PTRD1941

登録日:2011/08/26(金) 11:09:58
更新日:2025/09/19 Fri 09:24:23
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性能

全長:2020mm
重量:17.3kg
口径:14.5x114mm
作動方式:ショートリコイル 単発ボルトアクション



概要

ソ連のデグチャレフ工場のアレクサンドル・アンドレーヴィチ・デメンチェフにより設計され、1941年より運用された対戦車火器。
PTRは対戦車火器、Dはデグチャレフ工場を指す。
PTRSと並び大祖国戦争を支えた対戦車ライフルである。



歴史

第二次世界大戦迫る中、ソ連では歩兵の戦車への対抗手段の乏しさが鼻につき始めた。性能向上により、すでに手榴弾や火炎瓶で対抗できる範疇はとうに超えていたのである。
1930年代に対戦車火器の開発が始まり、当初は20~25mm口径で重量35kgまでという緩い条件のみだったが、38年には詳細を確定。
14.5mm口径が歩兵が運用可能な中で一番貫通力が高いと判断され14.5x114mm弾が採用。それを撃てる銃としてN. V. ルカビシニコフが設計したルカビシニコフ小銃が1939年に採用された。
しかしながら同時期のソ連はSMKやKV-1など70mm厚装甲の重戦車を開発しており、それらが出てくる今後の戦場に対して対戦車火器はもはや通用しないと判断。いったん凍結されていた。

しかしドイツのポーランド侵攻にてポーランド軍がWz.35対戦車ライフルを用いて対抗。当時の1号、2号戦車相手にはかなりの威力を発揮した。
独ソ戦開始までの間に3号戦車のサンプルを入手*1していたこともあり対独戦においては今後しばらく十分効果のある武装と再判断。
そうして1941年に急遽より信頼性の高い対戦車火器を求め、デグチャレフ工場やシモノフ(トゥーラ造兵廠)などに要求を提示した。
デメンチェフとデグチャレフによる試作のうち、デグチャレフの物は重すぎ、デメンチェフの物は軽量で取り回しが良かったものの連射に難を抱えていた。
そこでデメンチェフのものから弾倉を取り外し信頼性を担保したものが本銃となる。

デグチャレフ工場

コヴロフにある銃器等の工場群。PTRD製造時はコヴロフ工場という名であった。
1916年にデンマークから招聘された機関銃設計者や実業家の手によりコヴロフに工場が建てられ、マドセン機関銃の生産から銃器生産を開始。
しかし1917年の10月革命によりデンマーク人は追い払われボリシェヴィキにより国営として運用されることとなる。
1918年にフェドロフとデグチャレフが工場に派遣され、フェドロフM1916の生産に注力することとなった。
1920年頃にフェドロフが主任技師、デグチャレフが設計主任に昇進。
1950年にデグチャレフ工場に改名される。
主な設計、生産品はデグチャレフ機関銃(DP-27)、PPSh41、デグチャレフ軽機関銃(RPD)など。AK-47の設計もこの地で行われた。
今でもKord機関銃、AEK-971などの設計生産を担当している。



構造

歴史の通り、単発でボルトアクション式。
しかしショートリコイルによる駆動方式は生きており、自動排莢が可能*2。これにより8〜10RPM程度の連射速度があったとされる。
しかし銃身にバイポッドが搭載されており、それを用いた伏射ではうまく動作しない。
シモノフ設計のPTRS1941(装弾数5+1発のセミオート式)と比べると、単純な構造で生産性、信頼性が高かった。なおかつ3kgも軽い。
しかし構造面で時代遅れである点は否めなかったため、1943年にはPTRSの生産が優先されるようになる。

タングステン弾芯を用いた焼夷徹甲弾は初速1012m/sで発射され、100m先で60度傾斜の30mm厚鋼板を貫通した。Ⅲ号戦車/Ⅳ号戦車の車体側面本装甲は後期のモデルでも30mm程度であるため、接近すれば何とかなる絶妙なラインである。

精度は100mにて直径22cm以内の着弾で合格とされた。7.5MOAと対人としては歩兵銃にも劣る値である。
…が、某戦車ゲーム*3では100mで0.35m程度の散布界(24MOA)で拡散することを考えると、同じ距離感(200~500m)での対戦車戦闘なら案外悪くはないのかもしれない。



実戦投入

KV-1を実戦投入出来ていたソ連にとっては大祖国戦争に向けた暫定的な(もうすぐ用廃になるであろう)兵器でしかなかったものの、成形炸薬弾(HEAT/対戦車榴弾)の開発が遅れた為運用が続けられた。
PTRSの生産体制が整ったことから1944年末に生産停止したが、28万丁が生産されている。

大戦初期には前述の側面装甲や防弾ガラス製の除き窓から乗員を殺傷するなどの活躍を残した。
しかしドイツ側も戦訓に基づいてペリスコープの完備や装甲スカートの一種であるシュルツェンの装備*4、本装甲の増厚により対策が施された*5
クルスクの戦い以降は6号戦車ティーガー5号戦車パンターといった側背面まで40~80mmな重装甲の戦車も投入。
恐竜的進化を遂げた独戦車の前には直接的な危害を加えるのは至難の業となった*6
履帯、ハッチ(割るだけでも視認性を下げられる)、索敵で車外に身を出した乗員などを狙撃し、撃破するには至らなくとも行動不能とさせることを目標として使用された。

戦車には歯が立たなくとも、輸送トラックや軽装甲の車両、機関銃座や迫撃砲座を制圧するのには非常に役に立った。
中には低空を飛ぶ飛行機を撃墜したという剛の者がいたとか。

戦後は北朝鮮や中国に供与され朝鮮戦争で長距離狙撃に使われるなど後の対物ライフルそのものとして活躍した。
弾もKPV重機関銃用に転用され、対空射撃やBTR装甲車の主砲として活躍した。



フィクション

残念ながらメディアへの露出は多くない銃である。
ゴツゴツした火器の中でこんな細長い銃があったら紅一点のようなアクセントになると思うのだが…

外観からギミックまで、描写が非常に細かい。

  • 迷彩君…野本が劇中にて使用。
普段は室内の物干し竿にされていた

最高の威力を持つ狙撃銃だが、現実どおり戦車には力不足。
前作MGS4のM82A2に比べると単発式でリロードも遅いなど使い勝手に少々難がある。

高いコストに見合った威力のUSE系カード。吹っ飛ばし効果持ち。
1ではレオーネが使用する。



余談

  • ドイツ軍に鹵獲されたものは14.5mm Pz.B783(r)と名付けられ使用された。
  • 国連軍が鹵獲したものが自衛隊に提供され、現在も展示されている。



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最終更新:2025年09月19日 09:24

*1 鹵獲などではなく不可侵条約による技術交流の一環

*2 リコイルスプリングはないので装填後の閉鎖は手動

*3 World of Tanks

*4 本装甲を貫通できる弾であろうと、いったん装甲を突き破った後は貫通力が落ちる。弱点が見えづらくなる点も大きい。

*5 過度に警戒しすぎて吸着地雷対策のツィンメリットコーティングなど敵が持っていない武装にも対策していたが

*6 4号戦車と3号突撃砲が多数を占めていたため全く歯が立たないわけではない