キング・オブ・エジプト

登録日:2016/10/02 Sun 09:12:02
更新日:2024/10/17 Thu 22:21:59
所要時間:約 4 分で読めます




愛する人の命と、エジプトの平和。
この手で、取り戻す。



『キング・オブ・エジプト』は、2016年にアメリカによって制作された映画。
日本では同年秋から公開された。
原題は『Gods of Egypt』。
原題と本題でニュアンスに差が出るのはよくある事だが、本作に関してはスケールダウンしている。
だが、最後に主人公の発した一言でその意味も分かってくるだろう。
監督は「アイ,ロボット」「ノウイング」「ダークシティ」等を手掛けたアレックス・プロヤス。

物語の冒頭で語られているが、人間と神では一回りほど体の大きさが違い、終始その描写が徹底されている。
決してパースが狂っているわけではない。
また、体には血ではなく黄金が流れているという設定のため、流血シーンもあまりグロくない。

公開前には牙狼聖闘士星矢のような輝く鎧をまとった神が描かれたポスターが話題を呼んだが、
日本においてはそういった要素は伏せられ、素顔の役者とエジプトを背景にした「インディ・ジョーンズ」「ハムナプトラ」のような冒険映画として宣伝された。
勿論冒険要素も多く含まれているが、ストーリーとしては前述の牙狼のような鎧をまとった神と神のド派手なバトルシーンが売りのアクション映画と言えよう。
シン・ゴジラ」「君の名は。」「聲の形」など同時期上映のライバルが強すぎたため興行的には苦戦したが、かっこいい神デザインや超展開の連続からハリウッドB級映画ファンからは支持を集めた。

【あらすじ】

遥か昔、神々と人間が共に生きていた頃のこと。人間の青年ベックとその恋人ザヤは神々の王オシリスの鎮座する都ヘルモポリスで貧しいながらも幸せな日々を送っていた。しかし、その幸せはオシリスの息子ホルスの戴冠式の日に脆くも崩れ去る。オシリスの弟で砂漠の王セトは民衆の目の前で兄を殺害し自らをエジプト全土の王と宣言。ホルスは両目を抉り取られて追放される。そして貧しき人々は奴隷にされ、ベックとザヤも引き裂かれてしまった。

数年後、ベックはセトの宮殿からザヤを奪還しようとするも、逃走の最中追っ手の矢を受けたザヤは命を落としてしまう。ベックは失意の底にあったホルスの下へ赴き、事前に盗み出していた彼の片目を差し出して、恋人を生き返らせるのと引き替えにもう片方の目と王座を奪還するという取引を持ちかける。共に愛する者を奪われた神と人間、二人の戦いがここに始まった.....


【登場人物】

神々

エジプトの神々と言えば頭が動物、体が人間の獣人スタイルが馴染み深い。しかし今作の神々は身長こそ3~4メートル程と巨大だが、普段は人間と同じ外見をとって暮らしており、戦闘等で本来の力を発揮する時だけ壁画や彫像でお馴染みのあの姿になるという設定。つまる所は人間に似せた姿の方こそが変身した状態なのだが、観客目線では逆にしか見えない

ホルス
演:ニコライ・コスター=ワルドー/吹き替え:中村悠一
現国王オシリスの息子にして天空の神。
エジプトの王オシリスの息子で次期王位継承者。神サイドの主人公で遥か彼方をも見通す青き眼を持つ。
傲慢な性格で実力に溺れ、狩りやどんちゃん騒ぎに興じてるあたり、若き神の王子というのはエジプトも北欧も似たようなものか。
情熱的で活力漲る王子だったものの、目の前で父を殺された上、自信も完膚なきまでに敗れた事でそのプライドは無惨に打ち砕かれてしまった。その後は両親の墓守にまで落ちぶれ、失意のどん底で燻る日々を送っていたが、片目を持って訪れたベックに煽られて説得され、再起を決意する。人間の事は脆弱な存在として下に見ており、ベックとも利害の一致から組んでいるだけだったが、旅を通して精神的に成長し、次第にその力を認めるようになる。
真の姿になると壁画でお馴染みのハヤブサ頭になり、全身が黄金に輝く。


○ハトホル
演:エロディ・ユン/吹替:沢城みゆき
美と愛を司るホルスの婚約者。神サイドのヒロイン。恋人の助命と引き換えにセトの愛人となる。ホルスの再起を知るとセトの下を脱出し旅に加わるものの、わだかまりは残っている。かつては死者の国の悪魔に命を狙われていたが、ホルスが悪魔を倒し、その数と同じだけの宝石をあしらった腕輪をプレゼントされた事で悪魔に狙われることはなくなった。他人を思い通りに操ることができるが、その者の心が誰かのものになっていると効果がない。
神話では両乳房を露出させた人間の女性の他に雌牛の姿で描かれる場合もあるが、殺戮の神セクメト(人間の不敬に怒ったラーが生み出した殺戮の神)が怒りを鎮静化した姿とされる場合もあり、これに従うなら雌のライオンが真の姿である可能性も。

○トト
演:チャドウィック・ボウズマン/吹替:中井和哉
知恵の神。森羅万象を知り尽くすが故にナルシストの気があり、自分以外の誰も信用していない。セトのクーデター後は館に閉じ籠って大量の分身と共に書物の編纂に没頭していた。ホルスの事も浅慮な若造と冷めた目で見ていたが、持ち前のプライドを逆手に取った煽りに乗せられ協力する事に。
作中では終始人間の姿のままだったが、原典から推測すると真の姿は朱鷺かマントヒヒのどちらかだと思われる。間違っても黒豹ではない

○・セト
演:ジェラルド・バトラー/吹き替え:小山力也
オシリスの弟の嵐の神。冷酷無慈悲な暴君で、武勇にも優れる。
エジプトの沃地と対を成す砂漠の王だったが、その地位に不満を抱いており、ホルスの戴冠式を急襲して兄を殺害、甥の両目をくり抜いて追放した上、自ら王位についた。自分の偉業の証として、天まで届く巨大な塔『オベリスク』を建造させる等過酷な統治を行うが、その野心は地上の王だけでは満たされず、ゆくゆくは天と冥界を含めた全ての世界を手中に納めようと計画、その一貫として歯向かった他の神々から能力を奪い、自らに取り込む事で超合神を名乗る。そこ、どこのロキさん?って言わないの。
真の姿はツチブタのような獣の頭を持つ獣神で、漆黒に輝く。ような、というのは具体的に何の動物かが分かっておらず、諸説あるため。

○ラー
演:ジェフリー・ラッシュ
吹替:菅生隆之
天地を創造した太陽の神。オシリスとセトの父でホルスの祖父。息子たちに地上を治めさせ、自らは太陽を牽引する船で天空を航行し、毎夜襲ってくるアポピスと戦い、追い払っている。兄弟に等しく愛情を抱いており、各々の気質に相応しき役割を与えたつもりだったが、それがセトの目には兄を贔屓していると映ってしまった。
ラー神と言えばホルスと同じハヤブサの頭の姿が有名だが、この映画での真の姿は人間の外見のまま更に数倍(8メートル程)に巨大化し、太陽フレアのような激しい炎を纏うというもの。
しかも変身の際は被った冠が縦に伸びてエジプト神というよりはどこぞの法王のように。槍から火炎ビームを放つ神々しくもどこかシュールな姿は色々と突っ込みたくなるが、これでも概ね神話通りである。気にしてはいけない。また、実際の神話ではオシリスらはラーの孫である大地の神ゲブと天空の女神ヌウトの子で、ラーから見ると玄孫にあたる。

○オシリス
演:ブライアン・ブラウン
吹替:金尾哲夫
緑豊かな沃地を治める王。神々の王を兼ね、民からも慕われていた。王座を退き、将来有望なホルスに託そうとしていたが、戴冠式当日に弟の凶刃に倒れる。今際の際、息子へ意味深な言葉を残して事切れる。概ね原作通り。むしろ神話の方が棺に閉じ込められて窒息死させられたり、大事な所をワニに食われたりと悲惨な目に遭っている。

○イシス
演:レイチェル・ブレイク/吹替:田中真弓
オシリスの妃でホルスの母。実際の神話では前半部の主人公で、夫を蘇らせるためにバラバラにされた遺体の断片を集めるのに奔走、ホルスの成長した後半部でも様々な場面で息子の戦いをアシストする女傑として描かれているが、本作では生き返るのに必要な心臓を見つけられず、悲嘆に暮れて命を落とした事がホルスの口から語られるのみというあんまりな扱いに。実際の登場シーンも冒頭の数分だけ。ホルスを主役にする以上、やむを得ない展開なのかもしれないが、神話を元々知っている人はどうしてこうなったと思わざるを得ない。

○ネフティス
演:エマ・ブース/吹替:大原さやか
オシリス、イシスの妹の女神。かつてはセトの妻だったが、彼の横暴に失望して去った。兄姉の死後、抵抗する勢力を纏め上げてセトと戦うものの、敗れた上翼をむしり取られて力を失う。
夫婦仲が険悪だったのは神話通りだが、オシリスを酔い潰して、その隙に子種を貰ってアヌビスを産んだというアレなエピソードはさすがにスルーされた。

○アヌビス
演:ゴラン・D・クルート/吹替:青山穣
死者とそのミイラ(とそれを作る職人)の守り神。冥界にいて、地界で起こる神々の諍いを他所に、死者(作中では主にザヤ)を導くという自らの役割を忠実に守っている。そのためストーリーを俯瞰すれば一番ホルスらの争いの割を食っている。上記のように本来はオシリスとネフティスの息子でホルスから見れば異母兄なのだが、作中では触れられていない。地上で暮らしていないためか、人間の姿にはならなかった。

◯アナト
◯アスタルテ
演:アビー・リー、ヤヤ・デュン/吹き替え:オカリナ、ゆいP(おかずクラブ)
セトに使える2人の戦神。炎を吐く巨大な大蛇を操り、ハンターとしてセトの敵を討つ。

【人間】

ナイル川流域に住む人々。神々の庇護の下、平和に暮らしていたが、クーデターを起こしたセトが黄金の献上を義務づけ、それができない貧しい者は奴隷にされてしまった。この新しい法規は冥界においても有効で、多くの黄金を捧げた者は来世での復活を約束される一方、僅かな富しか持たない者は資格を得られずに消滅してしまう。

○ベック
演:ブレントン・スウェイツ/吹き替え:玉森裕太(Kis-My-Ft2)、平野潤也(ソフト版同時収録の別バージョン、オンデマンド配信版)
人間サイドの主人公。平然と盗みを働く盗賊同然の男で、自分の運しか信じていない。信仰心は皆無に等しく、神々に対してもずけずけと者を言う怖い者知らずだが、その分勇気と行動力があり、一緒に行動するホルスらを様々な場面で感嘆させる。

○ザヤ
演:コートニー・イートン/吹替:永野芽郁
ベックの恋人で、人間サイドのヒロイン。オシリスが殺害された時の騒ぎでベックと離れ離れになり、建築家ウルシュの奴隷とされてしまう。ベックとは反対に信心深い女性で、ホルスの目を盗み出して再起を促す計画を発案したのも彼女。
しかし計画は脆くも露呈し、逃走中に射殺されてしまう。その後はアヌビスに見守られつつ、魑魅魍魎の蠢く冥界を旅する。己の身一つしか持たぬザヤが審判を受ければ消滅は免れないため、ベックたちは彼女の魂が冥府に辿り着く数ヶ月以内に目的を果たさねばならない。

◯ウルシュ
演:ルーファス・シーウェル/吹き替え:大塚芳忠
建築家の人間。
オベリスク建設の功績により、セトからは気に入られている。
几帳面な性格で、建設に費やした資材だけでなく、犠牲になった奴隷の数まで覚えている

【余談】
本作はティザービジュアルが公開された当初から、キャスティングを巡って物議を醸し、批評家からの評価を下げる要因にもなった。

その内容は「エジプト神話の神々を白人が演じるのはおかしい」というもの。
エジプト文明がアフリカで興った文明である事を踏まえるとその指摘はもっともだと言える。

しかし、実際のナイル川流域は文明が興る以前から、東西南北から多くの民族が出入りし、住民の血が複雑に混じり合う地域だったため、文明の担い手となった人々が必ずしもアフリカ系、特にネグロイド系の人々だけだったとは言い切れないという実態もある。外見こそ浅黒い肌だったのは間違いないと思われるが。
ファラオの系統にしても、第25王朝が純粋な黒色人種である事が確定している一方、最後の王朝であるプトレマイオス朝はギリシャ系の白人が主体、ラムセス2世を輩出した第19王朝は中東系に起源を持つ事が判明しているなど、一概に何人の文明だったと断言できるような状態には無いというのが実際の所である。

それらを踏まえてか、古代ギリシャの歴史家ヘロドトスもエジプト人を「ナイルの水を飲む人々」と記している。映画もあまり深く考えずに観るのが正解なのかもしれない。



追記、編集は源の目と王座を取り戻してからお願いします。

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最終更新:2024年10月17日 22:21