両面カード/Double-Faced Card(MTG)

登録日:2018/03/16 Fri 16:55:00
更新日:2024/12/13 Fri 18:26:22
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両面カードの項目へようこそ!
この項目では、マジックにおいて人気が高いカードの一つ、両面カードについて説明する。
君は他の項目や最近更新されたページから暇つぶしにこの項目を訪れたのだろうか。それとも、マジックのファンでまさに両面カードについての項目を読みたいとやってきたのだろうか。
いずれにせよ、諸君にここで両面カードについて語れることを嬉しく思う。
それでは、早速はじめよう。

概要


マジックの偉大な発明の一つは、「デッキマスターデザイン」である。
全てのカードで裏面を統一していること、これはマジックにおいて極めて重要なことだ。
諸君の中には「何を当たり前のことを」と思う者もいるかもしれない。しかし、これは本当に偉大な発明だったのだ。
なぜなら、最初のエキスパンションである「アラビアンナイト」発売前には、裏面を変えるという計画だったのだから。
もしその状態で「アラビアンナイト」が世に出ていれば―そしてエキスパンションごとに裏面を変えることが当たり前になっていれば―今のマジックはなかっただろう。
裏面をデッキマスターデザインにしていないカードももちろんある。しかしその殆どはそもそも通常のゲームでは使用できないものだ。(そう、からくりとかね)
だが、「イニストラード」においてマジックの歴史上初めて「通常のゲームで使用でき、しかし裏面がデッキマスターデザインではない」カードが登場した。
それが―これだ。

Gatstaf Shepherd / ガツタフの羊飼い (1)(緑)
クリーチャー — 人間(Human) 狼男(Werewolf)
各アップキープの開始時に、直前のターンに呪文が唱えられていなかった場合、ガツタフの羊飼いを変身させる。
2/2
Gatstaf Howler / ガツタフの咆哮者
〔緑〕 クリーチャー — 狼男(Werewolf)
威嚇(このクリーチャーはアーティファクト・クリーチャーかそれと共通の色を持つクリーチャー以外にはブロックされない。)
各アップキープの開始時に、直前のターンのプレイヤー1人が2つ以上の呪文を唱えていた場合、ガツタフの咆哮者を変身させる。
3/3

残念ながら著作権の問題上、実際のカード画像を貼ることができないためテキストでの説明になることをお許し願いたい。
よい子のみんなは「GATHERER」で検索してみてくれ。日本名、英語名どっちでもOKだ。
表面も裏面も通常のカードのデザインとなっている、いわば「両表面」のカード、これこそがマジックに革新をもたらした「両面カード」である。

両面カードの機能


両面カードは裏面がデッキマスターデザインになっていないため、当然ながらそのままではデッキに入れられない。
このため、「裏面が完全に不透明なスリーブを使う」か、「チェックリストカードを使う」必要がある。
チェックリストカードは両面カードが入っているエキスパンションに封入される特別なカードで、そのエキスパンションの両面カードすべての名前が列記してある。(ああ、分かっているとも。「イニストラードを覆う影」は例外だ*1。)
この中から君がデッキに入れるカードのうち、どの両面カードの代理となるかを「チェック」してデッキに入れるわけだ。
実際にこのカードを唱え(あるいはそれ以外の方法で)戦場に出した場合、チェックカードを実際の両面カードと交換する。
これは戦場以外でもいずれかの公開領域に出た場合は常にそうだ。ゲーム中、非公開領域にある間はチェックリストカードを、公開領域にある間は両面カードを実際のカードとして扱う。

両面カードは通常まず表向きで戦場に出る。
なに、両方表だって? もっともだ。では最初にそちらを表にして出す側を「第1面」、そうでない側を「第2面」と呼ぼう。通常第1面にはマナコストが記載されているため、容易に見分けがつくはずだ。
先ほど出したカードの例ならば、《ガツタフの羊飼い》が第1面となる。
戦場に出れば後は普通のパーマネントだ。《ガツタフの羊飼い》ならば(1)(緑)のコストを持つ、2/2の、人間で狼男のクリーチャー、だ。
ああ、ちょっと昔の話になるが、「イニストラード」で初登場させたときには「第1面」「第2面」ではなく「昼の面」「夜の面」という呼び方をしていたな。
この次元だけであればよかったのだが、他の次元に拡張させたときに問題となってしまった、それで第1面に変更させてもらった。

だが、両面カードの両面カードであるゆえんは、その特性を「切り替える」ことにある。
もう一度カードのテキストをみたまえ。直前のターンに呪文が唱えられていなかった場合、アップキープにこのクリーチャーを「変身」させる、と書いてある。
そう、一見平凡なこの羊飼いは、月夜に狼に変身するのだ!
「変身」はキーワード処理で、両面カードを裏返すことを示す。かくて《ガツタフの羊飼い》は《ガツタフの咆哮者》に変わるわけだ。
両面カードは、パーマネントとして存在している間は今表になっている側の特性しか持たない。
このため、《ガツタフの咆哮者》はマナコストを持たない、3/3の、狼男のクリーチャーで、威嚇を持つ。
一見ややこしいようだが、実際には今目の前で見えているカードの情報だけを参照すればいい、ということだ。大したことではない。
ああ、例外はある。「点数で見たマナコスト」は常に第1面を参照する。《ガツタフの咆哮者》はマナコストを持たないが、点数で見たマナコストは3(訳注:2の間違いだと思われる)である。
これも昔は「第2面である限りマナコストは常に0」という裁定を下していた事もあったな。しばらくやっていなかったプレイヤーとの対戦の時は気をつけてもらいたい。

こうして強力な存在に変身した《ガツタフの咆哮者》だが、直前のターンに2つ以上呪文が唱えられていればまたアップキープに変身してしまう。
昼がくれば《ガツタフの羊飼い》に戻ってしまうのだ。反転カードは1度反転してしまえば再度反転をすることはなかったが、何度も第1面と第2面を行き来しうるのも両面カードの特徴である。
もちろん、怪物から帰ってこれない一方通行の両面カードも存在する、それもホラーだろう?*2

基本的なルールの話になるが、第2面の状態で「追放し、元に戻す」…所謂ブリンクを受けると、第1面の状態で戦場に戻る。
これは「追放して帰ってきたオブジェクトは常に新しいオブジェクトとなる」「戦場に出る時は必ず第1面で出る」の複合系だ。
もう一つルールの話になるが、「第1面、裏向き」という「反転しているが第2面では無い」という状況に陥ることもある。
例えばデッキトップに両面カードがあり、予示でデッキトップを変異カードとして出す場合。当然このカードは「2/2、マナコストを支払う事で表向きになる」だな。
但し「戦場に出ている両面カードは裏返せない」と規定しているため、第1面第2面に関わらず、《イクシドロン/Ixidron》のCIP能力で裏返す事は出来ない。ちょっと分かりにくいかもしれないが許してくれ。
あと、両面カードをコピーする際はその面のみをコピーする。
《ガツタフの咆哮者》をコピーしたら、それは実質的に「0マナ緑色3/3威嚇」のクリーチャーだ。変身すると書いてあっても裏面を持たないので変身はしない。
またしてもめんどくさい話なのだが、「変身する能力を持つ」両面カードが両面カードのコピーになった際、変身条件を満たした場合変身はしないが、変身に伴う誘発能力は誘発する。
例えば《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》のコピーになっている変身能力を持つ両面カードと、普通のカードがある場合、前者は変身に伴い1/1の狼トークンと2点のライフゲインが発生して《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》になる*3。後者は変身するという能力こそ誘発するが、実際に変身はしないのでトークンは出ないしライフゲインも起こらない。


両面カード事始め

最初に述べた通り、このクールなデザインのカードが生まれたのは「イニストラード」までさかのぼる。
ゴシックホラーをテーマにしたこのセットには、その要素の一つである狼男を表現できるシステムが必要だった。
単に種族を狼男にすればどうか? それは単にそういう種族というだけだ。狼男のホラーたるゆえんは一見平凡な人間が怪異の存在に「変身」することである。だからこそ、二面性を表現することはどうしても必要だった。
もちろん反転カードも話題に上った。だが、当該ページを見てもらえば分かるとおり、それは色々と問題があった。
レイアウトは窮屈で、芳醇なフレーバーが表現できず、プレイアビリティにも問題があった。何か別の解答が必要だったのだ。
そのヒントは、意外なところにあった。
そう――デュエル・マスターズだ。

時空の喧嘩屋キル 火文明 (2)
サイキック・クリーチャー:ヒューマノイド 1000
相手のターン中、相手の呪文またはバトルゾーンにある相手のクリーチャーの能力によって、自分のサイキック・クリーチャーが手札に戻される時、そのクリーチャーは手札に戻されるかわりにバトルゾーンにとどまる。
覚醒-自分のターンのはじめに、バトルゾーンに自分のパワー6000以上のクリーチャーがあれば、このクリーチャーをコストの大きいほうに裏返す。

巨人の覚醒者セツダン 自然文明 (7)
サイキック・クリーチャー:ジャイアント 5000+
パワーアタッカー+2000
W・ブレイカー
相手の呪文またはバトルゾーンにある相手のクリーチャーの能力によって、自分のサイキック・クリーチャーが手札に戻される時、手札に戻されるかわりにバトルゾーンにとどまる。

超次元キル・ホール 火文明 (3)
呪文
相手の「ブロッカー」を持つパワー4000以下のクリーチャーを1体破壊する。
次のうちいずれかひとつを選ぶ。
►コスト2以下のサイキック・クリーチャーを1体、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
►コスト4以下の火または自然のサイキック・クリーチャーを1体、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。

デュエル・マスターズのサイキック・クリーチャーはゲーム開始時には超次元ゾーンと呼ばれる通常のデッキなどとは別の領域に置かれる。
そして超次元呪文の効果によってフィールドに登場するのだ。
なるほど、この方法であれば確かに両面とも表であっても何の問題もない。
そして両面が表のカードであれば、ただ裏返すだけで別のものへ「変身」ができる。実にクールだ!
では、これをそのままマジックでやればいいのか?

――ダメだ、ダメダメ。

両面カードだけで新しいルールが必要なのに、新しい領域の定義はルールが複雑になりすぎる。また、専用の呪文と両面カードの組み合わせは、リミテッドで明らかに問題を引き起こすことが予見された。
(リミテッドとはパックを開けて出たカードを使って遊ぶ遊び方だ。セットで使わないと両方とも機能不全を起こすカードの存在は、こうした環境では当然問題になる。セットで使うことを意識したカードが全くないわけではないが、そうしたカードは普通神話レアかつある少数に留められ、また単体でもある程度機能するようになっている。*4)
またそもそも両面カードという「型破り」は開発部で多くの反対があった。(実際、両面カードを嫌っているプレイヤーもいるのだ)
だが、ルール面の懸念点には「チェックリストカード」という解決方法が見つかった。
リミテッドでの問題はパック内に「両面カード専用枠」*5を作ることで解決した。
そして実際に導入された両面カードは、多くのユーザーに驚きと感動をもたらしたのだ。
このシステムが成功したことは、その後何度もこのシステムが再録されていることからも分かるだろう。
事実、イニストラードブロックが始まる時には「なんでこんなシステムを導入したんだ」という苦情で始まり、アヴァシンの帰還では「なんで同じブロックなのに両面カードが入らなかったんだ」という苦情で終わったんだ。
それくらい、デザイン的にもメカニズム的にもフレイバー的にも…更にはプレイング的にもクールなシステムを作れたと思ったよ。

両面カードのその後


最初は両面ともクリーチャーだった両面カードだが、

  • 表がソーサリー、裏がクリーチャーのカード
  • 両面ともプレインズウォーカーのカード
  • 表がクリーチャー、裏がプレインズウォーカーのカード
  • 特定のパーマネントを場に揃え、指定されたタイミングを迎えた時に裏返して合体*6するカード
  • 表がアーティファクトやエンチャントなど、裏が伝説の土地のカード

など、完全に特性を変えることを生かして様々な両面カードが作られてきた。
また、「強すぎてゲームバランスを崩してしまった」とされる過去の(悪)名高い土地カードを、「特定の条件を満たすことでより強力なカードとなる」両面カードの特徴を「変身の条件を設け、変身後にほぼ同様の能力を持った土地カードになる」という制約として用いることで調整版としてリメイクカードを登場させるというカードパワー調整に用いるゲームデザインも『イクサラン・ブロック』では見受けられる。

モードを持つ両面カード

ここまでに登場していた両面カードは「変身して裏返る両面カード」であったが、「ゼンディカーの夜明け」では「表面か裏面か選んで場に出す両面カード」が登場。
2つのモードを切り替えて使うのではなく、どちらか一方を状況に応じて選んで出すカードであり、機能としては分割カードがパーマネントも内包できるようになったものといったところ。
表が呪文で裏が土地のカードや、表裏でそれぞれ別の色の土地のものがあり、
特に前者の登場によって土地を入れないことで特定カードをフルに活用する変態デッキ【The Spy】や【ベルチャー】がエターナル以外でも構築可能になった。前者はパイオニアで暴れすぎてキーパーツが根こそぎ禁止になったけど。

続く「カルドハイム」では表が伝説のクリーチャー、裏がアーティファクト、エンチャント、ティボルトなどになっている両面カードが登場。表裏で相互にシナジーのあるものも多く、伝説のパーマネントの弱点である複数枚手札に来ると腐る問題も解決している。
しかし、表と裏とで別々のマナコストを持っていることから、「単色カードをコスト踏み倒しで唱える《出現の根本原理/Emergent Ultimatum》で表が単色、裏が多色のカードの裏面を唱える」「特定値以下のマナコストのカードをコスト踏み倒しで唱える能力で表面より裏面が重い両面カードの裏面を唱える」など、
先に挙げた「両面カードは表面のマナコストを参照する」というルールによって少々ややこしいことになっている。
現在続唱に関しては「唱える面のマナコストを参照する」とルール改定が入ったが、他のマナコスト参照カードに関しては相変わらず表面しか見ないので、注意が必要。


そしてこれからもマジックが続く限り、どこかで両面カードは顔を出すだろう。

ではまた、何かの記事でお会いしよう。
その日まで、追記と修正をする喜びがあなたとともにありますように。

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最終更新:2024年12月13日 18:26

*1 イニストラードを覆う影は両面カードが大量に入っているため、チェックリストカードは「コモンとアンコモン」「レアと神話レア」の2種類に分かれている。

*2 例えば1マナ最強生物こと《秘密を掘り下げる者》は、一度第2面に進んでしまうと、自力で第2面から戻る事が出来ない。

*3 本来の裏面は《高原の荒廃者/Ravager of the Fells》

*4 ちなみにこの「セットで使うことを前提としたカードを収録したい」という願いは10年近い時を越えて成就する。ジョークセット「Unstable」において特定の組み合わせではないがお互いを必要とする「宿主・拡張」として、「両者ともある程度パックから出るので数の確保に問題がない」という形で。更にその後、特殊セット「バトルボンド」においては「お互いがお互いをサーチできる」という能力を持った「~との共闘」が登場する。これはお互いのカードが必ず1つのパックに入っているという形で問題を解決している。ドラフトはともかくシールドなら必ず両方が手に入るのだ。これが成立したのは印刷技術の向上のおかげであり、Unstableは新たな印刷技術の実験という面もあったのだ。

*5 例えば、初登場の「イニストラード」では、コモンが1枚少ない代わりに必ずレア度ランダムで両面カードが1枚入っている。

*6 ただし他のTCGでよくある合体ロボや騎乗ではなく、二つの存在がドロドロに溶け合った異形の怪物になる