世界最悪の人災による悲劇ワースト5

登録日:2013/10/28 Mon 06:37:36
更新日:2025/04/18 Fri 21:22:42
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地震、洪水、噴火、竜巻――

人類が文明を築き上げ始めてから数千年の月日が流れたが、科学技術が発達した現在においても、様々な災害は人間にとって最大の脅威となり続けている。
様々な知恵を練って対策に乗り出す事も多いが、それでも自然の力には勝てず大きな被害が出てしまう場合はあまりにも多い。

だが、その中には単なる自然現象ばかりでは無く、人間の行動そのものが災害の大きな要因となっている場合も目立つ。
地球温暖化を始めとする環境破壊ばかりでは無く、情報そのものの不足や安易な選択、そして情報伝達の不備によって、
災害がより大規模なものになってしまうと言う場合も多い。
中には、完全に『人災』と呼んでも過言ではない事態も起きているのだ。

その中でも今回項目で取り上げるのは、ユネスコが2008年の『国際惑星地球年』(地球科学関連のプログラム)の「災害」テーマで、
  • 人類はこれまで岩石圏,生物圏,地形をどのように変えてきたか。 その結果,ある種の災害が生じやすくなり,社会的な脆弱性が増大したのか。
  • 災害に対する人や地域の脆弱性をどんな技術や方法論で評価するか。 そしてそれを災害の規模に応じてどう使い分けるか。
  • 様々な地質災害に対する現在の監視,予知,軽減能力はどのくらいか。 この能力をどんな方法論や技術で向上させて世界の市民を守るか。
  • リスクや脆弱性の情報を用いて,政府などが地質災害を軽減する政策・計画を立てる際の障害はなにか。
という論点に基づいた「5つの教訓と5つの朗報」(Five Cautionary Tales and Five Good News Stories)における「5つの教訓」(cautionary tales=教訓的な物語)である。
地質的災害ではあるがただの天災では片付けられず、人災の側面が大いにある。

なお、爆発事故などといった「完全なる人災」ではなく、「元々は天災ではあるが、人間の行為によって被害が非常に大きくなってしまった災害」であることに注意


●目次


1. バイオントダム地滑り事故

〔イタリア、1963年〕

バイオントダム(Diga del Vajont)は、イタリアにあるバイオント谷の上に建設された大きなダム。
水力発電所も兼ねており、「アーチ式」と呼ばれる形のダムでは当時世界一の大きさを誇っていた。

建設計画が持ち上がった頃から、周辺の土地の地盤が脆弱なのではないかと言う指摘がなされてきた。
だが、それらの意見は無視され、1960年にダムは完成。内部に水を溜める作業も始まった。
しかし、その頃からダムの周辺で地滑りが多く発生するようになっていた。
当然危険性を指摘する声もあり、大変な事にならないかと言う危惧もなされたが、それらの嫌な予感は全て軽く見られてしまい、その後もダムの中には水で満たされ続けた。

そして、その危惧は現実のものとなってしまった。

1963年、バイオント谷やその周辺は記録的な豪雨に見舞われ続け、周りの地盤はどんどん脆くなっていった。
更にダムの中に溜まった水は、脆くなった谷を更に圧迫する。
9月になって地滑り速度が大きくなり、放水が行われたが時すでに遅し。放水が始まった後も激しい降雨は続いたため放水は焼け石に水だった上に地盤の状況はますます悪化。
にもかかわらず周辺住民の避難は一切行われなかった。
そして10月9日、とうとうダムを囲むようにそびえ立つ山の一つで巨大な地滑りが発生。
ダムの中に凄まじい量の土砂が100km/hと言う速さでなだれ込んだ。
あっという間にダムの中には大量の土が溜まり、押し出された大量の貯水が津波となって下流を襲ったのだ。
その量、なんと5千万㎡にも及ぶと言う。
ダムの近くを始め、渓谷の近くにあった集落などは完全に壊滅し、死者2000人以上にも及ぶ大災害となってしまった。
一方、バイオントダム自体は大量の土砂と水に持ちこたえて、最上部が津波で損壊した以外ほとんど被害は無かった。
皮肉にも、ダムそのものはとても頑丈で、崩れる心配は無かったのである。

ダム自体はもはや撤去できる状態ではないし、下手に触ればまた何が起こるかわからないため放置されている。ただし、さらなる地滑りが起こらないようにするために、水圧を減らすための水路などが設置され、ダム及び周辺の山は監視されデータが集められている。
今もなお、ダムは峡谷を繋ぐように陣取っているという。
また、壊滅した集落は生き残った住民の手によりほとんど復興したものの、一部の住民は別の場所に移住した後新たな村を作り、現在でもそこで暮らしている。
その村の名前は、皮肉にも大量の犠牲者を生み出したダムと同じ名前である。

この事故以後、ダムの建設にあたっては単に地形を調べるだけではなく、周辺の地質をしっかりと調査する事が特に重要視される事となった。
例えダムそのものが崩壊しなかったとしても、その側にある山が一つ崩れれば、人間の築いた『水たまり』はあっという間に崩壊してしまうのだ。

ナショナルジオグラフィックチャンネルの番組『衝撃の瞬間』で紹介された他、映画『プロジェクトV 史上最悪のダム災害』(原題:Vajont - La diga del disonore)の題材にもなっている。


2. 北オセチア共和国の氷河崩落

〔ロシア連邦(北オセチア共和国)、2002年〕

ゆっくりと動く巨大な『氷の川』である氷河
アルプス山脈に連なる美しい氷河や、北極の地域にある青く輝く氷河などをテレビで見た事のある人も多いだろう。
陸地全体の10%以上も覆っているこの巨大な氷の塊だが、近年それらは大きな危機に直面している。人類の長年の環境破壊などによる地球温暖化のような環境変動により、氷河が次々に崩壊しているのだ。
溶けて川と化す場合もあるが、何よりも恐ろしいのは氷河そのものが崩落し、巨大な氷の塊になって崩れ落ちる事である。
に落ちれば巨大な氷山となり、タイタニック号のような惨劇を起こしかねない。ましてや、その崩落が「陸上」で起きれば……。


ロシア連邦の南部にある「北オセチア共和国」。そこにあるカルマドン峡谷で、2002年9月20日に氷河が崩落する事故が起きた。
峡谷を覆う氷河から、長さ5km、高さ最大100m、幅200m以上と言う凄まじい大きさの氷の塊が崩落したのである。
大量の氷河はそのまま峡谷にあった集落を呑みこみ、土砂を巻き込んで巨大な土石流や雪崩となり、完全に人々の生活を崩壊させた。
結果として、死者は300人以上、行方不明者も多数出ると言う大惨事が起きてしまった。
その中には、ロシアで活躍していた若手俳優や彼と同伴していた映画の撮影スタッフも含まれていたのである。

ただ、この氷河は数十年前にも崩落の兆候を見せていた事があったと言う。
もしそこから現在までしっかりとした観測システムが備わっていれば、犠牲者をもっと防げたかもしれないのだが、予算面などの都合で科学者の観測チームは解散してしまっていた。
地図を見てもらえば分かるが北オセチアという国はロシア連邦を構成する1国であり、隣のイングーシ共和国と領域問題で対立中。
発生するかわからない災害に対応できる状態ではなかったのだろう。

人類による地球環境の変化もこの惨劇を生んだ要因の一つかもしれないが、情報不足もまた大きな原因となってしまった。


3. スマトラ沖地震による津波

〔東南アジア各国など、2004年〕

20世紀以降に発生した地震では史上2番目に大きい規模となったスマトラ沖地震
東南アジアを始め世界中を襲った巨大津波による大被害を覚えている人は多いかもしれない。
しかし、ここまで凄まじい被害を起こしてしまった要因には「人災」の一面もあると言う。

現在、日本を始めとする太平洋沿岸の各国には「津波警報国際ネットワーク」と呼ばれる巨大な情報網が築かれており、どこかで地震が起きればすぐさまその情報は各地に伝えられ、警戒態勢が取られる事になる。
だが、この時に地震が起きたインド洋沿岸の各国(アフリカ、東南アジア、南アジアなど)にはそのようなシステムは存在しなかった。そもそも地震があまり起こる地帯ではなかったのも原因だろう。*1
そのため『津波』の存在に気付かず、避難勧告すら出す事が出来なかったのである。

しかも、津波に気付いた側の状況の不備も大きかった。

太平洋にある津波警報センターは真っ先に津波発生のおそれに気付いたが、警報を出したのは1か所だけで、東南アジアなどインド洋沿岸の各国には「津波が来る」と言う連絡しかしなかった。
この地震が起きるまでインドネシアは津波の被害を経験した事が無かったため、その『連絡』の重要性に気付かず、結果的にインドネシアも含めて20万人以上の死者・行方不明者を出すと言う大災害が起きてしまったのである。
一部のビーチでは「偶々訪れていた観光客の子供が授業で津波について習っていたため、避難を呼びかけることができた」という例も報告されていることが、より一層情報伝達の重要性を物語っている。

そしてもう一つ、津波の被害を大きくした要因に、人間の環境破壊も絡んでいた。

タイでも各地に甚大な被害の爪痕を残した津波だが、その中で何とかその被害を抑える事が出来た地域が存在した。
海の中から生える森「マングローブ」が生い茂っていた場所である。
マングローブの林が防風林ならぬ防波林となり、若干ではあるが津波の勢いを弱めたのだ。
養殖池や埋め立てなどの開発により次々に失われていたマングローブだが、この事例がきっかけとなり、
タイでは国を挙げてのマングローブの植林事業が始まったと言う。


4. 洪水全般

〔世界中どこでも起きうる〕

大量の雨が濁流となって陸地を呑みこむ『洪水』。
小規模なものでは陸地に栄養や水分をもたらすと言う良い側面もあるが、あまりに水の量が多ければ、陸地にある何もかもを根こそぎ奪い、人間の命や財産、そして経済にも甚大な被害を与える。
毎年、世界中で洪水による被害が起きているのは皆様もよくご存じだろう。

ただ、洪水もまた「人災」の一面が目立つ場合もある。

地球温暖化など人類が起こしたとされる環境の異変も要因の一つだが、過度な開発やそれに伴う森林の伐採も挙げられる。
木々が生い茂っている場所では、大量の雨が降っても森の土の中や木々の中に雨水は吸いこまれ、「緑のダム」として洪水を防ぐ効果を持つ。
だが、それらが全て消えてしまえば、大量の雨をせき止める物は完全に無くなり、そのまま洪水と化して人々の生活を呑みこんでしまうのだ。
例としては、慢性的な経済難や食糧難から大量の木々が伐採された北朝鮮で、毎年のように大洪水が起き数十人もの命が失われ続けている事が挙げられる。

他にも、水の管理体制の不足と言うのも大きな要因となっている。

2012年にタイを大洪水が襲った事は記憶に新しいかもしれない。
大量の会社や工場も呑みこまれ、日本にも大きな影響を及ぼしたこの洪水だが、その裏で治水工事などの不足が洪水を大きくしたのではないかと言う指摘がある。
タイではこれまで何度も洪水に襲われてきた経験から、2000年代から洪水対策のための様々な工事が検討されていた。
だがそういう大事業には巨額の予算が必要となるためあまり進展しておらず、さらに始まった政治の混乱などにより放置されてしまっていたと言うのだ。
その上、大量の雨水が溜まったと言うことで各地のダムから大量の水を放水させていたと言う事実もあり、政府の陰謀論……つまり完全な『人災』という説まで囁かれているらしい。

タイに限らず、多くの国ではこういった治水・利水の不備が洪水の被害を甚大なものにさせている場合が多いようである。


5. ネバドデルルイス火山の噴火

〔コロンビア、1985年〕

最後に取り上げるのは、地球内部の活動『火山噴火』である。
凄まじい量の火山灰や土石流、そして溶岩が流れ込むこの自然現象、人間の力ではとても止める事は出来ない。
だが、それ以上に人間の行動次第でその被害はより大きくなってしまう場合があるのだ……。


ネバドデルルイス火山は、コロンビアにある大きな活火山。
赤道直下ながら標高は5000m以上あり、山頂は雪に覆われているが、それ故に一度噴火すると火山灰などの噴出物と大量の雪解け水が混ざり、ラハールと呼ばれる凄まじい規模の土石流が発生してしまう特徴がある。
1985年の噴火でも大量の死者や損害など甚大な被害を出したのだが、その裏にもまた『人災』の一面があった。

19世紀の中頃からずっと活動を見せていなかったこの山が突如目覚めたのは1984年。翌年には前述のラハールも確認され、非常に危険な状態になった。
それに伴い、コロンビアの地質関連の研究所が対策用のハザードマップを作ったのだが、一時的に噴火が弱まったのもあって評価されることなく、山のふもとの自治体からは完全に放置されてしまった

そしてそれから数ヵ月後の11月13日、ネバドデルルイス火山の麓にあるアルメロ市でお祭りが開かれ、近くの地域からもたくさんの人たちが訪れていた。
丁度同じ頃、火山の噴火は激しさを増し、アルメロにも火山灰が降り続く事態にもなっていた。
だが、そんな状況にもかかわらず避難指示は一切出されなかった
これまで何度も「噴火が起きる」と言うデマが蔓延したせいで火山噴火への危険性が薄れていた事と、アルメロ市長本人が避難指示による住民のパニックを恐れてわざと出さなかったのもある。

駆け付けた赤十字の必死の避難の呼びかけにも、住民の反応は僅かであった。もはやこの町の住民は、火山に対しての恐れそのものを失っていたのだ。


……そして、11月13日午前11時半。
大噴火によって生じたラハールが、2万人以上の命と共にアルメロの町を呑みこんだ




情報伝達の不備のみならず、それらの情報を判別するための正確な「知識」の不足
この恐ろしい『人災』から学ぶべき所は今もなお大きいだろう。



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最終更新:2025年04月18日 21:22

*1 あまりにもしょっちゅう地震が起こるため、震度3や4程度では慌てすらしない我が国がおかしいのではあるが。