アットウィキロゴ

ウィザーズ・ブレイン

登録日:2012/10/16 Tue 13:32:27
更新日:2026/08/19 Wed 09:57:41
所要時間:約 5 分で読めます




世界は『情報』でできている。

レーベル:電撃文庫
著者:三枝零一
イラスト:純桂一
巻数:全20巻(総エピソード数10)

第7回電撃ゲーム大賞「銀賞」受賞作。*12001年から2023年にかけて発表された。
知名度は低めで、かつ話が進むにつれ各巻ごとの発表間隔がどんどん年単位で伸びていったものの*2、根強いファンは多い。
応募時タイトルは「魔法士物語」。

ほぼ共通の特徴として、悪役らしい悪役が登場しない。強いて言うなら誰もがどうしようもない事で加害者になりうる世界の現状と、物語における巡り合せの皮肉さだろうか。
各エピソード冒頭の四行詩(Ⅸ巻にて破られる)
各巻頭は全て回想シーンから始まる。あとがきでの次回予告がある。

あらすじ

1000万人が生活できるドーム型の積層都市「シティ」が世界各地に建造され、全ての国家が消滅した世界。
しかし、大気制御衛星の原因不明の暴走事故によって世界は闇に包まれた。地球環境は激変し、
気温は零下40度まで低下。太陽光発電に頼り切っていたが故の深刻なエネルギーの枯渇は、遂に第三次世界大戦を引き起こす。
シティ間の熾烈な生存競争の末、アフリカ大陸が世界地図から消滅。地形を変える程の激戦により、残されたのは、7つの「シティ」だけだった。
終戦から10年後、世界は未だ緩やかな人類滅亡を続けている。

時系列に沿ってはいるものの、3巻までは殆ど別の物語として描かれており、
上下巻構成のⅣ・Ⅴ巻を経て、群像劇かつ上中下巻構成となるエピソードⅥからが本編

主要登場人物(Ⅴ巻まで)

  • 天樹錬
便利屋を営む天樹家の末っ子。
ひょんな事から出会ったヒロインフィアのために頑張る、割と王道なⅠ巻の主人公。
だが実は、天樹姉弟の父が生前に作り死後研究施設に放置され、何も知らないまま護身のために侵入者を反射的に殺す事しか出来なかった所を双子に拾われ「血の繋がりはないが親が同じ」な二人の元で育った子供。
その能力は特異で、他者の魔法を科学者の名を冠する「デーモン」なるプログラム群で複数エミュレートする万能型魔法士「悪魔使い」。
また他の施設生まれの作られた魔法士*3にも言える事だが成長を人為的に促進されており、ガワこそティーンエイジャーで戦闘技能も一人前だが、実は肉体年齢はそれより幼く、
拾われてからは姉と兄からの保護・支援を手厚く受けて甘めかつやんちゃに育った事もあり、精神面では良くも悪くも子供だったりする。ついでに言うと「知り合い」ではない相手への口の利き方も荒かったり。*4
…そして作中では、「未熟で無鉄砲な子供であること」が時に物語を動かし、時に彼自身をも追い詰めていく。
特にエピソードⅥにてある人物から「錬がフィアを助けた時の『事件』で起きた被害と、自分とフィアが事件の原因として被害者から恨まれる可能性を考えておかなければ、いずれ(フィア含めた)大切な人を不幸にする(意訳)」と忠告され、似て非なる少女サクラとの遭遇もあって単純に突っ走るだけでは駄目な現実と向き合う羽目に。
ただ一方で(身内の能力を信用し過ぎる面も含めて)厳しい見解を述べた忠告者からは(自分含めた殆どの者が既に道を決めているのに対し)「道を探して迷う」様子に希望を見出されており、その果てに彼が見つけた答えと、選んだ道は…。
エピソードに登場する度、彼の特異性が徐々に浮き彫りとなっていく。
+ ちなみに…
自身の能力で開発した「デーモン」には学者の名前を付けているのだが(炎使い:マクスウェル、人形使い:チューリング、身体強化:ラグランジュ等)、
クライマックスでは極限状況で発明したある「デーモン」に、生みの親やエドの創造者とともに魔法士を最初に開発したサクラの父親の名前「アルフレッド・ウイッテン」と命名している。
…サクラとの最後の対決では、彼女もまたその「デーモン」を咄嗟にアレンジコピーして対抗して来たのだが、、父親の名前をライバルが魔法名にした事に気付かなかったのは良かったのかどうか…。


  • フィア
謎の人物からの依頼により、天樹家に保護された少女。
Ⅰ巻のヒロインにして錬の嫁。金髪ロングおでこちゃん。三歳。意外と胸は大きいらしい。
名前はドイツ語で「数字の4」を指す*5
魔法士としては天使の羽根を展開し、生体の応急手当や重力を含めた周囲の環境を操作するという破格の魔法「共感能力」を持つが、代償として「相手の痛みに共感する」ため、人を攻撃する事が出来ない体質でもある。
マザーコア特化型魔法士「天使」。

  • 天樹月夜
天樹家の長女。メカニックから潜入工作まで幅広くこなす。真昼とは双子の姉弟。
生身の人間とは思えないほどの身体能力の高さを持ち、銃撃戦すらお手の物である。
頭に血が上るとすぐ手が出たり、ついつい乱暴な口調になったりと、作中では粗暴な人物と書かれがち。
(ただし、本当に錬の事が心配で、大好きだからこその行動でもある)
錬からは「なんでこんなにすぐ怒る人が『月の夜』なんだろう」とモノローグで語られてしまう。

しかしその本質は(弟の真昼が頭脳担当な為に陰に隠れがちだが)現実をしっかりと見据える事が出来るリアリスト。
この世界が抱えている根本的な問題を、病巣にたとえるなど思慮深い面もある。
そもそも頭が良くなければ、そこんじょいらの有り合わせの素材だけで何かの装置を作るような真似などできない訳で。

  • 天樹真昼
天樹家の長男。プログラミングから戦術構築までこなす腹黒参謀。それを裏付けるかのように、作中の挿絵の表情も妙に胡散臭いものばかりである。この絵師分かってやってやがる。
…が、サクラとの出会い時、彼女の育ての親との情報交換の中で、サクラの名前と能力プロトコルの由来が自分がかつてサクラの「父親」(父の研究仲間)と交流した時の会話から来ていると知り*6、紆余曲折を経てサクラ側につく事を選択。
世界を変えようと行動を起こすが…。

+ 行動の理由とその結果
「世界を変える」と息巻いた真昼が目指したのは「人間と魔法士が共存できる世界」だった。
その為「魔法士の為に立ち上がってくれる人」を探しており、それがサクラだった。
無論サクラの魔法士至上主義とも言える過激な人格には本心では難色を示しており、本人のいないところで、信用に値すると判断した人物に「あのままでは色々と問題ですので」と漏らしていた。

……だが、月夜がリアリストなら、真昼はアイディアリスト(理想論者)だった。
エピソードⅧにおいて賢人会議はシティ・シンガポールと同盟を結ぶべく持ちかけるが、結論から言うと同盟は決裂した。

賢人会議側の言い分は「マザーシステムの稼働率を下げる事」だった。
だがそれは、シティ側からすれば到底のめない要求だった(ただでさえギリギリで生きている数多の市民達の生活水準をさらに切り詰める事になる為)。
勿論真昼としてもそう簡単に事が進むわけはないと思っていたのだが、そこに、シンガポールが極秘に雇った天城姉兄弟とフィアが崩壊時の事件に関わった元シティ・神戸の工作員たちが介入し…紆余曲折あって、最終的に真昼は命を落とす事となる。
そしてその死によって決定的なものになった賢人会議とシティとの亀裂や、それによって次々届く魔法士達からの悲鳴の声は、サクラにシティとの全面戦争を決意させてしまう事に…

また死ぬ直前、錬とサクラの未来に贈るような短文のラストメッセージを残したのだが、遺体発見と共に側にあった遺言が刻まれた端末を入手したサクラは、遺言を自分だけのものに
兄の葬儀に参加する事もサクラに拒絶された錬がその言葉を知るのは、結局全てが終わった後となった。

一方、この真昼の死に関しては、錬に関しては「かつてシンガポールで忠告された『シティ・神戸の事件におけるツケ』を真昼が払う羽目になった」、サクラに関しては「賢人会議として活動する中で数多の人間の命や幸せを奪ってきた代償が、それをある意味で後押しした真昼を失うという形で跳ね返ってきた」と捉えられる為、まさに信賞必罰or因果応報であるともいえる。

真昼は間違いなく平和を望んだ側だった。
だが、「理想的な答えは出せるが、当事者たちの気持ちになって物事を考える事が出来ない」という致命的な欠陥を抱えていた(月夜の回想でも、真昼が父親にその事を指摘されている場面がある)。
さらに「どうしようもなくなったら人々は最善の答えを選んでくれる」と思っていた節があった。
――現実は、世界は真昼が思っていたよりもずっと貧しく、どうしようもない感情を優先しがちで、余裕がなかったのだ。


1巻で「合理的な答えを出すなら機械でもできる。馬鹿な答えを出すのが人間の仕事だよ」と言っていたのは他ならない真昼だったが、
本人も気づかぬうちに真昼がその「合理的な答えを出す側」になってしまっていたのは皮肉としか言いようがない。

+ エピソードⅧにおいて、作者があとがきで明かした情報によると…
2001年2月にウィザーズ・ブレインという物語が世に出た時点で、シティと魔法士の対立が確定的になる事も、真昼が死ぬ結末になる事も最初から決まっていた模様。
エピソードⅧはそれこそ、作中に登場したほぼ全ての魔法士がシティ・シンガポールに一堂に会するという、普通に考えたら成功するであろう流れだった。
だが一方で、全てを一気に絶望に突き落とされる為のフラグもまた、それまでの流れにおいて静かに、だが着々と構築されていたのは流石である。


  • 黒沢祐一
大戦の英雄の一人。シリーズにおける頼れる大人。最高の騎士。
恋人は初代最強騎士、七瀬雪(故人)。本編では1章終盤から、雪の形見の騎士剣「紅蓮」を装備するように。
名前の元ネタはⅡ巻でカミングアウトされた。
…のだが、後年、ウィザブレ完結後に作者のXにて、Ⅰ巻の頃はその元ネタを知らなかったという衝撃の事実が明かされた。

  • 李芳美(リ ファンメイ)
Ⅱ巻のヒロイン。実験施設「島」で過ごしている実験訓練生。対騎士用魔法士「龍使い」。
上・中巻のオチ担当率が高い。九割人外(物理的な意味で)
彼女の背負った使命や、境遇はこの世界の登場人物でもトップクラスに重い。
だがそんな境遇にもめげずに明るく振る舞える娘である。

基本的に天真爛漫で相手を疑う事を知らないが、錬の事をかなり毛嫌いしていたり、初対面の真昼に対して「なーんか…詐欺師っぽい」と嫌悪感をあらわにしたりと、妙に天樹兄弟へのあたりが強い(月夜に対しては特に負の感情を抱いてはいない)。
なお真昼に対する評価は後の巻における伏線だったりする。

  • ヴァーミリオン・CD・ヘイズ
150メートル級高速機動艦「Hunter Pigeon」のマスター。全身どころか船も家計も真っ赤っかなお人好し。
指ぱっちん。

+ そして最後には…
最終的には世話焼き押しかけ女房ことクレアと結婚。その後はたくさんの子供に恵まれ、この世界であっても、とびきりの幸せを得ることができた。

ヘイズは常に自分の事を最後に考え、自分がどれだけ損を被ろうとも、他人を優先するお人よしだった。
その誇り高き精神は、最後になってようやく報われたと言えるだろう。

  • デュアルNo.33
通称ディー。Ⅲ巻の主人公。
I-ブレインを二つ備えた、弱点の存在しない世界最強の「騎士」。シティ・マサチューセッツの「ファクトリー」のエージェント。
実際とんでもない強さであり、まともに渡り合えるのは同じ主人公達くらい(それも片手で数えられる程度)である。
登場初期には殺人への躊躇いや気弱さを抱えていたが、セラとの出会いやその果てに起こったクレアとの決別、イルとの出会い等よって覚悟を決めていくことに。
後にかつて祐一が使っていた騎士剣「森羅」の核を故障した自分の騎士剣に移植され手にすることで、心身への負荷は増大したものの文字通りのチート性能を手に入れるが…。

  • セレスティ・E・クライン
通称セラ。Ⅲ巻のヒロイン。金髪ポニテのファンネル少女。
10歳だけど、実は自然出生者のためほとんどのメインキャラより年上
現在確認されている、世界唯一の自然発生した魔法士。親から受け継いだ重力操作魔法「光使い」の能力を持ち、専用武器はラミ○ル。
シティ・マサチューセッツにて母親と二人で暮らしていたが、ひょんな事からディーと出会い、運命が大きく動き出すことに。
因みに、Ⅲ巻の表紙イラストはディーとセラが描かれているが、この巻はウィザブレファンの間でも屈指の人気を誇る事で有名である。

  • クレアヴォイアンスNo.7
通称クレア。50メートル級高々度索敵艦「FA-307」のマスター。通常視力が無い代わりに、あらゆるものを見通す「千里眼」の持ち主。
ファクトリーのエージェントで、ディーの「姉」(同じ施設で作られた魔法士の先輩)にあたる巨乳眼帯お姉ちゃん。でも実年齢は四歳。
Ⅲ巻ではクレアにとってはディーの存在こそが全てであり、何があっても失いたくないと思っていた。
だが、セラを巡る中で弟とすれ違ってしまい、最終的に自分の妨害をも超えられて2人(と彼らを助けた黒沢祐一)に逃亡されてしまったのだが、
そんな「国から逃げられず、弟も自立して出ていかれた自分」に諦観と自暴自棄を抱いていた頃、エピソードⅥである任務を受けた際ヘイズと遭遇。紆余曲折を経てヘイズの側にいる事を選んだ事で彼女もまた成長していく。

なおⅢ巻がディーとセラの物語に主観を置いた為か、Ⅵ巻が発売するまでは、読者からは「ディーとセラの恋路を邪魔する姉」というぞんざいな扱いを受けていた時期もあった。

  • エドワード・ザイン
200メートル級特務工作艦「ウィリアム・シェイクスピア」のマスター。シティ・ロンドン所属。
最強の人形使い。…だが、生みの親な女性科学者からほぼ便利な手伝いの様に扱われており、それでも唯一無二の人だった創造者の死後ロンドンに拾われた後も長らく人間らしい事に興味を示さなかったが、
複数の遭遇により「人間らしい事」をするためにある行動に出、錬とフィアやファンメイとの触れ合いによって少しずつ「人間らしい」感情に目覚めていく。
ショタ。六歳。
なお、生みの親は一言でいうなら超コミュ障なので、悪い意味で似てしまったといえる。

  • サクラ
Ⅴ巻の主人公。
もう一人の「悪魔使い」。ある悲痛な過去から「賢人会議」と称して、各地で人の道具として使い捨てられる魔法士を救うためのテロやアジテートを繰り返している。
…そのキャラクターコンセプトは、「フィアを救えなかった錬」。ゆえに各所で相似しながらも違うものを感じて来た2人は、最終巻で譲れないものと背負ってきたもののために雌雄を決する事になる。

…ところが、そんなサクラは本作品において、読者からの評価が激しく分かれる賛否両論なキャラクターとなってしまった。
初登場のⅤ巻では、初登場時から既に身勝手で傲慢な面が目立ち、初対面かつ年上である月夜や真昼にすら礼儀知らず極まりない態度をとっており、早々に一部の読者のヘイトを買う。
その後、マザーコアをめぐるイルとのやり取りでも『ああ言えばこう言う』で言い返してばかりで、総じて人の話を聞かず、某親善大使ばりの「俺は悪くねぇっ!」な言動を繰り返す事から「態度が悪すぎ」「読んでてムカつく」等々、読者の心象がどんどん悪くなっていく*7
挙句の果てに「これはシティと魔法士の戦争だ」などと、あわや戦争を肯定すると捉えらえても仕方がない発言まで飛び出す始末。
このように、全体的に身勝手で過激で自己中心的な上に自制心が著しく欠けているなど、一人の人間としても組織の長としてもあまりにも難が多い問題児である。
アニメの有名キャラで例えるならシン・アスカにかなり近いといえるか*8*9
なお、親は何してたんだというと…それにはちょっとした事情があり、サクラは誕生して間もなく、父親(製造者)から育ての親であるカール・アンダーソンに託されたという過去がある。
…が、いかんせんカール・アンダーソンはサクラをかなり甘やかして育ててしまったようだった*10

その後、Ⅴ巻(下)において、賢人会議とシティ・モスクワの軍隊との戦いにより、シティ・メルボルンで戦闘が起きたことで無辜のシティ・メルボルン市民に多数の死傷者を出してしまう*11
自分がやってきた事がどういった結果になるか、どのような悲劇を起こしてしまうのかを目の当たりにしたことで、当初こそ頑なに己の非を認めずに、この期に及んで「俺は悪くねぇっ!」ムーヴを繰り返していた*12が、イルからド正論をぶつけられて説教されて殴られた事により散々逃避してきた現実をようやく認める事となり、流石に良心の呵責に苛まれたようで、一度は「賢人会議」としての活動を辞めようと考える。
しかし、真昼に図星を突かれてからのやり取り*13から、自分が本当に何をしたかったのか理解して吹っ切れ、「正しくないと分かった上で己の目的を曲げない」と決意し、その後も真昼との意見の相違はありつつも、以降はエピソードが進む毎に精神的成長を遂げていく事となる。

しかしながら発売当時は、Ⅴ巻(下)の結末を見届けた読者から、これまた様々な評価が寄せられることとなった。
何故なら「虐げられる魔法士を救うという目的の為ならば、シティという与えられた場所で精一杯生きている無辜の人々の命を武力で踏みにじる事も辞さない」という強引なやり方が変わってない為である。
しかも、その後「自分が諦めれば出した犠牲すらも無駄になる」という重荷や、自分に期待を掛けてくれる魔法士達に対する責任も背負うことになったとは言え、上述したシティ・メルボルンでの悲劇を見たうえでその答えを出している事から「あれだけの犠牲を払って、多くの人の命を奪ってもなお、そのやり方をやめないのか」と指摘される。
殊更に「この世界が私を認めないのならば、私は喜んで世界の敵となろう」というサクラの発言には「多くの犠牲を出しながらお前一人が納得して何になるのか」と、どこぞのリュウガと同じような指摘が数多く寄せられた。
総じて、「たとえ世界のすべてに否定されようとも、自分が守りたいと決めたものの為に己の意思を変えない」という点を評価する読者も少なくない一方で「だからといって与えられた環境で精一杯来ている無辜の人々の命を踏みにじる事は許せない。矛盾と独善と開き直りに満ちた反社会的行為を正当化するな」と批判する読者も多く、まさに賛否両論であ


また、精神的成長を遂げていくと書いたばかりだが、後にエピソードⅦで、とある人物相手に癇癪を起こして話し合いをボイコットしようとしたり、「魔法士が助かるならシティの人間がどうなってもいい」(意訳)という、魔法士至上主義ともとれる+まるで成長していないと捉えられかねない暴言を吐いてしまうなど、それまでの成長が唐突にリセットされたかのような場面もあり、これまた読者を呆れさせる事となった。

結局のところ、サクラの本格的な成長を見るのは、エピソードⅧ以降の話となる。
その頃には感情を処理でき、冷静な判断を下し、最後まで対立を選んでいた錬等敵対している相手だろうと筋が通っているなら「尊敬に値する人物だ」と素直に認めるようになれるなど、組織の長としても一人の人間としても大きく成長した姿を見せた為、嫌っていた読者層からも認められるようになっていく。
なお、こうなるまでリアルタイムで約6年ほどかかったけどな!

悪魔使いとしては複数能力を並行させ手数で攻める錬と違い、能力同士を合成させ、単発の火力や特殊効果を増幅させる事に長けている。
またなぜか昔真昼がサクラ用を想定して作った「悪魔使い」のプロトコルが、数年後に拾った錬のI-ブレインにも応用可能だったが、創造者が違うはずなのにそれほどに二人が似ているのは偶然ではなく…。
+ 二人の悪魔使い、そのルーツ
その真相は魔法士理論誕生のきっかけになった女性「アリス」の遺伝子を元に、サクラと錬が生み出されたというもの
なおサクラは後半で親の素性と過去を知り、かつその遺体をも確認した後、自分を作った科学者を「父様」、遺伝子モデルとなったアリスを「母様」と呼ぶようになった。

…ちなみに彼女に対する錬の方は、エピソードⅨで生みの親にして姉兄の父親の残したメッセージを発見。父が錬に「魔法士だけを救い、普通の人間を見限る事」を願っていた(なので実子の双子にも生存のため魔法士化手術を施してほしいとも遺言)という衝撃的な事実を知ってしまい(身内の月夜から見ても、元々相当アレな親だったらしい)、
しかし「両親の軌跡を知り真昼を喪った事で、結果的に父の願いや真昼の理想とは異なる道を選んでしまった」サクラと対になるように、懊悩を抱えながらも直後の複数の人々との触れ合いでそれでもサクラとは別の道を行く事を選んでおり、
最終巻での対決ではナレーションにて、(二人とも)「親が生み出す時に彼らに望んだのとは違う道を選んだ(意訳)」と記されていた…。

因みに胸が無い。作者曰くセラ(西洋系の10歳児)以下であるとの事。

  • イリュージョンNo.17
通称イル。Ⅴ巻におけるもう一人の主人公。クレアの弟、ディーの兄に当たる人物。
シティ・モスクワ所属。特技は格闘技と壁抜け。
過去はやさぐれており問題児扱いされていたが、ある出来事から心を入れ替え、シティ無くては生きられない多くの人の為に戦う事を決意。マザーシステムを破壊しようとするサクラと敵対する事となる。


用語

  • 魔法士
脳内に据え付けられた生体コンピューター「I-ブレイン」により、
物理定数のパラメータを書き換え、「魔法」を使用する事が出来る人間の事。要するに 文字通りのチート行為 である。
I-ブレインを所持する事以外は、基本的には通常人と変わらない。「龍使い」以外は。

I-ブレインの演算能力は脳との相性で決まり、性能が劣化する事はあっても向上する事は一切無い。
遺伝子操作による先天性魔法士と外科手術による後天性魔法士に大別出来、
特に前者は軍付き備品としてマトモな人権は与えられていない
また主に後天性魔法士を中心に能力を長年酷使する事で「フリーズアウト」と呼ばれる脳障害を負う者が多数おり、これにより戦後魔法士になる手術は衰退、先天性の製造が普及する事になる。
扱う魔法の種類も基本的には変更することは出来ない。これは、情報制御に必要な膨大なプログラムを脳内に収める為の取捨選択から。

一方で、通常人から見れば魔法士は「人の形をした兵器」にしか見えないのが殆どである。
物語開始前の第三次世界大戦においては、魔法士に全てを奪われ、滅ぼされた通常人だって数えきれないほどいる。
その為に通常人から魔法士への憎悪や恐怖は(表立って描写こそされないが)凄まじいものとなっている。
主要人物の殆どが良識ある人物であり、通常人と仲良くしている為に忘れられがちだが、実際のところ、通常人と魔法士の関係は、コーディネーターとナチュラルの関係によく似ている。

大戦中や戦後クローニングで「先天的にI-ブレインを持つ様に」製造された魔法士は、以下の三種類に分けられる。
対魔法士用魔法士として、身体制御と情報解体により戦い、専用サポートデバイス兼武装「騎士剣」装備時のみに使える「自己領域」の展開で高速移動・遠隔防御両方を賄う近接戦闘型の「騎士」
無生物に干渉するゴーストハックにより高い対一般兵器戦能力がある「人形使い」
同じく対一般兵器に特化した、エントロピー制御による分子運動制御で熱を操る「炎使い」
主人公達は、上記に当てはまらない特殊なタイプの魔法士である。

ただし、どのようなI-ブレインであっても、根本はコンピューターなのでしかるべき装置で定期的なメンテナンスを受けなければ、フリーズアウトなどのリスク発生率が大幅に跳ね上がったり、最悪の場合は早死にしてしまう事もありえる。


+ 以下、重要ネタバレ
そして現存するメンテナンス装置の技術は人類によって生み出されたものであり、文明が崩壊して人類が滅んだ場合、生き残った魔法士だけではその技術を再現する事は不可能であり、魔法が使える原始人が誕生するだけ(意訳)だと、エピソードⅨの作中で語られている。
天城家の父は遺言で「高度シェルターへの魔法士のみの退避」を言い残していたが、その息子の真昼がエピソードⅥで「魔法士だけが生き残ったとしても人類は滅亡も当然、出来るわけないよねそんな事」(要約)と言ったのは、出まかせでもなんでもない真実だったのである。
(一応「技術者系一般人を事前に確保する」「メンテナンス装置の維持方法を聞き出して魔法士達がそれを身に着ける時間を用意する」という抜け道もある…と思うだろうが、そもそも雲を晴らすためにはほぼ全ての一般人を滅ぼさなければならないから人材の確保は不可能。メンテナンス装置の維持方法を聞き出そうとしても、これだけの一般人への虐殺を行った魔法士相手に技術者達が口を割るかと言われたらまず割らないし、下手をすれば自ら死を選ぶ可能性も高い)


とどのつまり、もしも人類と魔法士の全面戦争の結果で魔法士だけが生き残ったとしても、その先に待ち受けるのは滅亡する可能性が最も高いルートしかなかったのである。
なお、エピソードⅨの時点でサクラはそれをきっちりと理解し、その上で万が一に備えての最後の保険も用意しており…。


大気制御衛星から世界中に吐き出された遮光性気体。これにより、世界は永久凍土に包まれた。
また、発電をほとんど太陽光発電に頼っていたので、世界は深刻なエネルギー不足に陥った。
内部では、I-ブレインを含めた全ての電子機器が使えない。
これを突破して青空を見渡せる極めて高性能な乗り物は、雲上航行艦――一部の主人公達が所有している三隻のみである。

+ 以下、重要ネタバレ
雲の発生理由自体はエピソードⅦとエピソードⅨで判明したが、エピソードⅦラストで真昼がそれや魔法士の始原と共に、とんでもない方法でのみ発動する「雲除去システム」を発見してしまい、それが「ある悲劇」を切っ掛けに世界に露わになってしまった事で、エピソードⅧの終盤で世界は賢人会議VSシティ勢力の大戦へと突入してしまう…。

……尤も、冷静になってエピソードⅧを読んでみると、この「ある悲劇」の原因の半分は真昼のせいでもあるので、ある意味では因果応報でもある。
「雲除去システム」の情報は絶対に世界に露わになってはいけなかったのだが、真昼はその情報を端末に入れていた。それを『簡単に手の届くところにおいていて』かつ『1重パスワードで保管していた』という管理の杜撰さが仇となり、シティ側のとある人物らに端末を奪われ、世界中に情報を開示されてしまったというのが真相である。
さらにいうならば「雲除去システム」の情報は「全世界に公開されている、とある情報」の中に、真昼だけが知っているパスワードで入手できる為に、生のデータを持ち歩く必要性がない(必要になったら逐次ダウンロードしてパスワード入力して、終わったら削除すればいい)というツッコミどころもあるのだが……。

  • シティ
1000万人の人間を支える積層型閉鎖都市。
嘗てのエネルギー源だった太陽光発電もできず、化石燃料も尽きたこの世界で一般人が安全に生活するにはシティに入居するほかないとされる。
この世界における「国」にあたり、物語開始時点で世界に7基のみ残されている。


  • マザーシステム
太陽光発電に代わり、十年以上シティを支えている第二種永久機関。これの中枢は「マザーコア」と呼ばれている。
存在とその動力の秘密、そしてそれを維持するために行われる非人道的な所業そのものが、シリーズ通してのテーマを担っていると言っても過言ではない。
そしてエピソードⅥで。真昼がマザーシステムだけを維持しても、今の世界ではそれが支えるシティ設備を直す余力が殆どなく結局僅かな先延ばしに過ぎないという指摘を全世界に発した事で、世界の揺らぎは激しさを増していく事になる。

………だが、考えてほしい。
まず、シティに住む人は生きる為に必要な最低限の生活を与えられているだけに過ぎず、マザーシステムに生殺与奪の権を握られている状態であり、マザーシステムが止まれば、一般人は一日足らずでほぼ全員があの世行きになると作中で語られているのだ。
もしもマザーシステムを止めたりなんかしたら、何百万、何千万の人を巻き込んでの心中にも等しい状態になってしまうし、零下40度の世界に放り出されれば、殆どの人間…ましてや子供、病人、老人はとても生きていけないだろう。
また、シティの周辺には小さな街があり、プラントと呼ばれる装置を動かすためにシティからエネルギーをちょっとずつ盗んでる人達もいる*14し、忘れがちな読者が妙に多いがシティに住む魔法士だってマザーシステムの恩恵を受けているのである。
また、作中では「今のままじゃ生活できないからマザーシステムの稼働率をあげろ」と、シティ内でデモ行為を行う市民もあちこちにいる。
だが、シティに住む人らの生活水準をあげてしまうと、マザーシステムの寿命はその分大きく削られてしまう為、あげたくてもあげられない事情もある。少しでもマザーシステムの寿命を延ばすために、シティは徹底して節約生活しているも当然の状態であり、廃棄物や不要物、果ては失敗作となった魔法士までも再生可能エネルギーにしている(要約)シティもあるのだ。

ここまで読んでもらえば分かるだろうが、好き好んでこんなシステムを使っている為政者などいない。
マザーシステムが非人道的なのはまさにその通りだが、そんなものはシティの為政者は完全に承知も覚悟もしており、それぞれのシティの代表として、シティに住む何百万、何千万の市民の命を守らねばならないという『責務』がある*1
そこに個々人の感情など意味をなさず、たとえ忌み嫌っていようとも、マザーシステムに寿命があると分かっていても、他に方法も無く、万策尽きたが故にマザーシステムを使わざるをえないというのがこの世界の真理である。
ゆえに物語が進めば進むほどに、神戸を除いた6つのシティの為政者もまた、それぞれが己のシティの安寧と平穏を司るが故に、様々な事情こそあれど感情論で動こうとせず、マザーシステム体制を維持する為と、組織の長としての責任を全うするべく、手段を選ばずに覚悟ガンギマリで突き進んでいるという事、
また最終巻で市民の支持すら二の次にして魔法士への恨み優先で動いたある為政者すら、その時のモノローグと後日談にてそれほどに殲滅の望む程の凄まじい過去と、自分のような目に遭う人間を二度と出したくないという強すぎる想いを抱えていた事を、多くの読者が理解していく事となる。
それが、この物語が完全な善悪で測れないものとなっている一因にもなっている。



項目は『追記・修正』でできている。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2026年08月19日 09:57

*1 ちなみに同期には金賞の佐藤ケイと渡瀬草一郎、選考委員奨励賞の御堂彰彦と海羽超史郎がいる。

*2 発売間隔の最大は2014年12月発売から2023年4月発売までの約9年間。

*3 フィア、ヘイズ、ディー、クレア、エド、イル、サクラ等。

*4 例えば一応真昼の仲間であったはずのサクラに関しては最後までモノローグで「少女」、面と向かっては「あんた」と呼んでいた。

*5 ちなみに彼女の事を気に掛けていたある女性は彼女に『数字ではない名前』を考えようとしていたが、「おばあさま」と呼んでいたその女性が亡くなる際フィアは「大切な人が呼んでくれた名前」として「フィア」の名を肯定していた。

*6 実は「錬」という名前も、最初は「これからこの遺伝子データを元に誕生する魔法士が男の子だったら」と思ってサクラの親に提案したものだった(「サクラ」は女の子用)。

*7 ただしリンク先を読むと分かるが、某親善大使の場合は『本当に悪くない』。サクラの場合は『自分の非を認めようともしない単なる逆ギレ』なので、根本的に違うという事は留意してほしい

*8 余談だが種運命は2004年10月放送開始、サクラが登場するウィザブレⅤ巻は2005年5月発売とかなり近い

*9 ただしシンは戦争を心から憎んでいる点が根本的に違う。もしもシンが、サクラの「シティと魔法士の戦争だ」発言を耳にしたら「また戦争がしたいのか、アンタ達は!」と食ってかかるだろう

*10 実の親からも「戦いとは無縁の世界で生きてほしい」とお願いされたものの、サクラの意思を尊重しすぎて、サクラの賢人会議としての活動に協力していた。祐一からその件について言及された時は「仕方あるまい、可愛い娘だからな」とカールは返答している

*11 半分はシティ・モスクワの責任でもあるが、そもそもサクラがシティ・モスクワからマザーコア被検体を盗んだりしなければ、シティ・メルボルンが戦場になる事もなかった。この時点でのシティ・モスクワでは代えのマザーコアを生産する余裕がなかった為、何が何でも取り返さなくてはいけなかった

*12 これまた余談だがこのシーンが書かれるウィザブレⅤ巻(下)は2005年10月発売、テイルズオブジアビスは2005年12月発売なので、両方の作品に触れた人は立て続けに似たような人物をメインに据えた話を体験した事になる。しかも大規模な惨劇が起こってしまった点まで一緒である

*13 端的に言えばサクラは「自分のやっている事が正しいと認めてほしかった」と思っていた。だが真昼から「じゃあ君は、正しいと思ったからこの道を選んだんだね」「それじゃあ誰も救えない」と指摘されている

*14 基本的にシティ側は分かっていたとしても黙認している。討伐に出すような軍事力やエネルギー消費量などを考えれば、相手にしている余裕などないのである