ヒンドゥー教

登録日:2015/12/21 Mon 17:59:14
更新日:2019/08/19 Mon 14:50:47
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■ヒンドゥー教


「ヒンドゥー教」は主にインド、ネパール、スリランカ等の地域で信仰されているインド系民族を主体とする土着信仰や民話、及びそれらを母体として統合、思想化されると共に変遷して来た民族宗教の総称。
「ヒンドゥー」とはインダス川流域の人々(異教徒)を指す、隣国ペルシャや敵対していたイスラームからの蔑称であったが、インドを支配下に置いた大英帝国が同地に古来より根付く民間信仰に対する総称と取り決め、それが当地住民にも受け入れられた後に定着した呼び名である。
信徒数は約9億人に上ると見られ仏教をも凌ぐが、信仰地域や文明に与えた影響が局地的である事。
実際には様々な主神を抱いた別々の信仰の集合体であり、各々の信仰を派生とすら呼べない事から、三大宗教やそれに準じる思想としてはカウントされていない。
※因みに、当該地域に根付いた信仰の便宜的な纏め程度の意味合いの為、インドの国教と云う訳でも無い。


【大まかな信仰の変化】

紀元前15世紀頃インダス文明末期に西トリスタンからアーリア人が流入。
同地の原住民を支配下に置き、数世紀を掛けて東へも版図を広げていった。
こうして根付いたのがアーリア人の遊牧民的家長制社会に原住民(ダーサ=隷民)を取り込んだヴァルナ(職業)であり、これが後にバラモン(僧)→クシャトリヤ(王、武士)→ヴァイシャ(平民、商工人)→シュードラ(隷民)からなるカースト制度となった。
最高位に置かれたバラモンは土着信仰と民族信仰が融合した神々の祭祀を司る事で絶大な権威を獲得していき、更にはその知識を自分達のみの秘伝とする事で地位と権力の維持を図った。
しかし、知識を複雑化させ過ぎた事から儀礼や祭祀の次第を文書化する必要に迫られてしまった。
こうして、前12世紀頃に編纂されたのが「リグ・ヴェーダ(知の聖典)」であり、ここから数世紀を掛けて4つの教典と種々の解説書が編纂された。
特に最後期の奥義書「ウパニシャッド」はインド哲学の完成型とも呼べる信仰と哲学的思考の集大成であり、仏教の影響等を受けつつ前5世紀~西暦10世紀以降もの長きに渡り編まれ、バラモン→ヒンドゥーに至る信仰の推移と宇宙論の完成を見る事が出来る。
ここから「ウパニシャッド」を「ヴェーダーンタ(最後の聖典)」と呼ぶ。
「バラモン教」と「ヒンドゥー教」の概要と成立経緯は以下に纏める。


  • バラモン教
「ヴェーダ教典」の成立以前から仏教やジャイナ教が誕生し、滅亡寸前に陥るまでの信仰形態。
バラモンのみが知識を独占し、それ以下の階層が支える社会が形成されていたが、社会全体が豊かになる中で実際の政治を司る王族が権威を獲得し、地位に固執し形骸化したバラモンが疎んじられる様になった。
前6世紀頃からバラモンに反発した多数のシュラマナ(沙門)が様々な階層より現れる。
大多数は只の反社会的な外道であったが、その内より“ブッダ”ゴータマ・スィッタルーダによる仏教と“ジナ”ニガンタ・ナッタプータによるジャイナ教が誕生。
両宗教が様々な階層の支持を獲得していった末にバラモンは衰退した。


  • ヒンドゥー教
元々は同じ宇宙論に根付いた仏教やジャイナ教の知識を吸収しつつ、西暦4~6世紀頃に掛けて正統派バラモンに根付いた哲学的思想が深められる。
特に「六派哲学」と呼ばれる6つの学派はその後のヒンドゥーの奥義の成立に強い影響を与え、それらの知識は逆に仏教やジャイナ教にも影響を与えている。
信仰の場に於いて特に強い影響を受けたのが大乗仏教で、大乗仏教がインド古来の神々(信仰)を取り込みつつ密教へと発展した様に、バラモンもまた以前は切り捨てていた土着信仰を取り込み民衆の支持を獲得。
峻厳な仏教やジャイナ教よりも俗的で、元々の民衆の生活に根付いた信仰であった為か広く受け入れられる様になり、それが現在に至っている。

※仏教やジャイナ教はバラモンの改革派の位置付けとされる。
※「バラモン教」「ヒンドゥー教」の区別も客観的な観点からの便宜的な
分け方である。


【神々】

元来はインダス文明の土着信仰とアーリア人の部族信仰が習合した自然神信仰(アスラやアディティヤ神群)。
ウパニシャッドが編まれる時代になると宇宙真理ブラフマン(梵)と、個体真理アートマン(我)の概念が導き出され、司法神ヴァルナに代わり、ブラフマンを人格化した創造神ブラフマーが最高位の神として定着した。
また、ここから導き出された最終目標“梵我一如”に代表される様な“相反する属性に共通する意味を見出し同一の物と見なす真理”はインド哲学の基本的な考え方となっていった。

滅亡寸前となったバラモンが仏教の影響を受けつつ、各地の土着信仰を吸収してヒンドゥーに変じていく中で信仰される神々の顔ぶれも変化していく。
特に暴風神ルドラを前身とするシヴァと、光明神ヴィシュヌは新たなる信仰の主役となり、後には嘗ての創造神ブラフマーを加えた三神一体(トリムールティ)の最高位の神としての地位を確立した。
更にシヴァとヴィシュヌは多数の神話や神々を自身に取り込む中で信仰を拡大し、現在は眷属の信仰をも纏めて信徒を二分化している。


【教理】

「ヒンドゥー」全体の最終目標とは、ウパニシャッドに基づく梵我一如(宇宙真理との合一)の成就により、輪廻(サンサーラ)からの解脱(モークシャ)により業(カルマ)から逃れる事である。
ただし、実際の信仰の場に於いては信仰する神々に帰依して遊行生活を営む行者よりも世俗に生活する一般信徒の方が多い為に、信仰的規範に則った理想的な生活(四柱期)の中で「三大目標」を実現して行く事が理想とされる。

  • 四柱期(アーシュラマ)
①学生期
入門して聖紐を授かり、師からヴェーダを学ぶ。
②家長期
帰家式、結婚式を済ませて一家の主となり社会に奉仕する。
③林住期
家長としての務めを果たした後に、一人、または妻と共に隠居し家督を譲る準備をする。
④遊行期
世俗を離れ、行者となって解脱を目指して各地を放浪、或いは瞑想生活を送り聖地で生涯を終える。

  • 三大目標(トリ・ヴァルガ)
①愛と性(カーマ)
「カーマスートラ」に語られる男女の愛の営みとしての交歓と秘儀。
②実利(アルタ)
「アルタ・シャーストラ」に語られる世俗を治める政治と経済活動。
③生活と法(ダルマ)
「マヌ法典」に語られる四柱期の節目の16の通過儀礼。


三大目標は理想的な四柱期の生活を送る事で当然の様に叶えられる。
つまりは“立派な大人”になりましょうと云う事である。
価値観が多様化し過ぎて結婚もしない人も増えた現代日本人辺りには耳が痛い話だが。
これらの何気ない生命活動にも神々の象徴化と一体化を目指すタントリズムにより意味付けが為され、人生その物が信仰の証とされるのである。

尚、ヒンドゥーでは牛がシヴァ信仰での聖獣である事や、仏教やジャイナ教とも共通する不殺生戒により菜食主義を基本とする。


【信仰形態】

全体的には二大神(シヴァ、ヴィシュヌ)へと帰依する多神教信仰なのだが、信仰上の位階が二大神に集約されているだけで、実際の信仰の場では個々の神々に応じた個々の信仰が捧げられ、またその形態も違っている。
神によってはカーリー女神の様な血を好み犠牲を求める神も居る。
前述の様に実態はシヴァ教とヴィシュヌ教とその他の小さな宗教の寄せ集めがヒンドゥーであり、土地が近いから便宜的に一纏めにされているだけである。


【教典】

全体に共通した世界観や思想が著された物。

  • ヴェーダ(聖典)
バラモンからヒンドゥーに至る中で編纂され、宇宙観の解説として用いられて来たのが4つのヴェーダ。

■リグ・ヴェーダ
神々への讃歌の集成。
勧請僧に帰属。
■サーマ・ヴェーダ
歌詠の集成。
歌詠僧に帰属。
■ヤジュル・ヴェーダ
祭詞の集成。
行祭僧に帰属。
■アタルヴァ・ヴェーダ
呪法の集成。
祈祷僧に帰属。

※ヴェーダは神々から直接的に人間に感得させられたと考えられる事から、天啓文学とも呼ばれる。

  • 解説書
■ブラーフマナ(祭儀書)
ヴェーダに依る祭祀の説明文献。
■アーラニヤカ(森林書)
バラモン間で密かに受け継がれる教え。
■ウパニシャッド(奥義書)
信仰上の神秘を哲学的に解き明かす。
バラモン依りの古ウパニシャッドと、ヒンドゥー依りの新ウパニシャッドがある。


  • 叙事詩
古典民話等を下敷きに、ヒンドゥーの宇宙観を示した物語。
神々に豊かな人格を与え、帰属するべき神としての地位を確立させた。

■マハーバーラタ
パーンダヴァ王家とカウラヴァ王家による同族間戦争を主題とする。

■ラーマーヤナ
ラーマ王子と羅刹王ラーヴァナの戦いを描く。

※上記2つを二大叙事詩と呼び、物語にして最良のヒンドゥー讃歌となっている。
インドの民が自分達の国を「バーラタ」と呼ぶのはここに由来する。

■プラーナ(古譚)
古くから民衆に愛されて来た民話や神々の縁起物語。


【宇宙・空間】

ヒンドゥーでは宇宙は宇宙精神の生んだ原初の水の中に種を蒔く事で生じた巨大な宇宙卵の中にあると考える。
その卵の中に最初に顕れるのが創造神ブラフマーであり、ブラフマーは先の宇宙精神自体の変化である。
ブラフマーの一昼夜は2カルパ(劫)=86億4000万年と云う途方も無い長さであり、この一昼夜の内に宇宙卵が生じ、その内の世界は4種のユガ(時代)を経てブラフマーの眠りと共に消滅するのである。

  • 4つのユガ
①クリタ・ユガ
172万8000年。
黄金の時代であり法(ダルマ)の神は4本足で歩く。
②トレーター・ユガ
129万6000年。
法が1/4欠けてしまい、ダルマは3本足で歩く。
③ドヴァーパラ・ユガ
86万4000年。
法が半分となり、ダルマは2本足で歩く。
④カリ・ユガ
法の3/4が欠け、ダルマは1本足になってしまう。
※カリ・ユガは仏教で云う末法と関連付けて語られる。

この4ユガを併せてマハーユガ(432万年)と呼び、これを1000回繰り返すと1カルパ(43億2000万年)となり、ブラフマーの昼が終わる。
そして、世界も消えた夜の期間が1カルパ続き、ブラフマーの時間で100年(311兆400億年)が経ってしまうと宇宙自体が消滅するのである。

ヴィシュヌ教ではこの創世神話が上書きされ、ブラフマーを生み出す原初神がヴィシュヌに置き換えられ、この311兆4000億年がヴィシュヌの1昼日(半日)に過ぎないと主張される。

三神一体説では宇宙真理ブラフマンは三大神として己を生み出し、己もまた己の宇宙に生まれ、三相を以て宇宙の創造→維持→破壊をすると考えられた。
この考え方は梵我一如と結びつき、解脱とは宇宙真理との一体化により、自らが次なるブラフマン(ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァ)に生まれ変わる事だと解かれている。


【タントラ】

汎インド的な信仰精神を指す言葉であり「密教」などと訳される。
神々を信仰の場で図像化する行為や、神を直接的に感得する「成就(サーダナ)」までと、幅広い形態がある(タントリズム)。
汎インド的の言葉通り「仏教」もこうした影響化にある。
ヤントラ(図像)は宇宙や神を顕す抽象的図像、マントラ(真言)は音で顕される神秘的アプローチである。
創作でもよく使われる「オーム(a.u.m)」はそのまま創造(ブラフマー)、維持(ヴィシュヌ)、破壊(シヴァ)を顕す。
「オーム」は「唵(om)」として、仏教にも伝わり、此方では法身、報身、応身の仏の三相に対応すると説かれている。
密教の真言陀羅尼に於ける頭語として多く用いられており、結語に多く用いられる、吉祥、成就を願う「スヴァーハー」=「ソワカ」と共に決まりパターンの一つとなっている。
※例:オン 仏尊の名前、属性 ソワカ


【ヨガ】

某格ゲーインド人の影響で神と合一する為の苦行と結びついている印象があるが、基本的には瞑想により古典ヨーガでは心身を浄める事、ハタ・ヨーガではチャクラを目覚めさせる事により神(最高意識)と一体化するサマーディ(三昧)に至る活動を指す。
元はサーンキヤ哲学と呼ばれるタントリズムとは別の思想から生まれたものが合流したらしい。
ダル○ムはハタ・ヨーガの究極的な達人をカリカチュアした姿である。
仏教でも密教や禅の修行の原型となった。


【シャクティ】

性力と訳される。
カーマスートラに説かれる男女の性交や、ヨガで言われるチャクラを拓く為の生命の原動力(クンダリニー=蛇、女神)を覚醒させる人間の根源的な力を指す。
特に女性性力を女神として顕し、男性性力との瞑想によるイメージの中での交合=神人合一=梵我一如の結実法の一つとなる。
シャクティは女神=シヴァ神妃(パールヴァティやその化身)に準えられ、男性性力をシヴァとして顕す。
ここからシヴァ夫妻の営み=そのまま最高境地の図像化としても顕される様になった。

※これらの種々の要素は様々に絡み合いながら修行や信仰、生活にまで根付いている。
前述の様に形態も多様であり、それこそがヒンドゥーである。




追記修正は己のアートマンを覚醒させてからお願いします。

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