狙撃銃

登録日:2009/05/27(水) 19:31:45
更新日:2025/07/04 Fri 21:23:50
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概要

対象を狙撃するために使用する銃のうち、特に軍警察で使用されるものを指す。



狙撃とは

基本的にどんな鉄砲も「狙って、撃つ」もの。
だが軍事・警察的に狙撃と呼ぶ場合には「特別遠い目標を狙うため、特別な状態に整えられた銃」という意味合いがある。

一般の歩兵が持つ歩兵銃の有効射程は現代では300mが限度である一方、最大射程は1km程度まである。
有効射程というのが精度も含めて当てられる距離、最大射程はそれらを無視した「弾がどこまで殺傷能力を持つか」だけを指す為である。
歩兵銃上の有効射程を目指すためには高い精度が要求される。しかしそうするとコストも整備の負荷も高くなり、大勢が持つ武器としては適さない。
なので、一般兵が持つ銃より精密な銃と、それの扱いに精通した優秀な射手、それを何に使うかという戦術が別個に生まれた。
狙撃(スナイピング)狙撃手(スナイパー)、そして狙撃銃(スナイパーライフル)の誕生である。

純粋な狙撃兵は重要性から司令部直属であったりと一般兵とは毛色が違う部隊となっており、求められるのもお膳立てを含めた目標への銃弾の命中。銃もほぼ精度だけを求めるものとなる。

近年では一般兵を支援する腕の良い射手(選抜射手/マークスマン)向けの銃も存在し、そちらではある程度の精度のほかに一般兵と同様の状況での対応能力も要する場合がある。

警察は対テロの立場で発達し、軍でいう前者の特別な側であることが多い。だが狙う的はより小さくなりミスも許されなくなるなど別の面でのスキルが要求される。



歴史

記録に残ってはいないものの銃のみならずその発明以前から弓矢でも行われたであろうと思われる。
1570年に杉谷善住坊が織田信長を火縄銃で狙撃したり1805年にネルソン提督が狙撃されて戦死していたりする。
しかしライフルにスコープをつけるには発砲でも歪まない頑丈さと微調整を行える機能が必要であり、なかなか実現はむつかしいものであった。
その為狙撃といっても大抵は普通の銃と変わらないアイアンサイトでの照準であり、他の兵などど役割を分けるメリットも薄かった。

実用的なライフルスコープは1855年、眼鏡技師ウィリアム・マルコムが制作した。当時は1611年にケプラー式ができてから200年程度でまだまだ新鋭の技術であった。
マルコム式のスコープは直近の南北戦争にて活躍したというが、その時はまだ散兵部隊(当時のティライユール等)の装備の一つでしかなかった。
第一次大戦以降大規模な戦争での狙撃の有用性が判明し、要人暗殺や火点突破の際の切り札として大々的に使用され始めた。
第二次大戦開戦までに各国は製造済/製造中の歩兵銃の中から精度の良いものにスコープを装着する形で狙撃銃を生産した。*1、ソ連(M1891/30&PU)、日本(97式/99式)、アメリカ(M1903A4/M1C)など))
戦後もその傾向がしばらく続いたが(フランス(MAS36/FR F1)、アメリカ(M21/M25)など))、ベトナム戦争にてウィンチェスターM70が採用された、
ウィンチェスターM70は戦前から安価なハンティング用途のスコープ付きボルトアクションライフルとして人気であり、それを見込んだ海兵隊が採用した。同時期だとカルロス・ハスコックの愛銃として有名であろう。
追ってレミントンM700がM24として採用され、専用の狙撃銃という立場が完成した。

場所は移ってソ連。1963年にSVD(ドラグノフ狙撃銃)が採用された。
こちらは狙撃銃ではあるものの、要人狙撃ではなく分隊の支援を一番の目的としていた。先の大戦でのSVT-40狙撃仕様の活躍(リュドミラ・パヴリチェンコ等)を戦訓とした…のかもしれない。
このコンセプトはアフガニスタンにて米軍も気づき、選抜射手とそれ用にデザインされたMk 12 SPR(Special Purpose Rifle/特殊用途ライフル)を配備。
狙撃手とは違う、より一般兵に寄り添った形式が生まれた。



種別

ボルトアクション、自動式が存在。それぞれの得意分野で用いられるのが基本。
歩兵銃を流用したりあえてそうしている場合を除き、どの形式でも大抵ものすごく重い(シンプルに見えるM24でも5kg程度になっている)。精度向上のためにはヘビーバレルなど重めのパーツを選定しないといけない点と、重ければ射撃直後の揺れを軽減できる点によるものである。
大体の狙撃銃の弾丸は7.62mm弾などの一般的なライフル弾なのだが、大口径の12.7mmを利用するアンチマテリアルライフル(対物狙撃銃)*2も存在する。弾が重いほど遠距離までエネルギーが持続し、かつ威力も高いので殺し損ねることがないというわけである。

ボルトアクション

一発を撃つごとに排狭、再装填、撃発準備を手動で行う。
自動式と異なり射撃と同時に動く個所が機関部しかないので、機械面からの精度低下が起こりづらい。

サブMOA(100ヤードで1インチ未満に集弾する事)は当たり前。1MOA程度であっても自動式にて同等の精度を出すよりかなり安く済むのも魅力的であろう。

また、ボルトアクションの特性は暗殺にも有利である。サプレッサー搭載時に機械音だけ消せないといったこともないし、ボルトを操作しない限り薬莢を現場に落とさないですむ。
弱点としては速射性能の低さ。即時の修正射がむつかしいが、そもそも着弾まで数秒ある*3ので自動式であろうと2発目が許されない点は留意。
ハンティング用途ではレバーアクション式のスコープ付きライフルも無いこともないのだが、軍用としては使いづらかったため狙撃銃はおろか歩兵銃として大々的に採用されることはなかった。

自動式

排莢と次弾装填を自動で行う銃。速射性に優れ、中にはフルオートが可能なものも存在。
射撃後に動く機構のために銃身に穴をあけたり特殊な方式を取ったりするがため、ボルトアクション式に対し精度が出しにくいがそれでも1~1.5MOAにまとまるものが多い(普通の歩兵銃は3.5MOA前後)
遠距離狙撃ではあまりボルトアクションより優位な点はないが、100m程度では変わってくる。
連射が効くので修正射も一応可能。次弾装填にて右手を離す必要がないのも利点だろう*4



狙撃に関して

当て方の解説は照準と弾道の頁を参照してもらうとして、狙撃手の運用について述べる。

狙撃兵

狙撃は大抵、狙撃手と観測手(スポッター)の2人がチームを組み行う。これに護衛が付く場合もある。
  • 狙撃手はその名の通り銃をもって狙撃を完遂させる者。事前の地勢や実際の射撃条件などをもとに狙い、撃つ。
  • 観測手は狙撃手の直接の補助を行う。現場の条件から狙撃手にデータを受け渡し(ターゲットが空軍基地にいるのならそこにある風速計から詳細なデータを確認できる)たり、別途観測用のスコープによる弾着確認をしたりなど。
  • 護衛は間接的な補助。狙撃手は重い狙撃銃で手一杯なので、交戦が予想される場合は代わりに戦う。

任務によっては敵地まで数日間の潜入任務となる。それに特定個人を殺害したとバレているので、捕虜になっても私刑で殺されるかもしれない*5ので生還は必須。
疲労による精度低下も考えられるので、観測手も狙撃銃を持ったり役割を定期的に交代したりする。
概ね600m~に対応。7.62mmNATOなら1.5km、.50BMGなら2~3kmあたりが限度だろうか。

マークスマンライフル(DMR)と選抜射手

DMRはDesignated Marksman Rifleの略で、選抜射手向けにデザインされた銃。
他に一般兵と共に行動し、一般兵の突撃銃では有効打を与えられない遠距離の敵を排除する役割を担う。
いざというときには一般兵とともに近接戦闘もこなさなければいけない。
突撃銃とある程度弾丸を合わせ、多数の目標に対しても対応できるように連射性を持つことが要求されている。
概ね300~800mに対応する。

警察系・対テロ系

こちらは主に対テロを軸としている。観測手と2名行動が基本。
ハイジャックや立てこもりが起こった際には、対象家屋の構造(コックピットやキャビン、ベランダ)がきちんと見える地点を選定しそこで待機。必要に応じて射撃する*6
警備の際には広範囲の状況に対応できるように多数の地点に配備される。オリンピックではビルの屋上にまばらにスナイパーが確認できる…かもしれない。
百発百中である必要があるため、犯人に悟られない程度に多少距離を詰める。



装備

狙撃銃には銃上部にスコープを、銃口にはフラッシュハイダーかサプレッサーを装着する。
他にも連続射撃に備えて銃身上部に遮熱リボンを追加して陽炎の発生を抑えたり、安定させるために2~3脚を標準搭載している場合もある。

スコープ

300~600mでは3~6倍が主流。それ以上への拡大機能がある場合でも、大抵は観測手代わりに覗くためであったりで超遠距離でない限り使用されない。
可変の場合、ファーストフォーカルプレーンとセカンドフォーカルプレーンがある。前者は対物レンズ側にレティクルが刻まれており、倍率に応じてレティクルが変化する。後者は接眼レンズ側にレティクルがあり、倍率を変えてもレティクルは変化しない。
前者のほうが倍率を変えてもレティクルの目盛(測距や偏差に使用する)が使用可能で倍率変更でゼロインがずれることもないのでお勧め。
対物レンズ側の反射が敵に察知される場合があるため、ハチの巣状や一時停止看板状のキルフラッシュを用いて反射を軽減することがある。

フラッシュハイダーかサプレッサー

雪原や見晴らしのいい場所で狙撃を行う場合、発砲時にマズルフラッシュ(発光)が目立ってしまう。
敵に居場所を教えることになるし、マズルフラッシュは狙撃手の目に対して負担になる*7
ラッパ型の単純なフラッシュハイダーの場合敵側には見られるので留意。

遮熱リボン

数発撃っただけでも銃身は熱を帯びて陽炎ができ、スコープの前が歪んでしまう。
SV-98などのそれが顕著で、サプレッサーの上にもリボンがつけられる。

依託射撃を即時行うための脚。狙撃銃では大抵ハリスの2脚が用いられるが、ストック側にももう1脚があり3点で照準を維持できるものもある(前述の交代時に狙いなおす時間が減る)。



有名な軍の狙撃手

 レンズの反射で敵にバレるのが嫌だという理由でアイアンサイトで狙撃していた。白い悪魔。項目参照。
  • リュドミラ・パヴリチェンコ(ソ連)
 主にSVT-40を用いて309名を仕留めた女性スナイパー
  • ヴァシリ・ザイツェフ(ソ連)
 映画スターリングラードでの主人公
  • カルロス・ハスコック(米海兵隊)
 93名。対物ライフルがない時代にM2ブローニングで2300mの狙撃を行った。
  • クリス・カイル(米SEALs)
 映画アメリカンスナイパーの主人公。除隊後PTSD*8の退役軍人の支援を行っていたが、セラピー活動中に撃たれて亡くなった。(後述)



狙撃銃を主力とする有名な会社

下記以外にもH&K社など狙撃銃と呼べるレベルのライフルを作っている会社はごまんとある。
  • ウィンチェスター(M70)
  • レミントン(M700)
  • アキュラシーインターナショナル(AW/L96)
  • バレット(M82)



主な銃

アメリカ
  • スプリングフィールドM1903A4
  • スプリングフィールドM1C/D
  • スプリングフィールドM21/M25/Mk14EBR/M39 EMR
  • ウィンチェスターM70
  • レミントンM24/M40(M700)
  • バレットM82
  • Mk12SPR
  • M110(SR-25)
ロシア(ソ連)
  • M1891/30
  • SVT-40
  • SVD
  • VKS
  • VSS
  • SV-98
  • KSVK
イギリス
  • No.4 MkI(T)
  • L96(AI AW)
ドイツ
  • Kar98k&ZF41
  • H&K G3 SG1/PSG1/MSG90
  • H&K G28(MR308/HK416)
  • DSR-1
フランス
  • MAS36/FR F1/FR F2
  • PGM ヘカートII
  • FN SCAR-H
日本
  • 97式狙撃銃/38式改狙撃銃
  • 99式狙撃銃
  • 64式7.62mm狙撃銃
  • 対人狙撃銃(M24)
  • 特殊銃I型(豊和M1500)



フィクションでは

戦争ものや戦闘もののゲームにはほとんど決まって登場し、高い射程や攻撃力を誇る代わりに、スコープを覗かないとまともに当てられない、連射が遅い、弾数が少ないといった特性が与えられる場合がほとんど。
射程は無限の場合が多く、スコープを覗いてきっちり狙えば精度は高い。

アニヲタ的にはソードアート・オンライン第3話「ファントム・バレット」で活躍したウルティマラティオ "ヘカートⅡ"や、L115A3『サイレント・アサシン』も有名どころだろう。

かの超A級狙撃手が使っているM16は、大当たりな個体をさらにチューンしていると思われるので立派な狙撃銃といえよう。




余談

近年の非対称戦*9では武器を持って攻撃してきた女性や子供を撃つ必要があったため、PTSDを患っていると思われる手記がかなり存在する。
そして狙撃手はスコープ越しにはっきりと被弾者が死ぬ姿を見てしまう。彼らが負う心の傷は計り知れない。
前述のアメリカンスナイパーをはじめ、非対称戦の中で兵士が負った心の傷を描いた作品が多数存在している。心身に余裕のある方は勉強の意味を含め視聴してみることをお勧めする。



白い死神と呼ばれたことがある方は追記・修正をお願いします。

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最終更新:2025年07月04日 21:23

*1 ドイツ(Kar98k&ZF41)、イギリス(No.4 MkI(T

*2 元は対戦車ライフルであったが、戦車が強くなりすぎたことで一度は廃れた。がバレット社がハッスルしたおかげで新しいカテゴリとして軽装甲車両などに用いられるようになった

*3 弾速が900m/s程度なので空気抵抗を加味しなくても1000m先には1秒以上かかる

*4 同じ個所に弾を当てるには同一の姿勢を維持する必要があり、操作の際にグリップから手を離してしまうと姿勢が変わりやすい

*5 ジュネーブ条約では正規軍人であるため捕虜として扱うべき範囲ではある

*6 テロリストが交渉に応じたり、突入部隊が首尾よく確保したりで待機のまま終わることもある

*7 保護のため、初期のスコープには接眼レンズ側の方に太いゴムカバーが追加されていた

*8 心的外傷後ストレス障害。戦場や家庭内暴力などによって強烈かつ治癒困難なトラウマを抱えた状態。

*9 ゲリラや便衣兵、反政府軍など。市街地では民間人に紛れて攻撃してくる場合がある