永久機関

登録日:2018/09/09 Sun 13:52:35
更新日:2025/03/26 Wed 13:48:44
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永久機関とは、物理学者の永遠の夢でありロマンである。

概要

「無限にエネルギーを取り出せる装置」。そんなものがあれば、人類はエネルギー問題から完全に解き放たれることだろう。
そのため、多くの物理学者(及びそれより遥かに多い数の詐欺師)がこの夢に挑戦し、そして 散っていった
現在の物理学では、 「永久機関は実現不可能」 であることが証明されており、一部のトンデモさん(及び多数の詐欺師)以外は真面目な研究対象にはしていない。
もっとも、錬金術と同じく直接的な成果は残せなかったものの、永久機関を巡る研究が熱力学や物理学の分野に大きな発展をもたらした側面はある。



永久機関の分類

第一種永久機関

「取り込んだエネルギーよりも多くのエネルギーを取り出すことができる機関」。
エネルギー保存則により 実現不可能であることが証明済み なので、仮に目にしたらまず間違いなく詐欺であると断言していい。
歴史上作られた永久機関のモデルには「右側と左側で回転速度を変えて無限に回り続ける車輪」や
「磁石で引き上げた鉄球を坂から落として再び磁石で引き上げる」などがあるが、いずれも失敗に終わっている。

第二種永久機関

第一種永久機関が実現不可能であると証明されたため登場した新しいタイプの永久機関。
「熱変換効率が100%の機関」であり、要するにエネルギーロスを一切せずに回り続ける車輪である。
つまり純粋な等速運動を続ける機関…なのだが現在は「熱力学の第二法則」により実現性は否定されている。
しかし、「マクスウェルの悪魔」という存在がこれに真っ向から歯向かっている。

結局のところ実現できたとしても「その外部にエネルギーを取り出せない」ので実用性は皆無。せいぜい副産物でエネルギー変換時のロスを最小にする方法が生み出される場合がある程度。


永久機関っぽいがそうではないもの

水飲み鳥

力を与えずとも水を飲むような動きを繰り返す玩具。
実際は水の蒸発熱を利用しているため、コップの水が尽きるとそこで動きは止まる。

太陽光発電

太陽が燃え尽きない限り無尽蔵に発電できるため、「永久機関の一種」として紹介されることもある。
太陽の寿命は約50億年とされており、極めて長いとはいえ寿命がある以上は「永久」ではないが、
機関そのものの老朽化、即ち 50億年分の経年劣化 =超ド級の超絶長期運用に耐えられる素材などある訳がない事を考慮するならば、
実現不可能な永久機関と言えなくもない。

水発電装置

「水からエネルギーを取り出す」という触れ込みの発電装置。
「燃料電池の仲間」とされることもあるが、「水素と酸素を反応させて水にしてエネルギー源にする」燃料電池とは 明らかに真逆 の存在である。
一応エネルギー源はあるので、正確には永久機関ではないものの、無尽蔵に存在する水を燃料にできればまさに疑似永久機関と言えるだろう。
……と、触れ込みは素晴らしいのだが、 水からエネルギーを取り出すのはまず不可能 であるため、この系統のエンジンはほぼ例外なく 詐欺 である。
「水に特殊な金属を差し込んで発電する」という装置が一時期話題になったが、
これは金属同士の反応性の差を利用した非常に原始的な発電装置であり、新発明でもなんでもない。
金属が反応することで発電する ので、金属が劣化するとそこで反応は止まる(実質的には「水が燃料」ではなく「金属が燃料」である)。

フリーエネルギー装置

これも「熱力学に反しない永久機関」を目指して研究されているもの。
「空間内には見えないエネルギーが存在するはず。それを取り出すことに成功すれば熱力学に反さずに無限に動くエンジンが作れるはずだ」……という発想。
確かに宇宙には「ダークエネルギー」という正体不明のエネルギーが存在しているだろうということは推測されている。
が、「推測」されているだけで実際には「観測」されておらず、もちろん取り出すことなど誰も成功していない。
また、一説には 宇宙全体のフリーエネルギーを全てかき集めてもガソリン数リットルにしかならない という推測もされている*1
理論上否定はされていないものの、実現は今のところ夢物語、と言ったところか。

ディアメトリック・ドライブ

ロバート・L・フォワード*2の名づけた「ヌルオー・ドライブ」という名前でも知られる推進装置。
同じだけの絶対値の質量を持った正の質量を持つ物質(要するに普通の物質)と負の質量を持つ物質をぶつける事で無限に加速できる*3と考えられている仮想上の装置。
「最初にぶつけるだけで無限に加速できるなら第一種永久機関なのでは?」と思うかもしれないが、これで加速する原理は

正の質量を持つ物質を加速して負の質量を持つ物質をぶつけると正の質量を持つ物質は 反作用でぶつけた際の移動方向とは逆方向に弾き飛ばされる

負の質量を持つ物質は 反作用で正の質量を持つ物質のやってきた方に弾き飛ばされる
(質量がマイナスなので、同じ運動エネルギーを与えられた時の動きが普通の物質とは反対方向になる)

反作用で弾き飛ばされてもなおぶつかったままの両者は反作用で無限に加速し続ける
(正負は入れ替えても成立する)

というゲームのバグめいていながらも運動エネルギーのつじつまは合っている代物で
これによって永久機関ではないにも関わらず*4見かけ上は無限の運動エネルギーを発生させうると考えられている。
実際には負の質量を持った物質*5が発見されていない為、机上の空論止まりである。



フィクションでの永久機関

夢物語であるため、逆にフィクションの世界では頻繁に登場する。
つってもそんな手軽に手に入ったら「困ることも何不自由なくみんなみんなlove&peace!」…にならないとおかしくなるため、
大抵は物語全体のキーアイテムとして登場し、これを巡る攻防がそのままストーリーになっていることも多い。
「永久機関」だとインチキ臭いためか、「永久機関」と呼ばれている事もままある。

宇宙戦艦ヤマト

物語の発端は、宇宙の彼方イスカンダルから空間から無限にエネルギーを取り出す夢のエンジン「波動エンジン」の設計図と、
「イスカンダルに来れば放射能除去装置コスモクリーナーがある」という情報が送られてきたことである。
最初からコスモクリーナーの設計図送ってくれたら早かったのに*6
そしてヤマトは波動エンジンを搭載することで超光速飛行を可能にし、イスカンダルを目指して旅立つのであった。
波動エンジンそのものは設定上永久機関ではないが、人類にとっては似たようなものだろう。

ドラゴンボール(DRAGON BALL)

作中の登場人物、人造人間の一部に「永久エネルギー炉」が搭載されている。
どれだけエネルギーを使用しても消耗せずに回復するため、実質スタミナは無限大。そのため長期戦・消耗戦にはめっぽう強く、
多少パワーが上回るぐらいでは結局は敗れてしまう。これを打ち倒すには抵抗できないほどのパワー差が必須。
原作では16号17号18号がこれを搭載しているが、無限のスタミナに加えて出せるパワーも極限まで高めた結果、制作者たるドクター・ゲロのコントロール下に置けなくなるという問題があり、後続の19号20号はより旧式ながらもパワーが低く制御できそうなエネルギー吸収式に差し戻すことになった。
……ということなんだが、実際の16号・17号・18号は(少なくとも本編の時間軸では)割と穏やかな性格で、コントロールできなかったのは単に「ドクター・ゲロが人間として嫌われて怨まれていた」というだけだったというオチがついた。
なお、エネルギー吸収式は「永久式よりも旧型」とされているが、16号より旧式の13号・14号・15号は少なくともエネルギー吸収式ではなく、超サイヤ人と渡り合える描写からも永久式と思われる。

灼眼のシャナ

物語全体のキーアイテムの一つが主人公坂井悠二がその身に宿した宝具「零時迷子」。
これはその日の内に消耗した「存在の力」をその日の零時に全回復させる永久機関。
ただし、ほとんどの登場人物にとっては「あれば便利だけどなくても別に困らない、珍しいだけでさほど役に立たない宝具」という認識だったりする。
最終巻ではこれの回復システムの秘密が明かされ、ある「仕掛け」に流用されることになる。

機動戦士ガンダム00

重粒子が崩壊するエネルギーを利用した半永久機関「GNドライヴ」が登場。
GN粒子と呼ばれる様々な作用がある特殊な粒子を生み出し続ける。
エネルギー利用効率がほぼ100%であり半永久的に駆動すると言われる。
建造には木星のような高重力環境を必要とするため作成・運搬には非常に手間と時間がかかり*7
「半永久的に」動くため停止させることができず途中から改良や調整をすることもまずできないのが欠点。
建造された時期の技術水準では、移動時間込みで 5基建造するのに20年を要した。
第二期終盤で3基を失ったため、劇場版までの間に2基が新造された*8

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

「エイハブ・リアクター」と呼ばれる半永久機関が登場。「相転移変換炉」とも称される。
主人公機ガンダム・バルバトスに搭載された2基のエイハブ・リアクターが基地1つの全エネルギーを賄えるなど、その出力は非常に高い。
「(半)永久機関」としては珍しく軍用としては広く普及しており、本作に登場するMSや艦艇はいずれもこれを動力としている。
半永久機関である他に、「物理的に破壊する事がほぼ不可能な程に頑丈( もし破壊したら宇宙がどうにかなってしまう )」、
「慣性制御・疑似重力を生み出すなどの効果を持つエイハブ粒子と呼ばれる重粒子を生成する」、
「エイハブ粒子は"エイハブ・ウェーブ"と呼ばれる電波障害を起こす波長を出す」、
「大量に製造されているがその全てがワンオフなため、エイハブ・ウェーブはリアクター毎に異なる」……などの性質を持つ。
舞台となる地球と火星の周囲を覆う電波障害の原因となるなど、作品世界を形成する重要な要素の一つ。

新世紀エヴァンゲリオン

使徒には永久機関「S2機関(スーパーソレノイド機関)」が内蔵されている。自己修復機能が備わっており、使徒の生物としては異常な能力はこれが原因。
誤解されがちだが、「コア」とは別物(コアは使徒の頭脳のようなものでS2機関は心臓部に当たると思われる)。
劇中では初号機がゼルエルを捕食してこれを体内に取り込み、以降初号機はアンビリカルケーブルの枷から解放されて動けるようになっている。

サイボーグクロちゃん

作中中盤のギャグパートでチラッと登場した「無限エネルギー装置」がシリアス化した終盤に事態を収束するためのキーアイテムとして再登場。
サブキャラであるコタローの成長を象徴するアイテムでもあり、この伏線の張り方にはびっくりした人も多いのではないだろうか。

海賊戦隊ゴーカイジャー

本作のマスコットキャラクターであるナビィの正体は大いなる力へ繋がる扉であり、永久機関で動いている。
この事実が明かされるのは終盤だが、実は第8話のギャグパートの中で一番付き合いの長いマーベラスでさえもナビィの動力源を知らないことが明らかになっている。マーベラスの性格上、忘れていてもおかしくないことを巧みに利用した伏線である。

ダンボール戦機

「エターナルサイクラー」という「全ての元凶」こと山野淳一郎が次世代の玩具を作ろうとしてたらなんか出来ちゃった第二種永久機関が登場。
詳しい原理は不明だが、無印のストーリーはこれの設計図が入ったプラチナカプセル…が更に格納された主人公機の争奪戦がメイン。
また続編においてこのエターナルサイクラーを搭載した機体が登場したが、その機体は
「大国の艦隊を単騎で壊滅させる」「戦略兵器の直撃を受けても傷ひとつつかない」等、手のひらサイズでありながらそこらの破壊兵器より余裕で甚大な被害をもたらすことが当たり前のLBX界隈に於いても最強クラス。
まぁ一番ヤバイのはこれが敵に奪われたからって同レベルの機体を即座に2機用意するヤマジュンだが

王ドロボウJING

『不死の都リヴァイヴァ編』のキング・コアントローが作っていた。数少ない成功例は巨大ロボット ヴィラール と美少女 ベルモット
ヴィラールの名前の由来は実在の芸術家であり、彼の考案した「永久運動の車輪」(奇数個の木槌が取り付けられた車輪)を背負っている。
ベルモットの動力源にして最高傑作「オドラデクエンジン」の名前の由来は小説「家父の気がかり」に登場する謎の物体「オドラデク」。






追記・修正は永久機関の実現を夢見てお願いします。

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最終更新:2025年03月26日 13:48

*1 見えないエネルギーがそんなに大量にあったら影響が甚大なものになるはず

*2 『ロシュワールド』や『竜の卵』等で知られるSF作家。自身も物理学者だった

*3 光速に近づくと質量が増加するのはそのままなので光速を突破する事は出来ない

*4 熱変換は行っていないし、運動エネルギーもプラスマイナス0

*5 負の有効質量を持った物質ではない

*6 この点は2199での設定追加・変更によって補完された。

*7 有人ロケットでは木星まで行くのに片道7年かかるとされる。

*8 この時の建造期間は僅かに2年。最初に作った時の1/10まで短縮しているが、これは技術進歩により初めて建造された時期よりも遥かに短時間で建造・移動が可能になったため。特に「トランザム」と呼ばれるGNドライヴの機能が解放されたことによって地球と木星を超高速で往復できるようになったのが大きい。