ロッキー(映画)

登録日:2017/01/15 Sun 17:55:56
更新日:2025/10/08 Wed 09:57:06
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『ロッキー(原題:ROCKY)』とは、1976年に公開されたアメリカ映画。
ロッキーシリーズ(映画)第1作。

●目次

【概要】

今でこそ世界的なハリウッドスターである男のリトマス試験紙……じゃなくて、シルベスター・スタローンの歴史に残る出世作にして渾身の名作。

当時はまだ無名の俳優だったスタローンがテレビで放送していたモハメド・アリ対チャック・ウェプナーの試合に触発されて短時間で脚本を書き上げ、それがプロダクションに気に入られたことから製作が始まった。
プロダクションは当初は脚本のみを買い取るつもりであり、実際に脚本料はかなりの値がついたのだが、上記の通りで売れない役者でもあったスタローンは、このチャンスを前に金には釣られずに自分の脚本で自分が主演することを頑なに主張した。
そうして、最終的にはプロダクションも折れて低予算だがスタローンの希望を汲んだ形で製作されることが決定。
果たして、限られた条件の中でもスタッフと工夫を凝らしながら製作されたロッキーは、公開されるや否やその人情味溢れるドラマが観客の心を掴み、批評家からも絶賛された末にアカデミー賞まで受賞することになった。

こうして歴史に刻まれる名作となったロッキーのおかげでスタローンも一躍スターとなって栄光を掴み、今日に至る名声を得る最初の一歩となったのである。
また、現実に沿った下町の様子や底辺の人間の苦労も盛り込んだリアリティのある描写もありつつも全体的に娯楽性の高い作風な上に、最後には誰もが盛り上がった気持ちのままで締められる物語は当時としては非常に珍しかったというのは知られておくべき事実。

当時は、所謂「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれた小難しい文学作品のような微妙な人間描写や感情、不幸な身の上を描いた作品が持て囃されていた上に、結末もよくてビターエンド、わるければバッドエンドといった作品ばかりだった状況の中で、本作は低予算ながらも普通の映画の枠内で公開された映画だったのにストレートにハッピーエンドで終わったので、観客は驚くと共にみんなと笑顔のままで鑑賞を終えられる映画の素晴らしさを再認識したのである。*1
こうして、本作は「アメリカン・ニューシネマ」の流行を終わらせた作品のひとつとしても名前を残すことになり、本作以降は純粋な娯楽作品が流行していくことになったのである。そして、80年代の金!暴力!セックス!……がハリウッド映画の定番に。

というわけで、大ヒットに伴い続編シリーズも製作されるようになった本作は、今ではランボーと並ぶスタローンの代表作となった訳だが、上記の通りで製作される過程での苦労があったからこそ名作となり得た本作は、
単体としては勿論のこと名作だが、後に続くシリーズ物の一本としてはバランスが尖りすぎていて、相対的に続編以降の評価を下げてしまうという(ありがちだが)本末転倒な事態も起こしてしまうことになった。
何しろ、スタローンとしては無理やりに主演の座も勝ちとったものの本当に売れるかどうかなんて是迄の経歴を考えれば(自分にさえも)確約できる筈もなく、内容的にも一本きりで完結した物語であり、続編の構想なんか存在していなかったのは視聴してすら理解できるはず。
無理やりに続編を作りました感のある『2』に、ロッキーがキャラ変した上にハングリーを無くしてしまう『3』に、開き直って娯楽作品として振り切った『4』に、今更ながら原点回帰しつつつも今更感しか感想として残らない上に無駄に暗すぎた『5』……と、決して駄作ではないものの、単体の作品としては初代と比べられないタイトルばかりでシリーズもダラダラと続いた上にあやふやな終わり方をしたと認識されるような有様であった。

こうして、シリーズ中でも本当の意味で初代と比較できると言われたのがリバイバル的にかなり後になってから製作された『ロッキー・ザ・ファイナル』位のもので、しかも当該作すらも単体の映画としては評価できない、最低でも初代である本作と比較しないと面白さや意義が見出せないという企画であった。

ちなみにかなりレアだがノベライズ版も存在し、映画では見られない各々のキャラクターの心情もよく分かるのでおすすめ。


【物語】

1975年、秋のフィラデルフィア――

三流の売れないボクサー、ロッキー・バルボアは場末のボクシングのファイトマネーだけでは生活できず、知人のヤクザであるガッツォの下で高利貸しの集金屋として日銭を稼いでいた。

ボクサーとして素質はあるのに努力をしないロッキーのクズ同然の自堕落な姿にジムのトレーナーのミッキーは愛想を尽かしてしまう。

そんなロッキーの唯一の生き甲斐は近所のペットショップで働く内気な女性エイドリアンであった。
彼女に惚れていたロッキーは度々アプローチをするが、人見知りの激しいエイドリアンとは中々打ち解けない。
それでも親友にしてエイドリアンの兄ポーリーの計らいによって二人は少しずつ距離を縮めていく。

感謝祭が目前に迫ったある日、アメリカ建国200年祭のイベントにしてボクシングの世界ヘビー級タイトルマッチが催されることが決まったが、現チャンピオンのアポロ・クリードの対戦相手が負傷してしまい、
急いで代役を探すがランキング選手は誰も都合が悪くてこのままでは試合ができない。

そこでアポロが「地方の無名ボクサーにチャンスを与えてアメリカンドリームを体現しよう」とアイデアを提案し、早速話題になりそうな無名選手を探す。

そして白羽の矢が立ったのは、「イタリアの種馬」というユニークなリングネームを持つ男、「ロッキー・バルボア」であった……。


【登場人物】

吹替の()内はDVD追加収録時のキャスト。

◆ロッキー・バルボア
演:シルベスター・スタローン 吹替:羽佐間道夫
元グリーンベレー所属のベトナム帰還兵……じゃなくて、フィラデルフィアのスラム在住の三流ボクサー。
不器用で口も悪く、前科もあるが根は優しくフィラデルフィアの住民からは慕われている。

極貧暮らしというどん底の状態にあるためボクサーの仕事だけでは食っていけないので、ヤクザのガッツォの元での集金係が日課となっている。
生きていくためには仕方ないと自分でも分かってはいるが、そのおかげでトレーナーのミッキーから見捨てられてしまっている。

ボクサーとしての戦績は44勝20敗38KOで、KO率が高い。ちなみにスタローンと同じでサウスポー。

◆エイドリアン・ペニーノ
演:タリア・シャイア 吹替:松金よね子
ミッキーのジムの向かいのペットショップで働いている女性。ポーリーの妹。
シリーズ通じてのヒロインで最初はメガネをかけていたりとかなり地味で引っ込み思案な性格であったが、ロッキーとの交流でそれは解消された。

本作ではロッキー同様に冴えない女性であったが、後のシリーズでは見違えるほどにマダムっぽくなっていった。

ちなみに人見知りが激しかったのは親の偏見的な言いつけのせい。

◆ポーリー・ペニーノ
演:バート・ヤング 吹替:富田耕生
ロッキーの親友でエイドリアンの兄。ロッキー以上に口が悪い冴えない男で未だ独身。

精肉工場の作業員として働いているが、その収入じゃ満足できないようでロッキーにガッツォの集金屋として紹介して欲しいと度々頼んでいるが、いつも断られている。
ちなみに断られる理由はポーリーの口が悪いから。妹のエイドリアンが相手でも平気で暴言を口にして馬鹿にしたりするので、エイドリアン自身も不満だった。

そんな風に口が悪くても未だ独身の妹を気にかけており、エイドリアンと付き合ってくれるロッキーには感謝している。

精肉工場の冷凍肉を何の気無しに殴った所をロッキーに参考にされてサンドバッグ代わりにするというトレーニング方法が開発された。
(格好いいがスタローンはこれで拳を傷めて変形して机に付けると隙間が出来ない位に平たくなってしまっているので実際にやるのはやめた方がいい)

続編の2ではようやくガッツォの仕事にありつけて広告料で大金も入ったので羽振りが良くなったが、一悶着を起こしてクビになったとのこと。


◆ミッキー・ゴールドミル
演:バージェス・メレディス 吹替:千葉耕市(槐柳二)
ロッキーが所属しているジムを経営している老トレーナー。
若い頃はバンダム級の世界チャンピオンだった50年の大ベテラン。試合で耳を悪くして引退した。

10年前にロッキーと出会い、ボクサーの素質がある彼に期待していたがいつまで経っても成果が出ずにヤクザの手先になってしまったことに失望してしまう。

アポロとの試合が組まれることが決まるとマネージャーになってやるとロッキーに持ちかけるも、逆にそれまで冷たくしていたのを掌を返されたことにロッキーは最初こそ腹を立てていたが、
時間はかかったとはいえようやく手を差し伸べてくれたことで二人は和解し、ロッキーのマネージャーとなる。

ボクシングの裏社会も見てきたためかマネージャーとしての手腕は優れており、トレーニングに支障が出ないよう悪い虫がつかないようにしたり、業界の悪徳な連中からもロッキーを守ってくれていた。
5ではロッキーもそのことについてはとても感謝していた様子。


◆アポロ・クリード
演:カール・ウェザース 吹替:内海賢二
世界ヘビー級チャンピオンのボクサー。口汚いが実力は本物。妻子持ちで妻の名前はメアリー・アン。
目立ちたがりな所があり、観客へのパフォーマンスやサービスは常に欠かさない。

アポロが本作や4の試合直前に扮していたアメリカ国旗の派手なコスプレはアンクル・サム(アメリカ合衆国を擬人化したキャラクター)。

相手が無名の選手であり、お祭りということもあってかロッキーとの試合は余裕をかましていたが、不屈の闘志で挑んでくるロッキーに逆に追い詰められる破目になる。

撮影の裏話としては、アポロ役にオーディション段階から入れこんでいたカール・ウェザースは、自ら選定役としてリングで対峙したスタローンに本気でパンチを入れ、それに驚いたスタローンが落ち着くようにと言ったものの「誰のことだ?俺はアポロだ!」と答えたらしく、その気迫を買われて見事に役を勝ちとったのだとか。


◆トニー・デューク・エヴァーズ
演:トニー・バートン 吹替:緒方賢一
アポロのトレーナーを務める男。本作ではまだ役名が無いので演じた役者の名で呼ばれており、後のシリーズで正式にトニーが名前となっている。

ロッキーに油断していたアポロと違って、ロッキーがサウスポーであることやハングリー精神剥き出しのトレーニングをしている様子を見て危険視するなど実力を評価していた。
実は何気にシリーズ6作全てに登場している人物。


◆バッカス
エイドリアンの働くペットショップで飼われているブルマスティフ犬。後にロッキーのペットになる。
元は別の飼い主がいたそうだが店に預けたまま逃げたため結果的にそのまま捨てられてしまったらしい。

ちなみにこの犬は実際にスタローンの愛犬であり、名前も同じ。


◆トニー・ガッツォ
演:ジョー・スピネル 吹替:増岡弘(長克己)
フィラデルフィアの港のイタリア人街を取り仕切るヤクザ。ロッキーの高利貸しの仕事の雇い主。
雰囲気は怖いが身内への面倒見は良く、ロッキーにエイドリアンとのデート費用をあげたり、アポロとの試合が決まった時にはトレーニング費用をくれたりしてくれた。

元はロッキーと同じ境遇だったイタリア移民であり、ロッキーのことを気にかけたりするのもそのため。
ロッキーが落ちぶれたりしても見捨てずに、いつでも戻ってくれば良いと声もかけてくれる。

ファンからは何故かガッツォさんと呼ばれたりと意外な人気がある。
映画では2まで登場するが、演者のジョー・スピネルが5の前年にお亡くなりになったので、もし生きていたら5にも登場していたかもしれない。ちょっと残念。


◆ジャーゲンズ
演:セイヤー・デイビッド
アポロとロッキーの試合をプロデュースするプロモーター。
本人も自負するように世界各地で様々な名試合をプロモートしてきたかなり高名な人物らしい。


◆スパイダー・リコ
演:ペドロ・ラヴェル 吹き替え:郷里大輔
冒頭の場末のファイトシーンでロッキーと戦っていた三流ボクサー。
ヘッドバッドの反則行為を行ったことでロッキーを怒らせ、ボコボコにKOされた。

最終作のザ・ファイナルでも登場しており、本作とは見違えるほどに穏やかな性格となった。(それでも根っこは変わらないようだが)


◆グロリア
演:ジェーン・マーラ・ロビンズ
エイドリアンが働いているペットショップのオーナー。
続編の2や5でもちょっとだけ登場している。

ちなみに彼女のペットショップがあった場所の店は現在、閉店している。


◆リトル・マリー
演:ジョディー・レティジア
夜の街でたむろしていた不良少女。
ロッキーに説教をされつつ家に送られるが、「死ね、バーカ!」と悪態をついた。

最終作のザ・ファイナルでは成長してすっかり更生した姿で登場。
5の未公開シーンでも登場しているが、この時は本作より余計に非行少女になって落ちぶれていた。


◆ディッパー
演:スタン・ショウ
ミッキーのジムに所属している売り出し中の新人ボクサー。
ロッキーが成果を出せずにいた時にミッキーが世話をしていた。

実は未公開シーンやノベライズだとロッキーがアポロの挑戦者に選ばれたことに嫉妬してミッキーの制止も聞かずにロッキーを挑発した結果、
ボコボコに返り討ちにされた挙句、ミッキーにジムを追い出されている。


【余談】

◆作品賞を受賞した第49回のアカデミー賞ではスタローンは助演女優賞のプレゼンターを担当した。
するとスピーチ中にスタローンの後ろからなんとモハメド・アリ本人が登場
サプライズに動揺するスタローンに対し「俺のシナリオを盗んだな」と挑発し、その場でボクシング対決をするという演出を行い会場を大いに沸かせた。

◆ロードワークのシーンで市場の人から果物を投げ渡される場面があるが、実はこれはハプニング。
このシーンでは撮影スタッフが少なかったためかランニング中のスタローンが本物の新人ボクサーと勘違いされて実際に声援を送られており、果物屋の店主も同じようにスタローンを応援して果物をプレゼントしてくれた。
それがカットされずにそのまま映画に使用されることになった。

◆トレーニング中に生卵を大量にジョッキに入れて飲み込むシーンは、よく日米で意識の差があると言われる。
当時の海外では卵を生で食べるのは衛生的に見て非常に危険な行為であり、それだけの覚悟ということを示す意味合いもあるのだが、
日本では当時から卵を普通に生で食べていたため、文化の違いからこのシーンがまず「危険な行為」とすら思われないのが原因である。
ちなみにスタローンも、当該シーンの撮影はかなり嫌がったという。

◆「シティーハンターの冴羽リョウのあだ名「新宿の種馬」の元ネタ。
しかしこちらは原語では「Italiana stallion(イタリアン・スタリオン)」=スタローンの名前に通じる、という言葉遊びであり、またエイドリアンの為に戦い抜いたロッキー=優秀な雄馬(漢)というニュアンスであると思われる。
ちなみにスタローンのイタリア語読み、スタッローネは種馬という意味を持っている。
もっこり種馬(文字通りの性的な意味のほう)のような、簀巻きにされそうなアレな意味は含まないが、スタローンが困窮から已む無くポルノ映画に出演していたことを自ら皮肉ってもいるらしい。

◆上記のように低予算で製作されているためスタッフにも工夫がされており、当時のスタローンの奥さんがカメラマンであったり、スタローンの知人や友人、さらには家族までもがエキストラとして参加している。
なお、当時の奥さんは元々は後味の悪い終わり方を想定していた脚本をハッピーエンドに変えるようにも言ってくれたという。
特殊メイク予算も節約するため、最後の決戦は最終ラウンドからの逆撮り。つまりボコボコになっての「エイドリアーン!」からだんだん回復しつつ殴り合っているという事に……。


◆上記の、そして前述の通りで元々の脚本で想定されていた後味の悪い結末とは、ロッキーは完成版と違いアポロに奇跡的に勝利するも、その直後にミッキーが人種差別的な発言をしてアポロを貶め、それにショックを受けたロッキーは新チャンピオンになったにも関わらずベルトを返上。
作中の通りで、泥水を啜りながらも執着していたボクシングから完全に足を洗ってしまう……というもの。
つまりは、ロッキーは勿論、アポロにもミッキーにも“何も得るものがなかった(なくなった)”という、シンプルながら弩級のビターエンドであった。



追記・修正はロッキー・ステップを100往復してからお願いします。


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最終更新:2025年10月08日 09:57

*1 尚、撮影段階では後述のようにビターエンドで締められる案も存在しており、そっちを採用していたら本作も「アメリカン・ニューシネマ」にカテゴライズされていたことだろう。