SCP-3740

登録日:2019/09/17 (火曜日) 03:38:40
更新日:2024/03/16 Sat 13:06:21
所要時間:約 19 分で読めます





時として不自然な事物の秩序はソフトボールを投げつけてきますが、そのボールはモッツァレラチーズで出来ている可能性もあるのです。
─── G.マクエロイ博士


SCP-3740はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスKeter
撹乱クラスは4/Ekhi。
リスククラスは2/Caution。

概要

SCP-3740はクラス8現実改変能力者であり、古代メソポタミアのアッシリアやバビロニアで信仰された最高神・アッシュールであると考えられている、割とイケメンの気さくなお兄さんに見える人型実体である。
SCP-3480でSCP-2000を起動させるレベルの大惨事を起こした奴でさえクラス5だったのを考えると、もはや何でもできるのではとすら思える。
彼はどういう形でその能力を行使するのかというと、風の神である彼は、気流気圧気温操作・500km/h以上の突風生成・果てはハリケーンの生成すら可能。
おまけに空を飛べる生物と意思疎通できるという。

人間が対処できるどころか、手も足も出ないを通り越して手足を地平線の彼方へ吹っ飛ばされるレベルだ。
絶対収容不可能に違いない。そう思うだろう。

しかし心配ない。彼は現在サイト-81に問題なく収容されている。ENの方の元記事ではアノマリー分類システムが導入されていたが、リスククラスは五段階中二段階目のCautionだ。それはなぜか。







彼が、ものすっごく騙されやすいからだ。



SCP-3740


神は(God is )アホ(Dumb)である



収容違反しようと思えばいつでもできるだけの能力がある事には変わらないためKeter指定だが、彼の収容はこの欠点によって大幅に楽になっている。
彼は相手も同じ神だと思っている限り相手が言ったことをほぼ全て信用するし、そんじょそこらの手品を見せるだけでそれを「神の力」としてこっちを神だと思ってくれるのだ。いや、正確には手品では十分すぎるくらいなのだが…(後述)。


神は如何にアホか


サイト-81の研究主任であるマクエロイ博士は、SCP-3740のことは「私が今まで会った全ての人物の中で、確実に、どれだけ真剣に考えても、100%疑いの余地無く、最も騙しやすい」と強調語をこれでもかと並びたてて評している。
博士は初めて彼の収容室に入った時、「私は純粋なエネルギー存在、ブリス・ディライト」と言って手を揉んで貯めた静電気を彼に当てたが、彼は「神の同輩に会えるのはいつだって光栄な事だ」と言ってその後ずっと博士をブリス・ディライトと呼んでいる。

博士だけではない。
オッペンハイマー研究員はSCP-3740に自分がどのようにして兄を裏切った千人の男たちとタイマンで殺り合って倒したかという話を聞かせただけで彼に”アルドゥス・マンハッタン、敵を殺す者”などと呼ばれている。
サイト-81のトップであるアクタス管理官に至っては、収容室の照明の操作ができるというだけで”マルセウス、ハドリアヌスの地獄の恐怖”という超自然的な宇宙の支配者だと信じ切ってしまっている。

彼の収容上の適切な意思疎通のため、SCP-3740収容チームの全職員とサイト-81の管理職員は彼に自分も神だと思わせられるだけの特技を披露することになっている。今までに行われたのが以下。

クラーク博士: 磁石とワイヤーを使って室内で鉄球を浮遊させる。
イェンマ博士: レーザーポインターを使ってネコを走り回らせる。
キリュウ研究員: 不自然な髪色をしている。
ヴァンダービルト博士: SCP-3740の耳から25セント硬貨を取り出すふりをする。
アンドリューズ博士: 鉛筆を頭の横に持ち、呑み込むふりをする。
ダンスビー研究員: ジャグリングをする。
シュミット管理官補佐: カードトリックを行う。
クアルト研究員: ビールを一気飲みする。
アクタス管理官: 照明のスイッチを入れる。

ひとつ残らず、これでSCP-3740を騙せた。
なんかもう手品やってればまだマシな方で、もはやくだらなすぎてかくし芸としてすら成り立ってないレベルのものが並んでいる。
挙句の果てに髪の色がおかしいだけで神様扱いされるなんてキリュウ研究員も逆にビックリしたんではなかろうか。

確かに、彼はリスクの極めて大きい存在である。しかし、彼はそれを上回って余りあるアホなのだ。よって、その収容は説得力のそれなりにある話で彼を収容室内に留め、そこで満足してもらうことに重点を置いている。



発見経緯および特別収容プロトコル


SCP-3740はトルコ南東部(アッシリアの一部だった)のバーで起きた喧嘩の際に発見された。彼はなにやら大集団で酒を飲みまくっていたらしいのだが、因縁をつけられたと勘違いした他の常連客に突き飛ばされて乱闘に発展したようだ。最終的に彼はバーの壁を吹っ飛ばして18人に怪我を負わせ、逮捕された。財団が通信を傍受して確保しに来るまで、酔っぱらった彼は自らの“信じがたい宇宙の力”についてわめき倒していたという。抵抗しなかったのは酔っぱらってまともに能力が使えなかったのか…?

で、彼には「この時の乱闘があまりに激しすぎて時空間異常が発生し、あなたはアッシリアの神々の頂点に君臨する古代に戻ってきたのだ。そして今あなたは前後不覚になっている間に征服した”アンゴリアンの館”に住んでいるのだ。」と伝えて、サイト-81の改装された大型の人型実体収容室群に入ってもらっている。
例によって(原文ママ)、彼はこのカバーストーリーを受け入れた。彼を長期的に収容するため、このアンゴリアンの館を保つために以下の”マウント・オリンポス・プロトコル”が制定された。

収容室内でSCP-3740と交流する職員は3種類に分けられる。

まず使用人。Dクラス職員が務める。
使用人または奴隷として配置されている、とSCP-3740は思っており、“エラム人”または“カルデア人”と呼ぶ(どちらもアッシリアに征服された地域の民の呼称)。彼らはSCP-3740に話しかけること及び目を合わせることを不敬として許可されていない。しかし、彼らがその役職を全うしている限りはSCP-3740は彼らを意に介さず、危害を加えることもない。

次に館の守衛。サイトの保安職員が務める。
古代アッシリアらしい装備と武器を携えて収容室の入り口を警備している。要は軍人なので、SCP-3740は彼らを戦友として扱う(ただし階級は全く異なる)。
たまにSCP-3740は彼らを模擬戦に付き合わせることがあるが、彼は能力抜きだと普通に弱いらしく、接待してまず圧倒されたのち降伏することになっている。

最後に英雄と神。上述した収容チームと管理者の面々である。SCP-3740は彼らを家族として扱い、とても親しい態度で接してくる。たまにSCP-3740は彼らを集めて宴会を開き、凄まじい量の酒を飲んだり神々と成した様々なことを自慢したり”使用人”をボロクソ言っているようだ。

普段の彼自身はというと、館らしく誂えられた様々な設備の収容室で暮らしている。
その装いたるや、手作りの質素な家具・さまざまな動物の毛皮・巨大な石の暖炉などなど。
SCP-343を思い出すかもしれないが、これは普通に職員が用意した収容室の一部であるので心配は無用。
そもそもSCP-3740はあくまで風の神で物質創造/抹消とかはお門違いである。
さらにキッチンには15樽以上ものビールが常備してある。
当初このビールも品質を求めたものが入っていたらしいが、SCP-3740はそういうのにそんなに興味がないらしいので今はミラー・ハイライフというアメリカの代表的ラガービールで固定されている。
彼は普通にキッチンで自炊するが、たまに英雄と神こと収容チームに食事に参加するよう誘ってくるのでそういう時は牛か豚を丸一頭差し入れすることになっている。すると彼はそれも料理してくれる。意外と家庭的。


また、彼は収容チームの面々を同じ神だと思っているわけだが、その前提で彼と会話するために面々は「神としての偽名」を名乗って互いにそう呼び合うことになっている。一部例は以下の様な感じ。
  • バレット博士: 壊れざる者ウルマー
  • リーズ博士: エレアノーラ・サンダークラップ、聳え立つ雲の女魔術師
  • クイン研究員: 同様に壊れざる者キャルメ
  • マーシャル研究員: ニヌルタ、忘れられし夜の剣
上述のマクエロイ博士のように自ら作り出した名前の場合もあるが、SCP-3740自ら与えてくる場合もある。
バレット博士は舌が長いせいか自分の肘をなめることができるらしく、そんなことができるのに腕と肩が壊れないのでそう呼ばれた模様。
リーズ博士はどうやらスプリンクラーを手拍子の合図で作動させることでこの名を拝借したらしい。
クイン研究員は当初聖職の者キャルメと呼ばれていたのだが、ある宴会で酔っぱらってバレット博士と模擬戦をし、10分競り合った時点でSCP-3740からそう呼ばれたのでこの名になっている。二番煎じじゃん。
マーシャル研究員はSCP-3740にチェッカーで勝ち、SCP-3740はその後10日間嘆き続けた挙句彼を「この緑の地球における最大の覇者」だと言ってアッシリアの大地神の名を授けてきた。
もちろん、SCP-3740自身に対しても呼称は定められている。曰く、“アッシュール、風強き平原と天高き空の神”、“最大の戦勝者にして揺るぎなき主、神々しきアッシュール”、もしくは単純に“最強のアッシュール”以外は認められないとのこと。長いのでもう以下アッシュールと呼ばせていただく。

以上の気楽だけどクッソめんどくさい手順がアッシュールに対してのプロトコル、マウント・オリンポス・プロトコルとなる。それではこのプロトコルが日々どのように行われているか、ご覧いただこう。



最強アッシュール神の華麗なる日常


プロトコル導入から間もなくして行われたインタビューより


インタビュー担当はエレアノーラ・サンダークラップことモニカ・リーズ博士である。目的は彼が満足しているかを確かめること、だったのだが…

リーズ博士: アッシュール、こんにちは!

SCP-3740: こちらこそこんにちは、驚異の女魔術師! 噂をすればだ、ちょっと待て。タデウス! アルテモール! (保安チームのメンバー2名を身振りで指す) ここに来い、そうだ、こっちだ。ちょうど我が兄弟タデウスとアルテモールにお前の話をしてたんだ、エレアノーラ! 彼女こそは、友よ、美しくも恐ろしきエレアノーラ・サンダークラップ。素晴らしい美貌だろう!

(保安チームのメンバーは — 両者ともにリーズ博士に直接報告を入れる立場である — 頷いて同意を示す。)

リーズ博士: そう言ってもらえてとても嬉しいですよ、アッシュール。

部下に女上司の容姿を褒めさせるという地味にアレな仕打ちが発生している。プロトコル上しょうがないけど。

SCP-3740: 止せ止せ。お前みたいな偉大な戦士たる女帝を紹介する時、俺はこれ以上の褒め言葉を知らん。なぁエレアノーラ、こいつらにあの- あのアレをもう一回見せてやってくれ。そう、雨のアレだ、嵐を呼ぶアレ。頼むよ!

(リーズ博士が3回拍手し、外部の収容職員が室内のスプリンクラーを起動する。)

SCP-3740: ハハハハ! どうだこの凄まじい力! 俺はこの前彼女に言ってやったんだよ、兄弟たち、ついこの前だ — お前には俺が今まで出会った誰よりも強大なパワーがあるって! 変幻自在のディオゲニシスや、アラブの井戸マルムルックよりも強大だ! 多分あの偉大なる覇者ソロモンに次いで2番目かもな、俺は最近奴が片手の親指を消してもう片方の手に移し替えるのを目の当たりにした! まさしく驚嘆すべき業だ。

(両方の守衛は頷いて同意を示す。)

アッシュール神の語彙が豊富なんだか貧弱なんだか分からなくなってきた。
ディオゲニシスやマルムルックが誰かは分からないが、それよりスゴいというあの親指の古典的マジックを最近見せたというのは「東方のソロモン」ことリー研究員と思われる。それに次いでこのマジックですらない「スプリンクラー作動させただけ」が世界第2位のパワーの所業らしい。

SCP-3740: だがまぁともかく、エレアノーラはきっと俺と重要な話があって来たんだろう。タデウス、アルテモール。持ち場に戻れ。 (守衛が去る。) さて、エレアノーラ。ざっくばらんに話そう。元気でやってたか?

リーズ博士: おかげさまで、アッシュール。どう-

SCP-3740: この機会にお前との性的な交わりを大いに楽しみたいと思っている。

二人きりになった途端コレだよ。傍から見てるこっちからしたらなんか神技(意味深)繰り出しそうで興味はあるけど、リーズ博士はたまったもんじゃないし何されるか分からんしピンチである。さあどうかわす。

リーズ博士: え- ええ、確かにそうですね、アッシュール。ただ残念ながら、その、私は呪いを掛けられてしまったのです。

SCP-3740: 呪い? 呪いだと!? どうしてそんな事が? 誰がお前にそんな惨い事をした? さてはエラム人か? 魔女か? エラム人の魔女か?

リーズ博士: いえそれはその、絶対にエラム人ではありませんでした。実はですね、あの、ゴブリンが… ゴブリンが走って通り過ぎながら… 何気なく私の股のあれを盗んだのです。とても悲劇的な事件でした。

SCP-3740: (テーブルに拳を叩き付ける) 神々よ呪われてあれ! ただし俺たち以外だ、勿論、でも余りにも酷い! (深呼吸し、目を僅かに閉じる) それで、愛しいエレアノーラ、どうなんだ… その、被害の規模は? (予想して身を強張らせる)

リーズ博士: ええと、いえ… 全体的にこう… 全体的に滑らかになってますね。

SCP-3740: 精霊たちよ憐れみ給え! (猛烈な風が吹き上がり、SCP-3740の椅子が後ろ向きに倒れる。SCP-3740はもがきながら立ち上がる) 惨めな、救われぬ魂めが! お前にこんな真似をした極悪非道な獣には梅毒の災いを振りかけてやる。奴の悲鳴が塩の大地で永遠に響き渡らんことを!

もうツッコむ気も起きない。「通りすがりのゴブリンに生殖器持ってかれました。つるつるです私の股」で凌げるのかよこのナンパは。正直逆に見たいぞそれ。あと残念がりすぎだろアッシュール。

リーズ博士: 同情していただき心から感謝します、アッシュール、ありがとう。でも実を言うと、私が会いに来た理由は、あなたがこの館で快適に過ごしているかを訊ねるためなのです。

SCP-3740: 当たり前だろう! ご覧の通り、ここは家具も装飾も最上の品が揃ってる。良き友ティアマトは最高級のアンバーエールを満たした底無しの樽を調達してくれたし、これなんかどうだ! ウルマーがこの一際風変わりな松明を俺に持ってきた。見てろよ! (SCP-3740が手を1回叩くと灯りが点く) 実に非凡な宝じゃないか!

リーズ博士: 勿論です。あなたが不自由なく暮らしているのを確認したかっただけですよ、アッシュール。

SCP-3740: 全く文句ないね。なんで俺がこれほど見事な宮殿をわざわざ離れなきゃならない?

ああそうだったそういうインタビューだった。幸いアッシュールはこの館にご満足いただけているようだ。
というかプロトコルからするとその樽に入ってるのエールビールじゃなくてラガービールなんですが…どうやら違いの分からない男のようだ。あとティアマトを友とか言ってるけどあなた自分の登場する創世神話(エヌマ・エリシュの新版)で彼のこと殺してますけどいいんですか。アレ基本的に混沌とか破滅の象徴ですけど。財団にもTiamatっていう「ほぼ絶望」みたいなオブジェクトクラスあるし。

SCP-3740: (沈黙) でも一つだけあるな、思い出した。いつかお前との性-

リーズ博士: ゴブリンです、アッシュール。下は全体的に滑らかになってます。

SCP-3740: 神々よ呪われてあれ!

もういいよそれは。


とある宴会の様子


以下のような宴会が毎週繰り広げられているらしい。

SCP-3740: -で、俺は戦場にただ一人立っていて、川向こうにはアダム・エル・アセムがいた。奴は完全にブチ切れてた、何故って俺は奴に向かって例のアレを振ってたし、それに-

ケール研究員: 例のアレ?

エージェント アイヴァース: チンコのことだろ。

エージェント アレン: “神の竿”な。

(部屋中が笑う)

初っ端からもはや子供レベル以下の話題である。そんなんされたらそりゃ最初の人類アダムさんもキレますわ。

SCP-3740: そう、それ! でもって俺がそいつを奴に振ってると、奴は- ちょい待ち、ジヌー、もう一杯飲むかい? いやいや何言ってんだ、当然お前なら飲むよな! 注いでやるよ-

(SCP-3740は室内の風を操作してエージェント アレンのジョッキを樽まで運び、新たに飲み物を注ぎ足して返却する。エージェント アレンは頷いて感謝の意を示す。)

SCP-3740: ともかく、奴は- 奴は川を丸ごと俺に叩き付けようとした! 信じられるか? せっかく俺が好意でもって先手を打たせてやったのに、奴が選んだ攻撃は- 俺をずぶ濡れにするだけのお遊びだったんだぜ!

ヴィッカース博士: とんでもねぇ野郎だ!

ケール研究員: で、君はどうしたんだい?

SCP-3740: そりゃ勿論、神の竿で奴の面を引っぱたいてやったさ!

(再び部屋中が笑う)

“神の竿”はどんだけデカいんだろう。SCP-2932だとヤバ目の現実改変者らしいと書いてあったし実際川を丸ごとブン投げてきたアダムさん相手に自分の空気操作能力すら使わずに普通にひっぱたいてあしらえるくらいはあるのだろうか。
だが「骨砕き」ことロビンソン研究員も負けじと話に乗る。

ロビンソン研究員: 私の伝説はもっと凄いぞ。ある時、私はアラガッダの荒れ野で壊れた神と闘うために雇われた。そこで私は右手に信じざる者の槍を、左手にはジャック・ブライトの生首を-

SCP-3740: へぇ! スリル満点の物語だな! 続けろよ!

エージェント アイヴァース: あーいやいや、こいつの話は聞かなくていい。クソが詰まってるだけだ。

SCP-3740: 精霊の守りよ在れ! とんでもなく厄介な急展開じゃないか。我が友たる骨砕き、この広間を少し下った所に相応しい場所がある — 遠きコーラーの地から直輸入された、この国土全体で最も高級な設備だ!

ロビンソン研究員: えっ? 洗面所のことかい? 何故?

SCP-3740: だってお前、クソが詰まってんだろ?

(再び部屋中が笑う)

確かに財団職員ならこういう話のネタには困らないかもしれないけど何がどうなってそのブライト博士の生首を持つ話ができたかは聞いてみたいところである。

まあ、要するにアッシュールとその仲間たちはいっつもこういう風に乱痴気騒ぎしているのだ。傍から見たらあまりにバカバカしいが、何度も言うがこれがプロトコルなのだからしょうがない。なんか普通に宴会を楽しんでる感があったし職員もまんざらではないのではないかとすら思える。
これで危険な現実改変神格を収容できるならもはや万々歳ではないだろうか。願わくばずっとこれで満足していてもらいたいものだ。


2017/11/4


それは突然起きた。
SCP-3740の収容室内に突然彼から「スエン」と称される槍と鎧の胸当てと兜を装備した筋肉質の男が出現したのだ。以下がその時の記録である。

SCP-3740: -だから俺は言ってやったんだ、オレンジ色のボールを指1本で回転させられる奴より強大な力を帯びた神なんか存在するのか、ってな。全く信じられねぇよな!

(何かがひび割れるような大きな音が聞こえ、未知のヒト型実体が出現する。)

スエン: アッシュール? 勘弁してくれよ、もう時間- って。待てよ、これどういう事?

SCP-3740: ああ、スエン! 友よ! お前も過去に戻って来たんだな? 実に幸運な偶然だ! ちょうど今、我が友ウルマーに昔の俺たちを襲った災難話をしてたんだよ!

どうやらそこでボール回しに感銘を受けてらっしゃるアッシュール神の旧知の友…つまり、本物の神らしい。
「もう時間」ということは彼を迎えに来たのだろうか?

スエン: ウルマー? (バレット博士に話しかける) アンタ誰?

バレット博士: わ- 私はウルマー。あの、こ、壊れざる者だ。君は誰かね?

スエン: ウルマー? 壊れざる者ウルマーなんて聞いたこと無いぞ! おい、このふざけたお芝居はどういう冗談だ、何が起きてる? アッシュール、こんな事をする訳は何だ?

SCP-3740: もう言っただろ、優雅にして繊細なるスエン。こいつは-

スエン: その呼び方は止めろ。

SCP-3740: -壊れざる者ウルマー! 俺と同様、この世界に生きる力強き支配者だ。その華麗なパワーをご覧あれ、ってな! (肘でバレット博士を突く) お前の能力の雄大さを見せつけてやれ、ウルマー!

(バレット博士は躊躇いながら口元に肘を寄せ、舌で舐める。)

SCP-3740: (大きく息を飲む) この荘厳な光景をお前も見たよな、スエン! どうだ、あんな真似をしたのにウルマーの腕は折れても肩から外れてもいない! そして舌の長さを熟視しろ! 世界の国々はこの男を怖れて当然だ!

(スエンは感銘を受けた様子を見せていない。)

バレット博士かわいそう。どうやらスエンさんは常識人のようだ。

SCP-3740: さっきも言ったけどな、スエン、お前と再会できたのは素晴らしい事だよ。親愛なるウルマーとその神殿仲間たちは、俺が今住んでるこの高貴な館を田舎のあちこちから集めた最高級の家具で存分に満たしてくれた。これぞまさしく贅沢の要塞だ、我が友よ!

スエン: どういう意味さ、“高貴な館”って? まさか自分が何処にいるか気付い- (沈黙) ははーん、そういう事。じゃあ君は今- うん、オーケイ、いやホント、最高。 (溜め息) 助かった…

バレット博士: 何? どういう意味だ?

スエン: (バレット博士を脇に連れて行く) 皆がどれだけ昔からアッシュールの子守をしてたか、君らは聞いても多分信じないだろう。
アイツもうホントどうしようもない奴でさ。君らも勿論、身に染みて分かってるだろうけども。手に負えない、だろ? (笑い) とうとう保護者役を決める羽目になってね、僕が何十年か面倒を見た後はネルガルと交代する予定なんだけど、彼はいつも何かしら忙しいんだ。それにあの魚がどうのこうのって五月蠅いナザレの飲んだくれは二千年くらいバックレてるし… とにかく、いいかい、君らのおかげで僕は大いに助かった。言葉に表せないぐらい感謝してる。

バレット博士: いや- 何だって? 第一、君は何者なんだ?

スエン: スエン、月の神。 (軽くあしらうような仕草) でもその辺の話は気にしないで、今の調子で頑張ってくれ! もし何か必要になったら呼んでね! (スエンは何の前触れも無く消失する)

スエン…シンやナンナルと言った方が通りがいいかもしれないが、彼はアッシュールと同じメソポタミア神話に登場する月の神である。彼は財団がやっていることを察してくれて、感謝した。
つまり、SCP-3740ことアッシュール神は昔からずっと子供のようなやつで、いつからか他の神々がその保護者役を持ち回りしていたというのだ。
スエンさんの後は太陽神兼冥府神兼災いの神であるネルガルさんの当番だったそうだが、その掛け持ちようから忙しそうなのは伝わってくる。
あとなんか保護者候補にボロクソ言われてるベツレヘムの流れ星さん入ってますけど昇天してからずっとシカトを決め込んでいるらしい。
それほどにアッシュールは神々や神の子からしても厄介だったのだ。
だが、いざ子守をしに行ったらそこでは既に人間たちが彼をいなしてくれていたのだ。スエンさんからしたら大助かりだった。

バレット博士: な- はぁ? 誰か他にも今のを見た奴はいるか?

SCP-3740: (含み笑い) スエンの野郎め。久々に会ったよ。おかしな奴だと思ったろ、え? 信じられるか、あいつは自分が神だと思ってんだぜ? (笑い) “月の神”だとよ。どういう意味だそりゃ?

でもやはりおかしい。どう考えても肘をなめられる博士より瞬間的に出てきて消えたスエンさんの方がヤバいことやってるではないか。なのに彼のことは神と認めようとしない。しかも職員には何やら長い名前の二つ名をホイホイ考えていたというのに「月の神」の意味が分かっていない。

こちらとしては「神のふりをしている存在を知っている」という点から、少し疑念を抱かざるを得ない。



コイツは、本当にただのアホなのか?

それとも…

本当に底抜けのアホすぎてそう思えてしまうだけなのか?



…後者の可能性の方が高いことを祈る。

追記・修正は神の力を畏れずにお願いします。

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最終更新:2024年03月16日 13:06