謙虚(MtG)

登録日:2014/10/26 Sun 16:31:59
更新日:2025/04/19 Sat 06:41:02
所要時間:約 31 分で読めます




「失敗による心の傷は、癒すことができないものだ。」
――― 銀のゴーレム、カーン


◆概要

謙虚とは、Magic,the Gatheringの大型エキスパンション「テンペスト」に登場したカードである。

まずはその効果をご覧いただこう。

Humility / 謙虚 (2)(白)(白)
エンチャント
すべてのクリーチャーはすべての能力を失うとともに、基本のパワーとタフネスが1/1である。

すばらしい、実に素晴らしいシンプルで強力な効果を持ったカードだ。
このカードの魅力は3つ、「すべてのクリーチャーはすべての能力を失う」と「すべてのクリーチャーは基本のパワーとタフネスが1/1である」そして「場に存在する限り永続的に機能する」という点である。
(「書いてあるまんまじゃねーか!」というツッコミはこの際胸に閉まっていただきたい)

まず、「すべてのクリーチャーはすべての能力を失う」についてであるが、本当にほとんどあらゆる能力を無効にできる。
特に「~が戦場に出たとき、」のみならず「~が死亡したとき、」という死亡誘発する効果すら無効化できるし、
変異により裏向きクリーチャーは1/1になった挙句に変異コストを払って表向きにすることができなくなる。

つまり、クリーチャーの能力に大きく依存したデッキはこのカード1枚で動きがほとんど瓦解してしまう。
そのため、近年クリーチャーのカードパワーが急激に高まっているMtGにおいて相対的に強さを増したカードであると言える。
(惜しむらくは謙虚を使えるフォーマットがエターナル環境のみ、という点である)

次に、「すべてのクリーチャーは基本のパワーとタフネスが1/1である」についてであるが、これも実に強力である。
このカード1枚で甲鱗のワーム様だろうがにっくき荒廃鋼の巨像だろうが、
「なんでタフネスが2もあるんだよ!」と多くのプレイヤーをキレさせた死儀礼のシャーマンだろうが、
なんでもかんでも1/1にした挙句に厄介な効果も全てシャットアウトしてしまう。(ただし装備品は勘弁な!!)

これはすなわち、暗黒破が毎ターン撃てる1マナの確定除去に変わったり、
めった切りが起動型能力であるため打ち消されにくい3マナキャントリップ付きのラスゴに変わったりすることも意味する。

このように強力なカードなのだが、全体に永続的に影響する効果のためもちろんこちらもモロに多大な影響を受けてしまう。
そのため、このカードを使う場合にはこのカードの影響を受けにくい作りにしたり、このカードの効果を逆手に取る必要がある。
例えば、前者の観点から言えば、ノンクリーチャーに近いデッキや、トークンを多用するデッキ、装備品デッキを使うことが考えられる。
また、P/Tを1/1に固定する効果も見方を変えれば0/0や0/1も1/1になると言えるため、そのようなパワータフネスを持つクリーチャーの多いデッキでも居場所があるかも知れない。
後者の観点から言えば、種類別ルール(後述)の関係上、ミシュラランドなどのクリーチャー化する土地は1/1ではなく、
クリーチャー化した時のパワータフネスが維持されるので、そちらを打点として期待して投入することも考えられる。

なお、4マナの白のカードということで神の怒りと比較される運命にあるカードであるが、
神の怒りと謙虚はなかなかに甲乙付けがたい関係にあるカードである。

以下、理由
・即効性や持続性の違い
 神の怒りは除去のため即効性が高くアドも取りやすいが、
 所詮1回限りの使いきりであったり、「ラスゴの返し」と呼ばれる隙を作ってしまうため後続展開に打たれ弱い。
 反面、謙虚は1/1クリーチャーとして残ってしまうため根本的な解決にならないことが多くアドも取れないが、
 エンチャントとして場に残るため相手を長いこと縛れる上に理論上相手のクリーチャーほぼ全てを無力化できる。
 (ただし、手札からサイクリングなどはできるため完全ではない)

・サーチする手段の有無
 神の怒りはレガシー環境では有効なソーサリーサーチカードが軒並み使用できないためサーチがほぼ不可能である。
 そのためデッキにはある程度の枚数入れておかねばならず、ノンクリーチャーデッキに対して紙切れになりやすい(こともある)。
 反面、謙虚はレガシー環境でも悟りの教示者や真の木立ちといった有用なサーチカードが存在するため、ぶっちゃけ1枚差しでも機能する場面が多く、手札で腐って足を引っ張る状況を抑えられる。
 まぁ、ノンクリーチャーデッキに対してはこっちもあんまり強くないが。

・破壊耐性を持ったクリーチャーへの対処が可能かどうか
 近年増えている破壊不能or不死or頑強の死亡に耐性のあるクリーチャーに対処できるかどうかも大きな違いになってくる。
 マニアックな所では虹のイフリートのフェイズアウトなどにも対抗できるし、
 真の名の宿敵のような厄介なプロテクションも無視できるようになる。

◆主な使用デッキ

・ヒューミリティオアリム(テンペストブロック構築)

テンペスト・ブロック構築で活躍し、98年の世界大会でBrian Hackerを見事ベスト8まで導いた(地雷扱いの)デッキ。
謙虚の相棒としてオアリムの祈りを利用し、謙虚の数少ない弱点である「1/1クリーチャーとして残ってしまう」という弱点をカバーしている。

Orim's Prayer / オアリムの祈り (1)(白)(白)
エンチャント
1体以上のクリーチャーがあなたを攻撃するたび、あなたは攻撃しているクリーチャー1体につき1点のライフを得る。

勝ち手段は丸砥石によるライブラリーアウト。
しかし、当時猛威を振るっていた生ける屍の手助けをしてしまう部分があったため、
謙虚によるパワー上昇を加味して、カリブー放牧場やダイアモンドの万華鏡が選ばれることもあった。
また、基本的に1勝負にメチャクチャ時間がかかるデッキであったことも付け加えておく。

テンペストブロックという環境はとにかく凶悪なクリーチャーもしくはクリーチャーを利用する呪文に依存したデッキがひしめく環境であり、
そのほとんどに対して機能するこのデッキは一定の存在感を示していた。
以下、その一例。
  • 生ける屍による大量アニメイトを利用した数多くのデッキ
  • コンボからコントロールまでなんでもござれの貿易風ライダーを使った数多くのデッキ
  • 伝説の+19/0修正をクリーチャーに与える憎悪とシャドー能力を賜った、今の形とほぼ同じ動きをする狂気の黒ウィニー
  • 火力を呪われし巻物でサポートしほぼ5T以内に勝負を決めて来る赤単ビートダウン通称「スライ」もしくは「デッドガイレッド」
  • 適者生存+繰り返す悪夢によるコンボデッキ通称「ナイトメア・サバイバル」
  • 死体のダンス+ボトルのノームによるコンボデッキ通称「ダンシングノーム」
  • 陶片のフェニックス+禁止をメインの動きとした「カウンターフェニックス」

ブロック構築の環境でこれなのだから、今から考えればとんでもない群雄割拠の時代である。

・サイクリングバーン(レガシー)

どちらかと言えばマイナーなデッキに属するが、使ってみると中々面白いサイクリングバーンにも居場所がある。
サイクリングバーンはメインで波動機を積む・積まないに関わらず(永遠のドラゴン以外の)クリーチャーに依存しない上に、
ほとんどのキーカードが悟りの教示者でサーチ可能であるため1枚差しから3枚程度のメイン投入まで、用途に応じて様々な選択が可能になる。

更に、サイクリングデッキの十八番とも言えるめった切りや稲妻の裂け目とは抜群の相性を誇り、ほとんどのクリーチャーを完全にシャットダウンできる。

Slice and Dice / めった切り (4)(赤)(赤)
ソーサリー
めった切りは、各クリーチャーに4点のダメージを与える。
サイクリング(2)(赤)((2)(赤),このカードを捨てる:カードを1枚引く。)
あなたがめった切りをサイクリングしたとき、あなたは「めった切りは各クリーチャーに1点のダメージを与える」ことを選んでもよい。

Lightning Rift / 稲妻の裂け目 (1)(赤)
エンチャント
プレイヤーがカードをサイクリングするたび、あなたは(1)を支払ってもよい。そうした場合、クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻の裂け目はそれに2点のダメージを与える。

その上こちらの正義の命令のサイクリングによって生み出すトークンは謙虚の影響を受けないに等しい。
Decree of Justice / 正義の命令 (X)(X)(2)(白)(白)
ソーサリー
白の4/4の飛行を持つ天使(Angel)クリーチャー・トークンをX体戦場に出す。
サイクリング(2)(白)((2)(白),このカードを捨てる:カードを1枚引く。)
あなたが正義の命令をサイクリングしたとき、あなたは(X)を支払ってもよい。そうした場合、白の1/1の兵士(Soldier)クリーチャー・トークンをX体戦場に出す。

このように全体的にカードが噛み合った面白い動きを見せてくれる良デッキである。
……惜しむらくは良デッキが強デッキとは限らない、という点である。

・エンチャントレス(レガシー)

エンチャントを使いまくってブイブイ言わせるエンチャントレスにももちろん居場所がある。
というかググってもらうとわかるが、2012年の日本レガシー選手権の優勝デッキにも搭載されており、
決勝2戦目で相手のお魚さんことマーフォークデッキの息の根を止めたのが実質このカードであった。

エンチャントレスにおいてはアルゴスの女魔術師や大量マナから展開されるエムラクール様とアンシナジーである点が気にかかるが、
気流の言葉によるバウンスでいくらでも戦場になかったことにできる忍者並にいやらしい動きができるのでそこまで気にならない。
サーチカード兼エンチャントの守り神である真の木立ちと相性が非常に良いのも魅力である。

Sterling Grove / 真の木立ち (緑)(白)
エンチャント
あなたがコントロールする他のエンチャントは被覆を持つ。(それらは呪文や能力の対象にならない。)
(1),真の木立ちを生け贄に捧げる:あなたのライブラリーからエンチャント・カードを1枚探し、それを公開する。
あなたのライブラリーを切り直す。その後そのカードをその一番上に置く。

Words of Wind / 気流の言葉 (2)(青)
エンチャント
(1):このターン、次にあなたがカードを引く代わりに、プレイヤーはそれぞれ自分がコントロールするパーマネントを1つ、オーナーの手札に戻す。

こちらも全体的にカードが噛み合った面白い動きを見せてくれる良デッキである。


こうしてみると、どのデッキもうまいこと謙虚の特性を活かせるような作りになっていることがわかるだろう。


◆まとめ

このように謙虚はMtG屈指の個性を持った超優良・超強力なカードであり、その強さは推して知るべしである。
謙虚な名前とは裏腹に豪快かつ他に類を見ない凶悪な能力は後年のカードでは畏敬の神格に生かされたくらいで、
類似の効果を持つカードは全くと言っていいほど出ていないカードである。
(なお、似たような効果を持つインスタントであるお粗末は、出た時期こそ謙虚よりも後だが、
デザイン自体は謙虚よりも前になされており、お粗末を基に謙虚がデザインされたという逸話がある。)

Godhead of Awe / 畏敬の神格 (白/青)(白/青)(白/青)(白/青)(白/青)
クリーチャー — スピリット(Spirit) アバター(Avatar)
飛行
他のクリーチャーは基本のパワーとタフネスが1/1である。
4/4

Humble / お粗末 (1)(白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで、能力をすべて失うとともに、基本のパワーとタフネスが0/1である。

今でこそエターナル環境でしか使用できないカードではあるが、ぜひとも一度はその強さ、面白さを体感していただきたい1枚である。






突然ですが質問です。謙虚が場に出ています。この状況で(以下略)






















【注意!!】 以下、マジで話がややこしくなって頭がふにゃふにゃになりかねません!! 【注意!!】

【注意!!】        閲覧する場合には心して読んでください!!        【注意!!】



















……さて、そろそろ本題に入ろうか。

確かに謙虚というカードは非常に強力なカードである。
しかしこの謙虚というカード、その謙虚すぎる名前とは裏腹にMtGの歴史に燦然と輝く超超超問題児カードなのである。
テフェリー「呼んだ?」(フェイズアウトしました)

神の怒り(MtG)に通ずる短いテキストは強い不文律に沿り、一見するとややこしい事が いっさいがっさい書かれていない、
こんなシンプルで美しいテキストのカードの一体どこに何の問題があるというのか?
その説明をする前にまずは一見見落としがちなあるルールについて考えてみよう。

何も考えずに、以下の問に答えてみて欲しい。

Q1.対戦相手のシヴ山のドラゴンをコピーしたクローンをコントロールしている状態で謙虚をプレイしました。クローンはどのように扱いますか?
Clone / クローン (3)(青)
クリーチャー — 多相の戦士(Shapeshifter)
あなたは、クローンが戦場に出ているクリーチャー1体のコピーとして戦場に出ることを選んでもよい。
0/0

さて、別のクリーチャーのコピーとなる能力は謙虚によって無効になるのであろうか?
テフェリー「違うよ!シヴ山のドラゴンのコピーであるという情報を残したまま能力を失って1/1になるよ!!」(フェイズアウトしました)

Q2.霧衣の究極体が戦場にいる状態で謙虚をプレイしました。霧衣の究極体のクリーチャータイプはどのように扱いますか?
Mistform Ultimus / 霧衣の究極体 (3)(青)
伝説のクリーチャー — イリュージョン(Illusion)
霧衣の究極体は、すべてのクリーチャー・タイプである。(このカードが戦場以外にある場合も含む。)
3/3

さて、すべてのクリーチャータイプになるという能力は謙虚によって無効になるのであろうか?
テフェリー「違うよ!すべてのクリーチャータイプであるまま能力を失って1/1になるよ!!」(フェイズアウトしました)

Q3.絵描きの召使い(色は赤を指定)が戦場にいる状態で謙虚をプレイしました。戦場に出ていないすべてのカード、呪文、パーマネントの色はどのように扱いますか?
Painter's Servant / 絵描きの召使い (2)
アーティファクト クリーチャー — カカシ(Scarecrow)
絵描きの召使いが戦場に出るに際し、色を1色選ぶ。
戦場に出ていないすべてのカード、呪文、パーマネントはそれの他の色に加えて選ばれた色である。
1/3

さて、絵描きの召使いの色を追加するという能力は謙虚によって無効になるのであろうか?
テフェリー「違うよ!戦場に出ていないすべてのカード、呪文、パーマネントの色には赤が追加されるよ!」(フェイズアウトしました)

Q4.すべての墓地にクリーチャーカードが合計3枚あり、ルアゴイフをコントロールしている状態で謙虚をプレイしました。ルアゴイフのP/Tはいくつですか?
Lhurgoyf / ルアゴイフ (2)(緑)(緑)
クリーチャー — ルアゴイフ(Lhurgoyf)
ルアゴイフのパワーはすべての墓地にあるクリーチャー・カードの数に等しく、そのタフネスはその数に1を加えた点数に等しい。
*/1+*

さて、ルアゴイフのP/Tは1/1になるのか3/4になるのか?
テフェリー「1/1に決まってんだろボケ!」(フェイズアウトしました)

Q5.巨大化によって5/5になった灰色熊が場にいます。この状態で謙虚をプレイした場合、灰色熊のP/Tはいくつですか?
Giant Growth / 巨大化 (緑)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+3/+3の修整を受ける。

Grizzly Bears / 灰色熊 (1)(緑)
クリーチャー — 熊(Bear)
2/2

さて、灰色熊のP/Tが謙虚によって1/1に修正された後に巨大化が適用されて4/4になるのか、それとも修正効果のあとに1/1になるのか?
テフェリー「謙虚によって1/1に修正された後に巨大化が適用されて4/4になるよん」(フェイズアウトしました)

Q6.カウンターが3つ乗った状態のトリスケリオンが場に出ている状態で謙虚をプレイしました。トリスケリオンのP/Tはいくつですか?
Triskelion / トリスケリオン (6)
アーティファクト クリーチャー — 構築物(Construct)
トリスケリオンはその上に+1/+1カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
トリスケリオンから+1/+1カウンターを1個取り除く:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。トリスケリオンは、それに1点のダメージを与える。
1/1

さて、トリスケリオンのP/Tはカウンター適用されて4/4になるのか、それともカウンターによるP/T修正のあとに1/1になるのか?
テフェリー「謙虚適用後にカウンターが適用されて4/4だよーん」(フェイズアウトしました)

Q7.謙虚が場にある状態でミシュラの工廠のクリーチャー化能力をプレイしました。このときミシュラの工廠のP/Tはいくつになりますか?
Mishra's Factory / ミシュラの工廠
土地
(T):あなたのマナ・プールに(1)を加える。
(1):ミシュラの工廠はターン終了時まで、2/2の組立作業員(Assembly-Worker)アーティファクト・クリーチャーになる。それは土地でもある。
(T):組立作業員クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。

さて、ミシュラの工廠のP/Tは1/1になるのか、それとも2/2になるのか?
テフェリー「独立した2つのパワー・タフネス変更効果はタイムスタンプ順に処理されるので後から適用される2/2になります。」(フェイズアウトしました)
テフェリー「逆に言えば、ミシュラの工廠がクリーチャー化した後に謙虚が場に出ると1/1になります。」(フェイズアウトしました)

Q8.謙虚とオパール色の輝き2枚が場にある状態はどのように解釈したらいいでしょうか?
Opalescence / オパール色の輝き (2)(白)(白)
エンチャント
他のすべてのオーラ(Aura)でないエンチャントは、それの他のタイプに加えて、基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しいクリーチャーである。

さて、この一見訳わかんない状況は一体どう解釈すればよいのか?
テフェリー「すべて能力を持たないクリーチャーになるけど、P/Tはタイムスタンプ順で変化するよ」(フェイズアウトしました)

以上のケースはMtGプレイヤーの初心者が脱初心者して中級者に上がるくらいに引っかかる「種類別」のルールが原因となって生じる問題である。


◆種類別のルールとは

種類別のルールとは、トークンを含むパーマネント、呪文や呪文のコピー、スタック上の能力といった「オブジェクト」の性質を変化させる効果をどういう順番で適用するかを定めたルールである。

MtGではこの「オブジェクト」の特性に関する効果を7つに分類している。
第1種:コピー可能な値を変更するルールや効果(例:クローン/Clone)
第2種:コントロール変更効果(例:支配魔法/Control Magic)
第3種:文章変更効果(例:幻覚/Mind Bend)
第4種:カード・タイプ・サブタイプ・特殊タイプ変更効果(例:自然の類似/Natural Affinity)
第5種:色変更効果(例:純粋の色/Purelace)
第6種:能力追加効果、能力除去効果、能力を持つことを禁止する効果(例:原初の激情/Primal Frenzy)
第7種:パワー・タフネス変更効果

第1種に関してはさらに細分化されており、以下の種類細別に分類される。

1a:コピー可能な効果(例:クローン/Clone)
1b:裏向きの呪文やパーマネントの特性(例:変異クリーチャー)

第7種に関してはさらに細分化されており、以下の種類細別に分類される。

7a:パワーやタフネスを定義する特性定義能力の効果(例:ルアゴイフ/Lhurgoyf)
7b:パワーやタフネスを特定の値にする効果(例:魔術師の女王/Sorceress Queen)
7c:パワーやタフネスを(特定の値にするのではなく)修整する効果(例:栄光の頌歌/Glorious Anthem、巨大化/Giant Growth)およびカウンター(+X/+Yカウンター)による効果
7d:パワーとタフネスを入れ替える効果(例:回れ右/About Face)

もしも複数のカードの効果によって「オブジェクト」の特性が変化させられるときには第1種から順に適用していけばよい。
ちなみに謙虚の「能力を失う」効果は第6種、「1/1になる」効果は第7種bとなる。
このルールを踏まえた上で、上記の問いを考えてみるとQ6までは答えがあっさりわかるのではないかと思う。

しかし、問題はQ7,Q8についてである。
この場合、複数の第7種b効果がかち合ってしまっているため、どちらを優先して採択していいのかイマイチわからない。
この問題、すなわち同じ種類の効果が同時に発生してしまった場合の処理を解決するために考え出されたのが「タイムスタンプ」である。
(注釈:本当は時代背景的にタイムスタンプの考え方→種類別の順でルール整備が進行して行ったのだが、ここでは説明の簡単化のためにあえて天下り的な紹介としている。)

◆タイムスタンプとは

簡単に言ってしまえば、「同じ種類の効果が同時に発生してしまった場合には、原則後から適用された方が優先される」というルールである。スタンプの通り上書きしていくイメージだ。
なお、ついでに補足しておくと、補充などで複数のカードが同時に場に出た場合にはそのコントローラーがそれらのタイムスタンプ順を任意の順番に決定する。
また、生ける屍などのように複数のプレイヤーの場に同時にパーマネントが出るような場合には、原則アクティブ・プレイヤー(優先権を持ったプレイヤー)からターン進行順にタイムスタンプを決めていく。
これはAPNAP順ルール(ANNAPは「Active Player Non-Active Player」の略)と呼ばれ、MtGの黄金律の一つとして定められている。

話を戻すと、Q7とQ8では第7種bの効果を出された順番に適用していけば良いということになる。
特にQ8の状況は「Op-Op-Hu問題」と呼ばれ、かつてはこのルールはどう解釈するのが一番良いのかが世界中のプレイヤーの議論の的であった。

現在ではこの問題は謙虚とオパール色の輝き2枚に出された順番によって結果が変化する。

1.オパール色の輝き→オパール色の輝き→謙虚の順番でプレイした場合
「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」→「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」→「1/1である」
の順に第7種bが処理されるので、すべてのエンチャントは能力を持たない1/1クリーチャーになる。

2.オパール色の輝き→謙虚→オパール色の輝きの順番でプレイした場合
「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」→「1/1である」→「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」
の順に第7種bが処理されるが、後に出たオパール色の輝きは自身には影響を与えないので、
後から出たオパール色の輝きは能力を持たない1/1のクリーチャーとなり、それ以外のエンチャントは点数で見たマナ・コストに等しいパワー・タフネスになる。

3.謙虚→オパール色の輝き→オパール色の輝きの順番でプレイした場合
「1/1である」→「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」→「基本のパワーとタフネスがそれぞれその点数で見たマナ・コストに等しい」
の順に第7種bが処理されるため、すべてのエンチャントは点数で見たマナ・コストに等しいパワー・タフネスになる。

ここまで謙虚にまつわるルールを説明してきたが、正直な話、
ヘタをするとこの時点でもうわかんないギブアップ、という人も多いだろう。
しかし、これでもまだマシになった方なのである。

現在ではこのように種類別のルールもある程度スッキリした形で表されているが、謙虚が出てから数年の間はかなりめちゃくちゃな状態であった。
例えば、上記のOp-Op-Hu問題は99年8月頃は以下の様な解釈であった。
(参照URL:ttp://www.inagaki.nuie.nagoya-u.ac.jp/person/yasuhiro/Hobby/Magic/rule9907.html)
1.《Humility》《Opalescence》《Opalescence》の順で場に出た場合
 すべての全体エンチャントは、パワーとタフネスがそれぞれ、その点数で見たマナ・コストと等しい値のクリーチャーとなります。 元の能力は保持しています。
2.《Opalescence》《Humility》《Opalescence》の順で場に出た場合
 最初の《Opalescence》はクリーチャーにならず、エンチャント(場)のままです。 それ以外の全体エンチャントは 1/1の能力なしのクリーチャーとなります。
3.《Opalescence》《Opalescence》《Humility》の順で場に出た場合
 すべての全体エンチャントは能力を持たない1/1のクリーチャーになります。

よく見ると、オパール色の輝き→謙虚→オパール色の輝きの順番でプレイした場合の処理がすごいことになっているのがわかるだろう。
要するに効果をタイムスタンプ順に適用しているだけで、
  • まず最初の《Opalescence》でこれを除くエンチャントが全てクリーチャーになる
  • 《Humility》でクリーチャーは全て能力を失い1/1になる。エンチャントも最初の《Opalescence》以外はここで能力なしの1/1になる
  • 二枚目の《Opalescence》は能力なしの1/1になっており効果が適用されない
てことなんだがわかりづらいっちゃわかりづらい。

だが、少なくとも02年10月頃まではこの解釈だったようである。

一体全体、どうしてこんな事態となってしまったのか。
それを知るために、これらのルールが整備される前は一体どういう状況だったのかを見てみよう。


◆謙虚と共に振り返るMtGのルールの変遷

まず、第5版当時のパワー・タフネスの適用順(今で言う種類別のルール)がどうだったか。
(参照URL:ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/3881/RULJ9802.TXT)

クリーチャーの現在のパワーやタフネスを決定する方法:
a) 基本のパワー、タフネスから始める。これらは大抵の場合カードの右下に書かれているが、クリーチャーを作る効果でも定義される。(訂正1参照)
b) すべてのカウンターによるプラス、マイナスを処理する。
c) その他の効果を処理する。
例えば、+1/+1 カウンターの乗った《灰色熊》が《血の渇き》の対象となったら、7/2 ではなく、7/1となる。
クリーチャーのパワー、タフネスをある特定の値に定める効果は、カウンターのプラスやマイナスを処理したあとに適用される。
その後にはカウンターの再適用はされない。
例えば、《謙虚》が場に出ている場合、《不安定性突然変異》によってクリーチャーを破壊することはできない。
なぜなら、《謙虚》は、クリーチャーのタフネスを《不安定性突然変異》のカウンターの適用後に常に1にするからである。

訂正1
パーマネントをクリーチャーにするすべての呪文や能力において、「パワー」「タフネス」という前には「基本の」という語があるべきである。
これはつまり、
(a) カウンターはクリーチャーに影響する、なぜなら、基本の値に適用するから。
(b) パワーやタフネスに影響する効果の後で再びその能力を活性化した場合、もうその効果を上書きしない。
例えば《組立作業員》が側面攻撃を持つクリーチャーをブロックしてターン終了時まで -1/-1の修正を得て、
その後で、再び能力を使って《ミシュラの工廠》を 2/2の《組立作業員》にしてもパワーやタフネスは戻らない。

また、2000年頃(大体第6版が現役だった頃)の継続的効果は次のようになっている。
(参照URL:ttp://www.terra.dti.ne.jp/~nomra/scrs/smrs2.txt)
7-5.継続型効果の適用順ルール
継続型効果は,どういう風に効果を現すかについて,一定のルールがあります.
それを発生させたのが,なんであるかは効果の強弱に関係しません.エンチャント(場)の効果も,インスタント呪文によって無効化することもできるということです.
「絶対的に」効果をしめすものは,どこにもありません.
「飛行を得る」と「飛行を失う」のように,2つの相反する持続的な能力が与えられた場合には,「まえからでているもの」から順番に,適用を行います.
最終的に,「あとからでたもの」のほうが,有効に働きます.
この「まえからでているもの」のルールには,幾つかの付則があります.
  • パーマネントがもとから備えている能力(クリーチャのパワー/タフネスなど)は,「一番最初から場にあったもの」として扱い,したがって,他の継続型効果よりも早く適用される.
  • カウンターによる変化は,それに準じるものとしてあつかい,ほかの継続型効果よりも早く適用される.
  • パーマネントからクリーチャに変える呪文/能力があった場合,そのカードに書かれているすべての能力は,「パーマネントがもとから備えている能力」として扱われる.
  • フェイズインしてきた場合,それは「新しく場に出たもの」として扱われる.
  • 複数のパーマネントが同時に出た場合,それが場に出た時点でのアクティブプレイヤーが自由に出た順番を設定することができる.
「クリーチャを+1/+1する」と「すべての土地を2/2のクリーチャにする」などのように,
特定の条件を満たしたときのみ影響下に入るカードと,その条件をみたすようにするカードがあり,しかもそれらが相反しない場合には,
その条件を満たすようにするカードが,最初に扱われて,そのあとで他の効果がかぶさってきます.
相反した効果がなく,条件を変えるものもない場合には,継続型効果は,すべて一度に働きます.

正直言って、ここまで読み進めて頂いた方々には驚きの内容が書かれてあることと思う。
実は第5版でのルール改正以降、現在の種類別に相当するルールはほぼ固定であり、
なんとこの当時は現在の種類別第7種に相当するルールが3段階しかなかったのである。

カウンターの解釈が「クリーチャーの基本のパワー・タフネスを修正するもの」として扱われているのも現在との大きな差異だが、
何よりも教訓として覚えておかなければならないことは、
謙虚の「1/1にする。」という現在の7bに相当する効果が最後に適用されており、
しかもそれが現在の7c(パワー・タフネスの修正効果)とごっちゃになっていたというとんでもない事実である。
そのため、十字軍→謙虚とプレイすれば白のクリーチャーは1/1だが、謙虚→十字軍とプレイすると2/2になっていたのだ。
つまり、パワー・タフネスの影響する順番を覚えておかないといけなかったのだ。
(そのため、この頃はタイムスタンプを可視化するために、全体エンチャントをプレイした順番に重ねるという方法を取っていたプレイヤーも多かった。)

これだけなら他の呪文も同様の問題を抱えているため謙虚だけの問題とはならないのだが、
困ったことに、謙虚を利用する場合はこのクリーチャーの能力を無効にする能力もまた、パワータフネスの定義と同時に適用される。
すると、エンチャント(クリーチャー)などによる能力付加がどう作用するかの判別がひじょーにややこしかった。
また、「能力を失う」という表現が意外とわかりづらく、
どこまでの範囲で能力を失うのか、能力を失った結果「能力がなかったことになるのか」などがとても曖昧であったのも問題だった。
テフェリー「ちなみにこれは現在遊戯王OCGも抱えている問題だね。」(フェイズアウトしました)
テフェリー「例えば、遊戯王OCGではスキドレやヴェーラーによって無効化されたりされなかったりする効果が存在し、例外的な挙動が多い。」(フェイズアウトしました)
テフェリー「これと同じような状況にかつてMtGも陥ってた、というわけさ。」(フェイズアウトしました)

余談だが、現在でも「謙虚はクリーチャーの持つあらゆる能力をなくす」という誤解はとても多く、
例えばミシュラランドなどは今も昔も「クリーチャー化した結果能力が失われるんだから、クリーチャー化する能力も戻る能力も消えて土地に戻らないんじゃね?」などと考えてしまうプレイヤーは多い。
そしてそれは無理からぬことであり、憶測ではあるが、
MtGが「能力をすべて失う」or「すべての能力を失う」という記述のカードをあまり生み出したがらないのはこの辺も影響してるのではないだろうか。
現在の種類別ルールの登場によって割とスッキリと能力同士の関係を記述できるようになってもこれである。
……だんだんと謙虚が如何に問題児だったかが見えてきたのではないだろうか?

突き詰めるとこの当時の謙虚というカードは、
  • 「パワータフネスの定義能力」の影響がわかりづらく影響した順番を覚えておかないといけない
  • 「能力の無効化」の影響する範囲がカードごとに違う状況を生み出してしまっていた
  • 上記二つのややこしい処理がすべてのクリーチャーに影響してしまう
という大きな問題を生み出してしまっていた(もっと言うのならルールの不備を露わにしてしまっていた)のである。
この結果、謙虚1枚が場に出されただけで何をどうしていいのかよくわからない状況が大量発生し、
「謙虚を使わないことが一番の解決策」と言われてしまうくらいの世紀末状態であったことは言うまでもない。
もう吐き気を催す程に、とにかく謙虚というカードは最高にクソなカードだったのである。
もしかするとカードとして認めたくなかった人もいるかもしれない。

このような杜撰なルールが改正され、現状の整理された種類別のルールとして結実するのには2003年12月頃まで待たなくてはならなかった。
(参考URL:ttp://mjmj.info/data/obsolete/rulj0312.html)
そしてこの種類別のルールの整備された背景にこの謙虚というカードの影響があったことは言うまでもない。
誤解を恐れずに言うのなら、謙虚(とリシド)に関係する諸問題を綺麗に解決するために種類別ルールが制定されたと言っても過言ではないかもしれない。
翻って見てみれば、1997年に登場した謙虚というたった1枚のレアカードが引き起こした数多の問題は、
なんとおよそ6年もの月日を経てようやくどうにかこうにかまともな形になることができたのである。
(……まぁ実際には、その後ラヴニカ:ギルドの都にて種類別の第7種の順番入れ替えがあったため、厳密にはこの時点で完成していたわけではないのだが。また、イコリア:巨獣の棲処の際に修整の効果とカウンターが統合され、第1種が2種類の種類細別に分割された)

しかしこうした努力によって、複雑なシーンがあったとしてもなんとか「ルール通り」解決することができるようになったわけだ。

なお余談だが、一つネタとして覚えておいてもらうといいのは、MtGプレイヤー(特に自称上級者の人たち)を殺すのに刃物はいらない。
ただにっこりと「ルールの質問があります。」と言って近づき「謙虚・リシド・フェイジング」という3つの単語をどこかに混ぜるだけでいい。
これだけで多くのプレイヤーはファイレクシア病のごとく発疹と吐き気を引き起こし、やがてうわごと、ひきつけ、そして死に至るだろう。
それくらい謙虚(とリシドとフェイジング)に関わる諸ルールは「わかったフリ」をしやすいものなのである。

なお、サラッと話題に挙げたリシドやフェイジングは謙虚と共に幾度と無く悪さを働いた問題児であり、
そのルールブレイカーっぷりを是非紹介したいところだが、今回は謙虚に謙虚の紹介だけに止め、いずれ別の記事として記述したいと思う。


◆最後に

ここまで謙虚というカードが引き起こした様々な問題を見てきたがこれは何もMtGの揚げ足を取りたいというわけでは決してない。
現在、MtGが「ルールで説明できない現象が存在しない」と言われるほどに綺麗にルールが整備されている背景には、
このような大失敗と、長年に及ぶ血の滲むような努力があったことを皆さんに知って頂きたいのである。
更に言えば、MtGのルールは完璧ではなく新しい要素と共に常に変化しつつも、ルールが破綻を来さないようにWotc社は徹底したテストプレイとルーリングに力を入れているということも付け加えておく。
おそらく、競技ルールを厳格に保つために彼らがかけている時間とお金、そして労力は相当なものだろう。

もともとカードゲームとは、「ルールよりもカードに書かれているテキストを優先する」という不文律がある関係上、
どうしてもカードを出せば出すほどにルールが破壊されてしまうという状況を生み出しやすいジャンルのゲームである。
この謙虚というカードの例を見ていただければそれは一目瞭然だろう。
たった1枚のカードが、ゲームそのもののルールをこてんぱんに破壊してしまう。
それにもかかわらずずっと新しいカードを出し続けないといけない。
それがカードゲームなのだ。だからルールの整備が常に必要不可欠なのである。
しかし、その作業は決して楽なものではない。
我々が快適にゲームを楽しむことができる背景には、多くの人達の苦悩や失敗があることを謙虚に受け止めてゲームを楽しみたいものである。

……あん? マリガンしても手札に平地しか来ねーじゃねーか!!やっぱマジッククソゲーだな!!


追記・修正は謙虚にそしてクソ複雑にお願いします。

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最終更新:2025年04月19日 06:41