反転カード/Flip Card(MTG)

登録日:2018/03/14 Mon 10:30:00
更新日:2024/07/03 Wed 19:50:13
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反転カード/Flip Cardとは、Magic the Gathering(MtG)における特殊なカードの呼称。神河ブロックで登場した。


●概要

Magic: the Gatheringの25年に及ぶ歴史の中では多くの新システム・キーワードなどが登場した。
ユーザーに新しい体験と感動をもたらそうとする開発部の努力の元、素晴らしいシステムがいくつも作り上げられてきており、それらは度々再登場している。
……が、新しく作られたシステムの中には残念ながら明らかに「失敗」としか言いようのないものも多数含まれており、それらはひっそりと歴史の澱に沈んでいくことになる。
この反転カードはその「失敗」の側に含まれるシステムである。

反転カードって?

まず、反転カードについて言及する前に「位相」というルールについて説明しよう。
位相とはパーマネント(場に出ているカード)の「物理的な状態」を規定するルールである。
位相には4種類あり、

  • アンタップ状態/タップ状態(縦向きか横向きか)
  • 非反転状態/反転状態(正位置か逆位置か)
  • 表向き/裏向き
  • フェイズ・イン/フェイズ・アウト(フェイジングに関係する)

この4つの位相をパーマネントは必ず持つ。
通常は「アンタップ・非反転・表向き・フェイズイン」の状態でパーマネントは場に出される。(タップインとか変異とか例外はそれなりに存在するが)
このうち最も頻繁に変化する位相はアンタップ/タップ状態である。というか、それ以外の位相は滅多に変わらない。
その滅多に変わらない位相のうち、非反転/反転状態に関係するのがこの反転カードである。


ではカードの実例をご覧いただこう。

Jushi Apprentice / 呪師の弟子 (1)(青)
クリーチャー — 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(2)(青),(T):カードを1枚引く。あなたの手札にカードが9枚以上ある場合、呪師の弟子を反転する。
1/2
Tomoya the Revealer / 暴く者、智也 (1)(青)
伝説のクリーチャー — 人間(Human) ウィザード(Wizard)
(3)(青)(青),(T):プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードをX枚引く。Xはあなたの手札のカードの枚数に等しい。
2/3

まず、このカードは正の向きにした場合普通に読めるカードとしてプレイされる。このカードの場合は《呪師の弟子》である。
場に出た後、なんらかの能力(大抵は自分の能力)によって「反転」すると、以降は反転先のカードとして扱われる。

このカードの場合、最初は見習いだったものが力をつけて名ある者になる、という成長や変化を示しているのだ。
(以下、このカードについては反転後の名称に倣い「智也」と呼ばせて頂く。)

ちなみに、反転後の特性は「戦場にあって位相が反転である」場合にしか意味を持たない。
それ以外の領域では常に非反転の状態として扱われる。
マナコストに関してはオラクル*1のテキストでは両方に書かれているが、実際のカードでは反転前側に記載しかないため、分割カードのような混乱は生じづらい。
クリーチャー→伝説のクリーチャーであったり、伝説のクリーチャー→伝説のエンチャントなど、色々と興味深い「変身」を行うカードが存在している。



●理念

「条件を満たすことで強力なカードに変化する」というカードで、特に「性質を完全に変化させる」カードを1枚で再現しようとしたものである。
MtGの場合、いわゆる紐づけされたカードというのがかなり少ない。
ポケモンカードなら、ピクシーを使いたいなら進化前のピッピを入れざるを得ない。遊戯王OCGでも、ジャンク・ウォリアーを出すためにはジャンク・シンクロンが必要だ。
しかしMtGではそういう名称指定がゲームの理念になく*2、そのため成長や変身をカード1枚で表現する必要があった。
また、反転という「性質を完全に変化させる」行為を経ることにより、デザイン空間が広がるという意図もあったようだ。



●問題点

確かに詳細だけ聞くと中々面白そうだし、他のTCGでもGUNDAM WARでは変形機構を持つMSをこの形で再現しているなど、例がないわけでもない。
では一体何故「失敗」とされてしまったのか。

実際のプレイの際混乱しやすかった

実物を見るとわかるが、どっちが上か(非反転か)がパッと見ると分かりにくい。一応マナコストが書いてあって弱い方が上だと分かるようにはなっているが…。

ただでさえパッと見どちらが上か分からないことに加え、タップ・アンタップまで組み合わさるともはや向きが分からない
タップの向きについてルール的な決まりが無いため「反転前を右に90°傾ける」のと「反転後を左に90°傾ける」のが同じになってしまう。
しかも対戦相手が反転カードを使っている場合、アンタップ状態をこちらから見ると「今使われていないテキストが正しく読めてしまう」せいでプレイングに関して誤解も生んでしまう。
例えば智也の場合「…あれ、それタフネス2だよね?」「3ですね、反転済みです」なんてことが往々にして起こる。
そうならないために目印を乗せておけばいいという公式のアナウンスもあったが、MtGには「+1/+1カウンター」をはじめ様々なカウンターが存在する。
中には「気カウンター」なんてもんを自分で乗せる反転カードもある。どうしろってんだ。

これだけでも十分問題だらけだが、たとえば「反転後のクリーチャーをクローンでコピーした場合、それは反転前の状態で戦場に出る」というルールだとか、直観に反するルールがたくさんある。
まだこの手のカードのルール整備が未熟だったという点を加味しても、反転カードはこういった細々した部分にも多くの問題を抱えていた。
一応、後に出た両面カードでは「現在の面をそのままコピーできる」といった形で反省は活かされている。


美しくない

なんかずいぶん主観的な意見だと思うだろうが、狭い範囲にイラストが押し込められており、せせこましい。イラストのモチーフも分かり辛い。

分割カードの場合はそもそもスタートのコンセプトが「カード半分」であったため、シンプルなカードが主体となるので問題はなかった。
また、インスタント/ソーサリーが主眼ということは、イラストもある程度シンプルでもよいということでもある。
だが、クリーチャーはそうはいかない。クリーチャーの場合、イラスト=そのクリーチャーの姿である。
これがきちんと描けないのは非常にまずい*3
また、横向きにして2枚配置したことで縦横比は通常のカードと同じだった分割カードと違い、反転カードは反転を前提としているために通常のカードを縦に押しつぶしたようなレイアウトとなっているため、これも美しさを損ねている。*4

イラストの好みは人それぞれとしても、前述の通りゲーム的にどちらが上か分かりづらくなるというのも大きな問題点。

テキストの制約がきつい

この特殊なレイアウトのせいでテキスト欄が狭いので、特異なカードにふさわしい派手な効果を持たせようにもそのための物理的なスペースがない。
そのため、複雑な効果を持たせられない。

そして効果文だけでも窮屈となると、フレーバーテキストを入れる余裕はない。前述のイラストの小ささからも「雰囲気」をあまり表現できないカードになってしまった。
効果を読めば確かに「ああ、大体こういう理由でこうなったんだな」ってのはある程度分かるのだが、中には全く分からないものもある。
智也くらいならまだ「成長したんだな」と分かるのだが、《エラヨウの本質》くらいになると「え、エラヨウさんどうしてエンチャントになってんの?」というのが分かりづらい。そもそもエラヨウって誰。
後の両面カードが、たとえばジキルとハイドとか狼男とか怪物の目覚めといった「モチーフ」がわかりやすいのに対し、
こちらはオリジナル世界観ということもあり、なぜそういう風に変わったのかが非常に掴み辛いというのも大きい。
知らんおばちゃんがなんで呪文いっぱい唱えたらエンチャントになってんだ?って話。
「狼男」「ギルド」といった同じ特徴を持ったカード同士のフレーバー的繋がりがあまり見られないのもイメージの掴みにくさに拍車をかけている。


弱いし地味

反転カードについて説明する場合、これに全く触れられていない。反転カードというより神河ブロックの問題だし

反転カードが物理的制約から短いテキストにならざるを得ないのは前述の通り。
「テキストの短いカードは強い」なんて言葉もあるから期待できそうなものなのだが、
神河時代は過去のカードの下方修正版がたくさん印刷されていたような時代である。名カード《けちな贈り物》だって、《直観》のほぼ下方修正版だし。
そんな時代に「テキストが短くて強いカード」なんて期待できないのである。*5
結果、多くの反転カードが「テキストが短くて微妙な効果」となってしまった。

さらに反転カードは要は「条件を満たすことでカードを強化する」というプレイが軸になるわけだが、これだけ複雑なプレイを求めておきながら、効果に一切の派手さがない。智也はかなり派手な部類に入る。
また、反転の条件の厳しさに見合っていないことも多かった。たとえば《狐の神秘家》は、反転して得られるものが「オーラを移動できる」だけ。わざわざ使うほどのカードではない。
《新参の武士》は1/1のクリーチャーだが、こいつが生き残っている状態でダメージを与えたクリーチャーを倒した時に反転する。
反転後は二段攻撃、武士道2を持つ2/3とそれなりのやり手だが、別のお膳立てが必要と考えると素直に別のカードを使った方がいいとなりやすい。
確かにトーナメント実績のあるカードは、智也なりエラヨウなりといくつかあるのだが、それはどちらかと言えば「特定のデッキの専用機」として用いられることが多く、多数の反転カードを主軸としたデッキというものは生まれなかった。

一応、神河救済で登場した「派手な反転条件を持つ伝説のクリーチャー」サイクルは、EDHが浸透するにしたがってデッキが組まれるようになった。
しかし最初から伝説ではない反転カードたちが現在使われることはまずない。モダンやレガシーはもちろん、コモンじゃないのでPauperでも使えない。
反転前には何かわくわくするようなテキストがあるわけでもないし、クリーチャーとしての性能は低いし、それでいて反転後の効果も地味ではしょうがない。

また、これに関してはテキストデザインの問題であり「短くても強いテキスト」が理論上作れる以上は反転カードの潜在的な問題とは少し言いにくい点ではある。
もっとも反転カードの不人気の一因がカードパワーの低さなのは紛れもない事実であるのだが。




ともあれこれらの要素が絡み合い、はっきりと「不人気」の烙印を押されたシステムとなってしまったのである。
なに、「神河ブロック自体が不人気」?聞こえんな*6*7


●そしてその後

「1枚のカードに2つの特性があり、それらが切り替わる」というのはデザイン的にもフレーバー的にも魅力であった。
のちにイニストラードでこの反転カードの問題点を「裏面を犠牲にすることで」解消した両面カードが登場し、こちらは人気を博していくこととなる。
ただし裏面が既存のカードと違うという点は、ルール面ではなくプレイ面で多くの問題を引き起こすことになる。このあたりの問題は両面カードの項に詳しい。

両面カード登場時はこれが受け入れられず「反転カードに戻してくれ」と言うプレイヤーが一定数いたと言われている。特に初登場のイニストラードでは好評と不評で相当はっきり分かれていた。
流石に両面カード登場から10年以上たった2024年現在では反転カードを望む言説はほぼ見られない。そもそも反転カード自体を知らないプレイヤーも多い。

人間が紙をいじってプレイする以上、どうしても限界はある。反転と両面、それぞれに問題がついてまとっている。デジタルなら簡単に処理できるんだけどねぇ…。


実際反転カードは大失敗だったし、その問題の多くを解決した両面カードが出た以上、二度と出ることはないだろう。
しかしこの失敗があったからこそ、「両面カードをメインデッキに入れさせる」というTCG史上類を見ない冒険ができた。
反転カードの失敗は、MtGに根付いている。いつかもしかしたら、両面カードとして既存の反転カードのリメイク品が出るかもしれない。




追記修正者 (青)(青)
クリーチャー-人間 ウィザード
(T):記事1つを対象とし、それを追記する。追記した量が全体の3割以上だった場合、追記修正者を反転する。
1/3
時間を無駄にしつくした者 (青)(青)
伝説のクリーチャー-人間 ウィザード
(T):記事1つを対象とし、それを編集する。
0/1

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最終更新:2024年07月03日 19:50

*1 カードのルール上の文面。このページに書いてあるカードテキストもこれに従っている

*2 名前を指定するカードというのも一応存在するのだが、ほとんどは「同じセットの中に入っている別のカード」を指定し、カルドラ装備シリーズなど「近い将来登場するカードを予告する」ものが少数ある。他ゲーでいう名称指定は、訳語が決して変更されない「部族」のようなサブタイプ部分で行うのが通例である。

*3 例として、過去に飛行を持たないのに空を飛んでいるイラストになったクリーチャーが問題視された。かなりの数のプレイヤーはイラストを見て判断することが多いわけで、当然重要になる。ただし最近は逆に「飛行を持っているのに飛んでいないようなイラスト」や「イラストで表現しづらい防御能力「到達」を見落とす」などが増えてきており、イラストに関してこの例を持ち出すのは言いがかりに近いのだが……。

*4 余談だが、似たような理由でアモンケットの分割カード(余波カード)をレイアウト的に嫌っている人もいる。

*5 余談だが、神河で高値を記録している名カードはだいたいテキストがかなり複雑。けち、十手、あざみ、梓、独楽、針…

*6 明らかに古代中国と混ざっている世界観、当の日本人でも読めない名前の当て字、禁止カードを連発するほどのインフレだった1つ前のミラディン・ブロックの反動からカードパワーが弱め、伝説や秘儀など他のテーマ・システムにも問題があったなど、反転カード以外にも反省点はたくさんあったブロックであった

*7 のちに発売された神河再訪セットの「神河:輝ける世界」ではこのあたりの反省点が活かされ、MtGでも屈指の人気セットになった