マニュアルトランスミッション

登録日:2017/10/15 Sun 11:15:42
更新日:2025/04/18 Fri 17:45:07
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マニュアルトランスミッション(MT)とは自動車バイクの変速機の一種で、運転手が車速などに応じてギアを手動で変速するトランスミッション。

対になるものとして、自動で変速が行われる変速機はオートマチックトランスミッション(AT)である。


○概要

まず、自動車のエンジンというのは動いていない時が一番力が出ないという性質がある。このため、停車した状態からいきなり走ろうとしてもタイヤを回して車体を動かすだけのパワーが足りなくなって動かない。
そこで、ギアの減速比…簡単に言えば小さな歯車で大きな歯車をノロノロ回すとパワーが上がる原理を利用してタイヤが回るまで動かし、勢いが出てきた辺りから歯車を徐々に小さいものに切り替えてスピードが出るようにしていこうという仕組みである。
だからといって回るエンジンに繋がったギアを単に切り替えようとしてもゴリゴリ引っかかって最悪折れてしまうし、そもそも走り始める瞬間は一番低いギアですら回せない位パワーが出ない。なので、ギアとエンジンをパッと切り離したり、走り出しに接続を微調整できる様にクラッチが付いているのだ。

一般的には減速比が異なる歯車の組を変速段数と同じ数だけ持つ。例えば5速MTなら5組、6速MTなら6組、7速MTなら7組…という具合。
一般的な乗用車は1速から3速などのようにギアを飛び越して変速出来る物もあるが、オートバイやレーシングカーの一部などを中心に、隣り合うギア同士でしか変速できない物もある。
(オートバイは基本的にドグミッションに相当し、レーシングカー等の場合はシーケンシャルシフトパターン機構を用いたマニュアルトランスミッションに相当する。)
トラック用では変速段数4速×副変速機2段+スーパーロー2段=18速なんて超多段MTもある。

○運転操作方法

1.発進時

クラッチペダルを完全に踏み込んで(バイクなら左手で握って)動力を切断し、ギアを1速に入れ、アクセルペダルを軽く踏んでエンジン回転数を上げ(車両によって異なるが概ね1,500回転前後)、その状態でクラッチペダルを徐々に戻していく。
この時クラッチペダルが特定の位置まで戻ると、エンジン回転数が下がり車体がゆっくり動き出すポイントがあり、そこでクラッチペダルを止めると「半クラッチ(通称:半クラ)」の状態となる。
車体およびエンジンの振動や、回転数の変化、クラッチペダルからの感触*1等から充分に動力が伝わったことを確認したら、半クラッチの位置から再びゆっくりとクラッチペダルを戻していき、クラッチペダルからは足を離す。その後必要に応じてアクセルを踏み込み、加速する。
低速トルクがめちゃ強い車種ならアクセルは必要ないので注意。

2.加速と変速(シフトアップ)

アクセルを踏み込んで回転数と速度を上げていき、適切なポイントでギアを上げる。
ここでは 1.発進時 の続きととらえて、1速から2速へ上げるものとする。シフトパターンは車種によって異なるものもあるため事前の確認が必要であるが、一般的には

 ① ③ ⑤
 ┃ ┃ ┃
 ┣━N━┫
 ┃ ┃ ┃
 ② ④  ®

このようになっているものが多い。
1速から2速へ上げるため、シフトレバーを①の位置から②に引き下ろせば良いことが分かる。

バイクだと
↑ ⑤
↑ ④    ∥
↑ ③    ∥  ←足
↑ ②⊂===」
|↓N●━━━━○
↑↓①

のリターン式がオーソドックス。ギアをあげるときはつま先を●の下にいれて上げていく。すると①→②になる。

まずアクセルペダルから足を離してクラッチペダルを完全に踏み込み、動力を完全に切断してからシフトレバーを①の位置から②の位置に引き下ろすように操作してギアを上げ、クラッチペダルをゆっくり戻していき、動力を再接続する。クラッチペダルから足を離したら再度アクセルペダルを踏み込んで加速していき、エンジンの回転数と音、車速のバランスを考えながらシフトアップしていく。

変形パターンで多いのは左上がリバース、左下が1速になっているパターン。
これはレース用のに多く、レースで一番使う2-3速を縦に並べる事でシフトミスを防ぎやすくなるという理由がある。
6速車だと、リバースの位置は6速の右か、1速の左で派閥がある。
またリバースに入れる時は、レバーを引っ張ったり押し込んだり、シフトノブの下にある専用のノブを引きつつ入れるなどのフェイルセーフがある車も多い。
走行中に誤ってリバースに入れると大惨事ですからね。

3.減速と変速(シフトダウン)

減速したい場面に差し掛かったら、ブレーキペダルを踏んで減速していく。
すると回転数が落ち込むため、減速の完了後はどういう走行状況になるかを予測し、ギアの段数を下げる。
例として『交差点を曲がるために5速で50km/hの巡航からの減速で20km/hまで落とした』とすると、その後交差点の先での加速もしくは低速巡航、再度の右左折等を考慮して、落ち込みすぎたエンジン回転数を適正な値まで戻してやる必要がある。この場合の適切なギアは、概ね2速ぐらいであるとする。

ブレーキペダルで必要分の減速が完了したらクラッチペダルを完全に踏み込んで動力を切断し、シフトレバーを操作して5速から2速にギアを下げる。
先述のシフトパターンに則ると、右上に5速があり左下が2速であるため、右上5速から左下2速へ『┏━┛』とたどるように動かせば良いことが分かる。
バイクなら5→4→3→2と「→」が3つあるので3回ギアペダルを踏めば2速になる。
2速にギアを下げたらクラッチペダルをゆっくり戻していき、クラッチペダルから足を離してシフトダウンは完了となり、その後の走行に対応していく。


補足

半クラッチはバック時や渋滞等の状況において微速で進みたい時に重宝するが、あまり多用しすぎるとエンジン側フライホイールとクラッチプレートとの摩耗(削れる)が長時間・多負荷になるため、寿命を迎えやすくなる。
また、必要以上に回転数を上げて(逆に回転数が下がっている状態で)クラッチをつなごうとしても同じく摩耗が激しくなる。

回転数が足らずにクラッチをつなごうとすると「物体(車両)がその場で静止している状態(抵抗)>エンジンからタイヤへ伝わる路面を蹴り出す力」となり、エンジンがストール(失速、失火)する。
これがエンジンストール、通称『エンスト』である。

エンジンを始動させる際は、クラッチペダルを踏んでからキーを回す(エンジンスタートボタンを押す)ように教習所では指導される。
これは1999年から新車MT車へ誤発進防止のためにクラッチペダルを踏んだ状態でないとセルモーターが回らないように機構が構成されているから。
それ以前の車両では勿論シフトがニュートラルであれば始動は可能である。

駐車時は、運転教本通りに行う場合ではギアを1速かリバースギアへ入れてサイドブレーキを掛ける。ギアをNにしてサイドブレーキだけ掛けて駐車している人も結構居る。
雪国や酷寒地ではサイドブレーキを掛けず、1速かリバースギアに入れた状態で車輪止めをするだけというのが多い。*2

法律的な定義は「クラッチを運転手が操作する必要がある車はMT、クラッチの操作が必要ない車はAT」である。つまり走行中速度に応じてギアをガチャガチャやる必要はあるけどクラッチは操作しなくていい車両はオートマである。


メリット

  • 「自分で乗り物を操作している感じ」が得られる。
  • 変速を要する場面を中心に運転に集中しやすく、要所での事故の発生率が低い
  • 伝達効率が高く、構造的に部品点数や重量の面でATと比較して有利
  • 仕組みが単純なので値段が安く、万が一出先で壊れても工場ですぐに直せる
  • バイクなら車体を細めに作ることができる
  • ドリフト走行など特殊な操作を行いやすい(※但し危険行為であり、競技以外(公道)で行うと危険運転として罰せられる。且つ車両の急な摩耗を招くため特殊な状況と細かなサポートが必要)

デメリット

  • 操作する手数が多いので、面倒
  • 操作ミスを招きやすく、操作ミスを防止する仕組みを組み込むのが困難。ありがちなのは大半のMTは現シフトが表示されないことが主流なので、頭の中と実際のシフトとズレて操作ミスというのはMT経験者ならあるあるネタ*3
  • かつてはMTの方が燃費がよいとされていたが、技術の進歩によりその差はほぼなくなっている。近年はむしろATの方が燃費がよい場合が多い。(後述)
  • 渋滞時はアクセル操作とともにクラッチ操作も行わなければならず、忙しい。特にクラッチが重い車種では苦行そのものである。
  • 本来運転中は運転に集中すべきではあるが、現実的には喉が渇いて一口飲み物や眠気覚ましに一口食べ物を、といったモノを取るなどの行動は難しい
  • 曲がり角が多かったり、発進停止を頻繁に繰り返す街乗りだとやや疲労しやすくなる(特に信号機が多く、そして狭い日本の道路事情では顕著)
  • 変速ミスをするとかえって燃費が悪い。
  • 燃費向上のためにギア段数を多段化すると、その分だけ運転操作が大変になる
  • バイクだと左足先が痛くなりがちなのでライディングシューズが必須になる。
  • 変速中はクラッチを切ることで動力がつながっていない瞬間が多くなるため、速度アップの効率は若干落ちる。変速が多すぎるとかえって効率が悪い(これも街の道路事情や坂の多い日本の道路事情では顕著)
  • 衝突軽減ブレーキシステムなど安全運転支援システムの搭載が難しい。搭載されている車種もあるにはあるが、少数派な上利便性や機能はAT版より劣る。

○普及状況


MTはATと異なり、構造がシンプルで安価なこと、動力伝達効率が高い事からかつてはMTが標準でATはオプション設定としていることが多かった。
しかしコンピュータ制御の技術向上やトランスミッションの多段化により普通に運転する人はより楽になり、高速道路の進入時の加速など鋭い走りが必要な時も走りがダルくなくなりスポーツ性のあるテイストを体験をしたい人向けの需要にも対応できるようになったことをからATが普及。
例外的な世界だが、F1も諸々の都合からかなり早くからセミATが普及した。
趣味性の高い高級スポーツカーやトラックやバスなどの商用車や軽貨物車はMTが残っていたものの、時代の変化でこれらもAT化が進んでいった。
そんな中でもMTが欲しい!という声もありはしたものの、本当にMTを出したところで買ってくれる人はほとんどいない=販売実績に貢献しないという現実でどんどんラインナップが縮小。
もはやMTは「金に糸目はつけないからとにかくMTが欲しい!!」というお金を持った趣味性の高い層に向けになんとか残されているような状況で
今や限定的なグレード・車両でしか見られない。

逆にバイクだと趣味で乗ってる人が大半なのと車体の取り回しからMTがまだまだ主流。しかし大型だとDCTや大型〜中型ではクラッチ操作を完全に自動化するシステム*4の市販化という細さを維持したATの一種が多くなってきており、こちらも普及は時間の問題であろう。


自家用車


1980年代以降ATが普及し、MT車のシェアは2%程度にまで落ち込んでいる。
ただしヨーロッパではATに対する理解があまり進んでいないのと、交差点や信号が少ないためか国内向けではATしか設定のない車種でもヨーロッパ向けはMTを設定していることがある*5
というのも長距離一定速度移動が多いので、特定のギアにホールドしたまま動かすのならMTの方が燃費がいいというのもある。

自家用車ではすっかり影が薄くなってしまっているMT車だが、メーカーも決して技術革新や新規投入を怠っていないわけではなく、トヨタが変速時のショックを低減するエンジン制御プログラムを組み込んだMT車を発売したり、コンプリートカーとしてMT車を発売していたりする。
後マツダが運転の楽しさという点から、MTを新規開発したのには業界から驚かれた。

しかし、2020年代から段階的にMT車との相性が悪い安全運転支援システムの搭載が義務付けされた。
義務は新(型)車なため、中古車は除外だったり、既存生産車も猶予は長いもののその性質上後付けが不可能なため、MT車の居場所はますますなくなっていく運命となることになった。
欲しいMT車があれば迷わず手に入れておいたほうがよいだろう。

商用車


信頼性やコストの問題からMTが主流だったが、バスにおいては2000年代後半よりトルクコンバータ式AT(トルコンAT)、自動クラッチ式MT*6がエンジンのダウンサイジングと同時進行で普及した。
路線バスは割と早い段階からメーカーがAT車を用意していたものの、数を揃える関係上高価なAT車は敬遠され、AT車を好き好んで入れるのは事業規模がしっかりしている公営バスぐらいだった。しかし2010年にマイナーチェンジを行った三菱ふそう・エアロスターをきっかけにMTの廃止が進み、MTの設定を残していた日野・ブルーリボンⅡ、いすゞ・エルガツーステップ、三菱・エアロミディが2017年に製造中止となり、マイナーチェンジのタイミングが少し遅れた日野・ポンチョがMTを廃止するマイナーチェンジを行ったことで路線バスからMTの設定が消えた。

一方観光バスや高速バスは長距離一定速移動が多いのと長距離運行先での故障対応などの問題からMTが主流となっていたが、2005年に日産ディーゼル・スペースアロー、スペースウィングがトルコンAT化を達成。2017年には三菱・エアロエース、エアロクィーン、日野・セレガ、いすゞ・ガーラ9m車がそれぞれAT化を達成。翌年にはセレガ・ガーラの12m車も廉価版以外ATを選択できるようにした。

貨物用のトラックもAT化が着々と進んでおり、レンタカーとしてよくラインナップに含まれる普通免許や準中型免許で運転できる小型トラックについては既にATがメインである。
中型・大型トラックは少しずつATが普及している。
ある程度排気量の大きなエンジンを搭載しているのもあってか、最新の排ガス規制であるポスト・ポスト新長期規制施行後もMTの設定が残されている車種が多い。中には一旦ATオンリーに移行したのにMTを後で追加設定した車種もある。
なおトラック用のATの中にはクラッチペダルを供える物があるが、発進停止の時や停止位置の微調整など限られた場面でのみ使用する。


ただし同じ商用車でも自家用車とコンポーネントが共通化出来るタクシー車両はほぼAT化が完了しており、MT車は一部事業者・車種をオーナーが自由に選べる個人タクシーに僅かに残存する程度になっている。

軍用車両


過酷な戦場で使われる軍用車両(装甲車・戦車・輸送用トラックなど)もかつては最前線で故障してもすぐ修理できるMT車が主流だったが、
  • 片手片足を負傷した状態でも運転できる事
  • ある程度自動車を運転できるのであればたとえ操縦訓練を受けていなくても運転できる事
  • エンジンの大馬力化によって手動変速が困難になった
などの理由により、今や戦車ですらATになっている。
変速するとシフトレバーが襲ってくるという事は現代の新型戦車では起き得ない事になった。

バイク


1970年代前後よりAT車両が存在するようになったが、2020年現在でも依然としてMT車両が圧倒的多数を占める。
これはオートバイ自体の趣味性の強さ等の問題もあるが、実用的な車両(例えば著名なホンダ・スーパーカブなど)に対しても同様で、変速操作は強制的に求められる。(但しクラッチレバーは存在せず、自動遠心クラッチのため小型二輪AT限定免許等での運転も可能。)
オートバイでは機関・駆動系統・車重などについて自動車よりもシビアに見られる傾向があり、それらに割けるスペースや機構について大きな制約がかかる等の面も小さくはないため、依然としてMTが主流であるという経緯がある。
しかし、2024年になって「既存のMT車にクラッチ操作を自動化する機構」が量産され始めたたことで「スポーツバイクのAT車」が登場するようになった。
まだ登場したばかりなのでどのように発展・売上になるかは未知数ではあるが、バイクのATと言えば後述の通りスクーターだけという状態から大きな変化を与えた。
ちなみに販売上はグレードの一種という扱いなので、MT版が欲しければシステムが無い方を買うという手段も残されている。

ちなみにスクーター系、ビッグスクーターなどのジャンルに関しては、その用途や乗車姿勢などからATが主流となっている。

レースカー


レギュレーションを満たすために変速は手動で行うことが多いが、その際のクラッチ操作ほぼ絶滅している。
というのも電子制御の発達により、シフトチェンジのクラッチ操作が自動化されてしまったためである。
なぜこのような機構が使用されているかという理由に関しては、「デメリット」の項目でも書いたがクラッチを切っている間は動力がつながっていないという部分が大きい。クラッチを切れている時間=ただ車輪が転がってるだけの状態で、どう頑張っても加速することができない。そのため、レーシングカーとしては少しでもクラッチが切れる時間を削りたいのである。
モータースポーツというのは、アクセルとペダルで加速と減速を瞬時に切り替えたり、マシンの姿勢や動きをコントロールするために両方のペダルを同時に踏むことも珍しくないため、カートのように左足でブレーキペダルを踏むドライバーも多く、クラッチ操作を自動化できればより繊細な運転が可能になるのである。

更にF1やmotoGPになると一瞬2つのギアを同時に噛ませて極限までシフトタイムを短縮する「シームレスシフト」という機構まで導入されている。
開発や機構に物凄いお金がかかるアレなので、他のカテゴリーでは名指しで「同時に2つのギアが噛むミッションは禁止」として抑制しているほど。

ドライバーはシフトしたい時にシフト用のなにか(大抵はステアリング裏のパドル、カテゴリや規定次第ではシフトレバー)を操作すると「クラッチを切るor点火をカットする→ギアを入れ替える→クラッチを繋ぐor点火を再開する」までオートで行ってくれる。
そのため上のカテゴリー程かなりハイペースでシフトを切り替えているところを見ることができるだろう。
上にもあるシームレスシフト導入のF1では約1秒で7速→2速まで落ちる。

また副次的な効果として運転の姿勢を変える必要がなくシフトアップ/ダウン操作がわかりやすいため運転に集中しやすくシフトミスも防ぎやすいという大きいメリットも得られる。
一応「シフトシステムを作動させないとシフトが変わらない」「0発進の時はクラッチを自分で操作しなければいけない」という所は残っているのでMT。ただし、本来のMTやAT区別するため「セミAT」という名称が使われるケースもある。

なおフォーミュラカーはクラッチもペダルではなくパドルで動作させるものが多い。理由としては、狭いフォーミュラカーのコクピットに3つのペダルを並べるのは窮屈だから。昔はペダルを減らせばペダルボックスに必要な空間が小さくなることで、モノコックを細く軽く作れるというメリットもあったが、コクピットの寸法が厳しく規則で決まっている現在ではあまり意味がない。
しかし、それでもフォーミュラカーのコクピットが市販車の運転席と比べものにならないほど狭いことに変わりはなく、レース中ほとんど使わないペダルが脚元にあるのはドライバーにとって邪魔であるという要因が大きいのだろう。

市販車との繋がりが深いGT3/GT4車両やラリーカーは一応クラッチペダルは残してあるが、実際のレース中にはほぼ使われない。
ドリフト競技では進入時に回転を上げるために蹴っ飛ばしたり回転を高く保つために半クラを繰り返す*7ため、普通に使用されている。

勘のいい人だとニュートラルの方法が無いように感じた人もいるかもしれないが、
これはパドルとは別に専用のスイッチを押すとニュートラルになるという方式が主流。
ずっと走りっぱなしなのに使いどころあるの?と思うかもしれないが、レース外では車は人力で押して運ぶことが殆どなので
ニュートラルの存在意義は十分に残っている。
さらにレーシングカーにもリバース(バック)のギアがちゃんとついているのだが*8誤動作防止のためにシフトレバーだけでは入らない事が多い。
単純にリバースボタンがある車種から、停止後にスピードリミッターボタンを押しながらシフトアップとシフトダウンを同時に引くなど、メーカーによって色々別れている。

○AT車とMT車の燃費について


部品の重さと変速精度などからATはMTに比べて燃費が悪いというのが通説だった。しかし現在の車種であればむしろATの方が燃費がいい事が多い。
これはMTは燃費の測定試験の際にどんな車種も共通の変速パターンを使うのに対し、ATはDレンジに入れた状態で測定をするためであり、
AT車の車載コンピュータが車速に応じた最適な燃料噴射制御などを行うことからカタログ上での燃費が良くなるという理屈もあるのだが、
技術の進歩により変速の精度が増している上に、エンジン制御に合わせた変速や無駄な動作のキャンセルが出来るようになったなど、年々改善されていったためでもある。

街乗りや様々な道路状況、ヒューマンエラー等の可能性も考慮していくと、熟練のドライバーですら(燃費面で)完全に理想的な変速を行うことは不可能と言っても良く、
変換の回数だけ空走期間の差が長くなり、MTだと発進するときにクラッチをつなぐ前に回転を上げる必要があったり、変速ショックを和らげるために回転を合わせようとすることも有るため、実効燃費も近年のATが平均的にも上回るケースが多いとされている。
依然として機械的ロスが無かったり軽量な点ではMTの方が優位なため、非常に稀な条件となるが熟練者による運転とMTで無駄が生じにくい道路などの条件が重なっていれば、MTの方が燃費は良くなる。

○シフトレバー


フロアシフト


運転席と助手席の間の床にシフトレバーを配置するもの。シフトパターンはH型が多く、ごく一部前後にしか動かさない(シーケンシャル)ものがある。
乗用車やトラック、マイクロバスのシフトレバーは大体これ。

コラムシフト


ハンドルの横にシフトレバーを配置するもの。かつてのタクシー車両で多く、前をベンチシート3人がけにして乗車定員6人を確保することが出来た。
しかし、安全性の問題からベンチシート・コラムシフト(通称ベンコラ)という組み合わせは新車ではほぼ見られなくなった。
入っているギアが分かりにくいというデメリットも有る。

インパネシフト


インパネにシフトレバーを配置するもの。コラムシフトに比べてギアがどこに入っているか分かりやすい、キャビン(車内客室)を大きく取れるというメリットがある。

フィンガーシフト


リアエンジン・リアドライブのバスに多いMTシフトレバーで、ギアをシフトレバーから直接操作せずにリモコンで遠隔制御するもの。
運転席にあるシフトレバーはただのリモコンに過ぎず、変速を行うとコンピュータに指令が送られギアが圧縮空気で変速される。
操作方法自体は普通のMT車と変わらないものの、ギアチェンジにも圧縮空気を使うため温暖な地域でも長時間の駐車時にはギアをニュートラルに戻し、駐車ブレーキをかけて車輪止めをするのが大きな違い。
またスピードとエンジンの回転数が合わない無理な変速操作を行うと変速がキャンセルされ、ニュートラルに落ちてしまう。具体的にはエンジンの回転数がレッドゾーンに突入するような急激なシフトダウンは出来ない。
基本的な技術は各社共通なものの、メーカーごとに変速時の音の味付けが異なるのが特徴。特に人気なのは日野製の「ツー・カツー」という音。

パドルシフト


ミッション自体はMTだが、電動か油圧制御でシフトレバーを動かすタイプのミッションと組み合わされる。ハンドルの裏に板(パドル)をセットし、それを引っ張ることでシフトする。たいてい右手側がシフトアップで左手側がシフトダウン。
ラリーカーはハンドルをぐるぐる回す必要があるため、右に大型のを一枚用意し、手前に引くとシフトアップ、奥に押すとシフトダウンとなっている場合も。
主にレースマシン用だが、パドルシステム自体は単なるスイッチなので、他のミッションと組み合わされる場合もある。日産GT-R(DCT)とかマツダの車(トルコンAT)とか。
また、何らかの理由により、両手のみで運転せざるを得ない人のために作られた車にもパドルシフトが搭載されていることがある。一例として、レーシングドライバーのアレックス・ザナルディは、レース中の事故で両足を切断してしまったため、レースに復帰する際、本来ならシフトレバーがついているレーシングカーをパドルシフト化した上で、レースに臨んでいた。
これは、本来足元のペダルで行うアクセルやブレーキの操作をステアリングに取り付けられたレバーで操作する関係上、シフトレバーで変速を行うと、その間のアクセルやブレーキの操作に支障をきたしてしまうため。そこで、パドルシフト化することで、「左手・シフトアップ、右手・アクセル、ブレーキレバーに付いたボタン・シフトダウン」と、スイッチなのを活かし移設されている。

○古いMT車向けのテクニック


古いMT車に必要なスムーズな運転のために活用される技術や、車体及びトランスミッションを長く使っていくための技術を列記する。
…ただしこれらは旧車*9どころか現代だとクラシックカーに含まれかねない70年代からそれより前の車両向けのテクニックである。

ブリッピング


高いギアから低いギアに下げてクラッチをつなぐと、変速ショックとともにエンジン回転数が跳ね上がる。その際は半クラッチを用いることで変速ショックをわずかにやわらげることができるが、ゼロには出来ず車体の姿勢変化にも影響を及ぼす。それを防ぐため、クラッチをつなぐ前にアクセルペダルを煽ってエンジン回転数を上げてからクラッチをつなぐことで変速ショックと姿勢変化を抑えることができる。

例として「5速50km/h・1,600回転の状況から3速へチェンジ」のような場合に、3速に入れた時の回転数(この場合、仮に3,000回転とする。)を正確に把握しておき、アクセルペダルを瞬間的に煽って3,000回転までエンジン回転数を上げてからクラッチペダルを繋ぐ。
こうすることで素早くクラッチペダルを素早く離してつないでも変速ショックが小さく、その上でスムーズなエンジンブレーキも得ることができる。

各ギアの速度と回転数の関係を正確に把握し、運転操作に熟練したドライバーであれば、ブリッピングを行うことで変速ショックと姿勢の変化を『ゼロ』にもっていくことも可能。

ヒール・アンド・トゥ


減速中にシフトダウンを行いつつ、先述のブリッピングも同時に行ってエンジン回転数も合わせる技術。

3つのペダルとシフトレバーを同時に操作するため、その操作を文章で表すと
『右足のつま先でブレーキペダルを踏んで減速しつつ、左足でクラッチペダルを完全に踏み込んで動力を切断。左手でシフトレバーを操作しつつ右足を内側捻り(内股のように)しつつ右足のかかとでアクセルペダルを煽り、左足のクラッチペダルを素早く離す』
という形になる。
かなりの練習とセンスが求められるので最初はブリッピング→普通にブレーキで慣れよう。

バイクだと四肢全てを使うので幾分は楽だが無理はしないように。

ダブルクラッチ


ミッション内のインプットシャフトの回転数をアクセルを煽ってコントロール・同調させる技術。主に減速時に使用する。
これを行うことで、シンクロナイザーリングが摩耗したトランスミッションでもギア自体に大きな損耗や異常がなければ変速することができる。
後述のノンシンクロトランスミッションにおいては必須の技術。

操作としては『クラッチペダルを完全に踏み込んで動力を切断し、シフトレバーをニュートラルにした状態で一旦クラッチペダルから足を素早く離して動力を再接続し、アクセルペダルを煽ってトランスミッション内の回転数を正確に調整して素早くクラッチペダルを完全に踏み込み、シフトレバーを操作して目的のギアに入れる』というもの。
普段からトランスミッション内の回転の関係を正確に把握しておくことが必要となる技術。

シフトの操作


シンクロナイザーリングは設計的に消耗品ではあるが、ミッションオーバーホールがATと比較して安価に済むとは言え10万単位の費用がかかるため、金銭的に言えば高額ではある。そのため、普段からシンクロナイザーリングの負担を減らす操作ができれば寿命は飛躍的に延びる。
具体的には「シフトアップ/ダウン時にシフトレバーをゴリッと押し込むように入れない」ことである。ましてや、シフトレバーを叩き込むような素早い操作はスポーツ走行でもない限り、機械的には避けるべきである。

目的のギアに入れたい時に、シフトレバーは軽い力で優しく押し当てるようにする程度にしておくと、回転が同調した際に吸い込まれるようにシフトレバーが導かれてギアが入る。シフトアップ時はニュートラルで一拍おいてからゆっくり操作するのもよい。
これを行うことでシンクロナイザーリングの回転同調負荷が減る。後続車のいない直線等の“操作に余裕がある時”に行うと、安全かつ効果的。

○コラム


現在、MTといえばほぼ例外なくシンクロメッシュ式トランスミッションであり、クラッチを踏んでいれば他に特殊な操作をすることなくシフトレバーを操作するだけでギアの変更が可能であり、走行が可能である。
シンクロメッシュとは、それぞれが異なる速度で回転するギア同士の同調を行う機構であり、内部のシンクロナイザーリングという部品がそれにあたる。この同調のおかげで変速の条件は「クラッチを踏んで動力を一時切断していること」のみで済む。

しかし、自動車が普及しはじめた当初はノンシンクロトランスミッションが主流であった。例えば、日本初の国民車としていたるところを走っていた「スバル・360」はノンシンクロトランスミッションである。
つまりその頃は、異なる速度で回転するギア同士の同調はドライバー自身が行なわなければならなかった。
ギア同士の同調がされていない状態でシフトを操作すると「ガガガッ」「ギャー」などの異音を立て、ギアが弾かれ摩耗する。これがギア鳴りである。シンクロメッシュ式トランスミッションでもクラッチが切れていないままシフトを行おうとすると容易に発生する。

このため当時の自動車学校ではダブルクラッチの技術を教えるところも存在し、それはモータリゼーション初期の日本でも極めて日常的に行われていた技術でもあった。

極めて熟練したドライバーになると、クラッチを踏まずにアクセルを離すタイミング(インプットシャフトとカウンターシャフトの噛合力が無くなる瞬間)にシフトレバーを強制的にニュートラルレンジに抜き、シフトアップの場合にはインプットシャフトの回転数低下を見計らってギアを上げ、シフトダウンの場合にはヒール・アンド・トゥ等の技術を併用して減速しながらアクセルペダルを煽り回転数を正確に同調させてからギアを下げることで、クラッチを使用せずにシフトチェンジを行うことができる。

この技術はフロートシフト(ノークラッチ/ノンクラッチシフト)と呼ばれる。
フロートシフトは各段のギア比を完全に把握し回転数調整を完璧に習得している者であれば、全てのギアシフト方法の中で最も速く変速を行うことが出来る。
レーシングドライバーの中にはシンクロメッシュ式トランスミッションの車両であってもこの技術だけを用いてレースを行う者も存在する。
特にラリードライバーは、車両(ミッション)の関係でフロートシフトが必須である。

またクラッチが切れないといった故障の際(発進はどうしてもほぼ不可能となるが)やシンクロメッシュ機構の劣化したミッションを操作するときにも効果を発揮する。

現在でも主に日本国外の運送業者はノンシンクロメッシュトランスミッションを搭載した超大型輸送車両(いわゆるボンネットトレーラーなど)を用いる場合が多数あり、日本国内でも工事現場や重量物牽引車を運転する最に十数段に及ぶギア段数のノンシンクロトランスミッションを操作する場面も存在する。
状況が特殊かつごく一部とは言えレースの場面以外でも決して死んだ技術ではないことに留意されたい。



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最終更新:2025年04月18日 17:45

*1 マスターバック機構のないワイヤー式のクラッチペダルはペダルの踏み込み時の感触が無いことに注意

*2 乗用車クラスの駐車ブレーキはワイヤー式が多く、極端に寒いとワイヤーが凍って駐車ブレーキが解除できなくなってしまう

*3 Hパターンの場合は2→3速など斜めの操作が入る部分でミスしたり、バイクだと1→2速のさい中間のNに入りアクセルを戻したら空ぶかしになる、など。

*4 メーカーによって呼称が異なる。ホンダはe−クラッチ、ヤマハはY-AMTと呼んでいる。

*5 とはいえ欧米も徐々にATが普及しているため、時間の問題との声はある

*6 クラッチの操作だけを自動化し、変速だけは手動で行うMT。ただし近年は変速操作までも自動化されており、実質トルコンATとの差は動力の断絶に関わるクラッチ部分のメカニックの違いぐらいしか無い。

*7 「クラッチを揉む」と呼ばれる

*8 もちろん、レースで普通に走行している時にはなんの役にも立たないが、スピンして真正面に壁がある状態で止まったときや、壁に激突しても損傷が軽微だった時にレースへ復帰できるようにするため、ほとんどの場合レギュレーション装着が義務付けられとる

*9 例えば「古い車」として有名な80年代に販売されたAE86として知られる世代のスプリンタートレノ/カローラレビンは2025年時点で約40年前の車だが、このころの車両でも公道走行では不要なテクニックである。