トカレフ TT-33

登録日:2012/05/13 Sun 19:58:48
更新日:2025/07/10 Thu 20:53:36
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性能

全長:194mm
重量:858g
使用弾薬:7.62×25mmトカレフ弾
装弾数:8+1
作動方式:ティルトバレル式ショートリコイル

概要

ソ連が第二次世界大戦時に制式採用し、トゥーラ造兵廠が生産した拳銃。
型番はトゥーラ造兵廠・トカレフ 1933年式を意味する。



歴史

1920年代のソ連はナガン・リボルバーを制式採用していた。が、生産性が悪い上に弾薬が特殊で装填も面倒な旧式銃であった。
さらに、第一次世界大戦やロシア革命などのゴタゴタがあり、モーゼルC96M1911など雑多な種類・口径の銃が流入し装備が統一されていなかった。
この問題を解消する為に1928年からトライアルが実施され、1930年にフョードル・ヴァシリエヴィチ・トカレフが設計した拳銃がTT-1930として採用された。
後にTT-30のトリガー周りのパーツの一体化と部品点数の削減(生産性向上)、アイアンサイトの改良(狙いやすくする為)を行ったのがTT-33となる。
SVT-40などトカレフ設計の銃器は多々存在するものの、現在「トカレフ」と言えばほぼこれを指すほどの代名詞的存在。
簡素で生産性と動作性に極振りな構造は過酷な気候をもろともせず、ドイツのルガーP08P-38よりも「強い拳銃」として大祖国戦争(ロシアは第二次世界大戦をこう呼ぶ)で活躍した。
1951年にマカロフPMが採用されたことで1953年には製造が終了したが、共産圏ではライセンス生産やコピー生産が盛んに行われ、安全装置を追加したりコーティングを兼ねた(銀色の)クロムメッキがなされたりと独自の進化を遂げることとなった。



特徴

機構はM1911を、外見はそれ以前のもの参考に開発しており、とくにFN ブローニングM1903*1等とは外見がよく似ている。
M1911を参考にしている都合、内部の安全装置*2もハーフコック*3しかない。ただしシアとハンマーのかかり方が異なるため多少落下に対する暴発には強くなっている。また、機関部のモジュール化を行い生産性と整備性を向上させている。
ハンマーは半分スライドに隠れている。分厚い手袋や防寒具を着用した状態でも扱いやすいように、またハンマーがひっかかっての暴発を防ぐように配慮された結果である。
しかしその代わりに手動の安全装置が省略されている。シングルアクション自動拳銃で安全装置がない場合はコック&ロックができず薬室に弾を装填したままの携行は難しい。
理由としては寒冷地での部品凍結による動作不良を防止することと、訓練された兵士が使う事のみを想定したことによる。赤軍も許容していた為このような凶行に踏み切ることができた。
こうした徹底した部品点数の省略と単純化により、高い整備と生産性、厳しい環境下での射撃能力の確保などロシアらしい拳銃となっている。

薬室を空にしての携行*4は即応面で問題があるためにハーフコックで持ち歩くことになる為、当然暴発事故が発生している(赤軍将校がどの形で携行したのか、どの程度の暴発事故数だったのかは不明、調査と追記求む)。

弾薬

7.62×25mmトカレフ弾は、ロシア帝国時代から大量に流入していたモーゼルC96の.30モーゼルオート弾(7.63mm×25)を国産化、改良したものである。
薬莢と弾頭の寸法は全く同じ*5でTT-33はモーゼル弾も使用可能ではあるものの、表記に誤差が出ている理由ははっきりしていない。
改良の過程で装薬量が増えており、弾次第では50~100Jほどパワーアップしている。モーゼル弾のみ対応の銃ではトカレフ弾を撃たないほうがいい。


口の部分がすぼまったボトルネック薬莢で生産効率は悪いが、リムレス式と相まって自動式には最適(発砲後に薬室に張り付きにくく、マガジンで弾を並べやすい)。

軍用の弾頭では弾芯に鉛ではなく軟鋼を使用しており、マズルエネルギーに対する弾薬径の小ささも相まってNIJクラスⅡAのボディーアーマーを貫通できる可能性がある。
そのためアメリカの民間市場では徹甲弾扱いとなっており*6購入、所持が禁じられている。

ロシアの弾について(包括的)

弾薬は種別によって接尾語が変わる*7。以下例。

弾頭
P FMJ(Суцэльнаметалічнай Оболочкой)
Pst/PS 鉄製(Пуля Стальная)
T 曳光弾(Трассирующая)
PP 熱処理強化した鋼製(Повышенной Пробиваемости)
BP 徹甲弾(Бронебойная Пуля)
BS 特殊徹甲弾(Бронебойная Специальная)

薬莢
gl 真鍮薬莢
gs スチール薬莢
gzh メッキ加工済スチール薬莢

7.62×25mmトカレフ弾ではPgl、Pgs、Pgzh、Pst gl、Pst gzh、PT gl、PT gzhがあり、上記軟鋼性弾薬はPst gl、Pst gzhにあたる。
ソ連製、ロシア製の弾がどんな材質なのかを確かめる際には役に立つかもしれない*8



日本での扱い

おそらく密輸事件や発砲事件の押収品としてニュースなどを通じて有名な拳銃の一つ。
日本に流入してくるものは中国製のコピー品「五四式拳銃」が多い。押収されたそれらのほとんどは規格外品や廃銃の再生品に延命処置を施したもので「弾が横に飛ぶ」と言われるほど。現在ではマカロフや超小型のグロックなどを使用しておりトカレフ系列はあまり見られなくなっている*9

小説やドラマ、アニメ等ではソ連軍人やアングラ組織の関係者でもない限り主役級のキャラが愛用することは少なく、大抵はチンピラや犯罪者が持ったり使っていたりする。
こういったマイナス要素からか、創作での搭乗頻度の高さと比較して国内メーカーがエアガンやモデルガンとする機会にも恵まれない。



フィクション

アサシネ…野々村 誠
拳銃神…的場イサム(厳密には本モデルではなく、安全装置の付いたノリンコ社製54式を使用)



余談

  • ボディアーマーを貫くといわれているが、構造が偶然徹甲弾に似通っただけの拳銃弾である以上クラスⅢAなど現代の標準的なボディアーマーには無力。
  • 中国54式はそのままのコピーではなく独自生産型。
完全なノックダウン生産は51式で、中ソの関係悪化により独自改良の必要があった*10
  • 北朝鮮にも68式として仕様が酷似した拳銃が存在する。
  • ユーゴスラビアでは強化発展型のM57が生産されていた。改修内容は装弾数の1発増加、マガジンセーフティーの追加、マグキャッチボタン大型化など。



追記・修正は大祖国戦争を生き延びた方にお願いします。

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最終更新:2025年07月10日 20:53

*1 直接関わりはないが、ロシア帝国時代に警察機関に配備されていた

*2 AFPBなど引き金を引いた際以外で発砲してしまわない為の装置

*3 ただしこれも独特でトリガーはおろかスライドすら動かせなくなる

*4 現代でいうイスラエル式

*5 雷管だけナガンリボルバーのものを流用したため大きくなっている

*6 FNの5.7x28mm弾もその影響を受けそうになり、より貫通力を下げた弾薬に更新している

*7 精密工学中央研究所が名付けている

*8 例えば5.45x39mm 7N39PPBS弾は熱処理強化した鋼製特殊徹甲弾であるとわかる

*9 平成15年警視庁白書より

*10 59式戦車、56式自動歩槍などでも同じ現象がみられ、国家間の関係の変化や技術発展の形跡を見ることができる