まるで成長していない…

登録日:2012/07/23 Mon 22:03:34
更新日:2020/08/21 Fri 22:52:54
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「まるで成長していない…」とは、SLAM DUNKにおける安西光義の台詞であり、同作品の名言の一つである。

なお、彼のもう一つの名言「諦めたら試合終了ですよ」と違い、こちらは正確には心中で安西が発した呟きであって、実際に口に出した台詞ではない。

台詞だけで終わらず「…」を最後につけるのがポイントである。








※以下、本編(特に189話)のかなり重要なネタバレを含みます













<本編での概要>

桜木花道に顎をタプタプされても怒らない程に穏やかで、指導方針も決して押し付けがましくは無く、
選手一人ひとりの個性を伸ばしてチームを育てている、湘北高校バスケ部の監督・安西先生。
しかし、かつて大学のバスケ部で監督をしていた頃の彼は、本編とは正反対に
白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)」と呼ばれるほどの怖くて厳しい監督であったことは、
「SLAM DUNK」作中で安西先生が初登場したときから示唆されていた。

湘北高校が陵南高校を破り、インターハイ出場を決めた後のこと。
安西の自宅に、湘北バスケ部メンバーである流川楓が訪ねてきた。
湘北の中でもトップクラスの実力を誇っていた彼は、もっと上達するためにアメリカに留学しようと思い、安西にそのことを話しに来たのである。
しかし、安西は認めなかった。

「陵南戦のビデオを見たが…君はまだ仙道君に及ばない」
「今アメリカへ行くという…それは逃げじゃないのかね? まして全国にはもっと上がいるかも」

流川にとっては耳に痛い言葉で現実を突きつけ、彼を引き止めたのだ。
とりあえず、その場では「君は日本一の選手になりなさい。アメリカはそれからでも遅くはない」という結論に達し、
流川もそれに納得して帰っていった。

しかし、普段は選手の個性を尊重し、自身の方針を押し付けようとはしない彼が、なぜアメリカ留学に関しては首を縦に振らなかったのか?
その理由は、あまりにも悲しい彼の過去にあった……


昔、大学時代の安西のチームには、将来を期待される一人のバスケットプレイヤーがいた。
名を谷沢龍二。日本人には珍しい2メートルの長身と、それに似つかわしくない運動能力を持ち合わせていた。
白髪鬼と呼ばれていた当時の安西も、もちろん彼には少なくない期待をかけており、人一倍厳しい練習や叱責で彼をしごき上げていた。


「…谷沢。お前なぁんか勘違いしとりゃせんか? あ?」
(や……ヤクザだよ、ほとんど…)
「お前の為にチームがあるんじゃねぇ。チームの為にお前がいるんだ」
「…………」



しかし、そんな安西の思いとは裏腹に、谷沢は安西に、そしてチーム全体に対して次第にうんざりし始めていた。

軍隊のような規律第一の指導法、執拗に繰り返させる基礎練習、そしてその筋の人かと思うほどに厳しい安西の叱責…。
もちろんそれは全て、谷沢に行く行くはスタープレイヤーとして大成して欲しいと願い、その為に基礎的な部分を疎かにせず徹底的に叩き込む為であった。
この練習方法自体は、決して間違った練習方法ではない*1

しかし全て谷沢の事を考えての事であったとはいえ、安西の指導法はいずれも彼にとっては頭ごなしな上に厳しく面倒で、何よりも無意味なものとしか映らなかったのである。

自分がやりたいバスケはここにはない。バスケットの本場アメリカで揉まれれば、安西などの想像もできないプレイヤーになれるはず。
そう考えた谷沢はある日、突然アメリカ留学を決意し、日本を去ってしまう。

期待をかけていた教え子の突然の一方的な離別に、鬼監督と言われた安西も流石に落ち込み、以来どこか元気が無くなってしまう。
せめて消息だけでも掴もうと谷沢の友人に色々と聞き込むが、連絡は段々無くなっていったらしく詳しい事は分からず仕舞いであった。


そんな出来事から1年が経った頃、大学に1本のビデオテープが届けられた。

収録されていたのはアメリカのバスケットボールの試合。
そこに谷沢が出場していると聞き、チームメイトも、そして安西も食い入るように画面を見つめる。
果たしてそこには、風貌ががらりと変わっていたものの、確かに谷沢が映っていた。

「頑張ってるじゃん、あいつ一人だけ日本人で」「見直したぜ」

彼の頑張っている姿を見て、谷沢を見損なっていた者も素直に褒めるチームのメンバー達。
谷沢の頑張り、そしてチームメイトの反応に心温まる光景である。

しかし、安西は監督として本質を即座に見抜いた。そして、心中で呆然と呟いた。









(まるで成長していない…)







そこに映っていたのは選手としての成長など微塵も見られない、日本で安西が教えていた頃から全く進歩していない谷沢の姿だった。


(誰か谷沢に基礎を教える人間は居るのか?)
(あいつ英語はどうなんだ? チームメイトとうまくコミュニケートできていないようだ)


確かに谷沢は日本人としては規格外の運動能力を持つ大型選手ではあった。
しかし、それはあくまで日本国内でのこと。
バスケットの本場アメリカでは、彼と同じ、もしくはそれ以上に速くて大きな選手など珍しくも無かった*2
その上日本にいた頃、安西の教えを無視し、能力だけに依存して基礎を蔑ろにしていた彼には、
本場のバスケに揉まれたところで大きな成長など最初から不可能だったのである。
更に思い詰めていきなり渡米した彼の英語力ではすぐに円滑なコミュニケーションなど取れるはずもなく*3、孤立したり助言を貰いにくいというのも当然である。


(そもそもこのチームは何だ。それぞれが勝手なプレイばかりだ。まるでまとまっていない。一体、指導者は何をやっとるんだ…!?)
(このままじゃ谷沢はダメになる…!!)


問題があるのは谷沢本人だけではない。彼が所属しているチームにもあった。
指導が稚拙で、選手は皆スタンドプレーに走ってばかりなのが目に見えており、こんなチームにいては谷沢は成長するどころか才能を潰されてしまう。安西はそれを悟った。
谷沢と連絡するため即刻谷沢の友人に連絡先を求めるが、近頃は引っ越したのか連絡が取れなくなってしまったらしい。


(帰ってこい谷沢!)
(わしの監督生活の最後にお前を日本一の選手に育て上げるつもりだったんだ!!)
(お前はまだ素材だ! 環境次第で白くも黒くもなる!! )


安西は必死で谷沢を呼び戻そうとするが、相変わらず行方は掴めない。
谷沢の友人も谷沢からの手紙をもらわなくなって大分経った頃、安西は谷沢の在籍する大学へ電話をかけてみた。
だが、谷沢はバスケ部へも顔を見せなくなったという。
安西の不安通り、谷沢はついていけなくなり、バスケに挫折したことは察しがついてしまった。

そして、それから更に4年が過ぎ、谷沢の同期生達も既に卒業を迎えてしまっていたある日。

新聞を読んでいた安西の視線は、ある一つの小さな記事の上で凍りついた。





『米で邦人留学生激突死。谷沢龍二さん(24) 120キロの暴走 薬物反応も?』




それは谷沢が挫折の末に自殺同然の死に方をした事を示す内容であった。
名監督・安西光義が将来を最も期待していた教え子は、
ついにその翼を大きく羽ばたかせる事無く、余りにも悲惨な形でこの世を去った。




彼の死後、アパートにあったという手紙を、安西は彼の母親を通して眼にする。
そこには、最後の最後まで出そうとしても出せなかった彼の想いが綴られていた。

「お前の為にチームがあるんじゃない、チームの為にお前が居るんだ」という安西の言葉が何度も思い出されること。

今自分がいるチームでは、誰も自分にパスをくれない事。

先生や皆に迷惑をかけておきながらおめおめと戻る事はできない、いつか借りを返せるようになるまで頑張るつもりでいること。

そして最後に




「バスケットの国アメリカの、その空気を吸うだけで僕は高く跳べると思っていたのかなぁ…」



という一文で締め括られていた。



しばしば誤解されるが、谷沢は決して怠惰であったり、楽して強くなろうと考えたような選手ではない。
谷沢は選手として大成するためにアメリカ留学したのである。安西への反発心があったにせよ、バスケに対しての強い向上心がなければ留学などできないだろう。
むしろ谷沢に向上心がありながら、その向上の方法を間違えた故に起きた悲劇だと言える。

谷沢の立場からすれば、いくら安西の言う基礎練習をやっても、経験が浅かったり体力から怪しい初心者ならともかく、
既に基礎を身につけ、日本の大学バスケ界では十分一流の域に入っている自身の成長につながらない。
むしろ華麗で特殊なプレーを身につける方が、自分は成長できると考えるのは、決しておかしな話ではないだろう。

さらに、向上心があればあるほど、辛い練習になればなるほど、その練習が地味であればあるほど、選手は「自分はこれで上に行けるのだろうか」という不安にさいなまれる。
厳しい練習に耐えたにもかかわらず、全てが無駄になってしまうことほど辛いことはない。
しかも、谷沢に元々実力があれば、どうしても成長は鈍化する。従って、自分が成長したという実感でもって不安を解消することは難しい。
ましてバスケのようなチーム戦ともなれば、個人の実力だけでは勝てない分、自分自身の成長を感じとることも難しくなる。
ここは谷沢の思っていた通りの話であり、環境も軽視できない。
作中での期待ぶりや描写から、チームメンバーについても彼より一回りは能力が劣ると思われ、ましてや対戦チームも自分より弱ければ*4成長しづらくなるというのは当たり前である。

そのため安西が指導を継続するには、谷沢の不安を安西が受け止め、「安西についていけば、自分は名選手になれる」という信頼を持ってもらうことが必要だった。
だが、谷沢にとって安西はそういった存在にはなれていなかった。
谷沢自身が一度でも安西にその不安をぶつけていれば、安西も自身の指導の方針を谷沢に理解させる必要性を理解し、谷沢に伝えることができたかもしれない。
だが、安西の度重なる叱責は、谷沢に「まるでヤクザ」と思わせるまでの恐怖心や不信感を与え、谷沢から自分の不安を吐露しようという気まで奪ってしまった。

こうして受け止めてくれる相手を失った谷沢の向上心は、間違った方向に暴走してしまった。
アメリカで数年を無駄にした末、ようやく安西の指導が正しいことに気づいた谷沢。
だが、安西に向けて一度は書いた悲痛な手紙さえ、谷沢は投函することはなかった。
安西への恐怖もあるかもしれないが、手紙の文章からすると谷沢は自己中心的に飛び出してしまったという安西やチームメイトに対する負い目もあったがためだと思われる。
しかし安西の指導の意味がアメリカに渡ったことで通じたとはいえ、最後の最後まで安西の「戻ってこい谷沢」という願いは届かぬままになってしまった*5


こうして自分が夢をかけた教え子を亡くしてしまった安西はその後大学バスケットボール界から身を引き、湘北高校の監督となる。
本編での安西が信じられないほど優しげな雰囲気となり、選手を叱責する時ですら口調が穏やかなのはこれが原因であろう。
どれだけ内容的には正しい指導であっても、本当の意味での信頼関係を築かないままに押し付けるならば、第二の谷沢を生んでしまいかねない……そう考えていると思われる。

宙ぶらりんになった安西の夢がもう一度戻るまでには、谷沢を超える素質を持ち、暴走する事無く進化を続けていく2人の一年生。

桜木花道流川楓の入学を待つ事となる。

流川自身が安西を信頼していたからこそ、谷沢と違い流川はまず安西に相談を持ち込んできた。
また、流川の留学は否定しても、流川の向上心は信頼していることを示し、「日本一の高校生になる」という明確な目標を与えた。
加えて陵南の仙道や山王の沢北といった、流川を超える存在が国内の同世代にいた点も、目標を持てた理由だろう。
これらの的確な対応があって、留学を否定しつつも無駄に反発を強めさせず、信頼関係を保持することに成功したのである。

遠征合宿から外され、1人シュート練習をやることになった桜木に対しても、「この短期間でシュートをマスターすることのメリット」を説き、
自分の指導に従えば成長できるという確信を持たせている。
この件を通じて安西自身も成長したことを示していると言えるだろう。

「見てるか谷沢…お前を超える逸材がここにいるのだ…」
「それも…2人も同時にだ…谷沢…」


<ネットでの使われ方>

「諦めたらそこで試合終了だよ」や「バスケが…したいです」といった作中の他の名言には及ばないものの、その汎用性の高さからか、
アニメや漫画の感想などで目にする機会は多い。

大抵は作中の安西と同じく、劇中のキャラがそれなりの時間を経ているにも関わらず、全く進歩していないシーンなどで、
読者の呆れ・落胆を表す言葉として使われる。

ただし、ネットで使われるスラングが大体そうであるように、常に原作に忠実に使われているわけではない。
この言葉だけ抜き取ると「あーこいつまたやってるよw進歩の無いヤツww」という受け取り方になるのが自然なので、単純に呆れを示すだけのニュアンスで使われる事が多い。
あるいは軽いツッコミ扱いでもよく用いられる。

そのため、スラングからこの言葉を知って元ネタを調べた結果、このシーンの重さに驚く人も多い。




(まるで成長していない…)

(誰かアニヲタに追記・修正を教えるWiki篭りはいるのか?
 あいつBBS操作はどうなんだ? 他の利用者と上手くコミュニケートできていないようだ。
 そもそもこの項目は何だ。それぞれが勝手な編集ばかりだ。まるでまとまっていない。
 一体、冥殿は何をやっとるんだ!?
 このままじゃアニヲタはダメになる…!!)

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最終更新:2020年08月21日 22:52