.scp-wiki.net/scp-flavor

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最終更新:2025年06月05日 19:35

*1 具体的に報告書内で内容は示されていないが、ディスカッションの記述から見るにフェルマーの最終定理を意識している模様

*2 フェルマーの最終定理の証明者、アンドリュー・ワイルズ氏がモデルであることがディスカッションで示されている

*3 財団は口頭での情報提供を提案したが、これは「財団職員を信用していない」として拒絶されている