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S県月宮(都市伝説)

登録日：2012/07/14(土) 15:18:09
更新日：2025/03/10 Mon 21:51:13
所要時間：約 7 分で読めます




お兄ちゃんどいて！ そいつ殺せない！





S県月宮とは2002年8月頃、ネットゲーム「ラグナロクオンライン(RO)」のβ1テストでIrisサーバーに居たと言われるプレイヤーの事である。
後述する事件を起こした張本人であり、当時のネットユーザーに大きな衝撃を与えた人物。
事件の報告は被害者が2chのスレッドに書き込む形で行われた。以下で解説する。


【登場人物】

※3人ともROのプレイヤー。
  • 374
本事件の被害者にして語り手。大学生。
名前の由来は2chで彼が相談したスレ「RAGNAROK ONLINE βLv417 ﾏﾏｰﾘ」のレス番が>>374であった事から。
2次元には興味が無いらしく、エロゲーやコミケのこともほとんど知らない。

  • S県月宮
本事件の加害者。中学生。
名前の由来は、

「S県」→S県在住であった事から*1
「月宮」→RO内でアダルトゲーム(アニメ)『Kanon』に登場するキャラクター「月宮あゆ」を名乗っていたことから*2

とされる。
これは後に付けられた通称で、374は終始「ﾃﾞﾑﾊﾟ(電波)」と呼んでいた。
呼び名の通り、彼女の発言や行動は電波なものばかりである。

  • アコ
374のゲーム友達。女性。
「アコ」は人名ではなく、RO内の職業「アコライト(=司祭の補佐役)」に由来する。
腕っぷしが強い。


【事件概要】

・経緯

RO内でS県月宮が374に対し、執拗に迫ってきた事から始まる。

S県月宮は374の事を勝手に「お兄ちゃん」と呼び、「妹と呼んでねお兄ちゃん」等と要求していた。
これに対し374はやめてくれと断るが「お兄ちゃんと私の仲でしょ」と無視した。

2002年8月5日、S県月宮は374にコミケに行こうと誘いをかけた。
これを374は拒否したが「妹のお願い聞けないの？」と繰り返し誘った。
拒否し続けると「お兄ちゃんの住所――でしょ？　日曜日行くから」と、374の住所を的確に言い当てたという。*3

もはや374は自分の力では解決できないと思い、同じくROのゲーム仲間だったアコに助けを求めた。

アコの常識的な説得に対しS県月宮は

「私とお兄ちゃんは前世からずっと一緒になるって決まってたんだもん」
「ずっと昔に魔女に私たち兄妹は引き裂かれる運命」
「魔女に殺される前にもう1度会うって約束した」
「だからお兄ちゃんに会いに行くのがとうぜんでしょ」

等と返し、そのうえアコのことを「私達の仲を引き裂こうとしている魔女のしもべ」とまで呼んだ。

解決に失敗した374とアコは説得を諦め去ったが、その際374に対し、

「お兄ちゃんどこ行くの？ そのアコは魔女なのよ！？ お兄ちゃんそんなヤツの所に行かないで」

と言った。

・最初の襲来

2002年8月10日夜、374は「お兄ちゃんとはやく会いたいのでもう0時に行きます」とのメールを受信。
身の危険を感じた374は断りのメールを送信すると同時に警察に連絡、0時に出動できるように待機してもらい、自身もアパートの自室を監視できる位置へと隠れた。

そして同日深夜、S県月宮が本当に374宅を訪れたのだ。

ドア前でS県月宮は「374さーん来ましたよー」と大声で呼ぶものの、374は屋外で待機している為当然反応は無い。
これに対しS県月宮は何を思ったか「お兄ちゃん！ 大丈夫！」「誰かに捕まってるの！？　もしかして魔女に捕まったの！？」と絶叫。
さらにS県月宮はバッグから取り出した警棒でドアを殴打、破壊。

374は警察に通報し、飛び出して武器を取り上げようとするが「何すんのよ！？」と反撃を受ける。
374が「俺の家の前で何をしてる！」と呼びかけるとS県月宮は「お兄ちゃん？」と応え、破壊・暴行行為を止めた。

警察に引き渡し、パトカー内で簡単な聴取が行われたが、

「妹の私が来るのにお兄ちゃんがまさかお外にいるとは思わなかった」
「もしかしたら魔女に捕まってるかと思って」
「どうにかして助け出そうかと思った」

等と意味不明な発言が続いた為、署に連行された。

S県月宮は身分証明になるようなものを持っておらず、また容姿から未成年であることも疑われたが、

「お兄ちゃんには私が必要なの」
「お兄ちゃんは魔女に狙われて殺されるかも知れない」
「2人で救世主を探しに逃げようと約束した」

との妄言に対応できず、そこで374が「お前が前に住んでた所に実は魔女の呪いがかかっていることがわかって……」と妄想で返し、住所を聞き出す事に成功。

S県月宮は駆け付けた保護者に引き取られ*4、無事解決……のように見えた。

・2度目の襲来

しかし事件のわずか10時間後。

一連の事件で疲れた374は寝ていたが、S県月宮の母親からの電話に起こされた。

母親は「娘が家から出ていってしまったんですよ」と話し、身の危険を感じた374は逃走した。

そしてまたもS県月宮が374宅に到着。ひたすら374のキャラ名を叫んだが居るわけも無く、隣室の住人があまりのうるささに374の不在を告げて追い払った。

374は約束していたアコとのオフ会の待ち合わせ場所に移動する。
374は気づいていなかったが、実は偶然にもこの時点でS県月宮はミスタードーナツに居た374を発見している。
彼が店を出ると同時に追いかけたものの、運動不足のためかすぐ疲れてしまい、一端見失う。

アコと合流した374は居酒屋へ。S県月宮は彼らを再度発見するも、見た目からして明らかに未成年だった為に入店できず、2時間ほど外で待ちぼうけを食らった。

そして酔っ払った374とアコは居酒屋を出る*5。
雑談しながら人通りの少ない住宅街に差し掛かったところで、アコが呻き声を上げて倒れた。
酔い潰れたと思った374は慌ててアコの方を向いたが、そこにいたのは右手に警棒をぶら下げたS県月宮だった。

「お兄ちゃん大丈夫？」と問いかけてくるが、とっさに反応できなかった374を無視し、
「お兄ちゃんそいつは魔女でしょ？　だって魔女の名前で呼んでたもん」等と言い始める。

374は左腕を抱えた格好で倒れているアコに「動ける？」と確認したが、それを見たS県月宮は「今そいつ殺すから」と言って警棒でアコに殴りかかった。

374が持っていたカバンで防御すると、

「お兄ちゃんどいて！ そいつ殺せない！」

と絶叫。

374はあまりの剣幕に恐れおののいて固まっていたが、徐に立ち上がったアコがS県月宮にラリアットをぶち込んだ。
S県月宮は一撃で倒れ、アコもまた再び腕を抱えて倒れた為、374は警察に通報。

S県月宮は最後まで「魔女に殺される！ 助けてお兄ちゃん！」と叫び続けていた。

警察に引き渡された後、374がS県月宮と出会うことは無かった。
「S県月宮はカウンセリングを受けているらしい」と話した後、374も姿を消した為その後の話は誰も知らない。


【解説】

この話は「Iris的」というサイトの管理人によって釣り宣言が出ている。

ここまで話が大きくなった背景として、2000年～2002年が日本国内におけるインターネット普及率が急上昇した(21%→57%)時期だったことがある。
まだ現在ほどインターネットは身近ではなく、その中で訪れた人々には「得体の知れないネット界隈には常軌を逸した奴が居そうだ(あるいは居る)」という想像が働いた。
そうした時期において、この話はとても刺激的だった事がうかがえる。
今同じ話が流布されても恐らくニュースブログのネタで終わるが、当時のネット住民は耐性がなかったのだ。

またS県月宮事件の発生は所謂「合宿厨(押し掛け厨)問題」の全盛期の事。
これらの大半は同人作家の自宅を悪質なファンが突然訪れる*6、同人誌即売会前日に都市圏住まいのオタクの家をタダ宿として使おうとする地方在住オタクが訪れる、等の厚かましい悪質オタクによる犯行だったが、
対策・報告スレ等に書き込まれた体験談の中には、「前世の記憶を持っている」と自称する前世少女、自身を物語作品の登場人物と思い込んで行動するなりきり少女らが*7同人作家や一般人を「前世の仲間(或いは作中キャラ)と認定して自宅に押しかける」というものも少なからず上がっていた。
こちらも現在では半分以上は「釣り」か創作と言われており真偽のほどは不明だが、少なくとも当時はS県月宮事件の実在性を補強していた。
なお合宿厨スレでの報告例曰く、「当時は個人掲示板やフリーチャットを通じて、多感な少女達が交流するうちに『前世の記憶に目覚める』ケースが多発していた」とのことである。

ちなみに1980年代にもオカルト誌の読者交流コーナーを「前世で共闘した仲間を探す人々」が占領したり、前世を知りたい少女たちの集団自殺未遂事件が発生したことがあった*8。
なのでS県月宮の「前世少女」という属性は割と現実味を帯びている。

こんな事が本当に起きても不思議な話ではない、とされていたことも信憑性の一部を担っており、
それゆえ釣り宣言がなされた後も、この話は一部だけでも事実だったのではないかという憶測を呼び続けてきた。

こうしてS県月宮は作者の手を離れ都市伝説となり、今もネットの海に生き続けているのである。

もしかしたら、今でも新たなお兄ちゃんを捜し求めて……。










「お兄ちゃん」





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最終更新：2025年03月10日 21:51

*1 事件現場となったのは374の住むC県=千葉県で、S県=埼玉県とは距離が相当離れている

*2 ただし名乗った人物=S県月宮とする確証はない

*3 374曰く「重力(=ROの製作会社Gravityのこと)に馬鹿正直に住所教えてました」とのことだが、その住所をどうやって割り出したのかは不明

*4 この時にS県月宮が中学生と判明した。詳細は不明だが引きこもり気味だった模様

*5 実はアコが未成年であった事が後ほど警察で分かる

*6 ネット普及以前は同人誌に連絡先として奥付に自身の住所や電話番号を乗せる作家が多かった

*7 中には「物語作品はその世界の転生者の書いた戦記で、私たちこそ物語の主人公の生まれ変わりだ」と豪語する併発ケースもあった

*8 後に「戦士症候群」と名付けられる現象。日渡早紀の漫画『ぼくの地球を守って』は、この現象から着想を得た作品である