オートマチックトランスミッション

登録日:2017/08/07 Mon 20:42:19
更新日:2025/04/19 Sat 11:12:35
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オートマチックトランスミッション(AT)とは自動車バイクの変速機の一種で、車速やアクセルの踏み込み量などに応じて変速比を自動的に切り替える機能を備えた変速機である。

とても簡単に言うと、アクセルを踏めば加速し、ブレーキを踏めば減速して止まる。
両方離すとゆーっくりと前に動き出す(クリープ現象という)。
両方踏む?壊れるからやめれ。真面目に言うと、一応ブレーキが優先される。
自動車の場合、左足は全く使わないので足置きに。強いて言えば無意識に踏ん張ることがある程度。

対になるものとして、手動での変速機(日本では「クラッチペダルを用いるもの」が定義)はマニュアルトランスミッション(MT)である。

免許についてはオートマチック限定免許を参照のこと。


概略

狭義でのオートマチックトランスミッションは変速機そのものだけを指すが、発達の経緯上変速の自動化だけでなく、マニュアルトランスミッション(MT)からクラッチペダルを取り去ることも目的だったので、必然的にクラッチの自動化も伴う。よって自動クラッチと変速機を含めたトータルなシステムを「オートマチックトランスミッション」と呼ぶ。

法律的にはクラッチを自動で操作するのがオートマ、クラッチを運転手が手動で操作するのがマニュアルとされているため、クラッチだけ自動でギア変速が手動な車(セミオートマ)はオートマ車である。
またEVを代表とした変速機構そのものが不要な車両*1も法的にはATとして区分される。

かつては乗用車でも1速・2速・3速…の順に車速が上がるに連れて高いギアへ切り替わるステップATが主流だったが、乗用車は現在では無段変速機(CVT)が主流である。

ここでは、現在主流のトルクコンバーター式またはCVTを中心に記述する。

メリット

  1. MTと比較して運転操作が簡便になる
  2. 変速操作が自動(あるいはクラッチペダルを用いず、簡単な操作)であるため、相対的にステアリング操作やペダルワークに集中しやすい。
  3. 故障や不具合でもない限り、エンジンストール(エンスト)が発生しない。
  4. 衝突軽減ブレーキシステムなど、安全システムを搭載することができる*2
  5. 現代的ATモデルでは燃費がMTよりも良い(後述)


デメリット

  1. 運転操作が単調になり、不注意や事故を誘発しやすい
  2. 機構が複雑化するため、MTと比較すると信頼性や重量の面では不利
  3. 上述に付随し、修理やオーバーホールのためのコストが大きくなる
  4. 旧式ATモデルは燃費がMTよりも悪い傾向がある(後述)

ただし、技術の発展で新しい車両程上記デメリット対策も進んでいる。
1番目については疲労によるハンドル操作のブレや目の状態をモニタリングするなどでドライバーの状態を把握して休憩を促したり急発進防止機構、車線はみ出し防止機構などで対策されたり
2番目と3番目も信頼性が上がっておりよほど無茶な走りをしたり、定期的な点検を行うといったリスク低減策を施していればそう壊れるものでもなくなっている。

もちろん、これらに完全に依存することは危険ではあるもののメーカーも無対策というわけではない。

○クラッチ機構による分類

トルクコンバータ式

トルクコンバータ(通称トルコン)を利用してエンジンの出力をトランスミッションに伝達する方式。変速機内部をATF(オートマチックトランスミッションフルード)と呼ばれる油で満たし、エンジン側とタイヤ側での回転数を調整する。イメージとしては2台の扇風機を少し離して向かい合わせにし、片方の電源を入れるともう片方の扇風機がスイッチを入れていないのに回るのと理屈としては同じ。動力伝達時にロスが発生してしまう。また、ステップ式ATの場合、基本的には設計段階で「あまり気にならないレベルには抑えられて」いるものの、主にギアが高くなる際の変速ショックは基本的に避けられない。この現象は3速~4速などのギア段数の少ないモデルに顕著で、~00年代初頭までの軽自動車の廉価グレードATモデルなどに散見される。

湿式多板クラッチ式

エンジンからの動力伝達にトルクコンバータを用いず、オイルで濡らした複数のクラッチ板を油圧でコントロールして中継する方式。トルクコンバータ式と比較すると動力伝達時のロスを抑えることができる。


○変速機構による分類

遊星歯車式

トランスミッション内部にリングギアやピニオンキャリア、サンギアの回転を制御するブレーキ機構やクラッチ機構を備え、それらを油圧などで動作させて段階的に減速比を切り替える方式。
廉価車は3速や4速、大衆車は5速・6速、高級車では7速や8速、大型車では12速というのもある。

平行軸歯車式

平行軸に保持された歯車の組合せを異なる減速比で複数持ち、トランスミッション内の湿式摩擦クラッチを油圧で動作させて変速する方式。遊星歯車式よりも減速比の組合せに自由度が高いのが特徴。主にホンダの「ホンダマチック」がこれ。

無段変速機

略称CVT(Continuously Variable Transmission)。プーリーや駒形ローラー、油圧・発電電動機構、ゴムやスチールのベルトやチェーン等を用いて無段階に減速比を変化させる方式の総称。プーリーの範囲内ではギア段数が無限と呼べるため、エンジンの回転効率が最良のポイントをトルクや速度に変換し続けられるのが利点。そのためシチュエーションにもよるが燃費向上に大きく寄与する。構造上、ドライブレンジでの変速ショックが存在しない。
欠点として、ギア段数の無限化の代償としてプーリーやチェーンベルトを用いる構造上、ミッション駆動に“滑り(スリップ損失と呼ばれる)”が発生するため、伝達効率は最も悪い。
また一般的なトルクコンバータ+遊星歯車なATと比較すると、電子制御関係、CVTF(CVT用フルード)の注入量や管理等がややシビアなものとなる。

CVTが世に出始めた電磁クラッチを用いた初期のモデルはクリープ現象が無かったり、走行距離10万kmにも耐えられないようなものがあったが、現在はロックアップ付きトルクコンバーターの採用や電子制御の発達などで伝達効率や耐久性が大きく向上している。

DCT

デュアル・クラッチ・トランスミッションの略。機構的にはMTがベースである。
変速機内部に奇数ギアと偶数ギアを受け持つ2組のクラッチが入っており、次のギアを噛み合わせておいて変速時に片方のクラッチを切ることでショックのない変速を実現する。空走時間が少ないスピーディーな変速が得意で、スポーツカーへの採用が多い。運転手が自分で好きなギアを選べる。
最近のバイクだと大型によく搭載されている。


自動化マニュアルトランスミッション(セミオートマチックトランスミッション)

最近流行りのAMT(Automated Manual Transmission )。旧来のマニュアルトランスミッションにアクチュエーター等を備えてクラッチや変速操作を自動化させており、RMT(Robotized Manual Transmission)とも2ペダルMTとも呼ばれている。
自動変速なのにマニュアルトランスミッションというのも奇妙な気がするが、クラッチペダルが無いのでAT限定でも運転できる。
変速コンピュータが車速などに応じて電動や油圧でクラッチと変速を自動でコントロールする。運転手が自分で(ある程度だが)好きなギアを選べる。主に欧州の小型車や大型トラック、バスに搭載されている。国産車だとスズキのAGS(Auto Gear Shift)が有名。

○操作方法

ATの操作部はセレクトレバーまたはセレクターと呼ばれ一般的にはレバータイプのものが多いが、大型バスではボタン式、トラックではダイヤル式のセレクターもある。
(出典:Wikipedia


これは三菱ふそう販売するの大型バス「エアロスター」の装備するセレクター。現在入っているギア段数がセレクタのモニタに表示されるという親切設計。同じセレクターは日野のブルーリボン、いすゞのエルガといった大型路線バスを中心に装備されている。

乗用車であればP→R→N→D→段数固定レンジの順で並んでおり、エンジンを始動する時と駐車する時はPレンジに入れ、バック走行時はR、通常の前進走行ではDレンジに入れる。エンジンブレーキが欲しい時には段数固定レンジに入れる。Nレンジは原則使用しないが、平坦な場所での信号待ちの時なんかに入れてる人も多いのではないだろうか。

各レンジの解説

  • Pレンジ
停車・駐車時に使用するレンジ。エンジンとタイヤの動力系は切り離され、変速機の内部で駆動系がロックされる。原則として大型車にはPレンジは無い。
エンジンを切る時にはPレンジに入れないとバッテリーのスイッチまで切ることが出来ない。

  • Rレンジ
バック走行時に使用するレンジ。

  • Nレンジ
ニュートラルレンジ。普段は使用することのないレンジ。故障時の修理工場への搬送やカーキャリアへの積載などのための手押しやレッカー牽引などのためにミッション内部のギアの噛みあわせを解除するために使用する。

  • Dレンジ
ドライブレンジ。通常走行時に使用する。

  • 段数固定レンジ
エンジンブレーキが欲しい時に低いギア段へ固定するレンジ。表記はステップAT車では3・2・L、CVTではS・Bなどとなる。ちなみにプリウスの段数固定レンジに相当するレンジの表示は「B」である。

  • シーケンシャルレンジ
段数固定レンジと同義だが、こちらは基本的に頻繁に手動変速を行いたい時に使用する。
プラス表記とマイナス表記のレールがあり、倒した方向によってギアが上下する。
車種によってはステアリングボタンシフトやハンドル左右の裏にパドルシフトとして搭載することがある。


○セレクトレバーについて


フロアシフト

運転席と助手席の間の床(あるいはセンタートンネル、センターコンソール上)にセレクトレバーを配置するもの。シフトパターンはI型やL字型ゲートが多い。

コラムシフト

ハンドルの横セレクターレバーを配置するもの。センタートンネルやコンソールを妨げることがないため、前席の空間を広く使えるメリットがある。
ベンチシート・コラムシフト(通称ベンコラ)という組み合わせは米国車両がルーツ。
現在も広く用いられている方式だが、腕全体で一方向への力を掛けてセレクターレバーを動かすため、想定したレンジに上手く入らずに通り過ぎたり、逆に手前すぎたりというデメリットがある。クイックな変速には基本的に向かない。
現在ではセレクターレバーの改良が進み、L字型(ダイハツなど)のコラムセレクターレバーを用いて手首の力で加減しつつレバーの進度調整ができるようになったため、操作感は改良されつつある。
メルセデス・ベンツなどはステアリングコラムの右側(日本車ではウインカーレバーの配置されている場所)に小さいシフトレバーを配置している。

インパネシフト

基本的にフロアシフトと同じではあるが、シフト位置をセンターコンソール上に配置したもの。操作性と省スペースを両立させたタイプ。

ボタンシフト/ダイヤルシフト

セレクタがボタンやダイヤルになっているシフト。配置位置はレバータイプよりも自由度が増す。市販車だとボタンシフトはバスや除雪車ぐらいにしか設定がないが、改造キットが発売されており、それを利用することでボタンシフトを導入することは可能。
ダイヤルシフトはトラックの他、一部の外国車でも採用されている。


○大型車のAT

大型車でも近年はATが普及しつつあり、トルクコンバータ式やMTをベースにクラッチの操作と変速を自動化した物などがある。MTだと難しい超多段変速も自動変速であれば運転者の負担を低減しつつ、低燃費を実現できる。例えばいすゞ自動車の「スムーサーG」では12速ATを実現している。

○AT車特有の現象

AT車特有の現象に「クリープ現象」がある。これはMT車で言う半クラッチの状態であり、パーキングレンジやニュートラルレンジ以外にレバーが入っている限り、ずっと動力系統がつながっているため、車は微速で進行しようとする働きがある。
つまり信号待ちなどでは、ブレーキを踏んでいないと前方の車両に追突してしまう。一方、このクリープ現象を活用して車庫入れや渋滞時の微速進行などがラクにできる。

○燃費について

まず前提として、かつてのAT車は3~4速などのギア段数が少ないものが多かった。
これは主にコストの問題が関係しており、変速機としてのMTを製造するよりもATを製造するほうが部品的コストは高くつくためであり、段数はMT車両よりも1~2段分少ないものが一般的だった(黎明期のAT車両においては、2速設定すら存在する)。

MT車両の5速~に比肩するように多段ギア化し始めたのは00年代以降…と、自動車史としてはかなり最近の出来事である。

ギアとは「加速寄りにしたければギア比率を低く」「巡航(最高)速度寄りにしたければギア比率を高く」のどちらかに設定する必要があり、二者はそれぞれ変えることの出来ない排他的存在であった。

例えば、ギア比を低くすると加速性は高まるが、そのままの流れで巡航時のギアにも用いていってしまうとエンジン回転数が極端に高い「うるさくただの燃費の悪いクルマ」になってしまう。
逆に、ギア比を高く設定すると巡航速度は期待できるものの、発進から巡航状態に至るまでの間の加速が著しく劣悪になる…といった状況が起きるためである。

設定段数内のギア比率の組み合わせ方によってある程度カバーすることができるが、ギア段数が少ないということは、加速・巡航のどちらかにおいて不利になるということでもある。そのため最低でも4速、一般的には5速の段数が用意されたMT車両と比べると、AT車両はギアの1段1段においてエンジンを高回転駆動する時間が長くとられてしまうため、これとプラスしてAT車両特有の伝達効率の悪さが『AT車はMT車と比較して燃費において不利』と言われる原因そのものの正体であった。
*3

しかし本項目で記述してきた通り、年月を重ねることでさまざまなATの形式の開発が進み、平行してコストも大きく抑えられるようになった。
そうして現在では、逆にMT車よりもギアレンジが広く存在する車両が決して珍しいものではなくなった。
特に2010年前後にはほぼすべてのメーカーでCVTが広く用いられるようになったのもあり、最大の課題だった燃費問題をクリアーし、逆に『MT車両よりも燃費が良い』とまで呼べるようになった。それだけではなく「(免許を持っていれば)誰でも運転でき、操作が簡便なことから運転の仕方による振れ幅が小さくなる」といった点から『(余程大きくラフな運転をしない限り)誰が運転しても燃費に関して一定の値が出せる』ことも見逃せない。ただし現在ではそもそも比較すべきMT車両が激減していることもあり、比べることすら出来ない、という点もある。


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最終更新:2025年04月19日 11:12

*1 一部のEVは通常モード、高速モードという感じの変速機構はあるが操作感覚は変速機というよりも切り替えスイッチである。

*2 エンストがある関係でMTでは搭載が省かれたり、搭載されていても機能を大幅に制限されている。

*3 ~90年代中盤までの「同エンジンのグレード、かつATとMTのそれぞれが存在する車両」のメーカーカタログなどが提示する燃費の比較を行うとどれくらい燃費に差が出るのかが分かりやすい。